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有料老人ホームに入居している方の多くが、認知症を抱えています。厚生労働省の令和3年度介護サービス施設・事業所調査によると、特定施設入居者生活介護(有料老人ホームを含む)の入居者のうち、認知症日常生活自立度がⅡ以上の方は全体の8割を超えています。
それだけ多くの認知症の方と日々向き合う職場であるにもかかわらず、「認知症の研修は義務なのか」「何を教えればいいのか」が整理されていない事業所は少なくありません。
この記事では、有料老人ホームにおける認知症対応研修の義務の根拠と、研修で教えるべき内容を整理します。
有料老人ホームが認知症対応研修を実施する根拠
有料老人ホームで特定施設入居者生活介護の指定を受けている場合、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第177条の準用により、運営基準第37条が適用されます。
同条第1項は「指定特定施設入居者生活介護事業者は、従業者に対し、認知症介護に係る研修の機会を確保しなければならない」と定めています。
また、認知症施策推進大綱(2019年6月18日閣議決定)では、介護サービス事業者に対して認知症介護の基礎的な知識を持つ職員を養成することが求められています。2024年4月以降は、介護報酬制度において認知症介護基礎研修の修了が一定条件のもとで義務化されています。
義務の根拠は複数に及びますが、共通して言えるのは「認知症の方を支える職場では、全職員が基礎的な知識と対応スキルを持つこと」が求められているということです。
研修で教えるべき内容(1)認知症の基礎知識
認知症対応研修の出発点は、認知症とはどのような状態かを正確に知ることです。
認知症は、脳の器質的な障害によって認知機能が持続的に低下し、日常生活に支障をきたす状態です。単なる「物忘れ」とは異なり、出来事そのものを忘れるという特徴があります。
研修で押さえるべき基礎知識は次のとおりです。
- 認知症の主な種類(アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭型)
- 各種認知症の特徴と進行の違い
- 認知症の中核症状(記憶障害、見当識障害、失語、失行、失認、遂行機能障害)
- 中核症状と周辺症状(BPSD)の違い
- 認知症の人の心理(不安・恐怖・混乱を感じやすい状態)
特に「中核症状とBPSDの違い」は、ケアの方向性を左右します。中核症状は脳の損傷によるものですが、BPSDは環境・対応・体調によって大きく変わります。適切なケアによってBPSDを軽減できることを職員が理解することが、研修の出発点です。
研修で教えるべき内容(2)BPSDの理解と対応
BPSDとは、行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の略で、徘徊・興奮・暴力・不眠・抑うつ・幻覚・妄想などが含まれます。
有料老人ホームの現場では、このBPSDへの対応に困るケースが多く報告されています。研修では以下の点を扱います。
- BPSDが起こる背景(不安・痛み・環境変化・孤独感)の理解
- パーソン・センタード・ケアの考え方(その人の立場に立ったケア)
- 声かけの方法(否定しない・急かさない・共感する)
- 徘徊・興奮・拒否への具体的な対応例
- 身体拘束につながらない代替策の検討
「なぜその行動が起きているのか」という視点で考える習慣を職員が持つことが、BPSD対応の基本です。
研修で教えるべき内容(3)日常ケアでの意思決定支援
認知症の方であっても、意思を持ち、感情を感じています。厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(2018年6月)は、認知症の方の意思決定を支援するための基本的な考え方を示しています。
研修で扱うべき内容は次のとおりです。
- 意思決定支援とは何か(代わりに決めることではなく、本人が決められるよう支援すること)
- 本人の意思を確認する方法(話しやすい環境、繰り返し確認、非言語的な反応の読み取り)
- 意思確認の記録の残し方
- 家族との情報共有のあり方
特に入居時や生活の変化があったときに、本人の意思を確認するプロセスを日常的に行うことが重要です。
研修で教えるべき内容(4)認知症ケアのコミュニケーション技法
有料老人ホームのケアの質は、日々のコミュニケーションで大きく変わります。研修では実践的なコミュニケーション技法を取り上げます。
- ユマニチュード(目線・言葉・触れる・立つの4つの柱)
- バリデーション(感情に寄り添うコミュニケーション)
- タクティールケア(手のぬくもりを使ったケア)
これらすべてを深く学ぶ必要はありませんが、「否定しない」「急かさない」「感情に寄り添う」という共通の姿勢を職員全員が持てるよう、研修で具体的な事例を使って練習することが効果的です。
研修の実施頻度と記録
基準省令では研修の実施回数について具体的な数値は定めていませんが、「機会を確保しなければならない」とある以上、計画的・定期的な実施が求められます。一般的には年1回以上の実施と、新任職員への初期研修が求められています。
研修を実施したら、以下の記録を残します。
- 実施日・テーマ・講師・参加者
- 使用資料(または保管場所)
- 参加者の理解確認(確認テスト・感想用紙など)
運営指導(旧:実地指導)では「研修を実施した記録があるか」が確認事項の一つです。記録は5年間の保管が義務付けられています(基準省令第40条)。
まとめ
有料老人ホームの認知症対応研修は、法令上の義務と現場ケアの質の両面から欠かせません。
研修では「認知症の基礎知識→BPSDの対応→意思決定支援→コミュニケーション」という流れで、職員が実際のケアに使える知識とスキルを積み上げることが大切です。
資料の作成・確認テストの準備・参加記録の管理を一つにまとめた研修キットを用意しています。
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