就労移行支援の基本報酬は、就労定着率の実績によって7段階に分かれる。定員20人以下の事業所では、最上位区分(1,210単位)と最下位区分(479単位)の差は2.5倍を超え、年間の収入差は3,400万円前後になる。この差が経営の持続可能性を左右する。
このページでは、区分ごとの基本報酬単位数・月間・年間収入の試算値、新規事業所の最初の2年間の扱い、そして3年目以降に区分が下がるリスクについて整理します。数字は告示第523号(別表第12の1)に基づいています。
就労定着率と基本報酬、7区分の数字
就労移行支援の基本報酬は、前年度と前々年度に就職後6か月以上定着した者の割合(就労定着者の割合)によって区分が決まります(告示第523号 別表第12の1 注3)。
定員20人以下・サービス費Ⅰの場合、区分ごとの1日あたり基本報酬は以下のとおりです(告示第523号 別表第12の1)。
| 区分 | 就労定着者の割合 | 基本報酬(単位) |
|---|---|---|
| 区分1 | 50%以上 | 1,210単位 |
| 区分2 | 40%以上50%未満 | 1,020単位 |
| 区分3 | 30%以上40%未満(新規みなし) | 879単位 |
| 区分4 | 20%以上30%未満 | 719単位 |
| 区分5 | 10%以上20%未満 | 569単位 |
| 区分6 | 5%以上10%未満 | 519単位 |
| 区分7 | 5%未満または前年度に修了者なし | 479単位 |
出典:告示第523号 別表第12の1 イ 就労移行支援サービス費(Ⅰ)。令和8年4月現在。
区分1は定着率50%以上が必要で、区分7は修了者自体がいないか定着率5%未満の場合です。1日あたりの差は1,210単位と479単位で、実に2.5倍を超えています。
区分ごとの月間・年間収入を比べる
定員20人、稼働率90%(1日18人利用)、1か月22日稼働、地域区分10円を前提にした月間・年間の基本報酬試算値を区分別に並べます(他の加算は含まない基本報酬のみの概算)。
| 区分 | 定着率 | 月間基本報酬(概算) | 年間基本報酬(概算) |
|---|---|---|---|
| 区分1(1,210単位) | 50%以上 | 約479万円 | 約5,750万円 |
| 区分2(1,020単位) | 40〜50%未満 | 約404万円 | 約4,848万円 |
| 区分3(879単位) | 30〜40%未満 | 約348万円 | 約4,177万円 |
| 区分4(719単位) | 20〜30%未満 | 約285万円 | 約3,417万円 |
| 区分5(569単位) | 10〜20%未満 | 約225万円 | 約2,704万円 |
| 区分6(519単位) | 5〜10%未満 | 約206万円 | 約2,466万円 |
| 区分7(479単位) | 5%未満・実績なし | 約190万円 | 約2,276万円 |
計算式:単位数×18人×22日×10円。概算値であり、他の加算・地域区分・実際の稼働によって変わります。
区分1と区分7の年間差は約3,474万円です。同じ定員・稼働率であっても、定着率の実績だけでここまで収入が変わります。
区分3(新規みなし・879単位)と区分7(479単位)に絞っても、年間で約1,901万円の差があります。新規開業から2年間はみなしで保護されていますが、3年目以降に実績がついてくると、区分3から下の区分に落ちる事業所がある理由がこの数字からわかります。
新規事業所は最初の2年間、区分3(879単位)でみなし算定する
指定を受けてから2年間(前年度と前々年度の両方の実績がない期間)は、就労定着者の割合を「30%以上40%未満」相当とみなして基本報酬を算定します(告示第523号 別表第12の1 注3の2)。
つまり、新規事業所の1年目・2年目の基本報酬は区分3(879単位)で固定されます。定着実績がゼロでも区分7にはならず、一定の収入が確保されます。
ただし、2年目は1年目の定着実績だけでの算定も認められています(留意事項)。1年目に就職・定着した実績があれば、2年目には実績に基づく区分での算定に切り替えることができます。
