日本政策金融公庫の創業計画書「9 事業の見通し(月平均)」は、売上高①・売上原価(仕入高)②・経費(人件費・家賃・支払利息・その他)の合計③・利益①−②−③の4段を、「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」の2列で書く様式です。飲食店の記入例(洋風居酒屋)では、創業当初が売上248万円・利益19万円、軌道に乗った後が売上322万円・利益39万円です。個人営業の場合、人件費に事業主の分は含めず、所得税などの税金と借入金の返済元金は、この「利益」から支払います。
以下、記入例の数字で4段の構造を追い、「計算の根拠」欄に何を書くか、個人と法人で何が違うか、様式に入らないもの(減価償却費・消費税)は何かを、様式の順に見ていきます。
様式は4段×2列。記入例の数字はこう並んでいる
記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)の「9 事業の見通し(月平均)」欄は、次のとおりです。
| 項目 | 創業当初 | 1年後又は軌道に乗った後 |
|---|---|---|
| 売上高① | 248万円 | 322万円 |
| 売上原価②(仕入高) | 87万円 | 113万円 |
| 経費:人件費(注) | 70万円 | 88万円 |
| 経費:家賃 | 20万円 | 20万円 |
| 経費:支払利息 | 2万円 | 2万円 |
| 経費:その他 | 50万円 | 60万円 |
| 経費の合計③ | 142万円 | 170万円 |
| 利益①−②−③ | 19万円 | 39万円 |
記入例の利益の欄には「所得税等の税金や借入金の返済元金はここから支払われます」「個人営業の場合、事業主分の人件費はここに含まれます」という注記があり、人件費の欄には「人件費は従業員数もわかるように記入してください」とあります。公庫の手引(飲食業編)に載っている創業計画書の様式では、人件費の(注)として「個人営業の場合、事業主分は含めません」と書かれています。これらの注記が、4段の読み方を決めています。
出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版)。
利益から、税金と借入の元金と事業主の生活費を払う
様式の「利益」は、営業利益でも手取りでもありません。支払利息は経費に入っていますが、借入の元金の返済は入っていません。所得税・住民税・個人事業税も入っていません。そして個人営業なら、事業主自身の生活費も人件費に入っていないので、この利益から払うことになります。
記入例の調達方法の欄には、公庫からの借入700万円が「元金10万円×70回」、父からの借入200万円が「元金2万円×100回(無利息)」と書かれています。合わせて月12万円の元金返済です。利益と比べると次のようになります。
| 項目 | 創業当初 | 軌道に乗った後 |
|---|---|---|
| 利益①−②−③ | 19万円 | 39万円 |
| 借入の元金返済(10万円+2万円) | 12万円 | 12万円 |
| 残り(税金と事業主の生活費に充てる分) | 7万円 | 27万円 |
創業当初は、利益19万円から元金12万円を返すと7万円しか残りません。記入例では専従者(妻)に給与10万円を払っているので世帯としての収入はそれだけではありませんが、事業主本人の生活費を利益から取るなら、創業当初の7万円では足りない計算です。軌道に乗った後の27万円で、ようやく税金と生活費に回せる額になります。記入例は、創業当初の数か月を自己資金や運転資金で乗り切る前提の数字だと読めます。
公庫の手引(飲食業編)も、収支見込の算式を「収支見込=返済財源−借入金返済元金−家計費(個人企業の場合)」「返済財源=減価償却費+当期利益」と示しています。利益が出ていても、元金と家計費を引いてマイナスなら、資金は減っていきます。
出典:日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに飲食業を始めるみなさまへ」2ページ(返済計画の算式)。
個人営業は事業主の人件費を入れず、法人は役員報酬を人件費に入れる
様式の注記どおり、個人営業の場合は事業主の人件費を経費に入れません。事業主の取り分は利益そのものだからです。法人の場合は、代表者への役員報酬を人件費に入れます。同じ店でも、個人か法人かで「人件費」と「利益」の見え方が変わります。
当方のシミュレーターの初期値(記入例の軌道後の水準に合わせた例)で、個人営業と法人を切り替えると、軌道に乗った後の月の数字は次のように変わります。役員報酬は25万円、法定福利費率は15%で計算しています。
| 項目 | 個人営業(事業主分を含めない) | 法人(役員報酬25万円を含める) |
|---|---|---|
| 売上高① | 約321.8万円 | 約321.8万円 |
| 人件費 | 約94.3万円 | 約123.0万円(役員報酬25万円+法定福利費3.75万円が加わる) |
| 利益①−②−③(支払利息を引いた後) | 約46.5万円 | 約17.8万円 |
| この利益から払うもの | 所得税等・借入の元金・事業主の生活費 | 法人税等・借入の元金 |
個人営業の利益46.5万円には事業主の生活費が入っているので、法人の利益17.8万円と「どちらが儲かるか」を直接比べることはできません。読み手(金融機関)は注記を知ったうえで見ているので、自分の形に合わせて正しく書くことが大切です。個人なら「利益から生活費としていくら取るか」を、法人なら「役員報酬をいくらにするか」を、計画の中で決めておく必要があります。
