障害福祉サービスの短期入所には、福祉・介護職員等処遇改善加算(以下、処遇改善加算)が設定されています。ただし、短期入所には加算の区分(Ⅱ)がなく、(Ⅰ)ロの19.3%が設定されている最も高い加算率です。処遇改善加算は職員への賃金加算として使う義務があり、事業所の利益を直接増やすものではありませんが、採用・定着に影響するため、開業前に仕組みを確認しておく必要があります。この記事では、区分ごとの加算率、なぜ(Ⅱ)がないのか、月の請求でどのように計算するかを、告示と改定資料をもとに順に説明します。
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短期入所の処遇改善加算は、(Ⅰ)ロの19.3%が最も高い
令和6年度の報酬改定(令和6年6月施行)で整理された福祉・介護職員等処遇改善加算の区分と、短期入所に設定されている加算率は次のとおりです。
| 区分 | 短期入所への加算率 | 備考 |
|---|---|---|
| (Ⅰ)イ | 18.6% | |
| (Ⅰ)ロ | 19.3% | 短期入所で設定されている最も高い加算率 |
| (Ⅱ) | 設定なし | 短期入所には区分(Ⅱ)がない |
| (Ⅲ) | 16.5% | |
| (Ⅳ) | 14.2% |
出典:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における処遇改善加算等に関する留意事項等について」および告示(福祉・介護職員等処遇改善加算に関する告示)を当方が確認したものです。(Ⅱ)が設定されていない点は告示と改定資料の両方で確認しています。
実務上、最も高い加算率である(Ⅰ)ロ19.3%を取得するには、加算の算定要件を満たす必要があります。どの区分を取得するかによって月の収入に差が生じるため、開業前に確認しておくことが重要です。
短期入所に処遇改善加算(Ⅱ)がない理由
令和6年度報酬改定では、それまで別々に設定されていた「福祉・介護職員処遇改善加算」「福祉・介護職員等特定処遇改善加算」「福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算」の3種類が、「福祉・介護職員等処遇改善加算」1本に統合されました。この統合の際、各サービスの性質や職種構成に応じて区分の設定が見直されました。
短期入所については、告示上、(Ⅱ)に対応する加算率が設定されていません。(Ⅱ)は主に特定の職種(リハビリ職など)を多く配置する事業所を対象とした上乗せ要件に対応する区分として設定されているサービスがありますが、短期入所の職員構成ではその要件が適用されない設計になっています。短期入所の告示と改定資料のどちらにも、(Ⅱ)の記載はありません。
したがって、短期入所の収支シミュレーターでは(Ⅱ)を選択肢に入れておらず、(Ⅰ)イ・(Ⅰ)ロ・(Ⅲ)・(Ⅳ)の4区分から選ぶ設計になっています。
処遇改善加算の計算は、月の所定単位数の合計に加算率を掛ける
処遇改善加算の月の金額は、次の式で計算します。
処遇改善加算額(月)= 月の所定単位数の合計 × 加算率 × 地域区分の単価
「所定単位数」は、基本報酬に他の加算(単独型加算・短期利用加算・重度対応加算など)を加えたうえで、定員20人以上の大規模型減算(×0.9)を適用した後の単位数です。
短期入所の地域区分の単価(1単位あたりの金額)は、居宅介護等と同じ行が適用されます(厚生労働省告示539号)。
| 地域区分 | 単価(1単位あたり) |
|---|---|
| 1級地(東京都特別区など) | 11.20円 |
| 2級地 | 10.96円 |
| 3級地 | 10.90円 |
| 4級地 | 10.72円 |
| 5級地 | 10.60円 |
| 6級地 | 10.36円 |
| 7級地 | 10.18円 |
| その他の地域 | 10.00円 |
出典:厚生労働省告示第539号(障害福祉サービスの地域区分)を当方が確認したものです。
計算の例。定員6人の事業所が(Ⅰ)ロを取得した場合
「その他の地域」(1単位10.00円)で定員6人の単独型事業所が、月30日・定員×上限90%(月162日分の利用)を受け入れた月を例に計算します。
