飲食店の損益分岐点は、固定費を限界利益率で割ると出る。公庫の記入例で計算の手順をたどる。

飲食店の損益分岐点は、固定費を限界利益率で割ると出る。公庫の記入例で計算の手順をたどる。 飲食店の開業

飲食店の損益分岐点は、毎月かかる固定費を限界利益率で割った売上高のことです。日本政策金融公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋・25席・軌道後月商322万円)で計算すると、損益分岐点は月商約239万円です。つまり、この規模の店が営業利益の赤字を回避するには、毎月239万円以上の売上が必要ということになります。

損益分岐点を「客数」に置き換えると、平均客単価が約2,570円なら1日約31人です。「毎日何人来れば経営が成り立つか」という問いに、数字で答えを出すのが損益分岐点の使い方です。以下では、計算の仕組みと、公庫の記入例を使った具体的な手順を整理します。

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損益分岐点は、固定費÷限界利益率で出る

損益分岐点の計算に必要なのは、固定費と限界利益率の2つだけです。

固定費とは、売上の大小にかかわらず毎月一定にかかる費用のことです。飲食店では、人件費・家賃・光熱費の基本料金・リース料などが固定費にあたります。変動費は、売上に連動して増減する費用で、食材費(原価)が代表的です。売上が増えれば食材をより多く仕入れるため、原価も増えます。

限界利益率は「売上の1円から変動費を引いた残りの割合」です。原価率が35%なら、売上の65%が限界利益として固定費の支払いに使えます。

損益分岐点の計算式
用語 意味 公庫記入例(軌道後)での値
固定費 毎月かかる費用(人件費+家賃+諸経費) 88万+20万+47万=155万円
変動費率 売上に対する原価の割合(原価率) 35.1%
限界利益率 1−変動費率 64.9%(≒65%)
損益分岐点 固定費÷限界利益率 155万÷0.649≒239万円

損益分岐点の239万円は、この店が「売上239万円のとき利益がちょうどゼロになる」水準です。売上が239万円を超えれば利益が出はじめ、下回れば損失が出ます。

実際には「その他経費47万円」の中に光熱費の使用量分や消耗品など売上に多少連動するものが混じるため、すべてを固定費に入れた計算よりわずかに高くなります。当方のシミュレーターでは変動費の部分を考慮した結果、この記入例の条件で損益分岐点は約245.7万円と試算されます。

固定費と変動費を、飲食店のコストで分類する

飲食店の費用は、固定費と変動費にきれいに分かれるわけではありません。「傾向として固定費寄りか変動費寄りか」で分けるのが実務的です。

飲食店の主なコストの分類
費目 区分 考え方
食材費(原価) 変動費 仕込み量は売上に直結するため、売上が増えれば増える
飲料費(酒・ドリンク) 変動費 同上
人件費(社員・家族従業者) 固定費 売上が落ちても基本給は変わらない
人件費(アルバイト) 固定費寄り シフト調整で多少変動するが、毎月ほぼ一定のケースが多い
家賃 固定費 売上に関係なく固定額が発生する
光熱費(基本料金) 固定費 基本料金部分は固定。使用量分は変動費
消耗品 変動費寄り 客数に連動する部分がある(ペーパー類など)
広告費・デリバリー手数料 変動費寄り 特にデリバリー手数料は売上の一定%が多い
減価償却費 固定費 内装・厨房機器を月割りで計上する。毎月一定額
借入の利息 固定費 元本残高に連動するが月額はほぼ一定

計算を単純にするため、「原価だけを変動費、それ以外を固定費」として損益分岐点を出すのが最も手軽です。精度を上げたい場合は、デリバリー手数料(売上の30%など)を変動費に加えて変動費率を高く設定します。変動費率が上がると限界利益率が下がり、損益分岐点は高くなります。

公庫の記入例(洋風居酒屋・軌道後)で、損益分岐点を計算する

公庫の「創業計画書 記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)」の「軌道に乗った後」の数字を使って計算します。

