訪問介護のBCP、研修と訓練で「1人の利用者に何が起きているか分からない」リスクを扱う。
訪問介護のBCP(業務継続計画)は、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)に基づく義務です。BCPを策定するだけでなく、職員への研修と実際に動く訓練の実施まで含まれます。
訪問介護のBCPで施設系と根本的に違うのは「利用者が在宅で孤立するリスク」があることです。特別養護老人ホームやデイサービスなら、職員が施設にいれば利用者の状態は把握できます。しかし訪問介護では、職員が自宅を訪問する時間帯以外は利用者の状態が見えません。大規模な災害や職員の大量欠勤が起きると、「訪問できなくなった利用者に何が起きているか分からない」状態が続きます。この記事では、訪問介護のBCP研修・訓練で扱うべき内容を整理します。
BCP義務化の根拠
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)では次が定められています。
- 感染症および非常災害の発生時においてサービスの提供を継続するための業務継続計画(BCP)を策定すること
- 業務継続計画に従い必要な措置を講じること
- 従業者への周知・研修の定期的な実施
- 訓練の定期的な実施
- BCPの定期的な見直し
BCPは「感染症BCP」と「非常災害(自然災害)BCP」の2つを策定する必要があります。
訪問介護のBCPが抱える固有の問題
利用者の安否確認の難しさ
施設系サービスでは職員が施設に来れば利用者の状態を直接確認できます。訪問介護では利用者は自宅にいるため、職員が訪問しないかぎり状態がわかりません。
大規模な自然災害(台風・地震・大雪)が起きた場合、道路の寸断・職員の被災・車両の損傷等で訪問ができなくなることがあります。その間、単身の高齢者が自宅で孤立していても、事業所は何も把握できない状態が続きます。
このリスクに対応するために、訪問介護のBCPには「利用者の安否確認フロー」を組み込んでおくことが重要です。具体的には次のような取り決めが必要です。
- 大規模災害時の利用者への電話連絡の担当と優先順位(単身・重度の利用者を優先)
- 電話が通じない場合の対応(民生委員・地域包括支援センターへの引き継ぎ)
- 家族への連絡の手順と連絡先の管理
- 訪問できない状態が続く場合のケアマネジャーへの報告
代替ヘルパーの手配の難しさ
施設系サービスでは、出勤できない職員の代わりに他の職員がカバーすることが比較的やりやすいです。しかし訪問介護では、利用者との信頼関係・各家庭の鍵や家の中の状況の把握・その利用者固有の介護手順の知識が必要なため、急に別の職員がカバーすることが難しい面があります。
BCPには「担当ヘルパーが来られなくなった場合に誰がカバーするか」の手順と、カバーする際に必要な情報(利用者の状態・家の鍵の場所・緊急連絡先)の共有方法を含めておく必要があります。
感染症BCPの研修内容
感染症BCP研修では次の内容を扱います。
- 訪問先で利用者または職員に感染症の疑いが出た場合の判断基準
- 感染疑いのある利用者を訪問するかどうかの判断フロー
- 感染疑いのある職員の出勤停止基準と代替対応の手順
- 訪問時の感染防護の方法(PPEの着脱・手洗いのタイミング)
- 訪問先での感染症発生を発見した場合の報告先と手順
非常災害BCPの研修内容
非常災害BCP研修では次の内容を扱います。
- 事業所が立地するエリアのハザードマップの確認(洪水・土砂・地震)
- 担当利用者のエリアのハザードマップの確認(高リスクエリアの利用者を優先リストに)
- 訪問中に大地震が発生した場合の初期対応(利用者の安全確保・事業所への連絡・帰宅可否の判断)
- 事業所との連絡が取れない場合の行動基準(「震度〇以上は各自で安全確保を優先」などを事前に取り決める)
- 訪問できなくなった場合の利用者への連絡手順
訓練で確認すること
訓練は「実際に動く」ことで、BCPの手順が機能するかどうかを確認するものです。訪問介護では次のような訓練が実施しやすいです。
- 安否確認連絡訓練:担当利用者全員への電話連絡の役割分担を実際に割り振り、「誰が・何分で・何人に連絡できるか」を測定する。連絡できない利用者を誰がフォローするかの手順を確認する。
- 代替ヘルパー手配訓練:「A職員が急に来られなくなった」というシナリオを設定し、担当利用者を誰がどう引き継ぐかを実際にシミュレーションする。引き継ぎに必要な情報が揃っているかも確認する。
- 事業所内連絡訓練:全職員が訪問先から事業所に安否の連絡を入れる訓練(大規模災害時を想定したもの)。連絡手段(電話・SMS・メール・LINE等)が使えないケースの備えを確認する。
BCPの記録と見直し
BCPは策定して終わりではなく、年1回程度の見直しが義務です。見直しの際に確認する主な内容は次のとおりです。
- 職員の連絡先・担当利用者の変更がBCPに反映されているか
- 前回の訓練で見つかった課題が改善されたか
- 地域のハザードマップの更新(自治体が定期的に改訂する場合がある)
- 感染症BCPについて、流行した感染症の特性を踏まえた修正が必要かどうか
研修と訓練の実施記録(実施日・テーマ・参加者・内容・改善点)は2年間の保存が義務です。
研修・訓練キットを活用する
訪問介護のBCPに対応した研修教材・確認テスト・訓練の記録様式をまとめたキットを公開しています。虐待防止テーマはすべての機能を無料で使えます(BCPテーマはProプランの対象です)。
出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)・厚生労働省「介護サービス事業(居宅系)における業務継続計画(BCP)ガイドライン」(令和3年3月)。訓練の頻度や記録の保存期間の詳細は、指定権者(都道府県・市区町村)の案内で確認してください。


コメント