居宅介護支援事業所の開業資金はいくら必要か。

居宅介護支援事業所の開業資金はいくら必要か。 介護

居宅介護支援事業所(通称:ケアマネ事務所)の開業にかかる資金は、通所介護や訪問介護と比べるとコンパクトです。送迎車両が不要で、大規模な改装工事が必要になるケースも多くありません。

ただし、介護報酬の入金は提供した月の翌々月になります。4月に開業した場合、最初の収入が入るのは6月になります。この2か月間も人件費・家賃は発生するため、運転資金の確保が特に重要です。

この記事では、居宅介護支援事業所の開業にかかる費用の内訳と、運転資金の考え方を整理します。費用の目安はシミュレーターの初期値をもとにした参考値であり、実際の費用は立地や物件・事業規模によって異なります。事業計画を作成する際は、個別の見積もりを取ったうえで検討してください。

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居宅介護支援の開業資金は、法人設立費・設備費・運転資金の3つで考える

居宅介護支援事業所の開業資金は、大きく3つに分けて整理できます。

  • 法人設立費:法人格を取得するための費用
  • 設備費・初期費用:事務所の確保と設備の整備
  • 運転資金:開業後しばらくの赤字期間をカバーする資金

3つの合計は、小規模な体制(管理者兼介護支援専門員1名)で出発する場合でも、200万円前後が目安になります。複数名のケアマネを最初から採用する場合は、人件費の増加分だけ運転資金が増えるため、さらに多くの資金が必要です。

居宅介護支援事業所の開業資金の目安(管理者1名体制の場合)
費用区分 目安金額
法人設立費 10〜35万円程度
事務所の初期費用(敷金・礼金・改装) 50〜150万円程度
備品・ソフト費 20〜50万円程度
運転資金(3か月分) 100〜180万円程度
予備費 20万円程度
合計の目安 200〜435万円程度

当方が設定したシミュレーターの初期値をもとにした参考値です。実際の費用は立地・物件の状態・事業規模によって大きく異なります。

通所介護の開業資金の目安が500万〜1,000万円程度とされるのと比較すると、居宅介護支援は初期費用が少ない業態です。送迎車両や改装工事費がかかりにくいことが主な理由です。一方で、翌々月入金という構造上の特性から、運転資金の確保が重要になります。

法人設立には合同会社か株式会社の設立が必要になる

居宅介護支援事業所の指定を受けるには、法人格が必要です。個人事業主の形態では、原則として指定を受けることができません(介護保険法に基づく指定の要件)。法人であれば株式会社・合同会社・社会福祉法人・NPO法人など様々な形態が対象になります。

一から法人を設立する場合のコストを確認します。

合同会社(LLC)の場合

合同会社の設立に必要な登録免許税は、資本金の1,000分の7(最低6万円)です(商業登記法に定める登録免許税。資本金が857万円未満の場合は6万円が最低額になります)。株式会社と異なり定款認証が不要なため、費用を抑えやすい形態です。

  • 登録免許税:6万円〜
  • 定款の印紙税:2,000円(電子定款の場合は不要)
  • 印鑑証明書・登記簿謄本の取得費用:数千円程度
  • 司法書士への依頼費用(依頼する場合):3〜8万円程度

自分で手続きをすれば6〜7万円程度、司法書士に依頼すれば10〜15万円程度が目安です。

株式会社の場合

株式会社の場合は、公証役場での定款認証(費用約5万円)と登録免許税(資本金の1,000分の7・最低15万円)がかかります。

  • 定款認証費用:約5万円(電子定款の場合は約3万円)
  • 登録免許税:15万円〜
  • 印鑑証明書・登記簿謄本の取得費用:数千円程度
  • 司法書士への依頼費用(依頼する場合):5〜15万円程度

自分で手続きをすれば20〜25万円程度、司法書士に依頼すれば25〜40万円程度が目安です。

どちらの形態を選ぶかは、資本金の規模・将来の資金調達の予定・事業の形態によって変わります。1人または少人数で運営する事業所では、費用が少ない合同会社が選ばれることが多くなっています。ただし、将来的に事業を拡大して外部から出資を受けることを検討している場合は、株式会社の形態が適している場合があります。

出典:商業登記法(登録免許税法別表第一)。費用の目安は公的機関の手数料に基づくもので、司法書士への報酬は事務所によって異なります。

省令が定める設備基準は、事務室・相談室・書庫の3つ

居宅介護支援事業所の設備基準は「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第38号第4条)に定められています。

必要な設備は次のとおりです。

  1. 専用の事務室:事業の運営を行うために必要な広さを有すること
  2. 相談室:相談の内容が漏えいしないよう配慮されたもの(プライバシーを確保できること)
  3. 鍵のかかる書庫:必要な書類・利用者の情報を安全に保管できること