公庫の記入例(洋風居酒屋・軌道後)の費用内訳
費目 月額 売上322万円に対する比率
売上高 3,220,000円 100.0%
原価(食材・飲料費) 1,130,000円 35.1%
人件費(従業員2名・アルバイト2名・事業主の専従者1名) 880,000円 27.3%
家賃 200,000円 6.2%
その他諸経費 470,000円 14.6%
合計費用 2,680,000円 83.2%
営業利益 540,000円 16.8%

出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版)。人件費88万円の内訳は、従業員1人20万円、専従者1人10万円、アルバイト2人(時給1,300円×12時間×26日=40万円×1.05の法定福利費見込み)。事業主の分は含まれない(個人営業のため生活費として別途考慮)。

固定費は人件費88万円+家賃20万円+諸経費47万円=155万円です。原価率は35.1%なので、限界利益率は64.9%(≒65%)です。

損益分岐点 = 155万円 ÷ 0.649 ≒ 238.8万円(約239万円)

計画の月商322万円に対して、損益分岐点は239万円なので、余裕は約83万円です。売上が計画の74%(239÷322)を下回ると、この計画では赤字になります。

損益分岐点を客数に変換する

損益分岐点の239万円は売上の金額ですが、毎日の経営では「何人来ればいいか」のほうが使いやすい目標です。

公庫の記入例では、月商322万円のとき昼夜合わせた1日の客数は約37人(席数25席・26営業日で計算)です。損益分岐点の239万円を1日あたりに換算すると、239万円÷26日÷平均客単価約2,570円≒35.8人です。

損益分岐点の月商を、1日の客数に換算した例
条件 計算式 結果
月商(計画) 322万円 1日約37人
損益分岐点の月商 239万円 1日約36人
余裕(計画−分岐点) 83万円(計画の26%) 1日約1人の差

1日37人と36人は、ほとんど差がありません。これは、公庫の記入例がもともとタイトな利益計画であることを示しています。客単価が2,570円の場合、客数が計画より毎日1〜2人少なくなるだけで損益分岐点を下回る可能性があります。

このため、実際の計画では客数の余裕を何人取るかを意識することが大切です。25席の店で1日36〜37人は席稼働率に換算すると昼夜で各70〜80%前後です。これは現実的な水準ですが、雨天・連休明け・閑散月などに客数が落ちることを考えると、余裕をどう確保するかを計画に織り込む必要があります。

固定費が増えると、損益分岐点はどう変わるか

損益分岐点は固定費と限界利益率だけで決まるので、固定費が増えれば損益分岐点は上がります。逆に固定費を下げれば、損益分岐点は下がります。

固定費の変化と損益分岐点への影響(限界利益率65%固定)
月の固定費 損益分岐点 月商322万円との差
130万円(−25万) 200万円 余裕122万円
145万円(−10万) 223万円 余裕99万円
155万円(基準) 239万円 余裕83万円
165万円(+10万) 254万円 余裕68万円
180万円(+25万) 277万円 余裕45万円
200万円(+45万) 308万円 余裕14万円(ほぼ限界)

固定費が月10万円増えると、損益分岐点は約15万円(10万÷0.65)上がります。たとえば、スタッフを1人増やして人件費が10万円増えると、損益分岐点を超えるために月商で15万円多く稼ぐ必要があります。月商322万円のとき、15万円の売上差は客数に換算すると約24人(15万÷2,570円÷26日÷6人/日≒22〜24人)です。

固定費の変化は、家賃交渉・スタッフの体制変更・リース契約の見直しなど、経営の意思決定のたびに損益分岐点を再計算するきっかけになります。

限界利益率が変わると、損益分岐点はどう変わるか

原価率が変わると限界利益率も変わり、損益分岐点に影響します。日本料理店やすし店のように原価率が40%前後に上がると、限界利益率は60%に下がり、同じ固定費でも損益分岐点は高くなります。

原価率の違いと損益分岐点への影響(固定費155万円固定)
業態の例 原価率 限界利益率 損益分岐点
喫茶店(全国平均) 28.1% 71.9% 215万円
酒場・ビヤホール(全国平均) 32.2% 67.8% 229万円
洋風居酒屋(記入例) 35.1% 64.9% 239万円
中華料理店(全国平均) 35.0% 65.0% 238万円
日本料理店(全国平均) 38.0% 62.0% 250万円
すし店(全国平均) 41.1% 58.9% 263万円

