- 放デイの損益分岐稼働率は、全国平均から逆算できる。
- 全国平均の収支差率は「表の平均」と「中央値」で数字が違う。
- 損益分岐稼働率の計算方法。
- 全国平均の費用構造から損益分岐稼働率を推計する。
- 定員と時間区分の組み合わせ別の損益分岐稼働率(試算)。
- 処遇改善加算を組み込むと損益分岐稼働率は下がる。
- 学校がある日と学校休業日で収入単価が変わる。
- 稼働率の実際の計算方法。
- 新規開業の場合と既存運営の場合で損益分岐稼働率の見方が違う。
- 定員を増やすと損益分岐稼働率はどう変わるか。
- 処遇改善加算の取得区分で年間収入はどれだけ変わるか。
- 損益分岐稼働率を改善する主な手段。
- 全国平均と自事業所の比較。
- 収支シミュレーターで自事業所の数字を確認する。
放デイの損益分岐稼働率は、全国平均から逆算できる。
放課後等デイサービス(放デイ)の損益分岐となる稼働率は、定員・時間区分・地域区分によって異なりますが、全国平均の収支データを使って目安を逆算することができます。
厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査」(第26表・以下「経営実態調査」)によると、放デイ全体の収支差率の中央値は2.7%です(以下に解説)。同調査では年間収入の平均は約3,161万円、収支差額(利益に相当)の平均は収支差率5.8%に相当します。
この記事では、全国平均のデータを使って損益分岐稼働率を逆算する方法と、定員・時間区分の違いによる損益分岐点の変化を整理します。放デイの開業を検討している方と、現在運営中で収支の見直しを考えている方に向けて書いています。
全国平均の収支差率は「表の平均」と「中央値」で数字が違う。
損益分岐稼働率を理解する前に、よく混同される数字の違いを確認してください。
厚労省の経営実態調査で放デイについて公表されている主な数値は次の2つです(令和5年調査・令和4年度決算)。
| 指標 | 値 | 計算方法 |
|---|---|---|
| 収支差率の表の平均 | 9.1% | 収支差額の合計 ÷ 収入の合計(大きい事業所が平均を引き上げる金額加重) |
| 収支差率の中央値 | 2.7% | 収支差率を並べて中央の値(過半数の事業所が2.7%以下) |
9.1%と2.7%はどちらも「同じ調査の同じ年の数字」ですが、意味が全く違います。表の平均(9.1%)は収入の大きな事業所の影響を強く受けるため、小規模事業所の実態を反映しにくい側面があります。一方、中央値(2.7%)は「半分以上の事業所がこの水準かそれ以下」という実態を示しています。
開業計画や現状の収支評価に使う場合は、中央値(2.7%)を使う方が現実的な見通しになります。
出典:厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」第26表(2024年1月公表)
損益分岐稼働率の計算方法。
損益分岐稼働率とは、「収入と費用が等しくなる(利益ゼロになる)稼働率」のことです。この水準を下回ると赤字、上回ると黒字になります。
計算の手順は次のとおりです。
- 満床売上(100%稼働の収入)を計算する:基本報酬単位数 × 地域単価 × 定員 × 営業日数
- 固定費を把握する:人件費・家賃・光熱費など、稼働率に関係なく発生する費用の合計
- 変動費率を把握する:収入に比例して増える費用の割合(材料費・交通費補助など)
- 損益分岐点の収入 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
- 損益分岐稼働率 = 損益分岐点の収入 ÷ 満床売上 × 100
実際の開業計画では変動費の設定が難しいため、簡易的に「売上に占める人件費・家賃の割合(固定費率)」だけで逆算することもできます。
全国平均の費用構造から損益分岐稼働率を推計する。
