児童発達支援(以下、児発)の事業所には、身体拘束の適正化のための研修を定期的に実施することが義務づけられています。根拠は指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(以下、指定通所支援基準)第44条です。
同条文は研修の実施に加え、身体拘束適正化委員会の設置・定期開催・結果の職員への周知も義務としています。さらに、身体拘束を行った場合の記録義務と、やむを得ない場合の3要件(切迫性・非代替性・一時性)の充足も同条文で求められています。
東京都の集団指導資料(令和6年度)によると、身体拘束適正化の体制不備・身体拘束廃止未実施減算の未適用は、運営指導での指摘事項の上位に繰り返し挙がっています。
身体拘束の義務は4つある
指定通所支援基準第44条が定める義務を整理します。
| 義務の内容 | 頻度・形式 |
|---|---|
| 身体拘束廃止のための研修の実施 | 定期的に・新規採用時にも実施 |
| 身体拘束適正化委員会の設置・定期開催 | 年1回以上の開催が目安 |
| 委員会結果の職員への周知 | 議事録の回覧・説明会など |
| 身体拘束を行った場合の記録 | その都度・様式に従って記録 |
(出典:指定通所支援基準 第44条)
身体拘束廃止未実施減算:体制が整っていないと報酬が減る
身体拘束の適正化体制が整っていない場合、身体拘束廃止未実施減算として、所定単位数の100分の5に相当する単位数が減算されます(例:基本報酬620単位の場合、1日あたり31単位の減算)。これは、実際に身体拘束をしたかどうかに関係なく、体制(委員会・研修・記録の手順)が整っていなければ減算が適用されます。
体制整備の要件は次の3つです(こども家庭庁の解釈通知より)。
- 身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、結果を従業者に周知していること
- 身体拘束等の適正化のための指針を整備していること
- 従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施していること
児発で「身体拘束」と問われやすい行為
身体拘束は「物理的に身体の動きを制限する行為」として捉えられます。乳幼児への支援では、「危険から守るため」「安全のため」という意図で行われた行為が身体拘束に当たる可能性があります。
研修で確認すべき具体例として、次のような行為が挙げられます。
移動・外出時に強く押さえ続ける:送迎中・外出時に子どもが車道に飛び出さないよう腕を強くつかんで引っ張り続ける行為は、一時的な安全確保を超えて継続された場合に身体拘束とみなされる可能性があります。
ドアや部屋を施錠して出られなくする:飛び出しを防ぐために部屋のドアに鍵をかける・ドアの前に物を置いて出られなくする行為は、身体拘束に該当します。
椅子やベルトで身体を固定する:落ち着かない子どもを椅子に座らせてベルトで固定する行為は、やむを得ない場合の3要件を満たさない限り禁止です。
手を強く押さえて動けなくする:パニックになった子どもを押さえつけて動けなくする行為も、身体拘束に当たります。
「緊急やむを得ない場合」の3要件
指定通所支援基準第44条は、「緊急やむを得ない場合に限り」身体拘束を例外的に認めています。この例外が適用されるための3要件(厚生労働省が示す基準)は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 切迫性 | 利用者本人・他の利用者・職員等の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと |
| 非代替性 | 身体拘束以外の代替方法がないこと |
| 一時性 | 身体拘束が一時的なものであること |
3要件はすべてを満たす必要があります。1つでも欠ければ「緊急やむを得ない場合」には当たらず、禁止された身体拘束となります。
また、3要件を満たす場合でも、その都度の記録が義務とされています。記録には「実施した行為・やむを得なかった理由・代替方法が取れなかった理由・時間・状況」を記載します。
身体拘束の代わりに何をするか:代替的なアプローチ
「身体拘束が禁止と分かっていても、どうすればいいか分からない」という職員の困りごとに答えることが、研修の重要な内容です。
環境の整備:危険な場所へのアクセスそのものを物理的に遮断します。危険なエリアをフェンスで区切る・扉に安全ロックをつけて大人のみが開閉できるようにするといった環境整備は、身体拘束に当たりません。「子どもを動けなくする」のではなく「危険な場所に近づけない環境を作る」という発想の転換です。
行動の前にある欲求に気づく:飛び出し・自傷・攻撃といった行動の前に、子どもが何かを求めている(注目・逃避・感覚刺激など)場合があります。行動の直前に何があったかを記録・分析し、その欲求を別の方法で満たすアプローチ(ABA・PBIS等の手法)を研修で共有することが有効です。
職員間の連携・支援体制の整備:一人の職員が危険な状況に単独で対応しなければならない場面が減るよう、複数の職員で連携して対応できる体制・シフトを整えておくことも、身体拘束が起きにくい環境作りにつながります。
身体拘束適正化委員会の運営
委員会の開催記録(日時・出席者・議事内容・決定事項)と職員への周知の証拠が必要です。
委員会の議題としては、次のような内容が挙げられます。
- 今年度の身体拘束の実施件数と記録の確認
- ヒヤリハット・危険な行動が見られた事例の振り返り
- 身体拘束を回避できた事例・代替的な対応の好事例の共有
- 指針の内容確認・更新の要否の検討
- 今年度の研修計画の確認
研修の記録として残すもの
- 実施日・テーマ・実施方法
- 参加した職員の氏名・受講確認サイン
- 新規採用時に別途実施した記録
- 委員会の開催記録:日時・出席者・議事内容・決定事項
- 委員会結果の職員への周知の証拠
- 身体拘束を実施した場合の記録(3要件の充足・時間・状況の詳細)
法定研修・訓練のキットを使う
放課後等デイサービス・児童発達支援の法定研修に対応した研修・訓練キットを公開しています。身体拘束廃止テーマの教材・確認テスト・委員会の議題案・受講記録様式をブラウザで使えます。
▶ 放課後等デイサービス・児童発達支援 法定研修・訓練キット
出典:指定通所支援基準(指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準)第44条・厚生労働省「障害者福祉施設等における身体拘束廃止の手引き」・東京都「令和6年度 集団指導 実地検査における主な指摘事項」・こども家庭庁「指定通所支援基準の解釈通知」。


コメント