原価率は日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」(飲食店,宿泊業・2025年度調査)の「100%−売上高総利益率」を当方が計算。損益分岐点は固定費155万円(記入例の数値)を各限界利益率で割ったものです。

業態が違えば原価率も違い、同じ固定費でも損益分岐点は異なります。すし店は原価率41.1%で、喫茶店(28.1%)より損益分岐点が48万円高くなります。業態を選ぶ段階で、「このジャンルの典型的な原価率では、損益分岐点はいくらになるか」を確認することで、商圏の客数でその水準を超えられるかが判断できます。

損益分岐点と売上の余裕を、計画に組み込む手順

損益分岐点を計画に使う手順は次のとおりです。

  • 原価率を業態と仕入先の見通しから決める(例:35%)
  • 人件費・家賃・諸経費を積み上げて月の固定費を出す
  • 損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 − 原価率)を計算する
  • 計画の月商と比べて、余裕が何%あるかを確認する(余裕は20〜30%が目安。余裕が10%未満のときは、計画通りにいかなかった場合の影響が大きい)
  • 損益分岐点を月の営業日数と平均客単価で割って、1日何人の目標客数かに換算する

計画段階では余裕が少なく見えても、開業後に実際の原価率が想定より低ければ損益分岐点は下がります。逆に固定費が計画より増えれば損益分岐点は上がります。損益分岐点は一度計算すれば終わりではなく、コスト構造が変わるたびに更新するものです。

売上が計画の90%・80%に落ちたとき、損益分岐点との関係はどう変わるか

計画通りに売上が達成されるとは限りません。開業直後は客数が安定しないことが多く、公庫の記入例でも「創業当初は軌道後の77%の売上」を前提にしています。売上が落ちたとき、損益分岐点との関係を確認します。

月商322万円の計画で、売上が下振れたときの損益分岐点との差
月商の実績 損益分岐点239万円との差 結果
322万円(計画通り) +83万円 営業利益+54万円
290万円(計画の90%) +51万円 営業利益+33万円
258万円(計画の80%) +19万円 営業利益+12万円
248万円(記入例・創業当初) +9万円 営業利益+6万円
239万円(損益分岐点) ±0万円 営業利益=0円
220万円(計画の68%) −19万円 営業利益−12万円

計画の80%(258万円)でも損益分岐点を上回るため、営業利益は黒字を保ちます。ただし、ここから借入の元金返済と個人なら生活費を払う必要があります。元金返済(1,000万円・10年で月約8.3万円)と生活費25万円の合計33万円を引くと、月商258万円のときの残りは12万円−33万円≒−21万円になります。

このため、「損益分岐点を超えていれば余裕がある」ではなく、「損益分岐点を超えた後の利益から、元金と生活費を払って残るか」まで確認することが必要です。

当方の「飲食店の開業 収支シミュレーター」では、損益分岐点の計算と、売上が計画の90%・80%のケースの試算を出力します。借入の元金返済額と生活費の入力欄もあり、「損益分岐点を超えているか」だけでなく「手元に残るか」まで確認できます。基本機能は無料です。

公庫の創業計画書における損益分岐点の位置づけ

公庫の創業計画書の様式には「損益分岐点」という欄は設けられていませんが、「9 事業の見通し(月平均)」の「創業当初」と「軌道に乗った後」の2列を比べると、間接的に損益分岐点の確認ができます。

公庫の窓口担当者は、記入例を参考に「売上の根拠は何か」「費用の計算は合っているか」「利益が出る構造になっているか」を確認します。損益分岐点は様式上の数字ではありませんが、固定費・変動費・利益の構造を整合させることは審査の前提になります。

「創業当初の月商でも黒字になるか」「軌道後に借入を返済できる利益が出るか」という2点を、損益分岐点の計算を使って確認しておくと、計画書を書く際の整合性が取りやすくなります。

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出典

作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月19日。損益分岐点の計算は当方が行いました。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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