同じ厚労省の経営実態調査では、費用の内訳も公表されています。放デイ全体の費用構造(令和4年度)を確認すると、収入に占める費用の割合(費用率)は次のように推計されます。
| 費用項目 | 収入比(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 人件費(給与・法定福利費等) | 65〜70% | 最大の費用・稼働率によらず概ね固定 |
| 事業費(療育材料・食費等) | 5〜8% | 利用者数に連動する変動費的な側面あり |
| 事務費(家賃・光熱費・通信費等) | 10〜15% | 家賃は固定・光熱費は半変動 |
| その他 | 3〜5% | 減価償却費・借入金利息等 |
合計すると費用率は概ね83〜98%の範囲に分布しており、差し引いた収支差率(中央値2.7%)と概ね一致します。
この費用構造を前提にすると、損益分岐稼働率は概ね80〜90%台になるケースが多いことがわかります。つまり、定員の8〜9割が利用する日が続かないと、費用を賄えない構造です。
定員と時間区分の組み合わせ別の損益分岐稼働率(試算)。
以下は、典型的な費用構造を仮定した場合の損益分岐稼働率の試算例です。条件は次のとおりです。
- 地域区分:その他(地域単価10.00円)
- 年間営業日数:260日(学校がある日は時間区分1〜2・学校休業日は時間区分3を想定)
- 固定費率(人件費+家賃など):85%(費用の大半が固定費の小規模事業所の想定)
- 月の人件費:定員10人の場合300万円・定員5人の場合160万円の概算
| 定員 | 時間区分 | 1日1人あたり単価 | 100%稼働の年間収入(目安) | 損益分岐稼働率(目安) |
|---|---|---|---|---|
| 10人 | 区分2(609単位) | 6,090円 | 約1,583万円 | 約85% |
| 10人 | 区分3(666単位)※学休日のみ | 6,660円 | 定員×学休日のみ | 区分2と組み合わせて計算 |
| 5人 | 区分2(609単位) | 6,090円 | 約792万円 | 約88〜90% |
定員が少ないほど固定費の割合が収入に占める比率が高くなるため、損益分岐稼働率は高くなります。定員5人の小規模事業所では、損益分岐稼働率が90%近くになる試算もあります。
※上記は費用構造の仮定(固定費率85%)による試算であり、実際の損益分岐稼働率は事業所の所在地・人件費水準・家賃・処遇改善加算の取得状況によって異なります。
処遇改善加算を組み込むと損益分岐稼働率は下がる。
放デイの収入には、基本報酬の他に各種加算があります。中でも処遇改善加算は、基本報酬の合計に一定の割合を乗じて給付されるため、稼働率が上がるほど加算額も増える仕組みです。
令和6年度改定後の福祉・介護職員等処遇改善加算(放デイ・I)は、加算率15.2%です(出典:こども家庭庁告示・令和6年3月29日)。稼働率100%の基本報酬に処遇改善加算を加えた場合、全体の収入は基本報酬の約1.15倍になります。
加算が増えることで「分母(損益分岐点の収入)」は変わりませんが「分子(満床売上)」が増えるため、損益分岐稼働率は下がります。処遇改善加算IIIまでしか取得していない事業所と、加算Iを取得している事業所では、損益分岐稼働率に5〜8ポイント程度の差が生まれることがあります。
学校がある日と学校休業日で収入単価が変わる。
令和6年度の改定で、放デイの基本報酬は時間区分制に変更されました。この変更で特に注意が必要なのは、時間区分3(666単位・3時間超5時間以下)は学校休業日のみ算定できるという点です。
学校がある日(平日の放課後)は、児童が学校を終えてから来所するため、サービス提供時間が3時間以下になることがほとんどです。したがって、平日は時間区分1(574単位)または時間区分2(609単位)が中心となり、休日・長期休暇に時間区分3(666単位)が算定できます。
年間の収入は「学校がある日の収入 + 学校休業日の収入」で構成されます。例として、年間260日のうち学校がある日を195日・学校休業日を65日と仮定すると、
