小規模多機能型居宅介護のハラスメント防止措置。令和6年度義務化の内容と整備方法。

小規模多機能型居宅介護のハラスメント防止措置。令和6年度義務化の内容と整備方法。 介護

小規模多機能型居宅介護を含む介護事業所には、令和6年4月から利用者・家族等からのハラスメントに対する方針の明確化と適切な対応が義務化されました。これまで曖昧になりやすかったハラスメント対応を、事業所として明文化・整備する必要があります。

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ハラスメント防止措置の義務化(令和6年4月〜)

令和6年度の介護報酬改定(令和6年4月施行)において、介護事業所に次の対応が義務付けられました。

  • 利用者・家族等からのハラスメント(身体的暴力・精神的暴力・セクシャルハラスメント等)への対応方針を事業所として明確化すること
  • ハラスメントへの対応方針を職員に周知すること
  • ハラスメントが発生した場合の対応手順を定めておくこと

これは訓示的な努力義務ではなく、基準省令(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準)に明記された義務です。実地指導での確認対象になります。

ハラスメントの種類

介護現場でのハラスメントには、大きく3種類があります。

介護現場のハラスメントの種類
種類 内容の例
身体的暴力 職員への殴る・蹴る・つねる・叩く・物を投げる等の身体的な攻撃
精神的暴力(ハラスメント) 暴言・怒鳴る・脅す・侮辱・過度の要求や苦情を繰り返す・他の職員への悪口を吹き込む等
セクシャルハラスメント 性的な発言・身体への接触・のぞき等の性的な言動

ハラスメントは利用者本人だけでなく、家族・面会者から発生することもあります。また、認知症による行動の場合と、意図的なハラスメントでは対応が異なります。

ハラスメント対応方針の整備

事業所として整備すべきハラスメント対応方針の内容として、次の事項を盛り込みます。

  1. ハラスメントを許容しないという基本方針の明示:利用者・家族への重要事項説明書にも「ハラスメントへの対応方針」として記載する
  2. ハラスメントの定義の明確化:事業所として「何がハラスメントか」を定義し、職員が判断できるようにする
  3. 発生時の対応手順:①発生した場合の職員の初期対応(その場でどう対処するか)→②管理者への報告→③管理者・法人としての対応(利用者・家族との話し合い・場合によっては契約解除の検討)
  4. 職員のフォロー体制:ハラスメントを受けた職員への精神的サポート・職場全体での情報共有と再発防止

重要事項説明書への記載

令和6年度の改定によって、重要事項説明書にハラスメントへの対応方針を記載することが義務付けられました。重要事項説明書に次の旨を盛り込みます。

  • 事業所は利用者・家族等からのハラスメントを許容しないこと
  • ハラスメントが認められた場合は、契約の解除も含めた対応を取ることがあること

利用開始時の契約・説明の段階でハラスメント対応方針を説明することで、事前の抑止効果も期待できます。

認知症による行動とハラスメントの区別

認知症の症状(BPSD)として暴言・暴力が現れる利用者への対応は、ハラスメント対応とは異なる対応が必要です。

認知症による行動とハラスメントの対応の違い
認知症によるBPSD(暴力・暴言) 意図的なハラスメント
原因の認識 病気の症状として生じる(本人に意図がない場合が多い) 意図的な言動(本人に意図がある)
対応の方向性 ケアの見直し・医師への相談・環境調整・薬物療法等の医療的対応 ハラスメント対応方針に基づく対応・場合によっては契約解除の検討
記録の重要性 ケア記録・医師への報告内容を残す 発生日時・内容・対応状況を記録として残す

どちらに当たるかは、ケースによって判断が難しいこともあります。管理者が関与して判断し、必要に応じて市区町村の担当窓口に相談することをお勧めします。

ハラスメントへの初期対応の実務

ハラスメントが発生した場合の職員の初期対応は次の点が重要です。

  • 一人で抱え込まない:暴言・暴力を受けた場合、その場の状況を落ち着かせた後すぐに管理者・上司に報告する
  • 記録を残す:発生日時・場所・行為の内容・関係者・自分の対応を記録する。後の対応・再発防止に必要
  • 安全の確保を最優先:身体的な危険がある場合は身の安全を確保してその場を離れる。利用者・職員の安全が最優先
  • 証拠の保全:ケガをした場合は医師の診断・写真等で記録しておく

契約解除の判断基準

ハラスメントが繰り返される場合、最終的には契約解除(登録解除)を検討することがあります。契約解除に向けた判断と手順は次の通りです。

  1. 管理者・法人として事実確認と記録の整理
  2. 利用者・家族への面談(問題行動の事実を伝え、改善を求める)
  3. 改善がみられない場合は契約解除の方向で話し合い
  4. 契約解除の場合は、利用者の継続的なサービス利用のために市区町村・地域包括支援センターと連携して代替サービスの調整をする

契約解除は利用者の生活に大きな影響を与えるため、安易に行うべきではありませんが、職員の安全を守るために必要な手段でもあります。

職員研修への組み込み

ハラスメント防止への取り組みは、年1回以上の職員研修に組み込むことをお勧めします。研修の内容として次の点をカバーします。

  • ハラスメントの種類・定義の確認
  • 事業所の対応方針の周知
  • 発生時の初期対応手順のシミュレーション
  • 過去の事例(匿名化)の共有と振り返り

ハラスメント防止の取り組みは、職員の安心感を高め、定着率の改善にもつながります。

法定研修キットとハラスメント研修

小規模多機能型居宅介護では、介護報酬の算定を継続するために年間を通じた職員研修の実施が求められています。ハラスメント防止は法定研修キットの研修テーマの一つとして組み込みやすい内容です。