「計算の根拠」欄は、掛け算の式をそのまま書く
様式の右側には「売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算された根拠をご記入ください」という欄があります。記入例の書き方は、次の構造です。
| 項目 | 記入例の書き方 |
|---|---|
| ①売上高(創業当初) | 日曜定休。昼(月〜土)900円×25席×0.8回転×26日=46万円。夜(月〜木)4,500円×25席×0.6回転×18日=121万円。(金・土)4,500円×25席×0.9回転×8日=81万円 |
| ②原価率 | 35%(勤務時の経験から) |
| ③人件費 | 従業員1人20万円、専従者1人(妻)10万円、アルバイト2人 時給1,300円×12時間/日×26日=40万円 |
| ③支払利息 | 700万円×年○.○%÷12か月=○.○万円 |
| ③その他 | 光熱費、広告宣伝費等 50万円 |
| 軌道に乗った後 | ①創業当初の1.3倍(勤務時の経験から)②当初の原価率を採用 ③人件費 従業員1人増 18万円増、その他諸経費 10万円増 |
ポイントは3つです。1つ目は、売上を「客単価×席数×回転数×営業日数」の式で書き、昼と夜、平日と週末を分けていること。2つ目は、原価率と1.3倍の根拠を「勤務時の経験から」と、経験を出どころとして明記していること。3つ目は、人件費を「従業員数もわかるように」(様式の吹き出しの指示)、人数×単価の形で書いていることです。
根拠は、立派な市場調査でなくても構いません。記入例のように、勤務していた店の実績や経験を出どころにして、式の形で書けば、読み手は「どの数字がどこから来たか」を追えます。逆に、売上高の金額だけを書いて根拠がない計画書は、確認のしようがありません。
「その他」には、光熱費・広告費・消耗品・決済手数料などが入る
経費の「その他」は、人件費・家賃・支払利息以外の経費をまとめた欄です。記入例は「光熱費、広告宣伝費等 50万円」としています。何を入れるかの内訳の例を、当方のシミュレーターの初期値(例示)で示すと次のとおりです。
| 費目 | 月額の例 |
|---|---|
| 水道光熱費(厨房のガス・水道・電気) | 15万円 |
| 広告宣伝費(グルメサイト・SNS・チラシ) | 6万円 |
| 消耗品・包材・おしぼり等 | 5万円 |
| 通信費・POSレジ・予約システム | 1.5万円 |
| リース・レンタル(厨房機器・マット・制服など) | 3万円 |
| 保険(店舗賠償責任・火災など) | 1万円 |
| 税理士など | 3万円 |
| 修繕・備品の買い替え | 3万円 |
| その他 | 5万円 |
| 決済手数料(売上×キャッシュレス40%×手数料3%) | 約3.9万円(月商約322万円の場合) |
| 合計 | 約51.4万円 |
金額は業態と立地で大きく変わるので、この表は項目の抜け漏れを確かめるためのものです。決済手数料は売上に比例する費用で、キャッシュレスの割合が高い店では無視できない額になります。公庫の手引は「創業後、意外と経費がかかったという声がよく聞かれます。勤務時から何にどれぐらいの経費がかかるのかを把握しておく必要があります」としています。
「取引先・取引条件」欄の回収・支払の条件が、資金繰りの前提になる
事業の見通しは月平均の損益ですが、資金繰りは入金と支払いの時期で決まります。様式の「5 取引先・取引関係等」欄には、販売先・仕入先・人件費の「回収・支払の条件」を書く欄があり、記入例は次のように埋めています。
| 相手 | シェア | 掛取引の割合 | 回収・支払の条件 |
|---|---|---|---|
| 販売先:一般個人(現金) | 70% | (現金) | 即金 |
| 販売先:一般個人(クレジット・電子マネー) | 30% | 100% | 末日〆・翌月20日回収 |
| 仕入先:酒店(現勤務先の仕入先) | 50% | 100% | 末日〆・翌月末日支払 |
| 仕入先:食品会社(現勤務先の仕入先) | 50% | 100% | 末日〆・翌月末日支払 |
| 人件費の支払 | 末日〆・翌月末日支払 |
記入例の店は、売上の7割がその日に現金で入り、3割は翌月20日に入ります。仕入は翌月末払い、給与も翌月末払いです。入金が先で支払いが後なので、資金繰りの面では有利な条件です。これが逆(キャッシュレスの割合が高く、仕入は現金払い)になると、同じ損益でも手元の資金はきつくなります。事業の見通しの数字を作るときは、この欄の条件と合わせて、開業1か月目に「売上はあるのに入金がない」額がいくらになるかまで見ておくと、運転資金の見積もりに結びつきます。
なお、当方のシミュレーターは、仕入を当月に現金で払う前提で計算しています(記入例の翌月末払いより厳しめの前提です)。実際の支払サイトが翌月末なら、資金繰りは試算より少し楽になります。
従業員数と人件費の内訳は、一致していなければならない
様式の「4 従業員」欄は、「3か月以上継続雇用を予定している従業員数」を書く欄で、記入例は従業員数5人(うち家族従業員1人、パート従業員3人)です。事業の見通しの人件費の内訳は「従業員1人・専従者1人(妻)・アルバイト2人」で、合計4人分の給与が書かれています。人数の数え方(従業員欄はパートを3人、根拠欄はアルバイトを2人)に少し幅がありますが、様式の吹き出しに「人件費は従業員数もわかるように記入してください」とあるとおり、人件費の金額と人数は、読み手が照らし合わせられる形で書く必要があります。