利用者の障害支援区分の構成を、区分6が15%・区分5が20%・区分4が30%・区分3が25%・区分1と2が10%、日中活動を利用した日の割合を30%として、基本報酬の加重平均を計算すると1日あたり約591単位です。これに単独型加算(320単位)・短期利用加算の対象分を加えた所定単位数の1日あたりの合計を仮に約940単位とすると、1か月(162日)の所定単位数の合計は次のようになります。
- 月の所定単位数の合計:940単位 × 162日 = 152,280単位
- 処遇改善加算((Ⅰ)ロ19.3%):152,280単位 × 0.193 = 約29,390単位
- 処遇改善加算の金額(「その他」10.00円):29,390単位 × 10.00円 = 約293,900円(月)
約29万4千円が処遇改善加算として月の収入に上乗せされますが、この金額は全額を職員への賃金加算(ベースアップ等)として使う義務があります。事業所の利益になるわけではありません。
なお、実際の計算は、日ごとの利用者数・加算の取得状況によって変わります。収支シミュレーターでは、月ごとに計算して表示します。
処遇改善加算は収入に計上されるが、支出(賃金)とほぼ相殺になる
処遇改善加算を取得すると、事業所の月の収入が増えます。その一方で、加算として受け取った金額は職員の賃金に充てなければならないため、同額に近い人件費の増加が発生します。これを「収支」の観点から見ると、次のような関係になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収入側 | 処遇改善加算分が毎月の介護給付費・訓練等給付費に上乗せされる |
| 支出側 | 同額を職員の賃金加算として支払う義務がある(算定要件) |
| 収支差への影響 | 収入増と人件費増がほぼ相殺されるため、営業利益は直接増えない |
| 間接的な効果 | 職員の賃金水準が上がることで、採用・定着に寄与する |
処遇改善加算を取得しないと、職員に支払う賃金は変わらないのに加算収入が入らず、収支が悪化します。加算要件を満たせる体制を整えたうえで取得することが、事業所の経営上も職員への対応としても重要です。
(Ⅰ)ロと(Ⅰ)イの違い。19.3%と18.6%の加算率の算定要件
(Ⅰ)ロと(Ⅰ)イはどちらも「(Ⅰ)」区分であり、基本的な算定要件(キャリアパス要件・職場環境等要件)を満たす必要があります。(Ⅰ)ロは19.3%、(Ⅰ)イは18.6%と、加算率に0.7ポイントの差があります。
(Ⅰ)ロを取得するには、(Ⅰ)イの要件に加えて、職員のさらなるベースアップ等の取り組み(月額2分の1以上を基本給または毎月の手当として支払うなど)が求められます。どちらの要件を取得するかは、事業所の給与規程・賃金改善の取り組みの状況に応じて判断します。
具体的な算定要件の内容は、「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和6年5月31日付 障障発0531第1号等)に定められています。要件の詳細は、事業所の所在地の都道府県または指定権者に確認してください。
処遇改善加算の取得は、開業時の体制づくりに影響する
処遇改善加算を取得するには、加算の算定要件(キャリアパス要件・職場環境等要件)を満たす体制を整え、計画書を都道府県等に届け出る必要があります。開業時から取得するためには、就業規則・賃金規程・キャリアパス制度の整備を開業前に進める必要があります。
開業後に算定を開始する場合、取得できるまでの期間は加算収入が入りません。短期入所の収支差率は全国平均でも約2.3%(令和6年度決算)と低く、加算収入を確保できないことは月の収支に直接影響します。開業の準備段階から、処遇改善加算の算定を見越した体制づくりを進めることが重要です。
当方の収支シミュレーターでは、処遇改善加算の区分((Ⅰ)イ・(Ⅰ)ロ・(Ⅲ)・(Ⅳ))を選んで、月ごとの収支・資金繰りに反映した試算ができます。
収支全体での処遇改善加算の位置づけ
月の収支を計算するときは、処遇改善加算を「収入に加算されるが、支出(人件費)も同額増える」ものとして扱います。収支差に直接プラスになるわけではありませんが、加算を取得していない場合は収入が少なくなるため、相対的に収支が悪くなります。
たとえば、月の所定単位数の合計が150,000単位・地域区分「その他」(10円)の場合、(Ⅰ)ロ(19.3%)と(Ⅲ)(16.5%)では次のような差になります。
| 区分 | 月の処遇改善加算(収入) | 月の賃金加算(支出) |
|---|---|---|
| (Ⅰ)ロ 19.3% | 約289,500円 | 約289,500円(義務) |
