美容院のセット面(施術台)は何台が適切か。保健所の構造設備基準と、台数が損益分岐点に与える影響。

美容院のセット面(施術台)は何台が適切か。保健所の構造設備基準と、台数が損益分岐点に与える影響。 美容院の開業

美容院のセット面(施術台)は、作業室13㎡に6台まで設置できる

東京都の「美容所開設の手引」(東京都保健医療局)によると、美容所の作業室は床面積13㎡以上が必要で、13㎡の場合は美容いす(セットイス・シャンプーイス等)を6台まで設置できます。美容いすを1台増やすごとに3㎡以上の作業室面積が必要です。つまり、セット面の台数は「(作業室面積−13)÷3+6」を上限の目安として計算できます。公庫の「創業計画書 記入例(美容業・2025年4月版)」では3台で月商142万円(軌道後)を計画しており、小規模開業の基準となります。

台数の上限は作業室の面積で決まる

作業室の床面積とセット面(美容いす)の最大台数の関係は次の通りです(東京都・町田市保健所の手引に基づく。内法による算定)。

作業室面積と美容いす最大台数(東京都・町田市)
作業室面積(㎡) 美容いす最大台数
13㎡ 6台
16㎡ 7台
19㎡ 8台
22㎡ 9台
25㎡ 10台

出典:東京都保健医療局「美容所開設の手引」・町田市保健所「美容所開設の手引(2026年5月版)」。美容いすとはセットイス・シャンプーイス・コールド待ちイス等を含む総称です。作業室の面積は内法(壁の内側の寸法)で算定します。なお面積基準は都道府県の条例によって異なる場合がありますので、開設予定地の保健所に事前相談することが必要です。

セット面を1台増やすと売上の上限はどれだけ上がるか

公庫の記入例の設定(客単価6,000円・1日3回転・月26日営業)を使って、台数別の月商上限を計算します。

台数別の月商上限(客単価6,000円・3回転・26日)
台数 月商上限(施術のみ) 1台あたり月商
1台 約46.8万円 46.8万円
2台 約93.6万円 46.8万円
3台(記入例) 約140.4万円 46.8万円
4台 約187.2万円 46.8万円
5台 約234.0万円 46.8万円

6,000円×3回転×26日=468,000円が1台あたりの上限月商です。3台の合計は140万円で、記入例の軌道後月商142万円(+店販2万円)とほぼ一致します。セット面を1台増やすと理論上の売上上限は約47万円増えます。ただし、これは「毎日3回転フル稼働した場合」の上限であり、実際の売上は稼働率によって変わります。

台数を増やすと固定費も増える

セット面を増やすには、施術者(スタイリストまたはアシスタント)を確保する必要があります。1台は1人の施術者がほぼ専属で使う形が多く、台数の増加は人件費の増加と一体です。

公庫の記入例では、軌道後に3台体制でアシスタント1名(15万円/月)・専従者1名(10万円/月)が追加されています。スタイリストをさらに採用する場合、月15〜25万円程度の人件費が増加します。

台数増加と人件費・損益分岐点への影響(試算)
台数 追加人件費の目安 固定費の増加 損益分岐点の上昇幅
3台→4台 +15〜25万円/月 +15〜25万円 +17.6〜29.4万円
4台→5台 +15〜25万円/月 +15〜25万円 +17.6〜29.4万円

損益分岐点の上昇幅は「追加固定費÷限界利益率(0.85)」で計算しています。月の人件費が20万円増えると、損益分岐点は約23.5万円上がります。台数を増やすほど売上の上限は広がりますが、稼働率が低い状態では損益分岐点を超えることが難しくなります。

記入例の3台は「管理美容師が必要になる境界」でもある

美容師法第12条の3は、美容師である従業者が常時2人以上の美容所では「管理美容師」を置くことを義務付けています。管理美容師になるには美容師免許取得後3年以上+知事指定の講習(受講料20,000円)が必要です。

公庫の記入例では、事業主(施術する場合)+専従者(免許あり)+アシスタント(免許あり)の3名体制です。2人以上の免許取得者が常時勤務するため、管理美容師の配置が必要です。セット面が1台の1人経営では管理美容師の要件を満たさなくても問題ありませんが、採用するスタッフが有資格者の場合は台数にかかわらず要件を確認する必要があります。

小規模店舗が多い現実と、台数選びの考え方

厚生労働省「美容業の振興指針」(引用:全国生活衛生営業指導センター調査)によると、全国の美容院の87.0%が従業者5人未満の小規模店です。全国施設数277,752か所(令和6年度衛生行政報告例)に対して、5人以上の施設は13%にすぎません。

1人経営(1台)・2人体制(2〜3台)が多数派です。公庫の記入例が3台を選んでいるのは、1人のスタイリストが複数の客を受け持てるパーマ・カラーのコールド処理中に別の客を施術できるため、施術効率が上がる台数だからです。3台は「コールド処理の並行対応」を前提にした設計と言えます。

1台あたりの実稼働時間から考える

記入例では9時間営業(9:00〜18:00)・火曜定休・月26日です。1台あたり1日3回転の前提では、1回の施術時間は9時間÷3回転=3時間です。実際のカットは45〜60分ですが、カラーやパーマは施術時間が90〜150分かかります。複数メニューを組み合わせる場合、3時間の枠はメニュー構成によっては現実的な上限です。

