貨物自動車運送事業者は、ドライバーへの指導・監督を実施した際に記録を作成し、1年間保存しなければなりません(輸送安全規則第10条第2項)。法令が記録に含めるよう定めているのは「指導の年月日」と「内容」ですが、実際には乗務員の氏名や確認署名も含めた様式が実務では広く使われています。この記事では、法令の根拠と実務上の記録様式の作り方を整理します。
法令が定めている記録項目
輸送安全規則第10条第2項は次のように定めています。
「一般貨物自動車運送事業者等は、前項の指導をしたときは、その旨(指導の年月日及び内容)を記録し、かつ、当該記録を営業所において1年間保存しなければならない。」
法令が明示している記録項目は「年月日」と「内容」の2点です。これより少ない記録(例:「研修した」という一文のみ)では義務の要件を満たさないと判断される可能性があります。「内容」には指導したテーマ名が含まれる、というのが実務上の解釈です。
初任運転者への特別な指導(輸送安全規則第10条の2)の記録も、同様に「指導の年月日及び内容」の記録・1年間保存が義務づけられています。
法令に様式の定めはない
様式(どんな用紙に・何という欄を設けるか)は法令に定められていません。事業者が独自に作成した記録用紙、表計算ソフトで作った様式、全日本トラック協会が公開している参考様式のいずれを使っても、法令上の問題はありません。
ただし、様式がないからといって「メモ用紙に書いた一行」や「研修した事実だけのリスト」では、巡回指導(適正化実施機関による)や監査(運輸局による)で「記録が不十分」と指摘される場合があります。
実務上の様式に含めるべき項目
実務でよく使われている様式の主な項目は次のとおりです。
| 項目 | 記載内容の例 | 法令の明示 |
|---|---|---|
| 実施年月日 | 2026年10月14日 | あり(第10条第2項) |
| 指導・監督の内容 | 「危険の予知および回避(テーマ8)」 | あり(第10条第2項) |
| 使用した教材・資料 | 「会社作成のテキスト」「トラック協会配布資料」など | なし(実務上の慣行) |
| 指導時間 | 「30分」など | なし(実務上の慣行) |
| 乗務員の氏名 | (乗務員全員または対象者を記載) | なし(実務上の慣行) |
| 乗務員の署名・確認印 | (指導を受けた乗務員が自署) | なし(実務上の慣行) |
| 指導者の氏名 | (運行管理者等・指導した側の氏名) | なし(実務上の慣行) |
法令上の義務は「年月日」と「内容」の2点ですが、乗務員の氏名と署名、指導者の氏名を加えた様式にしておくことで、「誰が指導を受けたか」「誰が指導したか」が明確になり、巡回指導での確認に対応しやすくなります。
テーマごとに記録を分けるか、1枚にまとめるか
実施した研修のたびに記録を1枚作成する方法(テーマごと1枚)と、1枚の様式に年間実施したテーマを一覧として記録する方法(年間まとめ型)の2種類があります。
テーマごとに1枚作成する場合
- 実施のたびに記録が完結するため、漏れが起きにくい
- 1回の研修に複数の乗務員が参加する場合、参加者全員の署名を1枚に残しやすい
- 記録の量が増えるため、整理・保管の手間が増える
年間まとめ型(乗務員1人につき1枚で12テーマを記録)
- 乗務員別のファイル管理がしやすい
- 「この乗務員はどのテーマを実施済みか」が一目でわかる
- 記録の追記がある場合(途中入社・欠席時の補完)の管理が煩雑になりやすい
どちらの形式でも法令上の問題はありません。事業所の規模や管理のしやすさに応じて選択してください。
初任運転者教育の記録と定期指導の記録を分けて管理する
初任運転者への特別な指導(輸送安全規則第10条の2・告示第1366号 別表第1)と、全乗務員への定期的な指導・監督(第10条・別表第2)は、根拠となる条文が別です。記録も分けて管理することをお勧めします。
両方の記録が一つのファイルに混在していると、巡回指導での確認で「どちらの義務に対応したものか」が分かりにくくなる場合があります。乗務員ごとに「初任教育記録」「定期指導記録」を別ファイルとして保管するか、同一ファイル内でセクションを分けて整理する方法が実務では使いやすい形式です。
記録の保存期間と保管場所
