小規模多機能型居宅介護の指定申請。市区町村への手順と必要書類。

小規模多機能型居宅介護の指定申請 介護

小規模多機能型居宅介護の開業を検討するとき、最初に壁になりやすいのが指定申請の仕組みです。訪問介護や通所介護と異なり、小規模多機能は「地域密着型サービス」に分類されます。指定権者は都道府県ではなく市区町村であり、申請のタイミングも自由ではない場合がほとんどです。公募制を採用している自治体では、公募の時期を待ってから申請書を出す流れになります。この記事では、指定の法的根拠から申請書類の種類、スケジュールの目安、開業後に義務となる運営推進会議まで、手続きの流れを整理します。

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小規模多機能型居宅介護は市区町村が指定する地域密着型サービスである

通所介護(デイサービス)や訪問介護は都道府県知事が事業者を指定します。しかし小規模多機能型居宅介護は、介護保険法 第42条の2 第1項により、市区町村長が事業者を指定することになっています。

介護保険法 第42条の2 第1項は次のように定めています。「市町村長は、厚生労働省令で定めるところにより、申請があった場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、当該申請に係る者を(中略)指定地域密着型サービス事業者として指定することができる。」

「地域密着型サービス」という区分は、高齢者がなじみのある地域で生活を続けられるよう、住み慣れた市区町村内でサービスを完結させる考え方に基づいています。小規模多機能型居宅介護のほかに、認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)、定期巡回・随時対応型訪問介護看護なども地域密着型サービスに含まれます。

指定権者が市区町村であることは、実務上いくつかの重要な意味を持ちます。まず、申請窓口は都道府県の担当課ではなく、事業所を設置する市区町村の介護保険担当課になります。次に、指定基準を満たすだけでは指定されない可能性があります。多くの市区町村が独自に「日常生活圏域ごとの整備目標数」を設けており、その枠に空きがなければ申請が通らない仕組みになっています。

出典:介護保険法 第42条の2(令和6年法律第42号による改正後)

公募制が多く、いつでも申請できるわけではない

小規模多機能型居宅介護の指定申請では、「公募制」を採用している市区町村が多くあります。公募制とは、市区町村が新規の指定枠があることを公表し、応募した法人の中から選定する仕組みです。通所介護や訪問介護のように「書類を揃えていつでも申請できる」とはなりません。

公募が行われるタイミングは市区町村によって異なります。介護保険事業計画(3年ごとに改定)に基づいて整備目標数が決まり、その目標に空きが生じたときに公募をかける自治体が多いです。したがって、「今すぐ申請したい」と思っても、次の公募時期まで1年以上待つことがあります。

公募の有無や時期は、事業所を設置したい市区町村の介護保険担当課に問い合わせることで確認できます。都道府県の介護保険担当課では小規模多機能の申請状況を把握していないことがあるため、必ず市区町村窓口に確認することが必要です。

公募の流れは自治体によって異なりますが、一般的には次のような手順になります。

  1. 市区町村が公募要領を公表する(ホームページや広報誌で告知)
  2. 応募書類を期限内に提出する
  3. 市区町村の審査(書類審査、場合によってはプレゼンテーション審査)
  4. 選定通知が届く
  5. 正式な指定申請書を提出する
  6. 指定(開業許可)が下りる

選定審査では、法人の財務状況、介護実績、地域貢献の計画、建物の準備状況などが評価されることが多いです。「指定基準を満たしていれば必ず指定される」のではなく、複数の法人が競合する場合は総合評価で選ばれます。

なお、公募制を採用していない市区町村もあります。その場合でも、日常生活圏域の整備上限に達していれば新規指定はされません。いずれにしても事前の窓口相談が不可欠です。

日常生活圏域とは何か

介護保険法 第117条 第2項は、市区町村が介護保険事業計画を策定するにあたり、「日常生活圏域」を設定することを求めています。日常生活圏域とは、地理的条件、人口、交通事情などを考慮して市区町村が独自に区切る生活の範囲です。住民が日常的に生活する範囲として、おおむね中学校区を単位とする例が多くみられます。

小規模多機能型居宅介護は地域密着型サービスであるため、同一の日常生活圏域内に何か所まで整備するかが市区町村の介護保険事業計画で定められます。多くの市区町村では1つの圏域あたり1〜3事業所程度を上限として整備目標を設定しています。

日常生活圏域と指定申請の関係は、次のように整理できます。

日常生活圏域と小規模多機能の整備
項目 内容
圏域を設定する主体 市区町村(介護保険事業計画で定める)
圏域の規模の目安 中学校区程度(市区町村によって異なる)
1圏域あたりの整備上限の目安 市区町村が独自に設定(1〜3事業所程度が多い)
整備上限に達した場合 新規指定は原則として行われない
次の整備枠が生まれるタイミング 介護保険事業計画の改定時(3年ごと)が多い

