消防設備士 乙種第3類の試験、何が出てどう合格するか。

消防設備士 乙種第3類(以下、乙3)は、不活性ガス消火設備・ハロゲン化物消火設備・粉末消火設備の整備と点検を行う資格です。この3種類の設備は、電気室・通信機器室・駐車場など、水を使えない場所や精密機器がある場所に設置されます。試験は筆記30問と鑑別5問の構成で、合格基準は乙種の他の類と同じです。消防試験研究センターによると、乙3の合格率は例年30〜40%台です(最新年度は消防試験研究センターの「試験実施状況」で確認してください)。

この記事では、試験の構成・3種類の設備の仕組みと違い・規格で覚える数字・合格するための優先順位を整理します。

乙3の試験の構成

乙3の試験は、筆記と鑑別の2部構成です。免除がない場合の問題数は次のとおりです。

区分 科目 問題数 出題形式 合格基準
筆記 消防関係法令(共通) 6問 四択 科目ごとに40%以上
消防関係法令(類別) 4問 四択 科目ごとに40%以上
基礎的知識(機械) 5問 四択 科目ごとに40%以上
構造・機能・整備(機能9問・規格6問) 15問 四択 科目ごとに40%以上
鑑別 ― 5問 記述式 60%以上

筆記30問・鑑別5問の合計35問で、筆記は全体の60%以上かつ各科目40%以上、鑑別は60%以上が合格基準です。基礎的知識の科目は機械(物理・化学)で、他の類と異なり電気ではありません。電気工事士の免状による科目免除は乙3では使えません。

乙3が扱う3種類の消火設備

乙3は1つの設備ではなく、消火の仕組みが異なる3種類の設備を対象にしています。それぞれの消火原理と設置される場所が試験で問われます。

設備の種類 主な消火薬剤 消火の仕組み 設置される場所の例
不活性ガス消火設備 CO2・窒素・IG-55・IG-541 酸素濃度を下げる窒息消火 電気室・通信機器室・駐車場・美術館
ハロゲン化物消火設備 HFC-227ea・HFC-23・FK-5-1-12 燃焼の連鎖反応を断つ抑制消火(窒息も補助) コンピューター室・通信機器室・航空機格納庫
粉末消火設備 第1〜第4種粉末薬剤 燃焼の連鎖反応を断つ抑制消火 駐車場・飛行機格納庫・工場

共通するのは「水を使わないため水損がなく、電気設備や精密機器のある場所に適する」という点です。CO2は不導電性で電気設備に使えますが、放射後に人が残っている空間では窒息の危険があるため、安全装置と退避の手順が法令で定められています。

不活性ガス消火設備の種類と特徴

不活性ガス消火設備で使われる主なガスの特徴は次のとおりです。

ガスの種類 主成分 特徴
CO2(二酸化炭素) 液化CO2 比重が空気の約1.5倍。低所に滞留しやすい。貯蔵は液化ガス。放射後に結露・冷却あり
窒素 窒素(N2) 圧縮ガスで貯蔵。地球温暖化係数(GWP)ゼロ
IG-55 窒素50%・アルゴン50% 圧縮ガスで貯蔵。GWPゼロ
IG-541(イナージェン) 窒素52%・アルゴン40%・CO2 8% 圧縮ガスで貯蔵。GWPゼロ。少量のCO2が人体の呼吸反射を維持する効果がある

CO2だけが液化貯蔵で、他の不活性ガス(窒素・IG-55・IG-541)は圧縮ガス貯蔵という点が試験で出ます。貯蔵方式の違いは、充填比の計算にも関わります。

粉末消火薬剤の4種類は火災の種類で覚える

粉末消火薬剤は第1種から第4種まで4種類あります。どの火災に対応できるかが試験で問われます。

種別 主成分 化学式 適応火災
第1種粉末 炭酸水素ナトリウム NaHCO₃ B火災・C火災
第2種粉末 炭酸水素カリウム KHCO₃ B火災・C火災
第3種粉末 リン酸アンモニウム(ABC粉末) NH₄H₂PO₄ A火災・B火災・C火災
第4種粉末 炭酸水素カリウムと尿素の反応物 ― B火災・C火災

第3種粉末(ABC粉末)だけがA火災(一般火災)に対応します。一般的な建物の消火器に多く使われているのが第3種です。第1種・第2種・第4種はA火災には使えません。「AにはABC粉末のみ」と覚えると区別しやすくなります。

規格で覚える数字(充填比・設計濃度)

乙3の規格の科目では、充填比や設計濃度など数値が問われます。代表的なものをまとめます。

項目 数値・条件 根拠
CO2貯蔵容器の充填比(液化CO2) 1.5以上 不活性ガス消火設備の基準(告示)
全域放出方式の設計濃度(CO2・一般火災) 34%以上 不活性ガス消火設備の基準(告示)
IG-541の設計濃度 34%以上(体積%) 不活性ガス消火設備の基準(告示)
放出後のCO2残留濃度の確認 入室前に酸素濃度18%以上を確認 消防庁点検要領
加圧用ガス容器(粉末設備)の開放方式 起動装置からの電気信号(封板を破る)。バルブの手動開放は禁止 粉末消火設備の基準

充填比とは「容器内の薬剤質量÷容器の内容積」で、安全に貯蔵できる範囲の管理値です。規定の範囲を下回ると液化ガスが気化して圧力異常を起こす恐れがあります。CO2の充填比1.5以上は繰り返し出題される数字です。