- 学校がある日(195日):時間区分2(609単位)× 10人 × 10.00円 × 195日 ≒ 1,188万円
- 学校休業日(65日):時間区分3(666単位)× 10人 × 10.00円 × 65日 ≒ 433万円
- 合計(100%稼働・加算なし)≒ 1,621万円
この収入から費用を引いて損益分岐稼働率を計算します。学校がある日と休業日では単価が異なるため、それぞれ別々に稼働率を設定して計算するのがより正確です。
稼働率の実際の計算方法。
稼働率は次の式で計算します。
稼働率 = 延べ利用人数 ÷(定員 × 営業日数)× 100
例えば定員10人の事業所が月20日営業し、延べ150人が利用した場合:
150 ÷(10 × 20)× 100 = 75%
現場での感覚として、「いつも何人が来ているか」を平均した数字が「定員に対して何%か」を稼働率と捉えると理解しやすいです。定員10人の事業所で平均7〜8人が来所していれば稼働率70〜80%です。
給付費の算定は1日1人ごとに行われるため、利用日に来ない児童がいるとその日の収入がそのまま欠損します。欠席(特に無断・急な欠席)が多い日は稼働率が下がり、直接的に収入に影響します。
新規開業の場合と既存運営の場合で損益分岐稼働率の見方が違う。
損益分岐稼働率は、新規開業の場合と既存事業所の運営改善の場合で、使い方が異なります。
新規開業の場合
開業前には実際の稼働率が分からないため、損益分岐稼働率は「この水準を下回ると資金が底をつく」リスク管理の指標として使います。開業計画の段階では、
- 損益分岐稼働率が90%を超える場合:開業初月から満床に近い稼働が求められており、現実的でないリスクがある
- 損益分岐稼働率が75〜85%の場合:ある程度の余裕がある計画だが、資金繰りの見通しを月次で確認する
- 損益分岐稼働率が70%以下の場合:費用構造が比較的軽く、黒字化しやすい計画
新規開業後しばらくは契約児童数が徐々に増える時期があるため、損益分岐稼働率が低めに計画できるほど、立ち上がりの資金繰りが安定します。
放デイの場合、開業直後は定員10人に対して3〜4人からスタートする事業所が多く、安定稼働(稼働率80%前後)まで半年〜1年かかることが一般的です。この期間の運転資金を確保しておく必要があります。
既存運営の場合
既存事業所では実際の稼働率と費用が把握できるため、損益分岐稼働率を使って「現状の稼働率がどの程度黒字・赤字寄りか」を数値で確認できます。
例えば現在の稼働率が65%で損益分岐稼働率が80%であれば、稼働率を15ポイント上げることが黒字化の条件です。この場合に検討することは、「稼働率を上げるか」「費用を下げて損益分岐稼働率を下げるか」の2択になります。
定員を増やすと損益分岐稼働率はどう変わるか。
定員を増やすと収入の最大値(満床売上)は増えますが、同時に人員基準を満たすために人件費も増えます。このバランスによって損益分岐稼働率が上がるか下がるかが変わります。
放デイの人員基準(令和6年度基準)は、児童指導員または保育士の配置数について「障害児の数10人ごとに1人以上」(利用時間に応じた換算)が基本となっています。定員を10人から20人に増やす場合、サービス提供時間中に同時にいる児童が増えるため、職員の追加配置が必要になります。
一般的な傾向として、小規模(定員5〜10人)から中規模(定員11〜20人)に定員を増やす際は、
- 人件費の増加分が新たな収入の増加分より少ない場合:損益分岐稼働率が下がる(規模の経済が働く)
- 人件費の増加分が新たな収入の増加分より多い場合:損益分岐稼働率が上がる(採算が悪化する)
定員を増やす判断は、既存の稼働率が安定して高い(損益分岐稼働率を余裕をもって超えている)状態で行うのが基本です。稼働率が低い状態で定員を増やすと、新しい利用者が集まるまでの期間に固定費だけが増えて収支が悪化します。
