翻訳会社から受け取るワード単価に消費税が含まれているかを確かめてから、インボイスの準備を始める。

翻訳会社から受け取るワード単価に消費税が含まれているかを確かめてから、インボイスの準備を始める。 一人親方・個人事業主のインボイス



翻訳会社やエージェントから受け取る単価(「1文字2.2円」「1ワード15円」など)に、消費税が含まれているかどうかを確認しないままインボイス登録の準備を進めると、手取りの計算がずれます。外税か内税かによって、同じ単価でも年間の手取りに数十万円の差が出ることがあります。

先に結論を書きます。インボイス登録の準備として最初にやることは、取引先ごとに「消費税を別途受け取れる契約になっているか」を確認することです。確認できていない場合は、メールで1行聞くことが最も確実な方法です。

この記事では、ワード単価をめぐる3つのパターン(外税・内税・海外向け輸出免税)を整理し、年間売上600万円の場合の手取りの違いを具体的に示します。また、取引先への確認メールの文例と、確認と同時に整理しておく4点についても説明します。

ワード単価には3つのパターンがある

通訳・翻訳業界では、単価の表記の中に消費税が含まれているかどうかが、契約書や発注書の書き方によって異なります。大きく分けると3つのパターンがあります。

外税(単価に消費税は含まれていない)

最もシンプルなパターンです。「1文字2円(税別)」と表記されている場合、納品後に「2円 × 文字数 × 1.10」が報酬になります。消費税分が上乗せされて支払われるため、インボイス登録後も受け取る消費税の金額がそのまま確定します。

この場合、受け取った消費税をそのまま納税するかどうかは、2割特例・3割特例・簡易課税・本則課税のどれを選ぶかによって変わります。ただし「消費税がいくら入ってくるか」の計算は単純です。

内税(単価に消費税が含まれている)

問題になりやすいのはこのパターンです。「1文字2円(税込)」と表記されているか、あるいは消費税の記載が一切なく曖昧な状態のまま単価だけが示されている場合です。

内税の場合、受け取る報酬の中にすでに消費税が含まれています。1文字2円・10万文字の仕事なら、報酬20万円の中に消費税分18,182円(20万円 ÷ 1.10 × 0.10)が含まれていることになります。

インボイス登録後、この18,182円の消費税を納税する義務が生じます。外税の場合は「受け取った分を納税する」という構造になりますが、内税の場合は「手取りの中から消費税を切り出して納税する」という構造になるため、手取りの実感が違います。

さらに問題なのは、消費税の記載が何もない場合です。これは「単価2円=税抜2円」とも「単価2円=税込2円」とも解釈できます。取引先が免税事業者だった過去には問題になりにくかったのですが、インボイス登録後は「この単価には消費税が入っているのか」を明確にしないと、受け取り消費税の計算が定まりません。

海外のクライアント(非居住者)への役務は輸出免税になる

日本国外に住んでいる個人や、国外に主たる事務所を置く法人(非居住者)から仕事を受けている場合、その取引に消費税はかかりません。これを輸出免税といいます(国税庁 No.6567)。

国税庁 No.6567 には次のように記載されています。「非居住者に対する役務の提供は一般的には輸出免税の規定が適用され、消費税が免除されます。」

ただし例外があります。国内に支店や出張所を持つ非居住者への役務提供については、原則としてその支店等を通じて行ったものとして扱われるため、消費税は免除されません(国税庁 No.6567)。海外の出版社でも、日本法人の窓口を通じて発注されている場合は課税取引になります。

また、国内において直接便益を受けるもの、たとえば国内に所在する資産の管理や、国内での飲食・宿泊に関わる役務なども輸出免税にはなりません(国税庁 No.6567)。

翻訳・通訳の仕事において輸出免税が適用されるのは、海外の企業や個人からの依頼で、役務の効果が国内のみで終結しないケースが典型例です。国税庁 No.6567 には「非居住者に対して弁護士等が行う法律相談などの役務の提供については、国内において行われたサービスであるものの、そのサービスの効果が国内のみで終結せず帰国後も継続するため、消費税が免除されます」と具体例が示されています。

輸出免税の売上は消費税の課税対象にはなりませんが、免税売上として確定申告に計上する必要があります。また、輸出免税の適用には証明書類(契約書・発注書など、相手方が非居住者であることを確認できるもの)を7年間保存することが求められます。

年売上600万円で手取りはどう変わるか

3つのパターンが実際の手取りにどう影響するかを、年間売上600万円のケースで比較します。ここでは簡易課税(第5種・みなし仕入率50%)を選択した場合を前提にします。