ハロゲン化物消火設備とハロンの廃止

かつてはハロン1301・ハロン2402などが広く使われていましたが、オゾン層を破壊する特定フロンに指定されたため、日本では新規設置が禁止されています。現在設置されるハロゲン化物消火設備はHFC-227ea・HFC-23・FK-5-1-12などが主流です。試験では「なぜHFCに移行したか」という背景も出題されます。すでに設置済みのハロン設備は引き続き整備・点検の対象になるため、乙3の試験ではHFCとハロン系の両方が出題されます。

設置義務のある場所(法令類別で最も出る)

不活性ガス消火設備・ハロゲン化物消火設備・粉末消火設備は、水系の消火設備が使えない場所や精密機器がある場所に設置義務が生じます。代表的な設置対象は次のとおりです(消防法施行令第16条・第17条・第18条)。

  • 屋内駐車場(床面積が一定以上のもの)
  • 飛行機・ヘリコプターの格納庫
  • 発電機室・変電室・変圧器室
  • 通信機器室・電子計算機室
  • 指定可燃物(綿花・木毛など)を貯蔵・取り扱う場所

これらの場所に不活性ガス・ハロゲン化物・粉末のどれを設置するかは、設備の種類と防護対象の組み合わせで決まります。試験では「この場所にどの設備が適切か」という問いが出ます。

全域放出方式と局所放出方式の違い

乙3の設備には、放射方式が2種類あります。

方式 概要 使われる場所
全域放出方式 防護区画全体にガス・粉末を充満させる。区画を密閉して放出する 電気室・通信機器室など密閉できる区画
局所放出方式 燃焼しているものや設備の周囲に直接放射する。区画の密閉不要 変圧器・ポンプなど屋外や開放されたスペース内の機器

全域放出方式には、放出前に区画内の人を退避させる手順と、退避を知らせる音響警報装置・放出前の遅延時間が必要です(消防法施行規則第19条および関連告示)。遅延時間の具体的な秒数は消防試験研究センターの参考書で確認してください。局所放出方式では区画を密閉しないため、この退避手順は必要ありません。

鑑別で出る機器の見分け方

鑑別問題では、機器の写真や模式図を見て名称・役割を書きます。乙3でよく出る機器は次のとおりです。

  • 貯蔵容器:ガスや粉末薬剤を貯蔵する。CO2は液化、IG-541などは圧縮ガス
  • 容器弁:貯蔵容器の口に取り付けられたバルブ。起動信号で開く
  • 選択弁:複数の防護区画がある場合に、どの区画に放出するかを切り替える弁
  • 起動装置:手動起動装置と自動起動装置(煙感知器・熱感知器と連動)がある
  • 噴射ヘッド(放出口):薬剤を防護区画内に放射するノズル

「選択弁」と「容器弁」の名称と役割が混同されやすい部分です。選択弁は「どの区画に放出するか」を選ぶもの、容器弁は「薬剤を貯蔵容器から出す」ものです。

試験前の優先順位

得点を稼ぎやすい順に整理すると次のようになります。

  1. 法令共通(6問):乙種全類で共通の問題。消防設備士の他の類を既に受験したことがある人は知っている内容が多い。
  2. 構造・機能・規格(15問):問題数が最多。3種類の設備の消火原理・放出方式・数値(充填比・設計濃度)を押さえる。
  3. 法令類別(4問):設置義務のある建物と、全域放出方式の安全装置(退避・警報・遅延)が中心。4問中2問以上が必要。
  4. 基礎的知識(5問):機械の基礎(圧力・流量・物性)と粉末薬剤の化学的な特徴が出題範囲。5問中2問以上が必要。
  5. 鑑別(5問):機器の名称と役割を正確に書けるようにする。選択弁・容器弁・噴射ヘッドが頻出。

乙3は3種類の設備を一度に扱うため、「この問題はどの設備の話か」を整理しながら覚えることが大切です。CO2に関する問題は不活性ガス設備と粉末設備の両方に関わる場合もあるため、設備ごとの定義を分けて理解しておきます。

乙3の問題集(当サイト)

当サイトでは、消防設備士 乙種第3類の問題集を公開しています。

  • 筆記の確認問題(法令共通・法令類別・機械基礎・構造機能・規格):39問
  • 数字ドリル(充填比・設計濃度・圧力・距離など頻出数値を一問一答で)
  • 鑑別問題(容器弁・選択弁・起動装置などの役割を書く)
  • 本番と同じ配分の模試(筆記30問+鑑別5問・合否判定つき)

確認問題39問(筆記5分野)を無料で使えます。数字ドリル・鑑別・模試・AI問題を使うには買い切り980円(税込)です。

→ 消防設備士 乙3の問題集はこちら

まとめ

乙3の試験で最初に押さえる3点は「3種類の設備の消火原理(窒息・抑制の違い)」「粉末薬剤の種類とA火災に対応するのは第3種だけ」「CO2の充填比1.5以上と全域放出方式の安全装置(退避・警報・放出前の遅延時間)」です。法令類別は設置義務のある場所と全域放出方式の手順が軸になります。3種類の設備を扱うぶん覚える範囲は広いですが、消火原理と設備ごとの役割を整理してから数字に進むと、問題の構造が見えやすくなります。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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