一人親方の消費税分の値上げは、数字を1枚にして、そのまま頼む。元請との交渉の順番と国のQ&A

一人親方の消費税分の値上げは、数字を1枚にして、そのまま頼む。元請との交渉の順番と国のQ&A 一人親方・個人事業主のインボイス

インボイスに登録して消費税を納めるようになった一人親方は、その消費税分を取引価格に乗せてほしいと、元請に頼んでかまいません。国のQ&Aも、課税事業者になった取引先の消費税分を、話し合いもせずに据え置くことは問題になるおそれがある、としています。頼み方は、遠回しにせず、事実と数字を1枚にまとめて、話し合いの時間をもらうことです。この記事では、国の資料の原文と、営業を20年続けてきた私の経験から、その順番を書きます。

先に、この記事を書いている私のことを少しだけ書きます。私は建設業の人間ではありません。営業を20年続けてきて、今は上場企業で営業の管理職として部下も持っています。取引先に条件の変更をお願いしたことも、部下に言いにくいことを伝えたこともあります。税金の計算そのものは、国税庁の資料のとおりです。この記事で私が足せるのは「どう切り出すか」のほうです。

消費税分の上乗せは、国のQ&Aが「相当」と書いている話です

値上げの話を切り出しにくい理由の1つは、「自分のわがままを言っているのではないか」という気持ちです。ここは、国の資料を先に見ておくと気持ちが楽になります。財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の5つの役所が連名で出しているQ&A(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)には、次のように書かれています。

「これまで消費税相当分を上乗せしていなかった免税事業者が課税事業者に転換した場合は、消費税の仕組み上、発注側が支払う取引価格には新たに消費税相当額を上乗せすることが相当であると考えられます。」

(出典:財務省ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q6の注)

さらに、同じQ&Aには、話し合いをしないまま金額を据え置くことについて、次の注意があります。

「免税事業者であった仕入先が課税事業者に転換した場合、新たに納税が必要となる消費税分について、①仕入先と明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は取適法上の買いたたきとして、②仕入先から協議の要請があった場合に、当該協議に応じず一方的に取引価格を据え置くことは、取適法上の協議に応じない一方的な代金決定として、それぞれ問題となるおそれがあることに留意が必要です。」

(出典:同Q&A Q5)

そして、発注する側に向けて、こう書いています。

「仕入先は、新たに納税が必要となる消費税分の値上げが本来必要な場合であっても、取引関係上、価格交渉を申し出ることが難しいことも考えられますので、こうした場合も念頭に、インボイス制度を踏まえて課税転換した事業者に対しては、発注側から価格交渉を申し出ることを積極的にご検討ください。」

(出典:同Q&A Q5)

国は、受注する側からは言い出しにくいことを分かったうえで、発注する側から話を持ちかけるよう求めています。元請から話が来ないなら、こちらから切り出せばいいのです。わがままではなく、国の資料が前提にしている話し合いです。

建設工事の請負には、取適法ではなく建設業法が当てはまります

上の引用に出てくる「取適法」は、Q&Aの中で「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」のこととされています。ただし、建設工事の請負は、この法律の対象ではありません。同じQ&Aに、はっきり書かれています。

「建設業を営む者が業として請け負う建設工事の請負契約におけるものについては、取適法ではなく、建設業法が適用されます」

(出典:同Q&A Q7)

建設業法には、元請が立場を利用して、原価に満たない金額で下請に出すことを禁じる条文があります。

「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。」

(出典:建設業法 第19条の3第1項)

Q&Aは、元請(Q&Aの言葉では「建設工事の下請契約における注文者で建設業者であるもの」)が、合意しないまま下請代金を一方的に減らし、その結果、原価に満たない金額になる場合は、この条文に違反する行為として問題になる、と説明しています。

ここで大事なのは、「法律があるから払え」と言うための知識ではない、ということです。自分のお願いが筋の通った話だと分かっていれば、落ち着いて頼めます。知識は、自分の足元を固めるために持っておくものです。

頼む金額は、「自分が納める消費税」から数字にします

話し合いの前に、1年でいくら納めることになるのかを数字にしておきます。例として、ある元請との1年間の取引が330万円(これまで、この金額をそのまま受け取ってきた)の一人親方で計算します。消費税にあたる額は、330万円×10/110で30万円です。

いつの分か 計算のしかた 1年で納める消費税(試算) 1か月あたり
2026年分 2割特例(30万円×20%) 60,000円 5,000円
2027年分・2028年分 3割特例(30万円×30%) 90,000円 7,500円
2029年分から 簡易課税・第3種(30万円×30%) 90,000円 7,500円
2029年分から 簡易課税・第4種(30万円×40%) 120,000円 10,000円