通所介護のように「1人あたり3m²以上」という具体的な面積基準は定められていません。この点が通所介護との大きな違いの一つです。専用の事務スペースと相談スペースが確保できれば、小さな事務所でも対応できます。

ただし、「専用」の要件があるため、自宅の一角を使う場合は生活空間と明確に区分されていることが求められます。自宅兼事務所が可能かどうか、具体的な要件については、申請先の自治体(都道府県または市区町村の介護保険担当課)に事前に確認することをお勧めします。

相談室について「プライバシーを確保できること」という要件があるため、他のデスクから見えない位置に間仕切りを設けるか、個室を用意する必要があります。既存のオフィスをそのまま使える場合は改装費用がほぼ発生しませんが、間仕切り工事が必要な場合は10〜30万円程度を見込んでおきます。

出典:指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)第4条。

事務所の賃貸費用は立地と規模で変わる

居宅介護支援の事務所は、通所介護のような広い空間は必要ありません。ケアマネが座るデスクと相談スペース、書庫が置ければよいため、10〜20坪(33〜66m²)程度の小さな事務所でも対応できます。

事務所を新たに借りる場合の初期費用の目安は次のとおりです。

事務所の賃貸に関する初期費用の目安
費用項目 目安 備考
敷金 家賃の1〜3か月分 退去時に原状回復費用を差し引いて返還されます
礼金 0〜2か月分 物件によって不要の場合もあります
仲介手数料 家賃の0.5〜1か月分 不動産会社への報酬
最初の月の前払い家賃 家賃1か月分 —

月額家賃10万円の事務所を借りる場合、初期費用は合計30〜60万円程度になります。地方都市では月額5〜8万円程度で借りられる物件もあります。

既存の法人(例:訪問介護事業所・通所介護事業所)に居宅介護支援を付加する場合は、建物の一部を転用できることがあります。その場合は新たな事務所費用が大幅に減ります。

備品・介護支援ソフトの費用は20〜50万円程度

開業時に必要な備品の費用も確認しておきます。

居宅介護支援事業所の主な備品費用の目安
品目 目安金額 備考
パソコン 10〜20万円程度 ケアマネ1人あたり1台が基本です
プリンター・複合機 3〜10万円程度 利用者への書類印刷・FAX送受信に使います
鍵付き書庫 3〜8万円程度 省令で求められる設備です。既存のものを使える場合は不要です
介護支援ソフト(居宅系請求ソフト) 月額1〜3万円程度 国保連への請求に必要です。クラウド型は初期費用不要のものが多くなっています
デスク・椅子・棚 5〜10万円程度 —
電話・FAX 3〜5万円程度 —

介護支援ソフト(ケアマネジメントシステム・居宅介護支援専用の請求ソフト)は、国保連への介護報酬の請求に必須です。クラウド型が増えており、初期費用がかからず月額費用のみというサービスも多くなっています。開業前に複数のサービスを比較することをお勧めします。

また、利用者宅への訪問に必要な交通手段(車・自転車など)のコストも見込んでおきます。移動手段によって月次費用が変わります。

翌々月入金で最初の2か月は収入がゼロになる

居宅介護支援の介護報酬の入金スケジュールは、他の介護サービスと同じく提供した月の翌々月になります。

具体的な流れは次のとおりです。

  1. サービスを提供(例:4月)
  2. 翌月(5月)10日までに国民健康保険団体連合会(国保連)へ請求書を提出する
  3. 翌々月(6月)20日頃に入金される

4月1日に開業した場合、4月のサービス提供分が入金されるのは6月20日頃です。5月末の時点では、まだ収入はゼロです。

この期間も、ケアマネの人件費・事務所家賃・光熱費・介護支援ソフトの利用料などの支出は発生します。この2か月間を乗り越えるための資金が、最低限必要な運転資金です。

さらに、開業直後は担当件数が少なく、赤字が続く期間が数か月続くことが一般的です。担当件数が増えて損益分岐点を超えるまでの期間も含めて、3〜6か月分の運転資金を準備しておくことが望ましいです。

運転資金は月次費用の3か月分を目安に積み上げる

運転資金として最低どのくらい必要かを、ケアマネ1人(管理者兼任)で出発する場合を例に試算します。

居宅介護支援事業所の月次費用の目安(ケアマネ1人・管理者兼任の場合)
費用項目 月額目安
人件費(管理者兼介護支援専門員) 25〜35万円程度
事務所家賃 8〜15万円程度
介護支援ソフト 1〜3万円程度
光熱費・通信費 1〜2万円程度
訪問のための交通費 1〜3万円程度
その他(消耗品・保険など) 1〜2万円程度
合計目安 37〜60万円程度

