就労定着支援の収益モデルと損益分岐点。利用者数・区分別の月収入試算。

就労定着支援の収益モデルと損益分岐点。利用者数・区分別の月収入試算。 福祉事業の開業と運営

就労定着支援の月次収入は「契約者数×報酬区分の月額単位数×地域単価」の掛け算で決まります。損益分岐点とは、この月次収入が人件費・家賃などの固定費を上回る最低限の利用者数のことです。新規事業者が1〜2年目をどう乗り越えるかは、この損益分岐点をいつ突破できるかにかかっています。

収益の基本構造は「契約者数×単位数×地域単価」で決まる

就労定着支援の報酬は、利用者1人につき月単位で算定されます。1か月あたりの収入は以下の式で計算されます。

月次収入 = 契約者数 × 月額単位数 × 1単位あたりの金額(地域単価)

月額単位数は就労定着率の実績に応じた7段階の区分で決まります。就労定着率とは、前年度の利用終了者のうち3月31日時点で就労継続している者の割合です。

就労定着率区分と月額単位数(令和6年4月〜)
区分 就労定着率 月額単位数(1人あたり)
1 9割5分以上 3,512単位
2 9割以上9割5分未満 3,348単位
3 8割以上9割未満 2,768単位
4 7割以上8割未満 2,234単位
5 5割以上7割未満 1,690単位
6 3割以上5割未満 1,433単位
7 3割未満(新規1〜2年目含む) 1,074単位

開業後1〜2年目は就労定着率の実績がないため、自動的に区分7(1,074単位)が適用されます。3年目以降から前年度の実績が反映されます。

地域単価は事業所の所在地の地域区分によって異なります。最高は1級地の11.20円、最低は「その他」の10.00円です。

3パターンの試算で月収入の目安がわかる

以下の3パターンで月次収入と年収入を試算します(地域単価はすべて「その他」10.00円で統一)。

パターン別の月次・年次収入試算(地域単価10.00円)
パターン 契約者数 区分 月額単位数 月次収入 年次収入
① 新規1〜2年目 20名 7(1,074単位) 1,074単位 214,800円 2,577,600円
② 7割定着・20名 20名 4(2,234単位) 2,234単位 446,800円 5,361,600円
③ 7割定着・30名 30名 4(2,234単位) 2,234単位 670,200円 8,042,400円

パターン①(新規20名・区分7)の月収約21万円に対して、常勤1名を雇用した場合の固定費(後述)は月35万〜37万円程度になります。1〜2年目は収入が固定費を下回る状態が続くため、初期の運転資金の手当てが不可欠です。

パターン②(20名・区分4)では月収約45万円となり、固定費を上回る黒字になります。パターン③(30名・区分4)では月収約67万円と、収益性が大きく改善します。

人件費・固定費の内訳と月次コストの目安

就労定着支援の主なコストは人件費です。省令(厚生労働省令第171号)では就労定着支援員の常勤換算1以上の配置が義務付けられており、常勤1名以上の雇用が必要です。

月次固定費の内訳(常勤1名体制の目安)
費目 金額の目安 備考
就労定着支援員の給与 250,000円 月給20万〜30万円の中間値。職場経験や資格によって幅がある
法定福利費(事業主負担分) 約37,500円 給与の約15%。社会保険・雇用保険・労災保険の合計
事務所家賃・共益費 30,000〜80,000円 独立事務所か既存事業所の間借りかで大きく変わる
通信費・交通費・消耗品 20,000〜30,000円 企業訪問の交通費を含む
合計(目安) 350,000〜400,000円 管理者が兼務できる場合は管理者の人件費は含めない

独立した事務所を構える場合は固定費が増えますが、既存の就労移行支援事業所等のスペースを間借りできる場合は家賃を低く抑えられます。

損益分岐点は区分7で約34名・区分4で約17名になる

固定費を月360,000円と仮定した場合の損益分岐点(最低契約者数)は以下のとおりです。

報酬区分別の損益分岐点(固定費360,000円・地域単価10.00円の場合)
区分 1人あたり月収入 損益分岐点(最低契約者数)
区分7(新規1〜2年目) 10,740円 約34名
区分5(5割以上) 16,900円 約22名
区分4(7割以上) 22,340円 約17名
区分3(8割以上) 27,680円 約14名
区分1(9割5分以上) 35,120円 約11名

