親が認知症になった後、家族間でお金のトラブルが起きやすい。最初は「介護のために親のお金を使っているだけ」という状況でも、記録がなければ疑念になり、疑念が不信になり、最終的には弁護士案件になることがある。厚生労働省の「高齢者虐待の防止」に関する統計でも、経済的虐待(財産を無断で使用する等)が増加傾向にあることが示されている。トラブルを防ぐのは「不正をしないこと」だけでなく「不正をしていないと証明できること」だ。
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認知症の親のお金を巡る兄弟トラブルの3つのパターン
パターン1:管理している側が「使い込み」を疑われる
親の近くに住んでいて介護を担当している兄弟が、日常的にお金を管理している。遠くに住む兄弟が「いつもお金が足りない」「通帳を見せてほしい」と言い出して紛争になるケースだ。管理している側は「介護費用に使っている」と言っても、記録がなければ証明できない。
パターン2:介護していない兄弟が遺産を多く求める
介護を一手に引き受けた兄弟が、相続時に「寄与分」(民法第904条の2)を主張しても、介護の実態が記録されていないと認められにくい。一方で、介護に関わっていない兄弟が法定相続分を主張するのは法律上の権利であり、感情的なもめ事になりやすい。
パターン3:一人が後見人になった後に他の兄弟が不信感を持つ
家庭裁判所に成年後見人として家族(例えば長男)が選任された後、他の兄弟が「後見人が親の財産を自分の都合で使っている」と疑い始めるケースだ。後見人は家裁への定期報告義務があり、使途は記録されるが、他の兄弟には開示されないケースもある。
トラブルを防ぐ4つの具体的な方法
方法1:早期に「家族会議」を開いて役割と情報を共有する
診断直後に全員が集まり、①誰が主たる介護担当か、②お金の管理は誰がどう行うか、③情報共有の頻度・方法はどうするか、の3点を決める。口頭で話し合っただけでも、後でメール等で内容を共有・確認する記録を残すことが重要だ。
方法2:月次の収支報告を全兄弟に送る仕組みを作る
管理担当者が毎月末に「今月の収入・支出・残高」を簡単な表(Excelやメモで可)にまとめ、全兄弟にメール等で送る仕組みを作る。これだけで「使い込み疑惑」の大半は防げる。
方法3:介護の記録を残す
介護時間・実施した内容(通院付き添い・買い物・食事介助等)を日記やスマートフォンのメモアプリで記録する。将来の寄与分の主張や、介護の実態を証明するためにも有用だ。
方法4:早期に家族信託または任意後見で「透明な管理」の仕組みを設ける
家族信託の場合は受託者(管理担当家族)が信託事務として収支を管理するため、記録と報告義務が自然に生まれる。任意後見の場合は任意後見監督人が定期的に監督するため、外部からの確認が入る。
「使い込み」が実際に起きた場合の法的な対処
使い込みが疑われる場合、家族は以下の手段をとることができる。
- 銀行の取引履歴の開示請求:本人または後見人として、銀行に過去の取引明細の発行を依頼する
- 家庭裁判所への申立て:後見人が使い込みをしているという証拠がある場合、家庭裁判所に「後見人の解任」「不当利得返還請求の代理権付与」等を申立てる
- 民事訴訟(不当利得返還請求):使い込みが立証できれば、民事訴訟で返還を求めることができる
- 業務上横領・窃盗等の刑事告訴:悪質なケースでは刑事告訴も選択肢になる
ただし、家族間での使い込み立証は難しいことが多い。「預かっていた」「許可をもらっていた」「介護費用に使った」という主張が対立するからだ。争いになる前に透明な管理の仕組みを作ることが最善策だ。
兄弟がいない(一人っ子)場合の注意点
一人っ子の場合は兄弟間のトラブルは起きないが、別のリスクがある。
- 配偶者(親の子の配偶者)との関係:義理の家族との摩擦
- 親戚からの干渉:伯父・伯母等が「財産はどうなるのか」と関わってくるケース
- 成年後見申立てで専門職が選任されると、家族との利益が一致しない場面がある
一人っ子の場合でも、記録を残す習慣・早期の任意後見・家族信託の準備は同様に重要だ。
この記事のまとめ
- 使い込み疑惑を防ぐのは「不正をしないこと」だけでなく「不正をしていないと証明できること」
- 診断直後の家族会議で役割・管理方法・情報共有のルールを決める
- 月次収支報告を全兄弟にメール等で送る仕組みを作る
- 介護の記録(時間・内容)を残しておくと将来の寄与分の主張にも使える
- 家族信託・任意後見は外部の目が入る分、透明性が確保されやすい
出典:民法第904条の2(寄与分)、厚生労働省「令和4年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」、法務省「成年後見制度について」
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