なお、ここでいう「年間売上600万円」の定義に注意が必要です。外税の場合は税抜600万円、内税の場合は税込600万円、海外向けの場合は免税売上600万円として、それぞれ別に考えます。

パターン 売上の内訳 受け取り消費税 簡易課税の納税額 手取りの概算
外税 税抜600万円 + 消費税60万円 60万円 30万円(60万×50%) 630万円
内税 税込600万円(うち消費税54.5万円) 54.5万円 27.3万円(54.5万×50%) 572.7万円
海外向け輸出免税 免税売上600万円(消費税なし) 0円 0円 600万円

外税と内税で手取りの差は約57万円になります。これは「単価は変わっていない」のに、消費税の扱いが違うだけで生じる差です。

内税の場合、受け取る金額は多く見えますが、その中に消費税が含まれているため、簡易課税を選んでいたとしても消費税の納税額が生じます。外税の場合は消費税分が別途上乗せされるため、手取りの金額は外税のほうが大きくなります。

さらに気をつけたいのは、「単価に消費税が含まれているかどうかわからないまま」インボイス登録を進めてしまうケースです。外税前提で計算していたのに実は内税だった場合、消費税の入金が少ないのに納税額は計算どおりに発生するという事態が起きます。

売上規模別に、外税・内税のパターンで手取りの差を確認します(いずれも簡易課税第5種を前提)。

年間売上の規模 外税の手取り概算 内税の手取り概算 差額
300万円 315万円 286.4万円 28.6万円
400万円 420万円 381.8万円 38.2万円
500万円 525万円 477.3万円 47.7万円
600万円 630万円 572.7万円 57.3万円
800万円 840万円 763.6万円 76.4万円

外税・内税の差は売上が大きくなるほど広がります。確認の手間は1回のメールで済みますが、確認しないまま進めた場合のリスクは無視できない金額になります。

翻訳会社への確認メールはこの内容で送る

取引先への確認は、業務上の一般的な問い合わせとして送れます。インボイス制度の登録に伴い、請求書の記載内容を整理する必要があることを理由にすれば、先方も答えやすくなります。

確認すべき内容は主に2点です。

  • 現在の単価は税別か税込か(外税か内税か)
  • 先方(翻訳会社・エージェント)は課税事業者か免税事業者か

2点目については、先方が課税事業者の場合は仕入税額控除のためにインボイスの発行を求められる可能性があります。逆に先方が免税事業者の場合は、インボイスの発行が不要になります。

以下は確認メールの文例です。そのまま使えるように作成しましたが、取引先との関係性に合わせて文体を調整してください。

(文例・件名)インボイス制度の対応にあたり、ご確認させてください

(文例・本文)

株式会社〇〇 ご担当者様

平素よりお世話になっております。フリーランス翻訳者の〇〇と申します。

インボイス制度への対応を進めるにあたり、お取引の内容について確認させてください。

1点目は、現在いただいている単価(1文字〇円・1ワード〇円)について、消費税が含まれているかどうかです。税別(外税)か税込(内税)かを教えていただけますと幸いです。

2点目は、御社が課税事業者・免税事業者のどちらにあたるかです。インボイス(適格請求書)の発行が必要かどうかを確認するためにお聞きしています。

ご多忙のところ恐れ入りますが、お手数をおかけしてよろしくお願いいたします。

(文例ここまで)

1通のメールで2点を確認できるため、複数の取引先がいる場合は取引先ごとに同じ文面で順番に送ることで、整理が進みます。

なお、5省庁Q&A Q5には「インボイス制度の実施を契機として、買手から売手に対し、仕入税額控除のためインボイスの交付を要請することは取引上の要請として当然あり得るが、その際に課税事業者への転換や値引きを要請する行為については、問題となるおそれがある」と記載されています。取引先からの確認に応じる義務はありませんが、自分から聞く分には問題ありません。

海外クライアントの取引は売上の計算から分けて整理する

通訳・翻訳者の中には、海外の出版社・企業・個人から直接依頼を受けているケースがあります。その場合、相手方が非居住者かどうかによって、その売上に消費税がかかるかどうかが変わります。

非居住者とは、本邦内に住所・居所を有しない自然人、または主たる事務所を国内に有しない法人をいいます(国税庁 No.6551)。簡単にいえば、相手が日本国内に住んでいない個人、または日本に本社を置いていない法人が対象です。

非居住者への役務提供は輸出免税となり、消費税はかかりません(国税庁 No.6567)。ただし次の場合は消費税が免除されません。

  • 国内に所在する資産の運送や保管に係る役務
  • 国内における飲食または宿泊
  • 国内において直接便益を受けるもの
  • 国内に支店または出張所等を有する非居住者への役務提供(原則として消費税免除の対象外)