新規開業で区分7が適用される1〜2年目は、月次損益が黒字になるには約34名以上の契約者が必要です。現実的に1〜2年目のうちに34名の契約者を集めることは容易ではなく、初年度は赤字になる前提で資金計画を立てることが重要です。

3年目以降に区分4(7割定着)が適用されれば、損益分岐点は約17名まで下がります。就労移行支援からの移行利用者をある程度確保できていれば、17名は達成しやすい水準です。

1〜3年目の収益推移の特徴

就労定着支援は制度の設計上、開業直後が最も収益的に厳しい時期になります。年数ごとの状況を整理します。

  • 1〜2年目(区分7固定):就労定着率の算定実績がないため、報酬区分は自動的に区分7(1,074単位)が適用されます。利用者を増やすことが収入増の唯一の手段であり、月次赤字になりやすい時期です。就労移行支援事業所と連携し、就職後の利用移行者を安定的に確保する仕組みが重要です
  • 3年目(前年度の定着率が初めて反映):2年目終了後(前年度末3月31日)の就労定着率の実績に基づいて区分が決まります。5割以上(区分5)が達成できれば月額単位数は1,690単位に上がり、収益構造が改善します。7割以上(区分4)が達成できれば2,234単位となり、20名前後の利用者規模でも損益分岐点を超えられます
  • 4年目以降(定着率の積み上げ):毎年の定着率実績が区分を決定します。支援の質を上げることで区分3(8割以上)・区分2(9割以上)を目指すことができ、1人あたりの報酬単価が上がります

1〜2年目に区分7のまま推移しても、3年目以降に区分が上がれば収益は大きく改善します。区分7の1,074単位から区分4の2,234単位への改善は1人あたり月11,600円(約2.1倍)の収入増になり、30名の利用者がいれば年間で約417万円の差になります。

収益改善のポイントは「利用者数の先行積み上げ」と「定着率の維持」の組み合わせ

就労定着支援の収益を改善するには、利用者数の増加と就労定着率の向上の2つのアプローチがあります。どちらを先に動かすべきかは状況によって異なります。

  • 1〜2年目は利用者数を先行させる:報酬区分は変えられないため、収入を増やすには契約者数を増やすしかありません。就労移行支援事業所・特別支援学校・ハローワーク等との連携ルートを早めに確立し、就職後の利用者が継続的に流入する仕組みをつくります
  • 3年目以降は定着率向上が収益の鍵になる:利用者数が一定規模に達したら、就労定着率を高めることで報酬区分が上がり、同じ利用者数でも収入が増えます。月1回以上の定期支援・企業連携・医療機関との三者連携を丁寧に行い、利用者の就労継続を支えることが収益改善に直結します
  • 利用者数と定着率は相関する:支援の質が高い事業所は定着率も高くなり、口コミや連携先からの紹介で利用者が増えやすくなります。定着率向上への投資(就労定着支援員の育成・連携体制の強化)は中長期の収益改善につながります

3年間の収益推移・損益分岐点・就労定着率区分の変動による収入シミュレーションは、就労定着支援 収支シミュレーター(無料)で自分の数字を入力しながら確認できます。Pro版では感度分析(就労定着率区分が変化した場合の収支変動)も確認できます(買い切り9,800円)。

収益計画で特に注意が必要な3つのリスク

  • 利用者の就労状況変化:転職・失業・就労継続支援A型への移行は、就労定着率に影響します。特に利用者が少ない時期は1〜2名の状況変化が定着率を大きく動かします
  • 連絡が取れない利用者の取り扱い:解釈通知では、連絡が取れない者は就労継続できていないものとして扱うとされています。連絡記録の管理が不十分だと就労定着率が実態より低く算定される場合があります
  • 報酬改定リスク:障害福祉サービスの報酬は3年ごとに改定されます。令和6年4月に実施された改定後、次は令和9年4月が予定されています。単位数や区分が変わる可能性があるため、最新の告示を確認することが重要です

参考・出典

  • 障害福祉サービス等報酬告示(令和6年厚生労働省告示第159号による改定版)
  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号・平成18年)

この記事は2026年11月時点の告示・通知に基づいています。報酬は改定されることがありますので、最新の告示を確認してください。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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