輸送安全規則第10条第2項・第10条の2第2項は、記録の保存期間を「1年間」と定めています。起算点は「指導を実施した日」です。
保管場所については「営業所において」と規定されています。輸送安全規則は記録の様式(紙か電子か)を特定しておらず、電子ファイルによる記録・保管は実務上行われています。電子化する場合は、必要なときに速やかに出力できる状態で管理することが求められます。巡回指導や監査の際に提示できる状態にしておくことが大切です。
記録がない・保存期間内に廃棄した場合のリスク
記録がない状態で巡回指導や監査の対象になった場合、「指導・監督を実施していない」と同等に扱われる可能性があります。記録を作成したか否かだけでなく、「1年間保存しているか」の確認も行われます。
実施はしたが記録を作っていなかった場合、遡及して作成することはできません。研修実施後その日のうちに記録を作成する習慣をつけることが最も確実な対策です。
指導記録の運用でよくある失敗例
指導記録に関して、実際の巡回指導や監査で指摘される典型的なパターンを整理します。
テーマの実施が抜けている
12テーマのうち一部が年間で実施されていないケースです。「危険の予知及び回避」「健康管理」など実施のタイミングが難しいテーマは後回しになりやすい傾向があります。年間計画表を作成して、どのテーマを何月に実施するかをあらかじめ決めておくことで防げます。
記録の項目が不十分
「研修した」「○月○日実施」のような一行の記録では、指導の「内容」の記録として不十分と判断される場合があります。実施したテーマ名(「危険の予知及び回避」等)を明記し、参加した乗務員が分かる形式で残すことが重要です。
初任教育記録と定期指導記録が混在している
初任運転者への特別な指導(採用後の入社前後に実施)と、全乗務員への定期的な指導(年に複数回実施)は別の義務です。同一のファイルに一緒に入れると、どちらの義務に対応した記録かが判別しにくくなります。分けて管理するか、表紙等で区別できるよう工夫することをお勧めします。
乗務員が途中退職・途中入社した際の記録の欠落
年度途中に採用した乗務員の初任教育記録が作成されていない場合、巡回指導での指摘対象になります。採用のたびに初任教育の記録ファイルを作成する習慣を持つことが防止策です。
記録を整理するタイミング
記録の整理は、次のタイミングに合わせて行うと漏れが少なくなります。
- 乗務員が入社したとき:初任教育の記録ファイルを作成し、実施内容を記録する
- 各テーマの研修を実施したとき:当日中に記録を作成し、参加者の署名を得る
- 月末・年末:1年前の記録が廃棄できる状態かを確認。誤って廃棄しないよう、起算日(実施日)ごとに整理しておく
- 乗務員が退職したとき:退職後の記録保存期間を確認。乗務記録の保存義務期間(1年間)は退職後も続くため、すぐに廃棄しない
様式の入手先
参考様式を入手できる主な場所は次のとおりです。
- 全日本トラック協会(jta.or.jp):指導・監督記録の参考様式を公開している場合があります
- 各都道府県トラック協会の窓口:事業者向けの様式を提供している協会があります
- 国土交通省の自動車総合安全情報(mlit.go.jp/jidosha/anzen):関係通達・様式例が掲載されています
参考様式を入手して使用する場合でも、自社の実態に合わせて不足項目を追加することができます。
運送業 法定研修キット(12テーマ)について
12テーマの研修資料・確認テスト・受講記録をブラウザで使える研修キットとして公開しています。研修資料・確認テストとあわせて受講記録が一体化した設計で、研修を実施したその場で記録まで完結します。印刷して手書きで運用することもできます。
運送業 法定研修キット(12テーマ)はこちら テーマ1(心構え)は無料でお使いいただけます。
記録の保存期間・保存対象については「運送業のドライバー教育、記録はどこまで残せばいいか。」も参照してください。
ドライバー教育の義務の全体像は「運送業のドライバー教育、何が義務で年何回か。」をあわせてお読みください。
出典:貨物自動車運送事業輸送安全規則 第10条・第10条の2(e-Gov法令検索)、国土交通省告示第1366号 別表第1・別表第2


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