飲食店オーナーの給与はどこから出るか。個人事業の事業所得から税金・返済・生活費を逆算する。

飲食店オーナーの給与はどこから出るか。個人事業の事業所得から税金・返済・生活費を逆算する。 飲食店の開業

飲食店を個人事業として開業した場合、オーナー(事業主)本人の給与という概念はありません。事業で稼いだ利益(事業所得)から税金・借入返済・生活費をすべて賄う形になります。公庫の記入例(洋風居酒屋・軌道後)では月次の利益が約47万円で、そこから元金返済5.8万円・利息・所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金を差し引いた残りが実際に手元に残る金額です。法人の場合は事業主が役員報酬として給与を設定でき、経費として算入できます。

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個人事業の飲食店では、事業主に「給与」は発生しない

個人事業主(個人経営の飲食店オーナー)は、スタッフへの給与とは異なり、自分自身への「給与」を経費にすることができません。事業で得た売上から経費を差し引いた「事業所得」が丸ごと個人の収入になり、そこから生活費を支出します。

会社員が「給与→生活費を引いたら手取り」という流れなのに対し、個人事業主は「事業所得→税金・社会保険・返済を引いたら使える金額」という構造です。事業所得がそのまま所得税・住民税の課税対象になるため、利益が増えるほど税負担も増えます。

立場 給与の有無 社会保険 税金の扱い
個人事業主(飲食店オーナー) なし(事業所得から生活費を出す) 国民健康保険・国民年金(全額自己負担) 事業所得全額が所得税・住民税の対象
法人の役員(同一人物が設立) あり(役員報酬として経費算入可) 健康保険・厚生年金(会社と折半) 役員報酬に対して所得税・住民税が課税
従業員(個人事業・法人ともに) あり(給与として経費算入) 法人は強制加入・個人5人以上は強制加入 給与に対して所得税・住民税が課税

公庫の記入例で「軌道後の手取り」を試算する

公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋・軌道後)をもとに、事業主の実際の手取り(生活費として使える金額)を試算します。

記入例の軌道後の月次損益(概算):

項目 月次金額(万円) 年間金額(万円)
月商 322.0 3,864
原価(35%) -112.7 -1,352
人件費(スタッフ) -88.6 -1,063
家賃 -20.0 -240
水道光熱費 -15.0 -180
その他経費 -42.5 -510
借入元金返済 -5.8 -69.6
事業所得(税引前・返済前の利益) 約47.4 約568.8

上記の事業所得から、さらに以下の支出があります。

支出項目 月次の目安 備考
所得税 年間事業所得×税率÷12(概算) 年間568.8万円の事業所得では税率20%前後(青色特別控除65万円控除後)
住民税 事業所得×約10%÷12 翌年6月から翌々年5月に課税
国民健康保険料 月額2〜5万円程度(所得・自治体による) 前年の所得をもとに翌年6月に決定
国民年金保険料 約1.7万円(2024年度・定額) 月額定額
生活費 家庭の事情による(20〜40万円が一般的) 事業所得から支出

記入例の軌道後の事業所得568.8万円(年間)の場合、所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金を合計すると年間150〜200万円以上(自治体・世帯構成によって大きく異なる)になる場合があります。残りの370〜420万円(月額31〜35万円)が生活費・貯蓄に使える金額の目安になります。ただしこれは「軌道後(月商322万円を安定して達成している状態)」の数字で、立ち上がり期は大幅に少なくなります。

立ち上がり期(月商248万円・77%水準)の手元資金

開業直後の立ち上がり期(月商が計画の77%、約248万円)では、月次の事業利益が大幅に減ります。

月商の水準 概算の月次事業所得 返済・税・社会保険後の実質手取り(概算)
322万円(軌道後) 約47万円 約25〜35万円
248万円(立ち上がり77%) 約0〜5万円(ほぼゼロ) 生活費の確保が困難
200万円(70%水準) 赤字(−約29万円) 開業前の手元資金から補填が必要

立ち上がり期に生活費の確保が難しくなるため、公庫への融資申請書類では「開業後の生活費の確保方法」として、開業前の自己資金・配偶者の収入・副業収入などを明示することが求められるケースがあります。

法人化すると役員報酬を先に決めて経費にできる

法人として開業すると(株式会社・合同会社等)、代表者の報酬を「役員報酬」として毎月定額で設定でき、経費として算入できます。法人の利益(税引前)から役員報酬を先に引いた残りが法人税の課税対象になります。

個人事業と法人の最大の違いは、法人では役員報酬を「給与」として扱えるため、所得の分散と節税が設計しやすい点です。ただし、役員報酬は事業年度開始から3か月以内に決定し、原則として年度内に変更できません(業績連動給与等の例外あり)。

個人事業と法人の収支の違いについては、飲食店の開業は個人事業と法人、どちらで始めるかで詳しく説明しています。

公庫の融資審査での「事業主の生活費」の扱い

公庫の創業計画書には「事業の見通し」の欄に利益額を記入しますが、個人事業の場合、この利益から事業主が生活費を出す前提で審査が行われます。審査では「利益が生活費を賄えるか」も確認される場合があります。

公庫の記入例では、軌道後の利益(税引後)から返済と生活費を引いた「残高」が試算されています。生活費の目安として、公庫の書類では「世帯の生活費」として月額20〜30万円程度を記入しているケースが多いとされています(ご自身の家庭の実態に合わせて記入してください)。

月次の資金繰り・手元資金の推移は飲食店の開業 収支シミュレーターで試算できます。

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本記事の数値は公庫の創業計画書記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)をもとに計算したものです。税金・社会保険料は所得水準・家族構成・自治体によって異なります。正確な税務・社会保険の手続きは、所管の税務署・年金事務所・税理士に確認してください。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年11月確認。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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