登録日本語教員の基礎試験「言語と社会」区分は、問題数が少なめの区分ですが、各区分6割以上の合格基準がある以上、苦手なまま放置すると足切りのリスクがあります。この記事では「言語と社会」区分の出題範囲と対策ポイントを整理します。
「言語と社会」区分とは
登録日本語教員の基礎試験は5区分で構成されており、「言語と社会」区分では社会の中での言語の使われ方・言語政策・言語の多様性に関する知識が問われます。
文部科学省が公表している出題範囲(49項目)のうち、「言語と社会」に関連する項目には次のようなものが含まれます。
- 社会言語学(場面と言語変種・ダイグロシア・コードスイッチング)
- 言語政策(日本語教育推進法・外国語教育政策)
- 多文化共生・やさしい日本語
- 在日外国人の言語環境
- コミュニケーションの非言語的要素
出題範囲の詳細・到達目標は文部科学省が公表している「必須の教育内容」で確認してください。
社会言語学の主要概念
ダイグロシア(diglossia)
1つの社会の中で2つの言語変種(高変種H・低変種L)が使われ分けられている状態を指します。正式な場面・教育・文書では高変種、日常会話・親しい場面では低変種が使われるという社会言語学的現象です。
アラビア語(標準語H・各地の口語L)・スイスドイツ語(標準ドイツ語H・スイスドイツ語L)が代表例として挙げられることが多いです。
コードスイッチング(code-switching)
会話の中で2つ以上の言語・言語変種・方言を使い分けること。多言語社会・バイリンガルの話者によく見られる現象です。場面・相手・話題によってコードを切り替えることで、コミュニケーションをより効果的に行う機能があります。
言語変種・方言・社会的方言(ソシオレクト)
- 地域方言:地理的な差異によって生じる言語の違い(東北弁・関西弁など)
- 社会的方言(ソシオレクト):年齢・性別・職業・階層などの社会的属性によって生じる言語の違い(若者言葉・女性語・職業方言など)
- スタイル(場面変種):同じ話者が場面に応じて話し方を変えること(フォーマルスタイル・インフォーマルスタイルなど)
クレオール語・ピジン語
- ピジン語:異なる言語を話す人々が通商・接触のために自然発生的に作り出す接触言語。文法が簡略化され、語彙は複数の言語から取られる
- クレオール語:ピジン語が母語話者を持つまでに発展した言語。文法が体系化される
言語政策に関する知識
日本語教育推進法(2019年)
「日本語教育の推進に関する法律」(通称:日本語教育推進法)は2019年に制定されました。在留外国人・日本に移住した日本人などが日常生活・社会生活に必要な日本語を習得できるよう、国・地方公共団体・事業主の責務を定めた法律です。
日本語教育推進法が、登録日本語教員制度・認定日本語教育機関制度につながる日本語教育の法的整備の流れを作りました。
在留外国人の言語環境
日本国内の在留外国人数は増加しており(2024年時点で395万人超)、国籍・出身国・来日目的(就労・留学・生活者・難民など)によって日本語学習のニーズが異なります。
「やさしい日本語」は、外国人・高齢者・障害者など日本語能力に制約のある人が理解しやすいよう、日本語を平易にした表現方法です。語彙・文法を平易にした上で短い文で書く・使わないルールがあります。自治体・企業のコミュニケーションにも活用が広がっています。
非言語コミュニケーション
コミュニケーションは言語(言葉)だけで行われるわけではありません。非言語的な要素(表情・視線・ジェスチャー・姿勢・声のトーン・速さ・沈黙など)が伝わる内容に大きく影響します。
異文化間の非言語コミュニケーションの違い
「うなずく」「アイコンタクトをとる」「物理的な距離感(パーソナルスペース)」の意味・程度は文化によって異なります。日本語教育では、言語表現の指導と合わせて非言語コミュニケーションの文化差を学習者に伝えることが、より自然なコミュニケーションにつながります。
教室内の非言語コミュニケーション
日本語教師として授業をする際も、非言語コミュニケーションは重要です。「教師が学習者にどのように反応するか(うなずき・表情・声のトーン)」は学習者の安心感・発話量に影響します。