表は、金額を据え置いたままだと、これだけ手取りが減るという数字です。第4種は、材料を元請から支給されて加工する仕事などが当たることがあります。3割特例の条件や区分の違いは、一人親方の3割特例とは。2割特例が終わる2027年から、消費税はいくら増えるかで詳しく書きました。

お願いの幅は、2つ考えられます。

  • 本来の形:これまで受け取っていた330万円を本体の金額として、その10%を消費税として乗せてもらう形です。1年で33万円、1か月で2万7,500円の上乗せになります。上のQ&Aが「相当」と書いているのは、この考え方です。
  • 少なくとも納める分:実際に納める消費税(2027・2028年分なら1年で9万円、1か月で7,500円)を、取引価格に反映してもらう形です。

どちらで話すかは、あなたと元請の関係や、これまでの金額の決め方で変わります。大事なのは、「少し上げてほしい」ではなく、「1年で9万円、月にすると7,500円、手取りが減ります」と数字で言えるようにしておくことです。数字があると、相手も社内で説明しやすくなります。

取引している元請が複数ある人は、元請ごとに数字を分けて出してください。A社との取引が1年で330万円、B社が220万円なら、A社には「御社の分で1年に9万円」、B社には「御社の分で1年に6万円」(2027・2028年分の3割特例で計算)と伝えます。自分の売上全体で納める額をそのまま見せると、相手は「うちの分はいくらなのか」が分からず、話が進みにくくなります。相手に関係のある数字だけを見せるのが、話を早くするコツです。

元請が取引を続けているのは、あなたの仕事が必要だからです

ここからは、私の営業の経験です。私も、取引先に条件の変更をお願いしたことがあります。そのとき、相手は受け入れてくださいました。振り返ると、理由は単純でした。相手は、こちらの商品が必要だと思っているから取引をしてくれていたのです。

一人親方と元請の関係も、同じ形をしています。元請があなたに仕事を出し続けているのは、あなたの腕や段取りが、現場に必要だからです。消費税分の相談をしたくらいで、その必要がなくなるわけではありません。

もちろん、すべての話し合いがうまくいくとは限りません。元請にも、発注者との契約や予算の事情があります。それでも、「頼んだら切られるのではないか」と怖くなったときは、「なぜこの元請は、今まで自分に頼んできたのか」を思い出してください。値上げの話は、取引をやめる話ではなく、取引を続けるための話です。

遠回しにせず、事実と数字をそのまま伝えます

管理職として部下に言いにくいことを伝えるとき、私は遠回しにしません。そのまま、ストレートに伝えます。遠回しに言っても、結局は伝わらないからです。気をつけているのは言い方で、相手を責めたり、傷つけたりする言い方はしません。

元請への相談も同じです。よくない例と、伝わる例を並べます。

遠回しな言い方(伝わりにくい) そのままの言い方(伝わる)
「最近いろいろ厳しくて……」 「インボイスに登録して、消費税を納めることになりました」
「できれば、少しでも……」 「今の金額のままだと、御社との取引分で1年に9万円、手取りが減ります」
「なんとかなりませんかね」 「消費税分の取引価格について、一度お話しする時間をいただけませんか」

遠回しな言い方は、相手に「何を頼まれているのか」を考えさせます。考えさせた分だけ、答えが先に延びます。そのままの言い方は、相手を責めてはいません。起きた事実と、数字と、お願いを言っているだけです。ストレートであることと、失礼であることは別です。

話す順番は、お礼、事実、数字、お願い、書面の5つです

実際に話すときの順番を、5つにまとめます。

  1. お礼と「これからも続けたい」を先に言う:「いつもありがとうございます。これからもお付き合いを続けたいので、ご相談があります」。お願いの前に、関係を大事にしたいことを伝えます。
  2. 事実を言う:「インボイスに登録して、消費税を納める課税事業者になりました」。
  3. 数字を1枚で見せる:上の表のように、御社との取引分で1年にいくら、1か月にいくらかを紙にして見せます。口だけで言うより、紙のほうが相手の社内に持ち帰ってもらいやすくなります。
  4. お願いは「話し合いの時間」から:いきなり金額を決めにいかず、「一度ご相談の時間をいただけませんか」と頼みます。相手が考える時間を残します。
  5. 決まったことは書面に残す:金額と、いつの請求から変わるかを、注文書や請求書、メールなどで残してもらいます。建設業法は、請負契約の内容を変えるときは、変更の内容を書面に書き、署名か記名押印をして、お互いに交付するよう定めています(第19条第2項)。書面の代わりに電子の方法を使うには、相手の承諾など、法令で決まった条件があります(同条第3項)。メールのやりとりは、少なくとも「何が決まったか」の記録として残しておきましょう。

