児童発達支援の稼働率。なぜ下がるのか。利用者定着のための対策。
児童発達支援の稼働率は、事業所の月次収支を直接左右する指標です。定員10名の事業所が稼働率65%(月6.5名分の利用)を下回ると損益分岐点を割り込むケースが多く、継続的な運営が困難になります。稼働率が下がる主な要因は「欠席の多さ」「就学による卒業(放デイへの移行)」「支援計画の変更による利用日数の減少」の3つです。本記事では、稼働率の計算方法・下がる要因・収支への影響の試算・定着のための実務的な対策を整理します。
稼働率の定義と計算式
稼働率とは、定員に対して実際にサービスが提供された割合です。計算式は次のとおりです。
稼働率(%)= 実際の利用延べ人数 ÷(定員 × 開所日数)× 100
例:定員10名・月の開所日数22日・実際の利用延べ人数は143名(1日あたり平均6.5名)の場合
143 ÷(10 × 22)× 100 = 65.0%
開所日数には、土曜・日曜・祝日を含めて営業している日数をカウントします。計画している開所日数よりも実態の営業日数が少ない(臨時休業・行事等)場合は、その分だけ分母が小さくなり、稼働率は見かけ上高くなります。
稼働率と月次収入の関係
児童発達支援の基本報酬は、時間区分1(3時間未満)901単位・区分2(3〜5時間)928単位・区分3(5時間以上)980単位です(厚生労働省・こども家庭庁「令和6年度障害福祉サービス費等の報酬算定構造」定員10人以下の区分)。以下は区分2(928単位)・地域区分その他(10.00円)で算定し、処遇改善加算を除いた概算です。
| 稼働率 | 定員10名(月22日) | 定員15名(月22日) | 定員20名(月22日) |
|---|---|---|---|
| 90% | 約182万円 | 約274万円 | 約365万円 |
| 80% | 約162万円 | 約243万円 | 約324万円 |
| 70% | 約142万円 | 約213万円 | 約284万円 |
| 65% | 約132万円 | 約197万円 | 約263万円 |
| 60% | 約122万円 | 約182万円 | 約243万円 |
上記は基本報酬のみの概算です。加配加算・専門的支援加算・送迎加算等が加わると収入は増加します。処遇改善加算(Ⅰイ:15.2%)を加えると、稼働率90%・定員10名の場合の月収は約209万円程度になります。
全国平均との比較
厚生労働省・こども家庭庁「令和7年度障害福祉サービス等経営実態調査(令和6年度決算)」によると、定員10人以下の児童発達支援の収支差率は約14%です。新規開業の事業所は初年度から全国平均と同じ稼働率を達成できるわけではなく、稼働率65〜75%程度でスタートし、2〜3年かけて80%以上に引き上げることが現実的なシナリオです。
稼働率が下がる3つの要因
要因1:欠席の多さ
児童発達支援の利用者は未就学児(0〜6歳)が中心です。この年齢帯は風邪・発熱・胃腸炎などによる体調不良が多く、欠席率が高くなりやすい傾向があります。
- 就園前の子どもは集団生活の経験が少なく、事業所に来始めの頃は感染症が連鎖しやすい
- 保護者の仕事都合で急きょ欠席になるケースも多い
- 保育園・幼稚園の行事(運動会・発表会・遠足等)と重なると欠席が増える
欠席が増えると「欠席時対応加算」(未対応の場合はゼロ)での補填も難しいため、月の収入が計画を下回ります。
要因2:就学による利用終了(放デイへの移行)
児童発達支援は「就学前」の障害児を対象とするサービスです(児童福祉法第6条の2の2第2項)。小学校入学と同時に、放課後等デイサービスへ移行します。
定員10名の事業所で、毎年3〜4名が就学によって利用終了するとすれば、定員の30〜40%が年度末に入れ替わることになります。新規の利用者が安定的に入らないと、年度明けの4月から数か月は稼働率が大幅に低下します。
要因3:支援計画の変更による利用日数の減少
受給者証の支給量(月あたりの利用日数の上限)は、市区町村が行う支給決定のたびに変わる可能性があります。更新時に「週5日→週3日」に減った場合、その利用者からの収入は4割減になります。
また、子どもの状態の改善や保護者の判断で利用頻度を落とすケースもあります。事業所側からの「利用を増やしてほしい」という働きかけが難しい場面も多く、利用日数の管理は丁寧なコミュニケーションが求められます。
