美容院の保証金は、公庫の記入例では家賃の10か月分・100万円
公庫の「創業計画書 記入例(美容業・2025年4月版)」では、保証金100万円・月家賃10万円です。保証金は月家賃の10か月分にあたり、初期費用1,030万円の設備費870万円の中で内外装600万円に次ぐ2番目の大きさです。保証金は契約終了時に原状回復費用等を差し引いて返還されるのが原則ですが、敷引き(返還されない部分)を設定した物件もあります。保証金・礼金・仲介手数料は記入例に礼金・仲介の明記はなく、物件によって異なります。
保証金は初期費用の中で2番目に大きい項目
公庫の記入例の設備資金870万円の内訳は次の通りです。
| 項目 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|
| 内外装工事費 | 600万円 | 69.0% |
| 保証金 | 100万円 | 11.5% |
| 什器備品 | 100万円 | 11.5% |
| シャンプー台(2台) | 40万円 | 4.6% |
| セット椅子(3台) | 30万円 | 3.4% |
| 設備合計 | 870万円 | 100% |
保証金100万円は内外装600万円に次ぐ2位で、設備費全体の11.5%を占めます。保証金は原則として将来返還されるため「資産」として扱われますが、退去時に全額返還されるとは限りません。内外装や什器と異なり、保証金は稼働中に減価償却されない項目です。
保証金の相場は地域・物件によって大きく異なる
公庫の記入例の保証金100万円は月家賃の10か月分です。実際の物件では、保証金の相場は次のような幅があります(地域・物件によって異なります)。
| 月家賃倍率 | 月家賃10万円の場合の保証金 | 特徴 |
|---|---|---|
| 3〜5か月分 | 30〜50万円 | 居抜き・郊外・築年数が古い物件に多い |
| 6〜10か月分 | 60〜100万円 | 一般的な範囲。記入例は10か月分 |
| 10〜12か月分 | 100〜120万円 | 都市部・新築・駅近物件に多い |
保証金が多い物件ほど初期費用の資金需要が増え、借入額が増加します。記入例の保証金100万円を前提にしていますが、実際の物件で60万円に下がった場合は初期費用が40万円少なくなり、借入額と月の元金返済が減少します。
礼金・仲介手数料は保証金とは別に発生する
公庫の記入例には礼金・仲介手数料の明示はありません。実際の物件契約では次の費用が加わることが多く、資金計画に含める必要があります。
- 礼金:返還されない契約金。月家賃の0〜2か月分が多い。月家賃10万円なら0〜20万円。
- 仲介手数料:不動産会社への報酬。借主・貸主合計で月家賃1か月分以内が上限(宅地建物取引業法)。月家賃10万円なら0〜10万円。
- 火災保険:借主負担の場合、2年間で3〜5万円程度。
礼金1か月・仲介手数料1か月分が加わると月家賃10万円の物件で20万円の追加費用が発生します。記入例の初期費用1,030万円に上乗せして計画する必要があります。
保証金は退去時に原状回復費用を差し引いて返還される
保証金は契約終了時に「原状回復費用」を差し引いて返還されるのが原則です。美容院は内装工事が大規模になるため、原状回復の範囲が重要です。
- スケルトン返し:内装を全て撤去してスケルトン状態に戻す条件。内外装600万円の工事をした場合、撤去費用も数十〜数百万円になる。契約書の「原状回復の定義」を必ず確認する。
- 現状維持返し:入居時の状態(居抜きで入った場合はその状態)に戻す条件。スケルトン返しより退去コストが低い。
- 敷引き:契約時に「保証金のうち○万円は返還しない」と定めた物件。関西地域に多い慣行で、敷引き額が大きいほど実質的な礼金に近くなる。
退去時の原状回復費用が保証金を超える場合、差額は追加で請求されます。契約前に「スケルトン返しか現状維持返しか」「敷引きの有無と金額」を明確にすることが、退去コストの予測につながります。
居抜き物件で入居した場合の原状回復
前のテナントの内装・設備をそのまま利用する居抜き物件では、入居時の状態で返却することが多いため、スケルトン工事が不要になる場合があります。ただし、前テナントが行った内装が建物オーナーの許可を得ていない「無許可改装」だった場合、退去時にスケルトン返しを求められることがあります。
居抜きで入居する際は、前テナントと建物オーナーの間の造作譲渡の条件を確認し、退去時の原状回復範囲を書面で確認してから契約することが重要です。造作譲渡の権利が正式に移転していない状態で設備を使い続けると、退去時にトラブルになる可能性があります。
保証金の大きさが借入・返済計画に与える影響
保証金の金額は借入額と直接連動します。記入例の自己資金330万円・借入700万円(公庫500万+信金200万)の前提で、保証金が変わった場合のシミュレーションです。
| 保証金 | 初期費用合計 | 借入額 | 月の元金返済(目安) |
|---|---|---|---|
| 60万円(6か月分) | 990万円 | 660万円 | 約7.9万円 |
