就労継続支援B型の稼働率、なぜ下がるのか。利用者定着のための対策。
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▶ 就労継続支援B型 開業収支シミュレーター
就労継続支援B型の収支を左右する変数の中で、稼働率は最も日々の運営に直結する指標です。定員を満たしていても、利用者が来所しなければ収入は得られません。稼働率が計画値を下回る状態が続くと、固定費である人件費・家賃を収入でまかなえなくなり、収支が赤字に転落します。
この記事では、稼働率の定義と収支への影響、稼働率が下がる原因の構造、開業初期に特に稼働率が低くなる理由、そして稼働率を維持するための具体的な取り組みを整理します。
稼働率は「定員に対して実際に来所した割合」で計算する
就労継続支援B型の稼働率は、次の式で計算します。
稼働率(%)= 実績延べ利用者数 ÷(定員 × 稼働日数)× 100
例えば定員20人の事業所が月22日稼働した場合、「定員フル来所」なら延べ440人日が最大値です。実際の延べ来所数が352人日なら、稼働率は80%(352 ÷ 440)になります。
就労継続支援B型の報酬(訓練等給付費)は「1日の実際の利用者数 × 報酬単価」の積み上げで決まります。定員に対する来所率が下がれば、収入はそのまま下がります。
| 稼働率 | 定員20人・月22日の延べ来所数 | 計画値(稼働率80%)との差 |
|---|---|---|
| 90% | 396人日 | +44人日(収入増) |
| 80%(計画値) | 352人日 | — |
| 70% | 308人日 | -44人日(収入減) |
| 60% | 264人日 | -88人日(収入大幅減) |
稼働率が計画の80%から70%に10ポイント下がると、延べ来所数は44人日減少します。報酬単価を1日あたり約5,000円(工賃月額最低区分・定員20人規模の目安)とすると、月の収入は約22万円減ります。人件費が固定費として月70〜80万円かかる事業所では、この差は収支差率に直接影響します。
なお、報酬単価は定員区分・工賃月額区分によって変わります。上記はあくまで規模感を示す概算です。実際の単価は厚生労働省告示第523号別表第14で確認してください。
稼働率が下がる原因は大きく4つに分けられる
稼働率の低下は一つの原因から来るのではなく、複数の要因が重なって起きます。原因を構造的に整理することが、対策を立てる前提になります。
利用者の欠席・体調不良
精神障害や知的障害・発達障害のある利用者は、体調の波が大きく、急な欠席が発生しやすい傾向があります。インフルエンザや感染症の流行期には複数の利用者が同時に欠席するケースもあります。個別の欠席は避けられないものですが、「欠席が続くと利用をやめてしまう」という流れになると、稼働率が慢性的に下がります。
欠席が続いている利用者への早期連絡・声かけが、稼働率維持の第一歩です。欠席当日に連絡を入れ、体調や状況を確認する体制があると、欠席が「フェードアウト」に転じるリスクを下げることができます。
利用者の他事業所への移籍・一般就労への移行
利用者が他のB型事業所や就労継続支援A型・就労移行支援へ移るケース、あるいは一般就労に移行するケースでは、利用者数が減ります。一般就労への移行は支援の成果として望ましいことですが、その分の利用者数が減れば稼働率に影響します。
新規の利用者獲得が追いつかないと、既存利用者の退所・移籍により稼働率は徐々に下がります。「今いる利用者の定着」と「新規利用者の継続的な確保」を並行して管理することが必要です。
新規利用者の獲得が追いつかない
B型事業所への新規利用者は、相談支援専門員・ハローワーク・医療機関・行政(障害福祉窓口)などの紹介ルートから来ることが多くなります。これらの紹介ルートが確立されるまでには時間がかかります。
紹介ルートが機能し始めるまでの間は、新規利用者の流入が少ない状態が続きます。積極的に地域の相談支援事業所や医療機関に事業所を知ってもらう活動が、稼働率の回復を早めます。
季節変動による稼働率の低下