もう1つ、営業で私が気をつけていることがあります。相手に「今は忙しい」と言われたとき、それが本当に忙しいのか、断りの言葉なのかは、その場では見分けがつきません。だから私は、部下に「勝手に断られたと決めつけるな」と伝えています。一方で、断られているのに押し続けると、相手を怒らせてしまいます。そういうときは、その場で粘らず、「では、来週のどこかで10分いただけますか」と、日を改めて時間をもらいます。元請の担当者が現場で手いっぱいのときも、同じやり方が使えます。

国の資料は、最初に突きつけず、手元に持っておきます

先ほどのQ&Aや建設業法の条文は、相談の最初に見せるものではありません。最初から「国がこう言っています」と出すと、相手は責められていると感じて身構えます。

まずは、事実と数字とお願いを伝えます。そのうえで、相手から「そういうものなのか」と聞かれたときや、話が進まないときに、「国のQ&Aには、こういう考え方が書いてありました」と添えるくらいがちょうどいいと、私は考えています。資料は、相手を追い詰める道具ではなく、自分のお願いが筋の通ったものだと自分で確かめるためのものです。

それでも話し合いに応じてもらえない、一方的に金額を下げられた、というときは、1人で抱え込まないでください。Q&Aの別紙には相談窓口がまとめてあり、建設業法については国土交通省 不動産・建設経済局 建設業課 建設業適正取引推進指導室(電話 03-5253-8362)が載っています。独占禁止法の優越的地位の濫用については、公正取引委員会の窓口が載っています。

免税のままの人は、値下げを言われたときの話し合いになります

インボイスに登録せず、免税事業者のままでいる人は、向きが逆になります。元請から「控除できない分を下げてほしい」と言われる側です。Q&A(Q7)は、双方が納得して決めた結果として金額が下がることは問題にならない一方で、話し合いが形だけで、元請の都合だけで、免税事業者が仕入れのときに払った消費税も払えないような金額を決めることは問題になる、としています。

免税事業者でも、材料や道具、ガソリンを買うときには消費税を払っています。値下げの話が来たら、その分を数字にして伝えてください。この場合も、遠回しにせず、事実と数字で話すという順番は同じです。

よくある質問

一人親方から値上げの話を切り出すこと自体は、問題になりません

Q&A(Q7)は、どのような条件で取引するかは、基本的に取引する当事者どうしの自主的な判断に任されている、としています。自分の取引条件について相談をお願いするのは、ふつうのことです。

元請に頼まれて登録した人には、Q7の考え方も当てはまります

Q7は、立場の強い発注側から頼まれて免税事業者が課税事業者になった場合について、消費税分を話し合いなく据え置くことは問題になるおそれがある、と書いています。「登録してほしい」と言われて登録した人は、その経緯も伝えてかまいません。

口頭で決まった値上げも、メールか書面で残します

「来月からこの金額で」と口で決まっても、後で食い違うことがあります。金額と、いつの請求から変わるかを、書面かメールで残してもらいましょう。自分から「念のため、メールでお送りしておきます」と書いて送るのでもかまいません。正式な契約の変更として整えるときは、上に書いた建設業法第19条の書面のルールも確かめてください。

税額や法律の判断で迷うときは、専門の窓口に確かめます

自分の税額や、どの方式で申告するかは税務署や税理士に、取引が法律に照らして問題かどうかは、上に書いた相談窓口に確かめてください。この記事は、国の資料と私の営業の経験をもとにした一般的な考え方です。

話し合いに持っていく1枚は、先に作っておくと楽です

話す順番が決まっていても、数字の紙がないと、話は「少し上げてほしい」で止まってしまいます。売上と元請との取引額を入れるだけで、年ごとに納める消費税と毎月の積立額の目安が出て、元請に渡す相談シート(A4・あなたの名前で出すもの)を作れるページを用意しました。試算は無料です。相談シートの作成と印刷は、買い切り980円の有料機能です。入力した数字や名前は、その端末の中だけで計算し、どこにも送りません。

▶ 一人親方のインボイス、2027年から消費税はいくら増える?(試算と元請への値上げ相談シート)

相談シートは、あなたが自分の名前で使うためのひな形です。私が元請と交渉したり、連絡を代わりにしたりすることはありません。値上げなどの結果を約束するものでもありません。

元請から先に条件変更を告げられた場合の確認の仕方は、別の記事にまとめています。
→ 元請から取引条件の変更を告げられたとき。返答の前に確認すること。建設の一人親方の場合。

この記事の数字は、国と地方を合わせた消費税10%で計算した概算です(端数処理なし)。出典:財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)Q5・Q6・Q7・別紙、e-Gov法令検索「建設業法」第19条・第19条の3、国税庁「令和8年度税制改正特集 3割特例(PDF)」(いずれも2026年9月27日確認)。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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