家族信託のメリット・デメリット。向いているケースと向いていないケース

家族信託のメリットとして「家庭裁判所の関与なしに家族が動ける」「後見人報酬がかからない」点が強調されることが多い。しかしデメリットについての説明が不十分なまま契約に至ったケースで、後から問題が発覚する事例も報告されている。メリットとデメリットを両面から把握した上で、自分の家族の状況に合うかどうかを判断することが重要だ。

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家族信託の3つのメリット

メリット1:家庭裁判所の監督を受けずに動ける
法定後見では不動産の売却・リフォーム・大口の資金移動に家庭裁判所の許可が必要な場合がある。家族信託では受託者(家族)が信託契約の範囲内で自由に判断できる。施設入居に合わせて自宅を売却する、賃貸物件の修繕費を支出するなどの判断を、裁判所の許可なしに動けることが実務上の大きなメリットだ。

メリット2:継続コストが低い
家族が受託者として無報酬で管理する場合、設計・契約書作成の初期費用(30万円〜100万円程度)以外には基本的な継続コストが発生しない。法定後見の専門職後見人(月2万円〜6万円程度)や任意後見の監督人報酬(月1万円〜2万円程度)と比べると、長期間では大きな差になる。

メリット3:受益者を柔軟に設計できる
「本人が生存中は本人が受益者、死亡後は配偶者が受益者、配偶者死亡後は子が受益者」というように、受益者の段階的な変更(受益者連続型信託)を設計できる。遺言では一次相続先しか指定できないが、家族信託では二次・三次相続先まで設計することができる。

家族信託の4つのデメリット

デメリット1:対応できる金融機関が限られる
家族信託では「信託口口座」を金融機関に開設する必要があるが、信託口口座に対応している銀行の数は限られる。メガバンクや一部の地方銀行・信用金庫が対応しているが、既存の口座を持つ銀行が対応していない場合は、別の金融機関に口座を移すことが必要になる。

デメリット2:初期費用が高い
司法書士または弁護士への設計・契約書作成費用で30万円〜100万円程度かかる。法定後見の申立て費用(25万円〜40万円程度)と比べると初期費用が高くなる場合がある。短期間(2〜3年以内)で本人が亡くなった場合は、費用対効果が低くなる。

デメリット3:受託者(家族)への信頼と能力が前提
家族信託は受託者である家族が適切に管理することが大前提だ。受託者が財産を不正使用したり、管理能力が不十分だったりする場合、監督する第三者(信託監督人)がいなければ問題が表に出にくい。家族の中で管理能力・誠実さへの信頼が不十分な場合は、むしろ第三者が関与する任意後見・法定後見の方が適切なケースもある。

デメリット4:身上監護はできない
家族信託でできるのは財産管理のみで、身上監護(医療・福祉に関する手続きの代理)は含まれない。施設入居契約・医療同意(医療機関によっては家族の同意を求められる場合がある)・介護保険の申請代行などは、成年後見人または家族が直接行う必要がある。財産管理と身上監護の双方が必要な場合は、家族信託と任意後見を組み合わせる設計が行われることもある。

家族信託が向いているケース・向いていないケース

向いているケース 向いていないケース
不動産の売却・活用が見込まれる 家族間の信頼関係が薄い・兄弟間に対立がある
長期間(10年以上)の財産管理が必要 財産が少額で初期費用の負担が大きい
相続後の財産承継も設計したい(受益者連続型) 余命が短く短期間での活用が見込まれない
家庭裁判所の関与なしに機動的に動きたい 身上監護のみが主な課題

家族信託と任意後見を組み合わせる方法

財産管理は家族信託で行い、身上監護(医療・介護手続き)は任意後見で対応するという組み合わせが実務で行われることがある。

この設計では、財産管理については裁判所の関与なく家族が動け、身上監護については任意後見を通じて公的な代理権を持つ形になる。ただしコスト(家族信託の初期費用+任意後見の費用)はそれぞれかかるため、どこまでの対応が必要かを専門家と整理した上で設計することが重要だ。

この記事のまとめ

  • メリット:家裁の関与なしに動ける・継続コストが低い・受益者の段階設計ができる
  • デメリット:金融機関が限られる・初期費用が高い・受託者の誠実さが前提・身上監護は別途必要
  • 不動産売却・長期管理・相続設計が必要なケースに向く
  • 家族間の対立がある場合や身上監護が主な課題の場合は向かない
  • 財産管理は家族信託、身上監護は任意後見という組み合わせも選択肢

出典:信託法第2条(信託の定義)・第30条以下(受託者の義務)・第91条(受益者連続型信託)、法務省「信託法について」、日本司法書士会連合会

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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