| 100万円(記入例・10か月分) | 1,030万円 | 700万円 | 約8.3万円 |
| 120万円(12か月分) | 1,050万円 | 720万円 | 約8.6万円 |
保証金が60万円(6か月分)の物件を選ぶと、記入例と比べて月の元金返済が約0.4万円少なくなります。金額は小さく見えますが、長期的に資金残高を積み上げる効果があります。保証金が60万円低くなると7年間の返済総額で33万円以上の差が出ます。
保証金・礼金・仲介手数料を含む初期費用・自己資金・借入条件を入力すると、月次36か月の資金残高が確認できます。
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保証金交渉のポイント
保証金は交渉できる余地がある場合があります。一般的な交渉の糸口を整理します。
- 長期契約を前提に下げる交渉:5〜10年の長期契約を条件に保証金を月3〜5か月分に下げることを提案する。
- 原状回復の範囲を明確にする代わりに下げる:退去時のリスクを具体的に合意することでオーナー側の不安を減らす。
- 空室期間が長い物件:空室が続いている物件はオーナーが条件交渉に応じやすい傾向がある。
ただし、飲食・美容などの「特殊内装」を前提とした物件では、オーナーが退去後の原状回復リスクを保証金で担保しようとするため、交渉余地が小さいこともあります。保証金の交渉は、内装設計の計画を具体化した段階で行うのが効果的です。
保証金が損益分岐点に与える影響
保証金は初期費用の一部として借入に含まれるため、月の元金返済を通じて損益分岐点に影響します。公庫の記入例では固定費67万円(人件費25万・家賃10万・利息2万・その他30万)が損益分岐点の計算の土台です。借入額が変わると利息が変わり、固定費も変わります。
保証金100万円の場合(記入例):公庫500万円×年2.5%÷12か月≒1.04万円・信金200万円×同÷12≒0.42万円で利息計2万円前後(記入例の利息2万円と一致)。保証金が60万円に下がり借入が660万円になった場合の利息は約1.38万円で、0.6万円ほど固定費が下がります。損益分岐点への影響は0.6÷0.85≒0.7万円の減少です。
金額は小さく見えますが、月の元金返済と合わせると、保証金が40万円違うと毎月の手残りが0.5〜1万円改善します。7年間では42〜84万円の差です。
物件を複数比較するときの保証金チェックリスト
物件候補を比較する際に保証金・礼金・仲介に関して確認すべき点を整理します。
- 保証金は月家賃の何か月分か。敷引き(返還されない部分)は何か月分か。
- 礼金はいくらか(0〜2か月分が多い)。
- 仲介手数料は借主負担か、貸主負担か(借主負担なら月家賃の0.55〜1.1か月分が上限)。
- 退去時の原状回復はスケルトン返しか現状維持返しか。
- 造作譲渡の権利は正式に移転しているか(居抜き物件の場合)。
保証金・礼金・仲介の合計(「初期コスト合計」)を各物件で算出し、初期費用の総額と月の元金返済に換算して比較することが判断の基礎です。
資金計画に保証金を正確に組み込む
開業計画では、保証金を「返還される予定の預け金」と「返還されない可能性がある部分(敷引き)」に分けて考えることが重要です。
記入例の設備費870万円には保証金100万円が含まれていますが、退去時にどれだけ戻るかは物件によります。資金計画では保証金100万円の全額が「出ていく費用」として計算し、返還分は計画外の収入として扱う方が保守的な計画になります。
公庫の新規開業実態調査(2025年度)では、開業費用の平均は975万円・中央値は600万円です。保証金が大きい都市部の物件では、これを大幅に超えることがあります。物件選定の段階で保証金・礼金・仲介の合計コストを比較し、複数の候補で月の元金返済を計算してから判断することが基本です。
保証金と損益分岐点の関係を一本の計算で確認する
保証金は直接の固定費ではありませんが、借入額を通じて間接的に損益分岐点に影響します。公庫の記入例の固定費内訳(軌道後)の「利息2万円」は保証金を含む総借入700万円(公庫500万+信金200万)に対する月の利息です。
借入額が増えると利息が上がり固定費が増えるため、損益分岐点が上昇します。逆に、保証金が安い物件を選んで借入を減らすと、利息の減少分だけ損益分岐点が下がります。月の利息が1万円下がると、損益分岐点は1万円÷0.85≒1.18万円減少します。
損益分岐点78.8万円(記入例)に対して、利息が1万円下がると損益分岐点は77.6万円に下がります。月商が同じなら利益が1万円多くなる計算で、7年間では84万円の差です。物件選定は「見た目の家賃の安さ」だけでなく「保証金・礼金を含めた月の固定費への影響」まで計算して比較することが重要です。
シミュレーターで保証金の変動を試す
初期費用・自己資金・借入金額を入力すると、月次36か月の資金残高と損益分岐点が自動計算されます。複数の物件候補を比較するときは保証金の金額を変えて試してください。
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