就労継続支援B型では、年度末の3〜4月と夏季(7〜8月)に稼働率が下がることがあります。年度末は利用者の支給量の更新・引越し・家庭環境の変化が重なりやすく、夏季は体調不良・家族の帰省・学校行事の影響が出やすい時期です。
季節変動を事前に見込んで年間の収支計画を立てることで、月次の収支が大きく計画から外れることを防ぐことができます。
新規開業後の稼働率が特に低い理由は3つある
新しく開業した事業所では、稼働率が計画を大きく下回ることが多くあります。主な理由は次の3点です。
第一に、地域の相談支援事業所に事業所が知られていないため、紹介が来ない状態からスタートします。相談支援専門員は利用者に複数の事業所を紹介することが多く、まだ実績のない新規事業所は候補に挙げてもらいにくい面があります。
第二に、ハローワークや医療機関(精神科・発達外来)との連携体制が確立されていません。定期的な情報提供・見学受け入れ・関係者への挨拶訪問を続けることで、徐々に紹介ルートが生まれます。
第三に、利用者の「体験利用」から「継続利用」への移行に時間がかかります。初めて障害福祉サービスを利用する方や、他の事業所から移ってきた方は、新しい環境に慣れるまで通所頻度が不安定になることがあります。
これらの要因が重なる開業後の初期(おおむね6か月〜1年)は、計画稼働率より10〜20ポイント低い状態が続くことを前提に運転資金を確保しておくことが重要です。
稼働率を維持するための4つの取り組み
欠席時の早期連絡体制をつくる
利用者が欠席した際に事業所側から連絡を入れ、状況を確認することは、稼働率の維持に直結する取り組みです。体調悪化の早期把握・生活状況の確認・次回来所への声かけを行うことで、欠席が長期化するリスクを下げることができます。
欠席時対応加算(告示第523号別表第14)は、利用者からの欠席連絡を受け、相談援助を行い記録した場合に1回あたりの単位で算定できます。欠席対応を体制として整えることは、算定収入の確保と利用者定着の両面で意味があります。
個別支援計画の見直しを定期的に行う
個別支援計画は、利用者の目標・支援内容・利用頻度を定める書類です(指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第198条・第202条)。計画に記載された目標と実際の支援が合っていない場合、利用者が通所する動機を持ちにくくなります。
「今の作業が自分に合っているか」「来所頻度の目標は現実的か」「次のステップとして何を目指すか」を定期的に利用者本人と確認することで、通所への意欲が維持されます。計画の見直しは6か月ごとが標準ですが、生活状況に大きな変化があった場合はその都度見直すことが利用者の定着につながります。
相談支援専門員・ハローワーク・医療機関との連携体制を整える
新規利用者の獲得には、地域の紹介元との関係構築が不可欠です。具体的には次のような活動が有効です。
- 相談支援事業所への定期的な情報提供:空き状況・提供できる作業の種類・対応できる障害種別を伝える。新しく受け入れた利用者の支援状況を定期的に報告する
- 事業所見学の積極的な受け入れ:相談支援専門員が利用者を連れて見学に来られるよう、随時見学を受け付ける体制をつくる
- ハローワークとの連携:就労支援ナビゲーターや専門援助部門への事業所紹介。一般就労を目指す利用者が通いやすい環境を整えることで、ハローワーク経由の紹介が増えやすくなる
- 医療機関(精神科・発達外来)への挨拶訪問:精神保健福祉士・ソーシャルワーカーに事業所のパンフレットを届け、利用者の通所状況を定期的に共有することで、医療機関からの紹介ルートが生まれる
利用者が「来たくなる」環境をつくる
利用者が自ら通所しようと思える環境は、稼働率を安定させる根本的な要因です。以下の点が利用者の定着に影響します。
- 作業の多様性:単調な作業だけでなく、利用者の興味・得意分野に合った作業を取り入れることで、来所のモチベーションが維持される
- 食事の提供:昼食を提供している事業所では、「食事のために来る」という動機が通所の後押しになるケースがあります。食事提供体制加算(告示第523号)の算定要件を確認したうえで導入を検討する価値があります
- 送迎の実施:交通手段の確保が難しい利用者に送迎を提供することで、来所のハードルが下がります。送迎の実施は採用・運営コストを伴うため、稼働率の向上効果との収支バランスを試算して判断してください