年間の研修計画の中にハラスメント防止の研修を位置づけることで、法定研修の義務の充足と職員のスキルアップを同時に進められます。

事業所内のハラスメント(職員間)への対応

利用者・家族からのハラスメントだけでなく、職員間のハラスメント(パワーハラスメント・セクシャルハラスメント)も労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の対象です。

令和4年4月からはすべての事業主にパワハラ防止措置が義務化されています(令和2年6月から大企業に義務化、中小企業は令和4年4月から義務化)。介護事業所として対応しておく内容は次の通りです。

  • パワハラ防止方針の策定・公表
  • 相談窓口の設置(内部または外部)
  • 相談者へのプライバシーの保護
  • ハラスメントが確認された場合の厳正な対処

利用者からのハラスメント対応と職員間のハラスメント対応は別々に整備することが必要です。

ハラスメント対応方針の様式例

ハラスメント対応方針として、事業所で整備する書類の例を示します。

ハラスメント対応に必要な書類・対応の例
書類・対応 内容
ハラスメント対応方針(文書) ハラスメントを許容しないという基本方針・定義・対応手順を明文化したもの
重要事項説明書への記載 契約時に利用者・家族に説明する重要事項説明書にハラスメント対応方針を記載
ハラスメント発生記録票 発生日時・内容・対応した職員・管理者の対応・再発防止策を記録する様式
年間研修記録 ハラスメント防止研修の実施記録(実施日・参加職員・内容)

ハラスメント対応記録の管理

ハラスメントが発生した場合の記録は、後の対応・再発防止・万が一の法的対応のために重要です。記録として残すべき内容は次の通りです。

  • 発生日時・場所・発生状況の詳細
  • ハラスメントの内容(言動・行為を具体的に)
  • 被害を受けた職員の氏名・職種
  • その場での対応(職員がとった行動・利用者・家族への対応)
  • 管理者への報告日時と管理者の指示・対応
  • その後のフォローアップ(職員への心理的サポート・再発防止策の実施状況)

記録は管理者が保管し、個人情報として慎重に管理します。ハラスメントに関する記録は、最低でも3〜5年程度保管することをお勧めします。

ハラスメント防止と職員の離職防止の関係

介護職員の離職理由として「利用者・家族からの暴言・暴力」が上位に挙げられることがあります。ハラスメント対応方針が整備されていない事業所では、職員が「言われても仕方ない」「一人で耐えるしかない」と感じ、離職につながるリスクがあります。

ハラスメント対応方針を整備し、「職員を守る事業所」という姿勢を明確にすることで、次のような効果が期待できます。

  • 職員が安心して働ける環境の整備→定着率の向上
  • 採用面接でのアピールポイント(「ハラスメント対応方針があります」という説明)
  • 問題のある利用者・家族への対応に管理者がバックアップするという信頼の形成

外部機関への相談の活用

ハラスメントへの対応が難しいケース(継続的な暴力・深刻なセクシャルハラスメント等)では、外部機関への相談を活用します。

  • 市区町村の介護保険担当窓口:利用者との契約解除・代替サービスの調整について相談できる
  • 労働局・労働基準監督署:職員間のハラスメントで職員が申告した場合の対応窓口
  • 社会保険労務士(社労士):ハラスメント対応方針の整備・労務管理の整備について相談できる
  • 都道府県の介護福祉士会・事業者団体:介護現場のハラスメントへの具体的な対応事例を共有している場合がある

一人の管理者が抱え込まず、外部の専門家・機関を積極的に活用することが、事業所として持続可能なハラスメント対応につながります。

ハラスメント防止措置と集客・信頼への影響

ハラスメント対応方針が整備された事業所は、職員の安心感・定着率の面で強みを持ちます。採用活動において「ハラスメント対応マニュアルがある・職員を守る体制がある」という事実は、応募者にとって魅力的な要素です。

利用者・家族の側から見ると、「ハラスメントを許容しない方針がある事業所」という情報は、不当な扱いを受けることへの不安を軽減する効果もあります。サービスの丁寧な提供・安心感の提供として、対応方針の整備を開業時からしっかり行うことをお勧めします。

小規模多機能固有のハラスメントのリスク

小規模多機能は登録者・家族との関係が長期にわたる傾向があります。同じ事業所を長く利用することで、利用者・家族と職員の関係が密接になりやすく、それがハラスメントの発生リスクを高める場合があります。

特に訪問サービスでは職員が利用者宅に一人で訪問することが多く、閉鎖的な空間での暴言・セクシャルハラスメントが起きやすい状況があります。訪問サービスのルールとして「一人での訪問が困難な利用者宅には複数人で対応する」「訪問中の出来事をすぐに上司に報告する」等のルールを事前に整備しておくことが重要です。

開業準備中にハラスメント対応を整備するポイント

開業前の指定申請の準備と並行して、ハラスメント対応の方針を整備しておくことをお勧めします。指定申請後の実際のサービス開始前にハラスメント対応の枠組みを作っておくことで、開業後すぐに対応方針の周知・研修ができます。

開業準備中に整備する内容として次のものが挙げられます。

  • 重要事項説明書へのハラスメント対応方針の記載(開業時の契約書類に反映)
  • ハラスメント対応の手順書の作成(どこに報告・誰が対応・記録はどうするか)
  • 開業後最初の職員研修にハラスメント防止の内容を組み込む

参考・出典

  • 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
  • 令和6年度介護報酬改定の概要(厚生労働省):ハラスメント対策の強化
  • 介護現場におけるハラスメント対策マニュアル(厚生労働省)

この記事は2026年11月時点の情報に基づいています。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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