最後の点は特に注意が必要です。海外の企業が日本法人を設立している場合、その日本法人を通じて発注された翻訳業務は、原則として輸出免税にはなりません(国税庁 No.6567)。「依頼元のウェブサイトが英語だから海外クライアントだ」と判断するのは早計で、支払い元や窓口が日本法人かどうかを確認することが必要です。

輸出免税の証明には、相手方が非居住者であることを確認できる書類(契約書・発注書・メールのやりとりなど)の保存が必要です。保存期間は確定申告の提出期限から7年間です(消費税法第30条第9項等)。

なお、国内の翻訳会社やエージェントを通じて受けた仕事は、最終的なエンドクライアントが海外であっても輸出免税にはなりません。輸出免税が適用されるのは、翻訳者が非居住者に対して直接役務を提供する取引です。翻訳会社が間に入っている場合、翻訳者と翻訳会社の取引は国内取引として消費税がかかります。翻訳会社とそのエンドクライアントの取引が輸出免税になるかどうかは翻訳会社側の問題であり、翻訳者には関係しません。

消費税の試算をするときは、海外向けの免税売上と国内向けの課税売上を分けて集計することが必要です。たとえば年間売上が国内600万円・海外200万円の場合、消費税の試算に使う売上は国内の600万円だけになります(外税の場合)。海外の200万円には消費税がかからないため、受け取り消費税の計算に含めません。

確認と同時に整理しておく4点

ワード単価に消費税が含まれるかどうかを確認するタイミングで、あわせて整理しておくと後の手間が減る4点を挙げます。

1. 取引先が課税事業者か免税事業者かを確認する

取引先が課税事業者の場合、インボイス(適格請求書)の発行を求められる可能性があります。インボイスに記載が必要な項目は、登録番号・取引年月日・内容・税率ごとの税抜または税込金額・消費税額・自分の氏名または名称です。

取引先が免税事業者の場合は、仕入税額控除の問題が生じないため、インボイスの発行を求められることはありません。

2. 海外・国内のクライアントの割合を把握する

年間売上のうち、海外クライアント(非居住者)向けの売上がどの程度を占めるかを把握します。輸出免税に該当する売上は消費税の試算から除くため、試算の精度に直接影響します。

「国内7割・海外3割」のような大まかな割合でもよいので、過去1〜2年の売上を取引先ごとに確認してまとめておくと、試算ツールに入力するときに迷いません。

3. 簡易課税の届出の期限を確認する

2029年以降に簡易課税を選択する場合、2028年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。この期限を過ぎると、2029年分から簡易課税を使えなくなります。

3割特例(2027・2028年分)が使える間は、簡易課税の届出を出していても3割特例を選ぶことができます(インボイスQ&A 問115)。届出を出しておくことで、2029年分から確実に簡易課税を適用できます。

提出先は自分の住所地を管轄する税務署です。郵送・窓口・e-Tax(電子申告)のいずれでも提出できます。

4. 複数の委託先がある場合は1社ずつ確認する

翻訳会社Aは外税、翻訳会社Bは内税、海外の出版社Cは輸出免税、というように、取引先によって消費税の扱いが異なることがあります。

まとめて確認しようとすると抜け漏れが出やすいため、取引先のリストを作り、1社ずつ順番に確認していく方法が確実です。確認が取れた取引先から、外税・内税・輸出免税のいずれかを記録しておきます。

全取引先の確認が取れれば、年間の受け取り消費税の総額を正確に試算できます。試算が正確になると、毎月の積立額の目安も決めやすくなります。

まとめ

通訳・翻訳者がインボイス登録の準備を始めるにあたって、最初に確認すべきことは、受け取るワード単価の中に消費税が含まれているかどうかです。

確認の結果によって、手取りの試算に使う受け取り消費税の金額が変わります。外税なら単価と消費税が別々に受け取れますが、内税なら単価の中に消費税が含まれているため、手取りの計算が異なります。海外の非居住者クライアントへの役務は輸出免税となり、受け取り消費税がゼロになります(国税庁 No.6567)。

確認方法は、取引先へのメール1通です。「現在の単価は税別か税込か」「御社は課税事業者か免税事業者か」の2点を聞くだけで、試算に必要な情報がそろいます。確認と同時に、簡易課税の届出期限(2028年12月31日)と、海外クライアントの割合も整理しておくと、その後の準備が進みやすくなります。

▶ 通訳・翻訳者向けの消費税試算ツールはこちらで無料で使えます。外税・内税・輸出免税の割合を入力して、年間の消費税納税額と手取りの目安を確認できます。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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