処遇改善加算の取得区分で年間収入はどれだけ変わるか。
処遇改善加算は基本報酬の合計に加算率を乗じて算定されます。加算の取得区分によって収入に占める割合が変わるため、損益分岐稼働率にも影響します。
令和6年度の放デイの処遇改善加算率(出典:こども家庭庁告示・令和6年3月29日)は次のとおりです。
| 加算区分 | 加算率 | 100%稼働時の年間加算収入の目安(定員10人・その他地域・区分2中心) |
|---|---|---|
| 福祉・介護職員等処遇改善加算 I | 15.2% | 約241万円(1,583万円 × 15.2%) |
| 福祉・介護職員等処遇改善加算 II | 15.8% | 約250万円 |
| 福祉・介護職員等処遇改善加算 III | 14.9% | 約236万円 |
| 福祉・介護職員等処遇改善加算 IV | 15.5% | 約245万円 |
| 福祉・介護職員等処遇改善加算 V① | 13.9% | 約220万円 |
| 福祉・介護職員等処遇改善加算 V② | 11.7% | 約185万円 |
※上記の収入は処遇改善加算分のみの試算です。加算収入は原則として職員の賃金改善に充てることが義務づけられており、そのまま事業所の利益になるわけではありません。ただし、加算を取得することで基本報酬分の費用(給与)を相対的に加算で賄える部分が生まれ、損益分岐稼働率が改善する効果があります。
上位区分(加算I・II)を取得するためには、職員の資格・経験年数・各種取り組みの要件を満たす必要があります。開業計画の段階から、将来的に加算I・IIを取得できる人員構成を目指しておくことが安定経営につながります。
損益分岐稼働率を改善する主な手段。
損益分岐稼働率が高すぎる場合、主に次の3つの方向で改善を検討します。
収入を増やす方向
- 処遇改善加算の上位区分(加算I・II)を取得する
- 療育の専門性を高めて高単価の加算(専門的支援体制加算・特別支援加算など)を取得する
- 定員を増やす(増員に伴うコスト増との比較が必要)
- 学校休業日に時間区分3を安定して算定できる体制を整える
固定費を下げる方向
- 立地・物件の選定(家賃の比較)
- 運営基準を満たした上での人員配置の効率化
- 電気・ガスの契約見直し
稼働率そのものを上げる方向
- 定員枠に対して契約児童数を多めに確保しておく(一定の欠席を想定した契約数の管理)
- 欠席が出た日の代替利用の受け入れ体制
- 保護者との連絡体制の強化による急な欠席の減少
現実的には、収入を増やす方向(加算取得)と稼働率を上げる方向の両方を組み合わせることが多いです。
全国平均と自事業所の比較。
全国平均の中央値(収支差率2.7%)は「半分以上の事業所がこの水準以下で運営している」ことを示しています。黒字が確認できる場合でも、2.7%は十分とは言えない水準であり、突発的な修繕費や職員の急な離職などで簡単に赤字に転じるリスクがあります。
目安として、安定経営のためには収支差率5〜10%(費用を賄った上で5〜10%が手元に残る)の水準を目指すことが一般的に推奨されます。これを稼働率に換算すると、定員10人・その他地域・時間区分2中心の場合で稼働率88〜92%程度が目安になります。修繕費や職員離職時の採用費など突発的な支出に備えるためにも、損益分岐稼働率より5〜10ポイント上の稼働率を安定的に維持することが重要です。
ただし、この数字はあくまで一般的な費用構造を仮定した試算です。自事業所の実際の費用を把握した上で計算することが不可欠です。
収支シミュレーターで自事業所の数字を確認する。
この記事で紹介した損益分岐稼働率の考え方を、自分の数字に当てはめて計算したい方は、放課後等デイサービスの収支シミュレーターをご利用ください。
定員・地域区分・人員配置・加算の取得状況などを入力して、年間収入と損益分岐稼働率の目安を試算できます。


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