消防設備士 甲種第1類(甲1)の実技試験には、乙1にはない計算問題が出ます。計算問題は「製図」の区分で出題され、3種類あります。ヘッドの個数計算、水源水量の計算、ポンプ全揚程の計算です。
この3種類は出題パターンが決まっていて、公式と条件の読み取りを理解すれば答えられます。それぞれの意味、公式、練習のコツをまとめます。
計算問題は「なぜこの計算をするか」から入ると定着が早い
甲1の計算問題でつまずく人の多くが、「公式を暗記して当てはめようとして詰まる」パターンです。公式の意味(何を計算しているのか)がわかっていないと、問題の条件が少し変わっただけで対応できなくなります。
3種類の計算は、それぞれ次のことを求めています。
| 計算の種類 | 何を求めているか |
|---|---|
| ヘッド個数計算 | ある区画を守るために必要なスプリンクラーヘッドの本数 |
| 水源水量計算 | 消火のために確保しておく水の量 |
| ポンプ全揚程計算 | 水を末端の設備まで届けるためにポンプが必要な力(揚程) |
それぞれ「目的」が違うので、別々に整理して覚えます。
計算1:スプリンクラーヘッドの個数計算
スプリンクラーヘッドは1個で一定の面積をカバーします。「この区画に何個必要か」を求めるのが個数計算です。
水平距離と防護面積
閉鎖型スプリンクラーヘッドは、設置場所の構造によって「水平距離(ヘッド中心から壁までの最大距離、またはヘッド同士の間隔の半分)」が変わります(消防法施行規則第13条の2)。
| 防火対象物の構造・部位 | 水平距離(R) | 防護面積(1個あたりの上限) |
|---|---|---|
| 耐火建築物 | 2.3m以下 | 13.4㎡(施行規則第14条第1項第7号) |
| 耐火建築物以外(準耐火・木造等) | 2.1m以下 | 11.0㎡(同) |
| 舞台部 | 1.7m以下 | 9.0㎡(同) |
「水平距離が短い(=防護面積が小さい)ほど、たくさんのヘッドが必要」という構造になっています。舞台部はカーテンや大道具など可燃物が多いため、より細かい間隔でヘッドを配置する基準になっています。
個数計算の手順
問題では「縦○m×横○mの区画に、耐火建築物の場合は何個必要か」という形で出ます。
- 区画の面積を計算する(縦×横)
- 1ヘッドの防護面積(πR²)を計算する
- 区画の面積 ÷ 防護面積を計算する(小数点以下は切り上げ)
例:縦5m×横8m(40㎡)の区画、耐火建築物の場合
防護面積 = 13.4㎡(施行規則第14条第1項第7号)
必要ヘッド数 = 40 ÷ 13.4 ≈ 2.99 → 切り上げで 3個
ただし試験では「この面積なら理論上は3個でよいが、区画の縦横の寸法を考えると配置できない」という問題も出ます。ヘッドを実際にどこに配置するかを図面で確認する視点も必要です。
試験問題でよく出る引っかかりポイント
- πをいくらで計算するか:3.14または3で計算する指示が問題文に書かれることがある。指定がなければ3.14を使う。
- 水平距離と防護面積を混同しない:水平距離(2.3m等)は「ヘッドから壁または隣接ヘッドまでの距離の基準」であり、防護面積(13.4m²等)は施行規則第14条第1項第7号に直接定められた別の数値。水平距離をπR²計算して防護面積とみなすのは誤り。
- 切り上げを忘れない:2.41個のヘッドは存在しないので3個。切り捨てて2個にしてはいけない。
計算2:水源水量の計算
設備を稼働させるために確保しておく水の量を求めます。「最悪のケース(複数個所で同時に作動)に備えた水の量」という考え方です。
設備ごとの水源水量の基準
消防法施行令第11条(屋内消火栓)、施行令第12条(スプリンクラー)で定められています。
| 設備の種類 | 同時使用・開放数 | 単位水量 | 水源水量 |
|---|---|---|---|
| 屋内消火栓(1号) | 最大2基同時使用 | 1基×2.6m³ | 5.2m³ |
| 屋内消火栓(2号・15m型) | 最大2基同時使用 | 1基×1.2m³ | 2.4m³ |
| スプリンクラー(10階以下の一般) | 同時開放15個 | 1個×1.6m³ | 24.0m³ |
| スプリンクラー(11階以上) | 同時開放30個 | 1個×1.6m³ | 48.0m³ |
水源水量計算の手順
問題文に「○階建て・○号消火栓」などの条件が書かれます。条件から同時使用数と単位水量を特定して掛け算するだけです。
例:地上3階建て・スプリンクラー設備の水源水量を求めよ
10階以下の一般の場合 → 同時開放数15個 × 1.6m³ = 24.0m³
試験問題でよく出る引っかかりポイント
