就労定着支援には、障害当事者(ピアサポーター)が支援業務に従事することで算定できる「ピアサポート実施加算」が設けられています。月100単位と小さな加算ですが、当事者視点による支援の質向上・利用者との信頼関係構築という効果は数字に表れにくい価値を持ちます。算定要件・研修修了の確認方法・実地指導での対応を整理します。
ピアサポート実施加算の概要と単位数
ピアサポート実施加算は、就労定着支援事業所がピアサポーターを配置して支援業務に従事させた場合に算定できる加算です。令和6年(2024年)4月からの単位数は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 加算名称 | ピアサポート実施加算 |
| 単位数 | 月100単位(1事業所あたり) |
| 算定単位 | 利用者数に関係なく、事業所単位で月1回算定 |
| 地域別月額(参考) | 1級地:1,120円 / その他:1,000円 |
利用者1人あたりの加算ではなく、1事業所あたり月100単位の算定です。利用者数が増えても加算収入は変わりません。金額的には月1,000〜1,120円程度と小さいですが、ピアサポーターの採用・育成に取り組む姿勢を示すことで、利用者の信頼獲得や就労定着率の向上という間接的な収益効果が見込めます。
算定の4つの要件をすべて満たす必要がある
ピアサポート実施加算を算定するには、以下の4つの要件をすべて満たすことが必要です。1つでも欠けると算定できません。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①ピアサポーターの雇用 | 障害者であるピアサポーターが当該事業所に勤務していること |
| ②業務への従事 | ピアサポーターが就労定着支援に関わる業務に実際に従事していること |
| ③ピアサポーター研修の修了 | 都道府県等が実施するピアサポーター研修を修了していること |
| ④スーパーバイザーの配置 | ピアサポートの実践に関する研修を修了した担当者(スーパーバイザー)が事業所に配置されていること |
要件①〜④を満たすためには、採用・研修修了・スーパーバイザー確保のすべてを事前に整える必要があります。研修は都道府県が年に限られた回数しか実施しないケースもあるため、早めに情報収集することが重要です。
ピアサポーターの定義:「障害者であること」の確認方法
ピアサポーターとは、障害当事者として自らの体験を活かして他の障害者を支援する役割を担う者です。「障害者であること」の確認は以下の方法で行います。
- 身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の所持:いずれかの手帳を所持していることで障害者であることが確認できます
- 医師の診断書等:手帳を所持していない場合でも、医師の診断書等によって障害があることが確認できる場合は対象になる場合があります。詳細は指定権者に確認してください
- 障害福祉サービスの利用歴:過去に就労移行支援・就労定着支援等の障害福祉サービスを利用していた者は、特にピアサポーターとして経験を活かしやすい存在です
就労定着支援の利用終了者がピアサポーターとして採用されるケースは、当該事業所の支援を経験している当事者として、在籍中の利用者への共感・アドバイスが有効に機能しやすいとされています。利用終了後に雇用につながるルートとして、制度を積極的に活用する事業所もあります。
ピアサポーターの雇用形態と常勤換算への算入
ピアサポーターの雇用形態は常勤・非常勤(パートタイム)どちらでも構いません。週数時間からのパートタイム雇用でも加算の算定要件を満たせます。
ただし、ピアサポーターを就労定着支援員の常勤換算に算入できるかどうかは、当該ピアサポーターが「就労定着支援員としての業務を担っているか」によります。ピアサポーター加算のための配置にとどまる場合(就労定着支援員としての人員要件には算入しない場合)と、就労定着支援員として兼務する場合では、常勤換算への扱いが異なります。常勤換算への算入可否は指定権者に事前確認することをお勧めします。
ピアサポーター研修の修了:都道府県ごとに実施時期が異なる
ピアサポート実施加算の算定には、ピアサポーターが都道府県等が実施する「障害者ピアサポーター研修」を修了していることが必要です。この研修の実施は都道府県に委ねられており、実施時期・申込方法・定員が都道府県によって異なります。
- 研修の構成:一般的に「基礎研修」と「専門研修」の2段階構成になっています。両方の修了が必要です(都道府県によって名称・構成が異なる場合があります)
- 修了証の保管:研修を修了したことを証明する修了証は、事業所で原本またはコピーを保管することが実地指導への備えとして必要です
- 研修の日程確認:年1〜2回程度の実施にとどまる都道府県もあります。加算算定を目指す場合は、研修の開催予定を早めに確認し、採用したピアサポーターが受講できるよう調整します
研修未修了のまま業務に従事させた期間は加算の対象になりません。採用のタイミングと研修の受講時期を合わせた計画が重要です。詳細は都道府県の障害福祉担当窓口または指定権者にお問い合わせください。