- 利用者同士の関係づくり:来所することで「仲間がいる」「安心できる場所がある」と感じてもらえる雰囲気は、継続的な通所の動機になります。グループ活動・昼食の場など、利用者が交流できる時間を設けることも、定着に影響します
月次で追うべき稼働率の指標
稼働率を管理するためには、月次で以下の指標を記録・確認することが有効です。
| 指標 | 確認する内容 |
|---|---|
| 月間延べ来所数 | 実際の来所人日数の合計。計画値と比較して差異を把握する |
| 稼働率(実績) | 延べ来所数 ÷(定員 × 稼働日数)。計画値(通常70〜85%)との乖離を確認する |
| 利用者数(登録) | サービス利用計画を持つ登録利用者の人数。定員との比率を把握する |
| 欠席率(利用者別) | 利用者ごとの欠席日数。連続欠席や欠席率の高い利用者を早期に把握する |
| 新規利用者数・退所者数 | 当月の新規受け入れと退所・移籍の人数。純増・純減を確認する |
これらを月次で確認し、稼働率が計画を下回り始めたタイミングで原因を特定することが、収支の悪化を早期に防ぐための管理サイクルです。
損益分岐点となる稼働率を事前に把握しておく
月の固定費(人件費・家賃・光熱費等)を報酬収入でまかなうために必要な最低稼働率(損益分岐点稼働率)を事前に計算しておくことで、「この稼働率を下回ったら赤字」という基準を持つことができます。
損益分岐点稼働率の大まかな計算は次のとおりです。
損益分岐点稼働率 = 月間固定費 ÷(定員 × 稼働日数 × 1日あたり報酬単価)× 100
定員20人・月22日稼働・1日あたり報酬単価5,000円の事業所で月間固定費が70万円の場合:
損益分岐点稼働率 = 700,000 ÷(20 × 22 × 5,000)× 100 = 700,000 ÷ 2,200,000 × 100 ≒ 32%
この例では稼働率32%を超えれば報酬収入だけで固定費をまかなえる計算になりますが、実際には生産活動の費用・工賃の支払い・消耗品等の変動費もかかります。変動費を含めた損益分岐点は、シミュレーターで確認するのが正確です。
上記はあくまで計算の考え方を示すもので、報酬単価は工賃月額区分・定員区分によって変わります。実際の単価に基づいた試算が重要です。
シミュレーターで稼働率の感度を確認できる
就労継続支援B型の開業収支シミュレーターでは、稼働率の変動が月次収支にどう影響するかを試算できます。稼働率を計画値から10ポイント・20ポイント下げた場合に、月の収入がどれだけ減り、何か月で資金が不足するかを数字で確認することができます。
開業前の事業計画として「稼働率が計画の70%に留まった場合でも〇か月は持ちこたえられる」という根拠を示すことができると、融資の申請や事業計画書の説得力が上がります。
まとめ
就労継続支援B型の稼働率が下がる主な原因は、利用者の欠席・他事業所への移籍・新規利用者の獲得不足・季節変動の4つです。特に新規開業後の初期は、紹介ルートの未確立と利用者の慣れのなさから稼働率が計画を下回りやすい期間です。
稼働率を維持するためには、欠席時の早期連絡体制・個別支援計画の定期的な見直し・地域の相談支援事業所や医療機関との連携強化・利用者が来所しやすい環境づくりを組み合わせることが効果的です。月次で稼働率・欠席率・利用者数の増減を記録し、早期に対処するモニタリング体制を整えることが、収支の安定につながります。
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▶ 就労継続支援B型 開業収支シミュレーター
出典:指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第198条・第202条。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービスの報酬の算定構造(告示第523号)別表第14。作成日:2026年10月。


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