3年目以降、就労定着実績が区分を決める
指定から3年目を迎えると、前年度・前々年度の就労定着者の実績に基づく算定に移行します。3年目の区分を算出する際、「前年度と前々年度の利用定員の合計」を分母とするため、2年間の定員数が固定されていれば分母は大きくなります。
たとえば定員20人の事業所で3年目を迎えた場合、分母は40(20×2年)です。分子の「就職後6か月以上定着した者」が少なければ、定着率は低く算出されます。
区分3(30%以上)を維持するには、40人のうち12人以上が就職・定着している必要があります。開業から2年間で12人を超える定着実績を積めるかどうかが、3年目以降の収入水準を左右します。
なお、3年目には「通常の計算式」と「特例の式」のうち有利なほうを使うことができます(留意事項)。特例では分母に1年目の定員を1年分のみ使う計算式が適用される場合があり、定着実績が1年目に集中している事業所では特例が有利になることがあります。詳細は指定権者に確認することが確実です。
区分3維持の難しさと、区分7になった場合の影響
区分3(30〜40%未満)を維持するには、利用者が一定の頻度で就職し、就職後6か月以上定着していることが必要です。就労移行支援の利用者の中には、障害特性や健康状態により就職まで時間がかかる方や、就職後に体調が変化して退職せざるを得ない方もいます。事業所の取り組みだけでは完結しない部分があるのも事実です。
区分が4や5に下がった場合でも事業所は運営を続けられますが、収入の減少幅は上の試算表が示すとおりです。区分3(348万円/月)と区分4(285万円/月)の差は月間63万円、年間で約756万円です。この差が人件費・運転資金に影響します。
区分7(479単位・約190万円/月)になると、定員20人・稼働率90%でも月間収入が190万円台になります。人員基準(職業指導員+生活支援員=常勤換算利用者数÷6・就労支援員=÷15)を満たすために必要な人件費が月200〜300万円規模であることを考えると、区分7は経営上の深刻な局面になります。
全国の就労移行支援事業所の実態
全国の就労移行支援事業所は、令和7年1〜3月時点で2,834か所です(厚生労働省「障害福祉サービスの利用状況・最近の動向」)。ピーク時(令和3年10〜12月・3,063か所)から減少しています。
1事業所あたりの費用額は月241万円前後(同資料)です。先ほどの試算では区分4(719単位・月285万円)と区分5(569単位・月225万円)のあいだに位置します。全国平均がこの水準にあることは、多くの事業所が区分4〜5付近の定着実績で運営していることを示唆しています。
収入(令和7年経営概況調査・令和6年度決算)は、1事業所あたり年間2,790万円(定員20人以下・n=288)です。試算表の区分5(年2,704万円)と区分4(年3,417万円)のあいだです。全国平均は新規・開業済みを含む平均であるため、定着率の実績が積み上がっていない事業所が含まれることを考慮する必要があります。
処遇改善加算を加えた収入全体で見ることが重要
ここまでの試算は基本報酬のみです。実際の収入には処遇改善加算(A型・就労移行支援は11.5〜11.9%)・福祉専門職員配置等加算・送迎加算・食事提供体制加算などが加わります。
処遇改善加算(Iイ・11.5%)だけで計算しても、区分3(基本報酬月348万円)では加算分が約40万円、区分7(190万円)では約22万円と約18万円の差があります。年間で約216万円の差が生じます。
基本報酬の区分差が処遇改善加算の額にも連動するため、定着率の低下は報酬全体に二重の影響を及ぼします。
就労移行支援 収支シミュレーターで試算できます
定着率の区分・定員・稼働率・処遇改善加算・人件費・初期費用を入力して、3年分の収支を試算できるシミュレーターを公開しています。3年目に区分が下がるケース(定着実績が区分3に届かない場合)も試算できます。
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