開業を検討する際は、候補地の市区町村で「その圏域にすでに何か所の小規模多機能があるか」「次の整備枠はあるか」を事前に確認することが第一歩です。整備枠がなければ、どれだけ準備を進めても指定は下りません。

出典:介護保険法 第117条(日常生活圏域の設定)

指定申請に必要な書類の種類

指定申請に必要な書類は市区町村によって様式が異なりますが、一般的に求められる書類の種類は次のとおりです。正式な様式と提出部数は、申請する市区町村の介護保険担当課から入手してください。

小規模多機能型居宅介護の指定申請書類(一般的な種類)
書類の種類 内容の概要
指定申請書 事業者名、法人格の種類、事業所の所在地、開始予定年月日などを記載する基本書類
付表(小規模多機能型居宅介護用) 登録定員(上限29人)、通いの定員(登録定員の2分の1以下かつ18人以下)、宿泊の定員(通いの定員の3分の1以下かつ9人以下)を記載
事業計画書 サービス提供の内容、運営方針、利用者の見込み数などを記載
法人の定款(写し) 事業目的に居宅介護サービスに関する事業が含まれているかを確認するための書類
登記事項証明書 法人の設立と代表者を証明する書類(発行から3か月以内のものが求められることが多い)
従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表 管理者、介護職員、看護職員の配置状況と勤務シフトを示す書類
従業者の資格証等の写し 管理者の認知症介護実践者研修等の修了証、看護師・准看護師免許証など
事業所の平面図 居間・食堂・台所・静養室・宿泊室・浴室・洗面所・トイレの配置と面積を示す図面
賃貸借契約書(写し)または建物登記事項証明書 建物の使用権限を証明するための書類
事業所の写真 外観、各室内の状況を撮影した写真
運営規程 事業の目的・運営方針、職員の職種と職務内容、利用定員、通いサービス・訪問サービス・宿泊サービスの提供方法、緊急時の対応、苦情処理の体制などを定めた規程
利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要 苦情受付の窓口、対応手順などを記載した書類
誓約書 指定基準を遵守する旨を誓約する書類(様式は市区町村が定める)

上記に加え、市区町村によっては財務状況を示す書類(直近の決算書類)や、小規模多機能型居宅介護計画を作成する介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格証の写しを求めることがあります。

書類の準備では、「運営規程の作成」と「従業者の配置計画の確定」に時間がかかることが多いです。運営規程は、指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第82条が定める内容をすべて盛り込む必要があります。

出典:指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第82条(運営規程)

申請から開業までの流れとスケジュール目安

小規模多機能型居宅介護の開業までの流れは、公募制の場合と随時申請の場合でやや異なりますが、おおむね次のような段階を踏みます。

申請から開業までの流れ(公募制の場合の目安)
段階 内容 期間の目安
1. 事前相談・情報収集 市区町村の介護保険担当課に相談し、整備枠の有無・公募の時期を確認する なるべく早期から(開業希望の1〜2年前)
2. 公募への応募 公募要領に従い応募書類を提出。審査(書類・プレゼン)を経て選定通知を受ける 公募から選定通知まで1〜3か月程度
3. 建物の確保・整備 事業所建物の賃貸契約または改修工事。設備基準を満たす建物であることを確認する 選定後〜指定申請まで(3〜6か月程度)
4. 従業者の採用・研修 管理者・介護職員・看護職員の採用と必要な研修の修了 建物確保と並行して進める
5. 指定申請書の提出 必要書類を揃えて市区町村に提出。開業予定日の1〜2か月前を目安とすることが多い 開業の1〜2か月前
6. 市区町村による審査・実地確認 書類審査に加え、事業所への実地確認(現地視察)が行われることがある 申請から2〜4週間程度
7. 指定通知の受理 市区町村から指定通知書が届く。指定日以降にサービス提供が可能になる 開業予定日の数日〜数週間前
8. 開業・サービス提供開始 国民健康保険団体連合会(国保連)への登録、介護給付費の請求開始 指定日以降

スケジュール上で注意が必要な点がいくつかあります。

第一に、管理者の要件の確認が重要です。小規模多機能型居宅介護の管理者は、介護の業務に3年以上従事した経験のある者であること(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第69条第2項)に加え、「認知症対応型サービス事業管理者研修」を修了している(または修了見込みである)ことが求められます。この研修は都道府県が年に数回しか開催しないため、申し込みが遅れると開業時期がずれ込みます。管理者を先に確定し、早期に研修を受講させることが重要です。

