訪問介護の身体拘束廃止、1対1の密室介護だからこそ職員が自分で気づく必要がある。

訪問介護の身体拘束廃止、1対1の密室介護だからこそ職員が自分で気づく必要がある。 介護





訪問介護の身体拘束廃止、1対1の密室介護だからこそ職員が自分で気づく必要がある。

訪問介護の身体拘束廃止、1対1の密室介護だからこそ職員が自分で気づく必要がある。

訪問介護での身体拘束廃止は、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)に基づく義務です。委員会の開催・職員への研修・指針の整備が求められます。

特別養護老人ホームやデイサービスのような施設系介護と、訪問介護とでは身体拘束の問題の現れ方が根本的に違います。施設では複数の職員が同じ場所にいるため、「他の職員の目」という抑止力が働きます。訪問介護では職員と利用者が2人きりで、利用者の家の中というプライベートな空間で介護が行われます。その行為を他の人が見ているわけではありません。

この記事では、訪問介護での身体拘束廃止研修で扱うべき内容と、訪問介護に固有の問題を整理します。

身体拘束廃止義務の根拠

指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)の訪問介護に関する規定では、身体的拘束等の適正化のために次の措置を講じることが義務とされています。

  • 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会の定期開催(テレビ電話装置等での実施も可)
  • 身体的拘束等の適正化のための指針の整備
  • 従業者への定期的な研修の実施(年1回以上)
  • やむを得ず身体拘束を実施した場合の記録

訪問介護に固有の問題

1対1の密室介護

訪問介護のヘルパーは1人で利用者の自宅に行き、利用者と2人きりで介護を行います。入浴介助・排泄介助・移乗介助といった身体に直接触れる介護行為が、誰も見ていない環境で行われます。

施設では「他の職員が見ている」という意識が職員の行動の抑止力になります。訪問介護では、その抑止力は外側からではなく、職員自身の内側にしかありません。「これは身体拘束になるかもしれない」「乱暴なかかわり方ではないか」という気づきを、職員が自分自身でできなければ、問題が表に出てきません。

研修では「他の人が見ていても同じ対応ができるか」を職員が自問する習慣を身につけることを目的の一つに置きます。

利用者宅の危険箇所への接近を制止する場合

訪問介護で起きやすいのが、「危険な箇所に向かおうとしている利用者を止める」という場面です。認知症の利用者が転倒リスクのある階段に向かう・台所の火元に近づくなど、ヘルパーが安全を考えて制止することがあります。

腕を掴んで止める・身体を押さえる・別の部屋に誘導するといった行為が、緊急性のある場面での安全確保として許容されるのか、身体拘束に近い行為として問題になるのかは、判断が難しいところです。

判断の基準として「一時的な安全確保か、継続的な行動制限か」があります。転倒リスクのある場所から一時的に離してその場を乗り越えることと、その行動を恒常的に抑制することは性質が異なります。また、利用者の意思を無視して継続的に行動を制限することは、身体拘束の問題として整理する必要があります。

「外に出させない」への対応

認知症の利用者が「外に出たい」と玄関に向かうことがあります。転倒・迷子・交通事故のリスクを考えたヘルパーが、「出られないよう玄関の鍵をかける」「身体を押さえて止める」という対応をとることがあります。

厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」(令和元年6月)では、「徘徊しないように自室・建物の中に閉じこめる」「外に出られないよう玄関等の出入り口に施錠する」は身体拘束の具体例として挙げられています。これは施設だけでなく、利用者の自宅での介護にも共通する考え方です。

「緊急やむを得ない場合」の3要件(切迫性・非代替性・一時性)を満たさない限り、こうした行為は身体拘束として問題になる可能性があります。

身体拘束に該当する行為

厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」では、身体拘束に該当する行為の具体例として11種類が示されています。訪問介護で起きやすいものを整理します。

行為 訪問介護での場面
外に出られないよう玄関等に施錠する 認知症利用者の外出を防ぐために玄関の鍵をかける
徘徊しないように閉じこめる 「危ないから」と利用者を特定の部屋から出させない
ベッドに体幹・四肢をひも等で縛る 「転落防止」のために手足をひもや包帯で固定する
行動を落ち着かせるための向精神薬の過剰投与 「静かにしてほしい」という理由での薬の過度な使用(医療行為の指示逸脱にも該当)

(出典:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」令和元年6月)

緊急やむを得ない場合の3要件

身体拘束は原則禁止ですが、次の3要件をすべて満たす場合は「緊急やむを得ない場合」として認められます。

  1. 切迫性:利用者本人または他者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い
  2. 非代替性:身体拘束以外に代替する方法がない
  3. 一時性:身体拘束の行動制限が一時的なものである

3要件はどれか1つでも欠けると「緊急やむを得ない場合」として認められません。「転んだら大変だから」という一般的な心配だけでは「切迫性」の要件を満たしていないと判断されることがあります。「今この瞬間に放置すれば重大な危険が生じる可能性が高い」という具体的な状況の説明が必要です。

やむを得ず実施した場合の記録

緊急やむを得ない場合として身体拘束を実施した場合は、次の内容を記録します。

  • 身体拘束の態様(何をしたか)
  • 身体拘束を行った時間
  • その際の利用者の心身の状況
  • 緊急やむを得ない理由(3要件の充足を具体的に記述)
  • サービス提供責任者・管理者への報告の日時
  • 本人・家族への説明の状況

訪問介護ではヘルパーが現場で独自に判断して対応することがあります。しかし緊急やむを得ない場合であっても、その行為はその日のうちにサービス提供責任者・管理者に報告し記録に残す必要があります。「事後報告でも記録する」という手順を研修で確認しておくことが重要です。

委員会の運営における課題

訪問介護の委員会運営には、施設系と異なる課題があります。訪問介護の職員は日中それぞれの利用者宅を訪問しているため、全員が一堂に集まる時間を作りにくいです。

基準では委員会をテレビ電話装置等で行うことが認められています。オンライン会議ツールを活用して時間帯を分けて実施する方法も有効です。委員会の開催頻度については、指定権者(都道府県・市区町村)の案内で確認してください。

委員会が難しい場合でも、「委員会に代わるもの」として定期的な書面での確認・回覧という方法を取る事業所もありますが、口頭のみの確認では記録が残らないため避ける必要があります。

研修で使える事例の例

研修では「これは身体拘束か」という問いを職員に考えてもらう事例を扱うと有効です。訪問介護の現場に近い事例として次のようなものがあります。

  • 認知症のAさんが玄関に向かったため、「危ない」と思ったヘルパーが玄関の鍵をかけた。これは身体拘束か。
  • 移乗介助中に利用者が暴れ始めたため、安全のために体を押さえた。この行為はどう考えるか。
  • Bさんが「外に出たい」と繰り返すので、「今日はお天気が悪いですよ」という理由で引き止めた。これは身体拘束に該当するか。

「身体拘束か否か」の答えを出すことが目的ではなく、「利用者の立場から見て何が起きているか」を職員が考える習慣をつくることが研修の目的です。

研修・訓練キットを活用する

訪問介護の身体拘束廃止に対応した研修教材・確認テスト・委員会の議題案・記録様式をまとめたキットを公開しています。虐待防止テーマはすべての機能を無料で使えます(身体拘束テーマはProプランの対象です)。

▶ 訪問介護 法定研修・訓練キット


出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)・高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律・厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」(令和元年6月)・厚生労働省「養介護施設従事者等による高齢者虐待への対応の手引き」。委員会の開催頻度については指定権者の案内で確認してください。


この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

ご質問はメールで。電話・面談はしていません。

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