指定障害福祉サービス事業所には、省令(厚生労働省令第171号)で苦情解決の仕組みを整備することが義務付けられています。苦情受付担当者・苦情解決責任者・第三者委員の3役を設置し、利用者が安心して苦情を申し出られる体制を整えることが求められます。この記事では、設置すべき3役の役割・第三者委員の選び方・苦情対応の手順・記録の保管義務を整理します。
苦情解決体制の3役は省令で義務付けられている
就労定着支援を含む指定障害福祉サービスの事業所は、省令(第171号)に基づき、以下の3役を設置することが義務付けられています。
| 役割 | 主な担当者 | 職務内容 |
|---|---|---|
| 苦情受付担当者 | 就労定着支援員・事務担当者等 | 利用者・家族からの苦情を最初に受け付ける窓口。口頭・書面・電話いずれの苦情にも対応し、内容を記録して苦情解決責任者に報告する |
| 苦情解決責任者 | 管理者・理事長等 | 苦情の解決に最終責任を持つ者。苦情受付担当者からの報告を受け、解決策を検討・実施し、申し出者に結果を説明する |
| 第三者委員 | 外部の公平・中立な者(民生委員・社会福祉士等) | 事業所の内部だけでは解決しにくい苦情に対して、公平・中立な立場から助言・調整を行う |
苦情受付担当者・苦情解決責任者・第三者委員の氏名と連絡先は、重要事項説明書に記載して利用者に交付し、利用開始前に説明する義務があります。利用者がいつでも苦情を申し出られることを知っている状態にしておくことが必要です。
第三者委員の要件と選び方
第三者委員には「公正・独立した立場の者」が必要です。事業所が所属する法人の役員・職員は第三者委員になれません。利害関係のない外部の人材を選ぶことが原則です。
第三者委員として選ばれることが多い人材の例:
- 民生委員・児童委員
- 社会福祉士・精神保健福祉士
- 弁護士・司法書士
- 近隣の社会福祉協議会の職員
- 大学教員・研究者(社会福祉・福祉行政の専門家)
- 元行政担当者(都道府県・市区町村の福祉部門経験者)
第三者委員の選定に迷う場合は、都道府県・市区町村の社会福祉協議会に相談すると、適任者を紹介してもらえる場合があります。
複数の事業所を運営する法人の場合、1名の第三者委員が複数事業所を担当できる場合があります。ただし解釈通知・指定権者の判断によって異なるため、事前に確認することをお勧めします。
第三者委員との間では、「第三者委員委嘱状」や「委嘱契約書」を取り交わすことが実務上の基本です。委嘱期間・職務内容・報酬(有償・無償)・守秘義務等を明記しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
第三者委員の主な職務内容
第三者委員が具体的に担う役割は以下のとおりです。
- 苦情申し出の受け付け(直接受付):利用者・家族が事業所に直接申し出にくい苦情を、第三者委員に直接申し出ることができます。第三者委員への連絡先(電話番号等)を重要事項説明書に記載し、利用者に伝えておきます
- 苦情の確認・調整:苦情解決責任者が示した解決策について、申し出者との間に立って確認・調整を行います
- 苦情解決結果の確認:苦情が適切に解決されたかどうかを第三者の立場から確認します
- 年1回以上の事業所への意見・助言:解釈通知では、第三者委員が事業所の運営全般に関して年1回以上意見を述べる機会を設けることが求められています(指定権者に確認が必要)
苦情対応の手順:受付から解決まで
苦情が申し出られた場合の基本的な対応手順は以下のとおりです。
| ステップ | 担当 | 内容 |
|---|---|---|
| ①苦情受付 | 苦情受付担当者 | 口頭・書面・電話で苦情を受け付ける。内容を「苦情受付記録」に記録する |
| ②報告・確認 | 苦情受付担当者→苦情解決責任者 | 苦情の内容を苦情解決責任者に報告する。内容が深刻な場合は第三者委員にも報告する |
| ③事実確認・対応策の検討 | 苦情解決責任者 | 苦情の内容を調査・確認し、解決策を検討する。必要に応じて第三者委員の助言を求める |
| ④申し出者への説明・解決 | 苦情解決責任者 | 申し出者に解決策を説明し、了解を得る。解決の結果を記録する |
| ⑤記録・保管 | 担当者 | 対応経過・解決結果を記録し、所定の期間保管する |
