キッチンカーを一人で運営するか、スタッフを雇うか。人件費の判断。

キッチンカーは1人で運営できる業態ですが、売上が増えてきたときに「スタッフを雇うかどうか」の判断が必要になります。判断の基準は、スタッフを雇うことで増える利益が、人件費を上回るかどうかです。1人で対応できる1日の食数(ピーク時の最大)を超えるようになった、または出店日数を増やしたいが体力的に限界という状況が、雇用を検討するタイミングの目安になります。

この記事では、キッチンカーを1人で運営する場合の限界・スタッフを雇うメリットとコスト・雇用するかどうかの判断基準を解説します。

1人で運営するキッチンカーのコスト構造

キッチンカーの収支で「FL比率」ではなく「FG比率」が使われる理由の一つは、1人経営では人件費がほぼかからないためです。オーナー自身の労働は、利益から生活費を賄う形になり、雇用コストとして計上されません。

1人運営の主なコスト構造を整理します。

1人運営のキッチンカーの主なコスト
費目 性質 目安
食材費 変動費(売上に比例) 売上の30〜40%
出店料 変動費(歩合)または固定費(定額) 売上の15〜25%(場所による)
車両維持費・燃料費 固定費・一部変動費 月1〜3万円程度
保険(自賠責・任意) 固定費 年5〜15万円
消耗品・包装資材 変動費 売上の3〜5%程度
人件費 なし(オーナー自身) 0円(利益から生活費を充当)

1人運営では人件費がかからない分、FG比率(食材費率+出店料率)を60%以内に抑えれば固定費を引いた後に利益が出やすい構造です。

1人で対応できる1日の食数の目安

キッチンカーで1人が対応できるピーク時の食数は、メニューの種類・調理時間・オペレーションの習熟によって異なります。

1人運営での1日の食数の目安(参考)
業態の例 1人での対応目安(1日) 備考
単一メニュー(たこ焼き・クレープ・カレー等) 50〜80食程度 調理が単純・ルーティン化しやすい
複数メニュー(複数品目を選べる定食系) 30〜50食程度 注文が分散・調理時間が伸びやすい
受注後に仕上げる業態(揚げ物・焼き物) 30〜60食程度 調理と接客の同時進行が難しい

これらはあくまで目安であり、実際の食数は設備・仕込みの量・ピークの集中度によって変わります。「ピーク時に注文が追いつかない」「1日の終わりに体力的に限界を感じる」が常態化してきたら、スタッフの雇用を検討するタイミングです。

スタッフを雇うコストの計算

スタッフを雇う場合の人件費は「時給 × 勤務時間 × 出店日数」で計算できます。社会保険・労働保険の加入要件を満たす場合はさらにコストが増えます。

パートタイムのスタッフを1人雇う場合の例

スタッフ1人分の人件費の計算例
項目 設定値
時給 1,100円
1日の勤務時間 4時間(ランチ前後の仕込み〜撤収)
月の出店日数 20日
月の人件費(時給分) 1,100円 × 4時間 × 20日 = 88,000円
社会保険(雇用保険)の事業主負担 時給の約0.95%(2025年度・業種によって異なる)

この例では月8.8万円の人件費がかかります。この人件費を上回る売上の増加または固定費削減がなければ、雇用することで利益が減ります。

スタッフを雇うと利益が増えるケース

スタッフを雇うことが利益につながるのは、次の条件が揃う場合です。

ケース1:食数を増やせる

1人では対応できない注文がある(行列ができて帰られている)状況で、スタッフを入れることで食数が増えるケースです。

たとえば1日の上限が1人で50食のところ、スタッフを1人入れることで70食対応できるようになる場合を考えます。

  • 追加の売上(1日20食増・客単価900円・月20日) = 20食 × 900円 × 20日 = 360,000円
  • 追加の変動費(55%) = 198,000円
  • 追加の利益(変動費控除後) = 162,000円
  • スタッフの人件費 = 88,000円
  • 純増の利益 = 162,000円 − 88,000円 = 74,000円のプラス

この例では雇用することで月7.4万円の利益が増えます。

ケース2:出店日数を増やせる

1人の体力・時間の限界で月20日しか出店できない状況で、スタッフを入れることで月25日に増やせる場合です。

  • 追加の売上(1日50食・客単価900円・5日増) = 225,000円
  • 追加の変動費(55%) = 123,750円
  • 追加の利益(変動費控除後) = 101,250円
  • スタッフの人件費(5日分) = 1,100円 × 4時間 × 5日 = 22,000円
  • 純増の利益 = 101,250円 − 22,000円 = 79,250円のプラス

出店日数を増やす場合は、スタッフが少ない日数でも効果が大きい場合があります。

スタッフを雇うことで増えるコスト・手間

人件費以外に、スタッフを雇うことで次のコスト・手間が増えます。

  • 採用コスト:求人広告費・面接・採用判断にかかる時間
  • 研修コスト:調理・接客・衛生管理を教えるための時間
  • 労務管理:シフト管理・給与計算・社会保険の手続き(加入要件を超える場合)
  • コミュニケーションコスト:急な欠勤・体調不良への対応

スタッフが1人でも雇用すると、事業主には雇用保険への加入義務が生じます(一定の条件を満たす場合)。詳細は最寄りのハローワークで確認してください。

最初は家族・知人への依頼やスポット活用という選択肢

固定のスタッフを雇う前に、「繁忙期だけ」「イベント出店の日だけ」という形で、家族・知人に手伝ってもらったり、スポット就業サービスを活用したりすることも選択肢の一つです。

ただし業務委託・スポット就業の場合でも、労働実態によっては労働基準法上の雇用関係とみなされることがあります。利用の際は契約形態を確認することをお勧めします。

収支に人件費を組み込んで計算する

スタッフを雇う場合の収支(人件費を含めた利益・損益分岐点)を計算したい場合は、キッチンカー開業 収支シミュレーターで人件費を固定費に加えて計算できます。

収支全体の考え方は「キッチンカーの収支、開業前に知っておくべき数字の全体像。」でまとめています。


記事中の計算はすべて例示です。人件費・社会保険の扱いは雇用形態・勤務時間・業種によって異なります。雇用・労務については最寄りのハローワーク、または社会保険労務士に確認することをお勧めします。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

ご質問はメールで。電話・面談はしていません。

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