多文化共生と日本語教育
多文化共生とは
「多文化共生」とは、国籍・民族などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとすることを指します。日本では総務省が「多文化共生の推進に関する研究会」を設置し(2006年)、在住外国人との共生社会の実現を政策目標として掲げています。
日本語教育は多文化共生の重要な柱の一つです。在住外国人が日本語を習得することで、日常生活・就労・子どもの教育・地域活動への参加が可能になります。
やさしい日本語の役割
「やさしい日本語」は、外国人・高齢者・障害者など日本語能力に制約のある人が理解しやすいよう、語彙・文法を平易にした日本語表現です。1995年の阪神・淡路大震災での外国人への情報伝達が不十分だったことを教訓に弘前大学の研究グループが開発を始めました。
「やさしい日本語」の代表的なルール:
- 短い文で書く(1文1事柄)
- 難しい語彙をひらがな・分かりやすい言葉に言い換える(「避難してください」→「にげてください」)
- 外来語・専門用語・略語を使わない
- 主語を明確にする
日本語教育と「やさしい日本語」の関係
日本語教師は「やさしい日本語」の知識を授業内外で活かすことができます。初級学習者への説明・案内・指示を「やさしい日本語」で伝えることは、直接法(日本語だけを使って教える)の授業でも重要な指導技術です。
在留外国人の増加と日本語教育の課題
2024年時点で日本に住む在留外国人の数は395万人を超えており、増加傾向にあります。出身国・在留目的・日本語能力は多様で、日本語教育のニーズも一様ではありません。
在留外国人の日本語学習ニーズの分類
| 在留目的の例 | 日本語学習の主なニーズ |
|---|---|
| 技能実習・特定技能(就労) | 職場での日本語・指示・連絡・報告の表現 |
| 留学(進学) | 大学進学・JLPT取得・アカデミックな日本語 |
| 在日外国人配偶者・生活者 | 日常生活・行政・医療・育児に必要な日本語 |
| 難民・新規来日者 | サバイバルレベルの日本語・やさしい日本語 |
日本語教師は担当する学習者の在留目的・日本語学習のニーズを把握した上で、目標に合わせた授業設計をすることが重要です。これは「言語と社会区分」の知識が実務に直結する場面の一つです。
言語と権力・言語イデオロギー
社会言語学のテーマとして、「言語と権力」「言語イデオロギー」という概念があります。
言語イデオロギー
言語に対する社会的な価値観・信念を「言語イデオロギー」といいます。「標準語の方が正しい・きれいだ」「外来語を使うのは良くない」「○○語は難しい」といった信念が、言語の使われ方・言語政策に影響を与えることがあります。
言語政策と言語の「地位計画」「体系計画」
言語政策は大きく2つに分類されることがあります。
- 地位計画:どの言語・変種を公用語・教育言語・国語として使うかを決める政策(例:複数言語国家での公用語設定)
- 体系計画:言語の文字・文法・語彙を標準化・整備する計画(例:外来語の表記方法の統一・新漢字の制定)
日本の日本語教育推進法・認定法は「日本語教育政策としての地位計画」の一例として理解できます。
「言語と社会」区分の対策ポイント
用語の定義と代表例をセットで覚える
「ダイグロシア」「コードスイッチング」「ピジン語」「クレオール語」などの専門用語は、定義だけでなく「具体的な事例(どの言語・地域・状況が例として出てくるか)」とセットで理解しておくと問題で選びやすくなります。
社会的背景(在留外国人・日本語教育推進法)を理解しておく
「日本社会での外国人の言語環境」「日本語教育を推進するための法的整備の流れ」を理解しておくと、政策・制度に関する出題に対応しやすくなります。日本語教育推進法(2019年)→日本語教育機関認定法(2024年施行)という制度整備の流れを把握しておくことが重要です。
「言語と文化」区分との区別を意識する
