認知症と診断された後でも、判断能力が残っている段階であれば相続税対策の一部を進めることができる。暦年贈与・生前贈与・遺言書の作成は、本人の意思確認が取れる間にしかできない手続きだ。認知症が進んで判断能力がなくなると、相続税対策のほとんどの手段が使えなくなる。診断後にできる生前対策と、後見人就任後の制約を整理した。
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認知症と診断された後にできる相続税対策
本人の意思確認ができる段階(軽度〜中等度)では、以下の相続税対策が可能だ。
- 暦年贈与:年間110万円の基礎控除を使って家族に贈与する。認知症でも判断能力が残っている間は有効だが、「贈与の意思があった」ことが問われるため証拠(贈与契約書・受贈者の署名・実際の振込)を残す
- 公正証書遺言の作成:公証人が来院・訪問して意思確認を行い作成できる。認知症でも「遺言能力(遺言の内容を理解できる能力)」があれば有効な遺言を作成できる(民法第961条・第963条)
- 生命保険の活用:生命保険の死亡保険金は「500万円×法定相続人数」が非課税になる。保険への加入・増額は判断能力があるうちに行う
- 家族信託の設定:受益者連続型信託を使えば、本人の死後の資産承継方法も設計できる。設定は判断能力があるうちに行う
「遺言能力」と「判断能力」は別の概念
成年後見申立てのために「判断能力が低下した」とされている状態でも、遺言書を作成するための「遺言能力」が残っている場合がある。
遺言能力の判断基準は「遺言の趣旨を理解できること」(民法第963条)で、後見・保佐・補助開始の審判を受けた人でも医師2名が立ち会えば遺言を作成できる(民法第973条)。
遺言書の有効性が後から争われるケースを防ぐため、公証人・医師・証人2名が立ち会う「公正証書遺言」が最も証拠力が高い。
法定後見が開始すると相続税対策は大幅に制限される
成年後見人(法定後見)が選任されると、後見人は「本人の財産を守る義務」を負う。このため、次のような相続税対策は原則として行えなくなる。
- 暦年贈与の継続(後見人が財産を積極的に減少させる行為は「本人のためにならない」として認められにくい)
- 生命保険への新規加入・増額
- 不動産の売却による収益の運用(売却自体は家庭裁判所の許可を得て行える場合がある)
家庭裁判所・成年後見人の役割は「本人の財産を守ること」であり、節税目的の財産移転(相続人への有利な行為)は「本人のためではない」として許可されない可能性が高い。
認知症診断後すぐに暦年贈与を始める場合の注意点
認知症診断後に暦年贈与を始めると、「贈与の意思能力があったか」が後から争われるリスクがある。
対策として以下を行う。
- 贈与契約書を毎年作成する(本人の署名・押印)
- 本人が実際に振り込む手続きを行う(家族が代わりに操作しない)
- 医師の診断書(意思能力あり)を取得する(贈与の時点で判断能力があった証拠として保管)
- 贈与の事実を証明する資料を保存する(銀行の振込記録・贈与契約書の保管)
2024年以降、暦年贈与の相続財産への加算期間が段階的に「7年」に延長される(2024年税制改正)。7年以内の贈与は相続財産に加算されるため(2024年1月1日以降の贈与から適用)、早期からの計画的な贈与が重要だ。
この記事のまとめ
- 認知症診断後でも判断能力が残っている間は暦年贈与・公正証書遺言・生命保険活用ができる
- 遺言能力は判断能力とは別に判断される(後見・保佐・補助でも医師2名立ち会いで遺言可)
- 法定後見が開始すると暦年贈与・保険の新規加入等の節税対策は大幅に制限される
- 診断後の暦年贈与は贈与契約書・本人の操作・医師の診断書で証拠を残す
- 2024年以降、相続財産への贈与加算期間は7年に延長(2024年1月1日以降の贈与から段階的適用)
出典:民法第961条・第963条・第973条(遺言能力)、相続税法第21条の3(贈与税非課税)、令和5年度税制改正大綱(暦年贈与の加算期間7年への延長)
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