当方が設定したシミュレーターの初期値をもとにした参考値です。人件費の水準は雇用形態・給与設定によって異なります。

月40〜50万円の費用がかかるとすると、3か月分の運転資金は120〜150万円程度になります。6か月分だと240〜300万円程度が目安です。

翌々月入金の構造と、開業後しばらくは担当件数が少ない期間が続くことを考えると、少なくとも3か月分、余裕を見て6か月分の運転資金を確保した状態で開業することが望ましいです。

担当件数と逓減制で収入の見通しを立てる

運転資金の期間を判断するには、収入の見通しを立てることが必要です。居宅介護支援の収入は、担当する利用者数と要介護度によって決まります。

基本報酬(令和8年6月適用・告示第125号)の主要な区分は次のとおりです。

居宅介護支援費の基本報酬(令和8年6月〜・主要区分)
逓減制の区分 要介護1・2 要介護3〜5
費(Ⅰ):44件以下 1,086単位 1,411単位
費(Ⅱ):45〜59件(超過分) 544単位 704単位
費(Ⅲ):60件以上(超過分) 326単位 422単位

出典:指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準(告示第125号)。令和8年6月以降の改定後の単価です。45件以上の件数は「超過分」のみ低単価の逓減制が適用されます。

要介護3〜5の利用者を中心に20件担当し、地域単価が10.00円(その他地域)の場合、1か月の収入の目安は次のとおりです。

20件 × 1,411単位 × 10.00円 = 282,200円(約28万円)

月40万円前後の支出(人件費込み)に対して、開業当初は担当件数が少ないため赤字になります。損益分岐点(費用と収入が均衡する担当件数)は、事業所の費用構造によって変わります。当サイトのシミュレーターでは、担当件数・要介護度の構成・費用の各項目を入力して試算できます。

日本政策金融公庫の融資を開業資金に活用できる

開業資金の調達手段として、日本政策金融公庫(以下「公庫」)の融資があります。介護事業は福祉・医療分野の事業として、公庫の融資対象事業です。

公庫の融資の概要(制度は変更されることがあります):

  • 新規開業資金:新たに事業を始める方が利用できる融資制度です
  • 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
  • 担保・保証人:原則不要の制度もあります(融資額・事業内容によって異なります)
  • 金利:融資条件によって異なります。公庫のウェブサイトで最新情報を確認してください

融資を申請する際には、事業計画書(創業計画書)の提出が必要です。収支の見通しを数字で示す際に、シミュレーターの試算結果が参考になります。また、自己資金の状況が審査で確認されます。事前に公庫の相談窓口で手続きの流れを確認することをお勧めします。

出典:日本政策金融公庫ウェブサイト。制度の内容・金利・要件は変更されることがあります。最新情報は公庫のウェブサイトでご確認ください。

指定申請は開業予定の2〜3か月前から準備する

居宅介護支援事業所として指定を受けるには、都道府県(または市区町村)への指定申請が必要です。申請書類の準備・提出から指定まで、通常1〜2か月程度かかります。開業予定日の2〜3か月前には準備を始めることをお勧めします。

指定申請に必要な主な書類(自治体によって異なります):

  • 指定申請書(別紙含む)
  • 法人の定款(謄本)・登記事項証明書
  • 管理者・介護支援専門員の資格証の写し
  • 従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
  • 事業所の平面図
  • 損害賠償保険の加入を証する書類
  • 運営規程
  • その他(自治体によって追加書類が求められることがあります)

書類の詳細は、申請先の自治体の介護保険担当課に確認してください。書類の様式は自治体ごとに用意されていることが多いため、事前に窓口で入手するか、自治体のウェブサイトでダウンロードします。

法人設立から指定取得・開業まで、順番に手続きが必要です。スケジュールを逆算して、いつまでに法人設立を完了させるかを計画しておきます。

まとめ:開業資金の準備で特に重要な2点

居宅介護支援事業所の開業資金は、初期費用(法人設立費・事務所費・備品費)と運転資金(翌々月入金の2か月間+立ち上げ期の赤字を補う期間分)の両方を準備する必要があります。

準備の際に特に確認が必要な点を2つ整理します。

1点目:翌々月入金への対応

開業後2か月間は収入がゼロの状態が続きます。人件費・家賃・ソフト費を合わせた月次費用の最低3か月分の運転資金を確保した上で開業することが重要です。余裕を持って6か月分を確保できれば、立ち上げ期の資金繰りが安定します。

2点目:担当件数が増えるまでの計画

開業直後は担当件数が少なく赤字の期間が続きます。担当件数が何件になれば収支が均衡するかを開業前に試算し、そこまでの期間を乗り越える資金と集客の計画を用意することが必要です。

シミュレーターでは担当件数・要介護度の構成・費用の各項目を変えながら損益分岐点と資金繰りを確認できます。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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