| (Ⅲ) 16.5% | 約247,500円 | 約247,500円(義務) |
| 差((Ⅰ)ロ-(Ⅲ)) | 約42,000円 | 約42,000円 |
月の所定単位数150,000単位・地域区分「その他」(10.00円)で当方が計算したものです。
収入と支出の差はほぼゼロですが、(Ⅰ)ロのほうが月4万2千円多く職員に賃金を払えることになります。職員の定着・採用コストの軽減を考えると、要件を満たすなら高い区分を取得しておくことが合理的です。
なお、処遇改善加算の取得区分は、収支シミュレーターの人件費計算に反映されます。区分を変えると月の収支差がどう変わるかを、シミュレーターで確認できます。
処遇改善加算と他の加算との組み合わせ
短期入所は、単独型加算(320単位/日)や送迎加算(186単位/回)など、他にも取れる加算がいくつかあります。処遇改善加算の計算の基になる「所定単位数」には、これらの加算も含まれます。つまり、他の加算を多く取得するほど、処遇改善加算の対象金額も大きくなります。
基本報酬(例:区分4・宿泊型648単位)に単独型加算(320単位)を加えると、1日あたりの所定単位数は968単位になります。地域区分「その他」(10.00円)では、1日の報酬は9,680円です。ここに処遇改善加算(Ⅰ)ロ19.3%を加えると、次のようになります。
- 1日の所定単位数:968単位 × 10.00円 = 9,680円
- 処遇改善加算(Ⅰ)ロ:9,680円 × 19.3% = 約1,868円
- 1日の合計(処遇改善加算込み):9,680円 + 1,868円 = 約11,548円
ただし、この1,868円は職員への賃金加算に充てる義務があります。事業所の手元に残る利益は、あくまで9,680円から人件費・家賃・経費を引いた額です。
短期入所で取れる加算の一覧と条件については、あわせて読みたい:短期入所(ショートステイ)の報酬の仕組み。延べ利用日数と加算の関係。もご参照ください。
まとめ:処遇改善加算の要点
- 短期入所の処遇改善加算は(Ⅰ)イ(18.6%)・(Ⅰ)ロ(19.3%)・(Ⅲ)(16.5%)・(Ⅳ)(14.2%)の4区分。(Ⅱ)は設定なし
- 最も高い加算率は(Ⅰ)ロの19.3%。算定要件(キャリアパス要件・ベースアップ要件等)を満たす必要がある
- 計算式:月の所定単位数の合計 × 加算率 × 地域区分の単価
- 収入には加算されるが、職員への賃金加算として全額支出する義務があり、事業所の利益は直接増えない
- 加算を取得しないと収入が減り、相対的に収支が悪化する
- 開業時から算定できるよう、就業規則・賃金規程・キャリアパス制度の整備を事前に進めておくことが重要
短期入所の採算全体の考え方については、あわせて読みたい:短期入所の開業は、職員の配置の形で採算が決まる。
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この記事の出典
- 障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第523号):福祉・介護職員等処遇改善加算の区分・加算率(短期入所の(Ⅱ)が設定されていないことを含む)を告示本文で確認 e-Gov法令検索
- 厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における処遇改善加算等に関する留意事項等について」:改定資料でも(Ⅱ)の記載なしを確認
- e-Gov法令検索:厚生労働省告示第539号(障害福祉サービスの地域区分。短期入所の単価は居宅介護等と同じ行)
- 厚生労働省「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和6年5月31日付 障障発0531第1号等):算定要件
- 厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」:短期入所の収支差率(令和6年度決算)
この記事の内容は当方が一次資料を確認して整理したものです。当方は行政書士・社会福祉士等の資格者ではありません。事業の開業・経営にあたっては、必ず所管の都道府県・指定権者・専門家に確認してください。記事の最終更新:2026年10月。


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