- 「最大2基」という言葉に注意:消火栓の数が建物に1個しかなければ1基で計算する(問題文の条件確認が必要)。ただし試験問題では「最大2基を前提に」と指示がある場合が多い。
- 階数による同時開放数の違い:10階以下は15個、11階以上は30個。階数の条件を見落とさない。
- 単位換算:1m³ = 1,000Lで問題が出ることがある。単位を統一して計算する。
計算3:ポンプ全揚程の計算
ポンプが水を送り届けるのに必要な「力(揚程)」を求めます。揚程とは「水を何メートルの高さまで押し上げられるか」を表す値で、単位はメートル(m)です。
全揚程の公式
屋内消火栓の場合(消防法施行規則第12条):
H = h1 + h2 + h3 + P
| 記号 | 意味 | 1号消火栓の値 | 2号消火栓の値 |
|---|---|---|---|
| H | 必要な全揚程(求める値) | — | — |
| h1 | 消防ホースの摩擦損失水頭 | 6m | 3m(15m型) |
| h2 | 配管の摩擦損失水頭 | 問題文で与えられる | 問題文で与えられる |
| h3 | 落差(ポンプから末端ノズルまでの高低差) | 問題文で与えられる | 問題文で与えられる |
| P | ノズル先端の必要放水圧換算値 | 17m(0.17MPa = 17m水頭) | 25m(0.25MPa = 25m水頭) |
公式の意味を理解する
「ポンプが出した水」は次の抵抗を乗り越えて、末端のノズルまで届きます。
- 配管の中を流れる抵抗(h2:配管摩擦損失)
- ホースを流れる抵抗(h1:ホース摩擦損失)
- 高いところまで持ち上げる力(h3:落差)
- ノズルから勢いよく飛び出すための圧力(P:放水圧換算値)
これら4つの合計が「ポンプに最低限必要な揚程(H)」です。ポンプは「水を末端まで届けて、なおかつ放水できる圧力を確保する」ために動いています。
ポンプ全揚程計算の手順
例:1号消火栓・配管摩擦損失h2 = 5m・落差h3 = 20mの場合
H = h1 + h2 + h3 + P
H = 6m + 5m + 20m + 17m = 48m
スプリンクラー設備の場合
スプリンクラー設備にはホースがないため、h1は0になります(消防法施行規則第14条)。
H = h2 + h3 + P(スプリンクラー)
| 記号 | スプリンクラーの値 |
|---|---|
| h1(ホース摩擦損失) | 0(ホースなし) |
| P(ヘッド先端の放水圧換算値) | 10m(0.1MPa = 10m水頭) |
スプリンクラーのヘッドは放水圧0.1MPa以上が必要です(施行規則第14条)。0.1MPa = 10m水頭として計算します。
試験問題でよく出る引っかかりポイント
- 消火栓の種類(1号・2号)でh1が変わる:1号は6m、2号(15m型)は3m。問題文で確認する。
- MPaをm水頭に変換:1MPa ≈ 100m水頭。0.17MPa = 17m、0.1MPa = 10m。
- 落差の方向:ポンプより高いところに消火栓がある(押し上げる)場合はh3をプラス、低いところ(押し下げる)場合はマイナスになる問題が出ることがある。問題文の図面を確認する。
3種類の計算問題の出題傾向と勉強の優先順位
実際の甲1試験では、製図2問のうち1問がヘッド配置図(個数計算)、もう1問がポンプ全揚程計算または水源水量計算という組み合わせが多いとされています(公式の出題統計はありませんが、市販のテキスト・過去問集で確認できます)。
| 計算の種類 | 習得の難易度 | 出題の重要度 | 優先順位 |
|---|---|---|---|
| ヘッド個数計算 | 中(面積の割り算だが区画の読み取りが必要) | 高 | 1番目 |
| ポンプ全揚程計算 | 高(公式の意味の理解が必要) | 高 | 2番目 |
| 水源水量計算 | 低(条件確認と掛け算のみ) | 中 | 3番目 |
水源水量は計算が簡単ですが、条件の読み取り(何階・何号消火栓)を間違えると全て誤りになります。簡単だからこそ条件確認を怠らないようにすることが大切です。
計算問題は反復練習で点数が安定する
3種類の計算は、数値が変わっても手順は同じです。初めて解く時は式の意味を丁寧に確認して、2回目以降は数値を入れ替えた練習問題を繰り返すと、本番でも手が動くようになります。
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出典:消防法施行令第11条(屋内消火栓設備)・第12条(スプリンクラー設備)、消防法施行規則第12条・第13条の2・第14条


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