稼働率を維持・改善するための対策
新規利用者の継続的な受け入れ体制
稼働率を安定させるために最も重要なのは、新規の問い合わせ・見学・体験利用の機会を絶やさないことです。
- 相談支援事業所・保育園・幼稚園・保健センターとの関係構築:紹介の経路を複数持つ
- 地域の市区町村が主催する障害児支援の説明会・相談会への参加
- 事業所のホームページ・Googleビジネスプロフィールの情報を最新の状態に保つ
- 見学・体験利用を受け入れたら丁寧なフォロー(電話・手紙)を行い、正式な利用開始につなげる
欠席連絡の仕組みづくり
欠席連絡が前日・当日に突然来ることを前提に、空いた時間の有効活用を計画しておきます。
- 欠席連絡を受けた場合に振替日を提案する仕組みを整える(支給量の範囲内で)
- 欠席が続く利用者には状況確認の連絡を入れ、「来なくなってしまう」のを早期にキャッチする
- 欠席が多い月は支援内容の見直し(利用目的が達成されているか・子どもが楽しめているか)を保護者と話し合う
就学前年度のフォロー
就学(小学校入学)が近づいてくる年長児の保護者に対して、就学後の放課後等デイサービスについて早めに情報を提供することで、関係事業者(放デイ)への紹介や保護者の不安解消に貢献できます。このフォローを丁寧に行うことが、事業所全体の信頼感向上につながります。
また、事業所が放課後等デイサービスも運営している(多機能型・グループ運営)場合は、児発から放デイへの移行をスムーズにすることで、利用者を失わずに済みます。
個別支援計画の質を高める
保護者が「この事業所に通い続けたい」と思う理由の多くは、子どもの変化や成長を実感できることです。個別支援計画に具体的な目標と評価方法を明示し、定期的なモニタリング(6か月以内)で進捗を保護者と共有することが、定着率の向上につながります。
- 目標は「楽しく通える」ではなく「○○ができるようになる」と具体化する
- 計画の変更・更新の際には保護者が立ち会える日程で説明の機会を設ける
- 日々の記録(サービス提供記録)に子どもの様子・達成したこと・気になる点を残し、保護者が見られる形で共有する
受給者証の更新時期の把握
受給者証の有効期間が切れる前に、保護者が市区町村に更新の申請を行わなければなりません。有効期間が切れると、一時的にサービスの提供ができなくなります。
事業所側で利用者ごとの受給者証の有効期間を管理し、更新の2〜3か月前に保護者へ案内することで、更新漏れによる「突然の利用中断」を防ぎます。
稼働率の目標設定と損益分岐点の確認
開業前の事業計画を作るとき、稼働率の目標を「初年度65%・2年目75%・3年目80%」などと段階的に設定し、各段階で損益分岐を下回らないかを確認します。
| 稼働率の水準 | 一般的な評価 | 注意点 |
|---|---|---|
| 80%以上 | 安定水準 | 全国平均に近い水準 |
| 70〜80% | 維持水準 | 人件費比率によっては赤字になる可能性あり |
| 65〜70% | 要改善水準 | 多くの事業所で損益分岐点付近 |
| 65%未満 | 危険水準 | 早急な新規利用者の確保が必要 |
上記は一般的な目安であり、実際の損益分岐点は人件費・家賃・加算の算定状況によって異なります。自事業所の数字で確認することが重要です。
運営指導と稼働率の関係
運営指導では、稼働率の数字そのものが問われることはありませんが、低稼働率が続いている場合は「利用者の日々の記録(サービス提供記録)」「欠席時の記録」「受給者証の管理状況」が確認されます。
欠席時に何も記録が残っていない(欠席連絡があった事実を記録していない)ケースは、実地指導での指摘につながることがあります。欠席連絡の日時・連絡者・対応内容を記録する習慣をつけます。
児童発達支援の開業収支シミュレーターでは、定員・稼働率・地域区分・加算の設定をもとに月次収支と損益分岐点を試算できます。稼働率を変動させたときの収支への影響を確認するための感度分析機能も利用できます(Pro機能・買い切り9,800円)。

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