第二に、介護支援専門員(ケアマネジャー)の確保も必要です。小規模多機能では、利用者ごとに小規模多機能型居宅介護計画を作成する専従のケアマネジャーを配置しなければなりません(平成18年厚生労働省令第34号 第68条)。ケアマネジャーの採用は難しいことが多いため、早期から採用活動を進めることが求められます。

第三に、指定を受けてもすぐに満員になるわけではなく、利用者の獲得には数か月から1年以上かかることがあります。登録者が少ない間は収入が少ない一方で、人件費などの固定費はかかり続けます。開業後の運転資金を十分に確保しておくことが必要です。

出典:指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第68条(介護支援専門員の配置)

法人格は何が必要か

小規模多機能型居宅介護の指定を受けるには、法人格を持つことが必要です。個人事業主として指定を受けることはできません。

法人の種類に制限はなく、以下のいずれも指定申請が可能です。

  • 社会福祉法人
  • 医療法人
  • 株式会社・合同会社・合名会社・合資会社
  • 特定非営利活動法人(NPO法人)
  • 一般社団法人・一般財団法人
  • 農業協同組合、生活協同組合

ただし、定款または寄附行為の「事業の目的」に、「居宅介護サービスに関する事業」または「地域密着型サービスに関する事業」を含む記載が必要です。新法人を設立する場合は、この記載を忘れずに定款に盛り込んでください。既存法人が新たに申請する場合は、定款に記載がなければ変更登記が必要になります。

法人設立のコストと手間は、種類によって異なります。株式会社・合同会社は設立費用が比較的低く(合同会社は数万円から)、設立の手続きが簡便です。社会福祉法人は設立要件が厳格で、自己資金の要件や都道府県の認可が必要なため時間がかかります。新規に事業を始める場合は、合同会社または株式会社で設立し、後から実績に応じて社会福祉法人への転換を検討する流れが現実的です。

なお、法人設立から登記事項証明書の取得まで、設立申請から数週間かかります。指定申請のスケジュールを逆算して、法人設立の手続きを早めに開始することが重要です。

運営推進会議の設置が開業後に義務になる

小規模多機能型居宅介護では、「運営推進会議」を設置することが事業者に義務づけられています。根拠は、指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第84条です。

同条は、指定小規模多機能型居宅介護事業者は、「指定小規模多機能型居宅介護事業所ごとに、当該指定小規模多機能型居宅介護の運営について、おおむね2月に1回以上、次に掲げる者により構成される運営推進会議を開催しなければならない」と定めています。

運営推進会議の構成員として同条が示す者は、次のとおりです。

  • 利用者
  • 利用者の家族
  • 地域住民の代表者
  • 市区町村の職員または地域包括支援センターの職員
  • 指定小規模多機能型居宅介護について知見を有する者

開催頻度はおおむね2か月に1回以上です。会議では、提供しているサービスの内容や運営状況を報告し、評価や意見・要望を受ける機会とします。地域に開かれた事業所運営を確保するための仕組みです。

運営推進会議には議事録の作成と保管が求められます。また、議事録の概要を市区町村に提出する義務があります(同条第2項)。会議の開催記録・議事録は、適切に保管することが必要です。

実務上の運用として、会議の開催に向けて次の準備が必要になります。

運営推進会議の実務準備の概要
項目 内容
構成員の選定・依頼 地域包括支援センター、町内会・自治会代表、民生委員などに協力を依頼する
開催頻度 おおむね2か月に1回以上(年6回以上を目安とする場合が多い)
議事録の作成 開催日時、出席者、協議内容、決定事項を記録する
市区町村への提出 議事録の概要を市区町村に提出する(提出方法は市区町村に確認する)
活動状況の公表 運営推進会議の内容を事業所内に掲示するなどして情報公開に努めることが望ましい

開業前から地域包括支援センターや市区町村の担当者に相談し、運営推進会議の運営方法について助言を得ておくと、開業後の運営がスムーズになります。

出典:指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第84条(運営推進会議)

まとめ

小規模多機能型居宅介護の指定申請は、都道府県ではなく市区町村が窓口です。介護保険法 第42条の2 に基づく地域密着型サービスとして、申請の可否は市区町村が定める日常生活圏域の整備枠に左右されます。多くの自治体で公募制が採用されており、公募のタイミングを待ってから手続きを進める必要があります。

申請書類は運営規程・平面図・従業者の資格証明などを含む多数の書類が必要です。また、管理者の認知症対応型サービス事業管理者研修の修了や、ケアマネジャーの確保など、早期に着手しなければならない準備が多くあります。開業後は2か月に1回以上の運営推進会議の開催と議事録の市区町村への提出が義務となります。

これから開業を検討される場合は、まず候補の市区町村に問い合わせて整備枠の状況を確認することが最初のステップです。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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