スーパーバイザーの配置要件と役割
ピアサポート実施加算の算定には、ピアサポーターを支援・指導する「スーパーバイザー」の配置も必要です。スーパーバイザーは以下の要件を満たす者が担います。
- 所属:当該就労定着支援事業所の職員であること
- 研修修了:都道府県等が実施する「ピアサポートの実践に関する研修(スーパーバイザー向け研修)」を修了していること
- 修了証の保管:スーパーバイザーの研修修了証も事業所で保管する必要があります
スーパーバイザーの役割は、ピアサポーターが安全に・無理なく業務を行えるよう定期的なフォローアップ・相談対応を行うことです。ピアサポーター自身も障害を抱えながら働くため、過度な負担や二次被害(他者の困難に向き合う中での精神的消耗)を防ぐための支援体制が重要です。
スーパーバイザー向けの研修もピアサポーター研修と同様に都道府県が実施します。管理者や既存の就労定着支援員がスーパーバイザー研修を受講しておくと、ピアサポーターを採用した際にすぐに加算を算定できる体制が整います。
ピアサポーターが担う業務の具体例
算定要件の②「就労定着支援に関わる業務に従事していること」を満たすために、ピアサポーターが実際に担う業務の例を整理します。
| 業務内容 | 当事者経験を活かせるポイント |
|---|---|
| 利用者との面談・相談対応の補助 | 同じ障害を持つ当事者として共感的な関わりができる |
| 職場定着に関する体験談の共有 | 「自分も同じ困難を乗り越えた」という実体験が利用者の安心感につながる |
| 利用者が職場で使えるセルフケアのアドバイス | 実際に職場で機能した対処法を具体的に伝えられる |
| グループ活動・交流の場の運営補助 | 同じ立場からのファシリテーションが場の安心感を高める |
| 相談記録の作成(補助的な範囲) | 支援員のサポートのもとで記録業務を担える |
ピアサポーターは専門的な相談支援のメインを担うのではなく、就労定着支援員と協働しながら当事者視点を補う役割を担います。業務の範囲・権限を就業規則や役割分担表に明記しておくことで、実地指導での確認にも対応できます。
単位数と収益へのインパクト:直接収益より間接効果が大きい加算
ピアサポート実施加算の月100単位は、その他地域(単価10.00円)で月1,000円の収入増です。報酬区分(区分1〜7)や利用者数には影響しないため、算定要件を満たせれば毎月確実に上乗せできます。
金額的な収益インパクトは小さいですが、ピアサポーターの配置が利用者の就労定着率を高める効果がある場合、報酬区分が区分7から区分4以上に改善することで、年間数十万〜数百万円規模の収入増につながる可能性があります。
加算収入と就労定着率区分の変動が収支に与える影響は、就労定着支援 収支シミュレーター(無料)で試算できます。
実地指導で確認される書類と記録
都道府県・政令市等による実地指導(運営指導)では、ピアサポート実施加算を算定している場合、以下の書類・記録が確認されます。
| 確認項目 | 対応書類・記録 |
|---|---|
| ピアサポーターが障害者であることの確認 | 障害者手帳のコピー・医師の診断書等 |
| ピアサポーターの研修修了 | ピアサポーター研修の修了証のコピー |
| スーパーバイザーの研修修了 | スーパーバイザー研修の修了証のコピー |
| 業務への従事実績 | ピアサポーターの勤務記録・業務日誌・支援記録への関与履歴 |
| スーパーバイザーによるフォローアップ | スーパービジョン(定期面談等)の記録 |
書類が欠けている場合は加算の返還を求められる場合があります。ピアサポーターを採用した時点から関連書類を整理してファイリングしておくと、実地指導の際に速やかに提示できます。
ピアサポーターの採用を始めるためのステップ
ピアサポート実施加算の算定を目指す場合、以下のステップで準備を進めることが現実的です。
- ステップ1:都道府県の障害福祉担当窓口・指定権者にピアサポーター研修の開催予定を確認する
- ステップ2:スーパーバイザー候補(管理者や就労定着支援員)がスーパーバイザー研修を受講・修了する
- ステップ3:ピアサポーター候補(障害を持つ方・利用終了者など)を採用または内定させ、ピアサポーター研修に参加させる
- ステップ4:研修修了後、業務に従事させながら加算算定を開始する。算定開始前に指定権者への届け出が必要な場合があるため確認する
ピアサポーターとして採用する人材は、できれば就労定着支援の利用経験者や就労移行支援を利用して一般就労を経験した方が望ましいとされています。利用者と同じ立場で困難を乗り越えてきた経験は、マニュアルでは伝えられない説得力を持ちます。
参考・出典
- 障害福祉サービス等報酬告示(令和6年厚生労働省告示第159号)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について(解釈通知)
この記事は2026年11月時点の告示・通知に基づいています。報酬は改定されることがありますので、最新の告示を確認してください。
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