苦情の深刻度によって対応の主体が変わります。「担当者の対応に不満がある」「支援内容についての意見」程度の苦情は苦情解決責任者(管理者)の判断で解決できる場合がほとんどです。事業所の運営方針や人権に関わるような重大な申し出があった場合は、第三者委員への報告・関与を求めることが重要です。
苦情記録の保管義務と実地指導での確認
苦情を受けた場合は、以下の内容を記録として残す義務があります。
| 記録項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 受付日時 | 苦情を受けた年月日・時間 |
| 申し出者 | 利用者本人・家族・代理人の別。匿名の場合はその旨 |
| 苦情の内容 | 申し出された内容をできるだけ具体的に記録する |
| 対応経過 | 誰が、いつ、どのような対応を行ったか |
| 解決結果 | どのような解決策を提示し、申し出者が了解したかどうか |
| 第三者委員への報告有無 | 第三者委員に報告・関与を求めた場合はその記録 |
苦情記録の保管期間は、原則として作成日から5年間です(自治体によって保管期間が異なる場合があります。指定権者に確認してください)。
都道府県・政令市等が行う実地指導(運営指導)では、以下の点が確認されます。
- 重要事項説明書に苦情受付担当者・苦情解決責任者・第三者委員の氏名と連絡先が記載されているか
- 第三者委員との委嘱状・契約書が保管されているか
- 苦情受付記録が保管されているか(苦情がなかった年度も「苦情なし」の記録が求められる場合がある)
- 苦情への対応が適切だったか(解決策・申し出者への説明の記録)
「苦情がゼロだったから記録がない」という状況は実地指導で問題になる場合があります。苦情がなかった年度も「苦情受付記録なし」として記録を残しておくことが実務上の基本です。
運営推進会議と苦情解決の関係
就労定着支援の省令上、運営推進会議の設置は明示的には義務付けられていません。ただし、自治体によって独自に設置を求めている場合や、法人として自主的に設置している場合があります。設置義務の有無については指定権者に確認してください。
運営推進会議を任意で設置している事業所では、会議の場で苦情の受付・対応状況・再発防止策を共有することで、苦情解決体制の透明性を高める運営を行っています。第三者委員が運営推進会議のメンバーとして参加することで、苦情解決と運営改善の両方をカバーできる場合があります。
事故発生時の対応・報告義務と苦情対応の違い
「苦情」と「事故」は別の概念であり、対応手順も異なります。
| 区分 | 苦情 | 事故 |
|---|---|---|
| 定義 | 利用者・家族が提供されたサービス内容・職員の対応等に不満を持ち、申し出ること | 支援中に利用者の身体・財産に損害が生じた事態(転倒・盗難・個人情報漏洩等) |
| 行政への報告義務 | 原則として報告義務なし(ただし深刻な人権侵害・虐待の場合は例外) | 都道府県・市区町村への事故報告が義務 |
| 記録の保管 | 苦情受付記録(5年保管) | 事故報告書・対応記録(5年保管) |
苦情として受け付けた内容が、調査の結果「虐待」や重大な権利侵害に当たると判明した場合は、障害者虐待防止法に基づく通報・報告義務が発生する場合があります。苦情の内容が深刻な場合は、法的義務の有無を確認した上で対応することが必要です。
苦情が行政指導・指定取り消しにつながるケースとして、以下のような状況があります。
- 同種の苦情が繰り返し発生しているにもかかわらず改善されない
- 苦情を握りつぶして記録に残していない
- 苦情申し出者に対して不利益な扱い(サービスの打ち切り等)をした
- 虐待に当たる行為が苦情として申し出られたのに適切に対応しなかった
苦情は事業改善の機会と捉え、真摯に対応することが、長期的な事業継続と信頼構築につながります。
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参考・出典
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号・平成18年)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について(解釈通知)
この記事は2026年11月時点の告示・通知に基づいています。報酬は改定されることがありますので、最新の告示を確認してください。
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