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「ケアマネ事務所の経営は成り立つのか」という問いは、開業を検討している方から多く聞かれます。答えは「成り立つ事業所もあれば、厳しい事業所もある」ですが、全国の統計を見ると、居宅介護支援の収支差率は他の介護サービスと比べて低い水準にあることがわかります。
この記事では、厚生労働省の調査データをもとに、居宅介護支援の経営実態を整理します。
全国平均の収支差率は2〜3%程度で、他サービスより低い
厚生労働省「令和7年介護事業経営概況調査」によると、居宅介護支援の収支差率(収入に対する利益の割合)の全国平均は2〜3%程度です。
| サービス種別 | 収支差率(全国平均) |
|---|---|
| 訪問介護 | 約3〜5% |
| 通所介護 | 約2〜4% |
| 居宅介護支援 | 約2〜3% |
| 放課後等デイサービス | 約5〜6% |
| グループホーム | 約3〜5% |
出典:厚生労働省「令和7年介護事業経営概況調査」(各サービスの損益差率)。数値はサービス種別・定員規模等によって変わります。
収支差率が低い主な理由は、「介護支援専門員の人件費が収入の大部分を占める」という構造にあります。訪問介護や通所介護は複数のスタッフが稼働して収入を積み上げますが、居宅介護支援は専門資格を持つケアマネジャーの担当件数が収入の上限を決めるため、収益の拡大に限界があります。
収支差率が低くても、キャッシュフローは安定しやすい
収支差率が低いことは、「赤字が出やすい」という意味ではありません。居宅介護支援の収支構造には次の特徴があります。
固定費が比較的少ない
通所介護のように大きな送迎車両や広い施設が不要です。事務所の賃料・通信費・介護支援ソフトのリース料が主な固定費になります。損益分岐点となる担当件数が、他サービスよりも少なくなる傾向があります。
収入が安定しやすい
ケアプランを継続的に作成している利用者がいる限り、毎月の報酬が継続します。通所介護のように「利用者が体調不良で休む」と収入が減る、ということが起きにくい構造です。
貸し倒れリスクが低い
介護報酬の大部分は国保連(国民健康保険団体連合会)から支払われるため、民間の取引と比べて未回収のリスクがほとんどありません。
担当件数が損益分岐点を左右する
居宅介護支援の経営で最も重要な指標は、担当件数です。担当件数が少ない段階は収入が固定費を下回り赤字になります。損益分岐点となる件数を把握しておくことが重要です。
一例として、次の条件で損益分岐点を試算します。
| 条件 | 数値 |
|---|---|
| ケアマネジャー1名(主任ケアマネ)の月次人件費 | 35万円 |
| 事務所家賃 | 6万円 |
| その他固定費(ソフト・通信等) | 3万円 |
| 合計固定費 | 44万円 |
| 1件あたり収入(要介護1〜5の平均・費(Ⅰ)・地域単価10円) | 約12,500円 |
損益分岐点:44万円÷12,500円=35件
このケースでは35件から黒字になります。担当件数が35件を超えれば、超えた分の1件あたり収入(約12,500円)が利益になります。40件であれば利益は約62,500円、44件(費(Ⅰ)の上限)であれば約112,500円になります。
1人体制と複数人体制で収益構造が変わる
1人のケアマネジャーだけで運営する場合と、複数人を配置する場合では、収益構造が変わります。
1人体制(主任ケアマネ1名のみ)の特徴
- 固定費が少なく、損益分岐点となる件数が少なくて済む
- 担当件数の上限が44件(逓減制で費(Ⅰ)が維持できる範囲)
- 病気・休暇で業務が止まるリスクがある
2〜3人体制の特徴
- 人件費が増えるため損益分岐点が上がる
- 担当件数の合計が増えるため収入の天井が上がる
- 特定事業所加算の上位区分(主任ケアマネを複数名配置)が取得しやすくなる
開業当初は1人体制で始め、利用者が増えてきた段階で2人目を採用するという順序が現実的です。1人体制で44件前後に達した段階が、採用投資の判断タイミングになります。
特定事業所加算が経営に与える影響
特定事業所加算は、収益改善の重要な手段です。担当件数が同じでも、加算の有無で収入が大きく変わります。
| 条件 | 月収入の目安(担当件数35件) |
|---|---|
| 加算なし | 約43.7万円 |
| 特定事業所加算(A)取得 | 約43.7万円+35件×114単位×10円=約47.7万円 |
| 特定事業所加算(Ⅰ)取得 | 約43.7万円+35件×519単位×10円=約61.8万円 |
※要介護3〜5が50%・費(Ⅰ)・地域単価10円で概算。
加算(A)でも月4万円、加算(Ⅰ)であれば月18万円の差になります。取得要件(研修修了者の配置・24時間連絡体制等)への対応が必要ですが、開業後の経営安定に向けて取得を目指す価値はあります。
経営が厳しくなる典型的なパターン
居宅介護支援で経営が厳しくなる場合には、次のパターンがあります。
利用者の獲得が遅い
居宅介護支援の利用者は、病院の地域連携室・医療機関・他事業所からの紹介が主な経路です。開業直後は知名度がなく、紹介が集まりにくい場合があります。担当件数が損益分岐点に達するまで時間がかかると、その間に運転資金が不足するリスクがあります。
人件費が収入を超えている
主任ケアマネの給与水準が高い場合、担当件数が少ない段階では収入が人件費を下回ります。開業直後は代表者自身が主任ケアマネとして担当するケースが多く、代表者の役員報酬を低く設定して固定費を圧縮するという対応が取られることがあります。
加算が取れていない
特定事業所加算の要件を満たしていないと、同じ件数でも収入が低くなります。加算(A)は比較的取りやすい区分のため、まず(A)の取得要件を確認して対応することが優先です。
まとめ:居宅介護支援の経営で押さえる4点
- 全国平均の収支差率は2〜3%程度で、他サービスより低い
- 固定費が少なく損益分岐点となる件数は少なくて済むが、1人あたりの担当件数の上限がある
- 特定事業所加算の取得で収入を底上げできる
- 経営が厳しくなる主な原因は「開業直後の件数の少なさ」と「加算が取れていないこと」
個別の条件(担当件数・地域単価・加算の有無)を入れて月次の収支を確認したい場合は、シミュレーターをご利用ください。
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