1台あたりの稼働を2回転に下げると、月商上限は6,000円×2回転×26日=312,000円に下がります。3台合計でも93.6万円で、記入例の創業当初月商93万円と一致します。創業当初の2回転は「準備期間を経て固定客がつく前の状態」として想定されています。

シミュレーターで台数と回転数を試す
セット面の台数・客単価・回転数・人件費を入力すると、損益分岐点・月次36か月の資金残高・感度分析が確認できます。
美容院の開業収支シミュレーター → https://fufumumu-design.com/biyouin-keikaku/

台数選びに使う3つの確認ポイント

セット面の台数を決める前に確認すべき点を整理します。

  • 作業室の面積:保健所の基準(東京都・町田市は13㎡=6台まで。1台増やすごとに3㎡追加)に照らして、内見時に実測する。内法で算定するため、内装工事後の有効面積を工務店に確認する。
  • スタッフの確保見込み:台数を増やすには有資格者の採用が前提。採用できなければ台数を減らして1人あたりの稼働を上げる方が損益分岐点が低い。
  • 初期費用への影響:セット椅子は1台あたり10万円(記入例)。4台なら40万円、5台なら50万円。借入額と月の元金返済額に直接影響する。

開設届を提出する前に、図面を持参して保健所に事前相談することが義務ではありませんが強く推奨されています(東京都・町田市の手引いずれも事前相談のステップを最初に記載)。台数・面積・設備の要件は、計画段階で保健所に確認してから内装設計に進むことで変更届や再工事のリスクを防ぎます。

台数と損益分岐点の関係を記入例の数字で整理する

記入例の固定費構成(軌道後):人件費25万円・家賃10万円・利息2万円・その他30万円=67万円。損益分岐点は67万円÷0.85≒78.8万円です。

3台体制で回転数が1.8回転以上(1日あたり3台合計)になれば損益分岐点を超えます。78.8万円÷6,000円÷26日÷3台=1.68回転が最低ラインです。2台体制なら同じ固定費67万円でも1台あたり2.52回転が必要です。台数が少ないほど1台に求められる稼働率が上がります。

台数別の損益分岐点達成に必要な1台あたりの最低回転数(固定費67万円・客単価6,000円・26日)
台数 損益分岐点月商 必要な総客数/月 1台あたりの最低回転数/日
1台 78.8万円 131人 5.0回転
2台 78.8万円 131人 2.5回転
3台(記入例) 78.8万円 131人 1.7回転
4台(人件費+20万追加) 102.3万円 170人 1.6回転

台数を増やすと1台あたりの必要回転数は下がりますが、固定費の増加で損益分岐点自体が上がります。4台体制では損益分岐点は約23万円上昇(追加人件費20万円÷0.85)します。創業当初は客数が少ないため、小規模で始めて固定客がついてから拡大する流れが資金リスクを下げます。

保健所への事前相談で確認する3点

台数に関して保健所で確認すべき事項を整理します。

  1. 予定する作業室面積と設置台数が基準を満たしているか(面積は図面の実測値を持参)
  2. シャンプーイスの台数は「美容いす」の台数に含まれるか(含まれる場合、セット台数の上限に影響)
  3. 待合室の配置が作業室との「明瞭な区分」を満たしているか

保健所の事前相談は、内装工事の着工前に行うことが重要です。工事後に基準を満たさないと修繕が必要になり、費用と工期が増加します。東京都・町田市の手引はいずれも「事前相談は図面等を持参のうえ行う」と記載しています。

セット面の変更は保健所への届出が必要

開業後にセット面を増設・減設した場合、保健所への変更届が必要です。東京都の手引によると「面積算定にかかわるもの(いすの台数など)」が変わるときには変更届の提出が義務付けられています。台数の変更は作業室の面積要件(13㎡+増設分3㎡/台)の再確認が必要で、面積が基準を満たさない場合は増設できません。開業後の拡張計画がある場合は、最初から余裕のある作業室面積を確保しておくことが、後からの改修コストを防ぎます。

記入例のセット椅子3台の費用と耐用年数

公庫の記入例ではセット椅子3台30万円(1台10万円)です。業務用のセット椅子の相場は新品で10〜30万円程度で、中古品は3〜10万円程度から見つかります。法定耐用年数(器具・備品として通常5〜10年)を考えると、開業後5〜10年で交換費用が発生します。資金計画では毎年1〜2台分(10〜20万円)の設備更新費用を積み立てる想定が現実的です。シャンプー台(記入例2台40万円・1台20万円)も同様に更新費用を見込む必要があります。

この記事のまとめ

美容院のセット面(施術台)の台数は、保健所の構造設備基準(東京都・町田市:13㎡で6台まで・1台増やすごとに3㎡追加)と、確保できるスタッフ数・初期費用の3点で決まります。公庫の記入例は3台で月商142万円(軌道後)を計画しており、1台あたり46.8万円の売上上限です。台数を増やすと売上の天井は上がりますが、人件費の増加で損益分岐点も上昇します。創業当初は小規模で始め、固定客が増えてから拡大するのが資金リスクを下げる基本です。開業後に台数を増やす際は保健所への変更届が必要です。作業室面積・台数・人件費の数字をシミュレーターに入力して月次の資金残高を確認してください。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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