「言語と社会」区分と「言語と文化」区分は、テーマが重なる部分があります。「言語と社会」は「社会的文脈での言語の使われ方・言語政策・言語の多様性」が中心。「言語と文化」は「文化と言語の関係・異文化コミュニケーション・日本語の文化的背景」が中心という違いを意識しながら学習することで、混同を防げます。
問題数が少なくても足切りリスクがある
「言語と社会」区分は問題数が少なめですが、6割の足切りがあります。問題数が少ない区分で得点が低い場合は致命的になる可能性があります。「多少苦手でもいい」と放置せず、最低でも6割が確保できる理解を目指してください。
「言語と社会」区分でよく出る問題の形式
「言語と社会」区分の問題は、次のような形式で出題される可能性があります。
- 用語の定義を問う問題:「ダイグロシアの説明として正しいものはどれか」「コードスイッチングが起きている状況の例はどれか」
- 事例に当てはまる概念を選ぶ問題:「次の状況は○○の例である。○○にあてはまる用語はどれか」
- 法律・政策の正誤を問う問題:「日本語教育推進法に関する説明として正しいものはどれか」
- 学習者・教師の行動に当てはまる理論を選ぶ問題:「外国人が職場で日本語と母語を使い分けている状況を表す用語はどれか」
どの形式でも「用語の定義と具体例をセットで覚える」という学習が有効です。定義だけ覚えていても具体例が思い浮かばないと、事例問題・場面問題で正解が選びにくくなります。
「言語と社会」と「言語と文化」の区別の練習
試験勉強中に混乱しやすい「言語と社会」と「言語と文化」の区別について、実際の判断練習の例を紹介します。
| テーマ・概念 | 区分 | 理由の目安 |
|---|---|---|
| ダイグロシア | 言語と社会 | 社会の中での言語変種の使い分け=社会言語学 |
| ハイコンテクスト文化 | 言語と文化 | 文化と言語の関係・異文化コミュニケーション |
| やさしい日本語 | 言語と社会 | 社会政策・在住外国人への日本語支援 |
| ポライトネス理論 | 言語と社会または言語と文化 | 社会的関係と言語(社会)・文化差を含む場合は文化 |
| 言語政策 | 言語と社会 | 国・社会レベルでの言語の使用・整備の政策 |
どちらの区分にも属しうるテーマ(ポライトネス等)は、問われ方(社会的文脈か・文化差の観点か)によって判断が変わる場合があります。サンプル問題・AI問題集でどのように出題されるかを実際に問題を解きながら感覚をつかんでください。
「言語と社会」区分の勉強で使えるリソース
「言語と社会」区分の対策に活用できる学習リソースをまとめます。
- 文部科学省「必須の教育内容」(告示):「言語と社会」に関連する49項目の「到達目標」が記載されている。対策の起点として精読することをおすすめします
- サンプル問題(9問):文部科学省が公表している。言語と社会に関連する問題が含まれている可能性があり、出題形式の確認に活用する
- AI問題集(当サイト):出題範囲49項目に接地した問題演習。「言語と社会」区分の問題も含まれる
- 社会言語学の入門書:「社会言語学」(三省堂)等の入門書で基礎概念を学ぶ。検定試験向けの日本語教育テキストも「言語と社会」の章が活用できる
まとめ
- 「言語と社会」区分では社会言語学(ダイグロシア・コードスイッチング・言語変種)・言語政策・やさしい日本語・非言語コミュニケーションが主要テーマ
- 用語は定義と代表例(どの言語・地域・状況が例として出るか)をセットで理解する
- 日本語教育推進法(2019年)→認定法(2024年施行)という制度の流れを把握しておく
- 「言語と社会」と「言語と文化」区分の違いを意識して混同を避ける。ポライトネス等は問われ方で判断が変わる
- 問題数が少なくても6割の足切りがある。最低でも6割確保を目標に、苦手な用語・概念を繰り返し確認して準備する
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5区分の対策概要については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

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