個人営業で事業主本人を人件費に入れない場合、従業員欄の人数にも事業主は含まれません(手引に載っている様式の人件費の(注)に「個人営業の場合、事業主分は含めません」とあります)。法人で代表者に役員報酬を払う場合は、「常勤役員の人数(法人の方のみ)」欄に書きます。人件費の金額・人数・個人か法人かの3つがそろって初めて、事業の見通しの人件費が読み手に伝わります。
減価償却費と消費税は、この様式には入らない
様式の経費は、人件費・家賃・支払利息・その他の4つで、減価償却費の欄はありません。内装や厨房機器の費用は「必要な資金」の設備資金に入り、月平均の経費には現れません。公庫の手引の算式では「返済財源=減価償却費+当期利益」なので、減価償却費は返済の財源として別に扱われます。
消費税も、様式には現れません。開業後2年間は、資本金1,000万円未満の法人や個人事業では免税事業者になる場合が多い一方、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をすると課税事業者になります。飲食店業は、簡易課税を選んだ場合の事業区分が第4種事業で、みなし仕入率は60%です(国税庁タックスアンサーNo.6509)。消費税をどう扱うかは、売上の見通しとは別に、税理士や税務署に確認しておく事項です。
出典:国税庁タックスアンサーNo.6509「簡易課税制度の事業区分」。
セールスポイントは、「アットホーム」ではなく具体で書く
事業の見通しの数字は、創業計画書の他の欄と整合している必要があります。公庫の手引は、よくあるセールスポイントが「アットホームな雰囲気の店」といった漠然としたものだとして、「どういうコンセプトに基づいて、どんなイメージの内外装にして、どんな商品・サービスを提供するのかを具体的に考えておく必要がある」としています。記入例のセールスポイントは「ワイン、ビール、オリジナルカクテル等200種類のドリンクを提供する」「地元の食材を使用した地産地消にこだわり、高品質な料理をリーズナブルに提供する」「月1回、友人の協力でアコースティックギターの生演奏会を予定している」と、数字と固有の内容で書かれています。
販売ターゲットも、「一般個人」ではなく「30〜40代の○○地区周辺の会社員がメインターゲット」「創業当初は駅前でのチラシ配りやポスティングにより新規顧客の獲得を図る」「写真映えする創作料理をインスタグラムなどのSNSに投稿し、認知度向上を図る」と、誰に、どう届けるかが書かれています。客単価900円のランチと4,500円の夜という売上の前提は、この客層と立地の記述があって初めて説得力を持ちます。
自分の数字で4段を作る手順
- 軌道に乗った後の売上を、客単価×席数×回転数×営業日数で出す(昼と夜を分ける)
- 創業当初の売上を、その何%から始めるか決める(記入例は1÷1.3=約77%)
- 原価率を、メニューと仕入先から置く(記入例は35%)
- 人件費を、人数×単価で書く。個人営業なら事業主分は入れない。法人なら役員報酬を入れる
- 家賃、支払利息(借入額×年利÷12)、その他(光熱費・広告費・消耗品・決済手数料など)を置く
- 利益①−②−③を出し、そこから借入の元金返済、税金、個人なら生活費を引いて、残るかを確かめる
- 根拠欄に、式と出どころ(勤務時の経験、見積書など)を書く
「飲食店の開業 収支シミュレーター」は、入力した数字をこの様式の4段×2列に並べ、「計算の根拠」の文章(客単価×席数×回転数×日数、原価率、人件費の人数×単価)を自動で組み立てます。個人営業と法人の切り替えで、事業主の生活費を利益から引く形と、役員報酬を人件費に入れる形を選べます。基本の機能は無料です。
あわせて読みたい
- 飲食店の売上は、客単価×席数×回転数×営業日数で決まる。公庫の記入例の数字で、計算の手順をたどる。
- 飲食店の開業資金はいくら必要か。公庫の記入例1,260万円を、設備資金と運転資金に分けて読む。
- FL比率60%は公的な基準ではない。全国の飲食店の平均は、原価率35%+人件費率33%=68%。
- 飲食店の開業後、資金が減り続ける月は何か月あるか。立ち上がり77%の前提で、36か月を計算する。
出典
- 日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版):事業の見通し・必要な資金と調達方法・セールスポイント・販売ターゲット
- 日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに飲食業を始めるみなさまへ」(平成30年4月):返済計画の算式(2ページ)、商品・サービスの書き方(6ページ)、事業の見通しの確認項目(10ページ)
- 国税庁タックスアンサーNo.6509「簡易課税制度の事業区分」
作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月7日。個人と法人の比較の数字は、当方のシミュレーターの初期値(例示)で計算したものです。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。創業計画書の作成代行は行っていません。


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