飲食店の開業から1年後に起きる最大の変化は、元金返済の本格化です。公庫融資700万円・年利2.5%・10年返済の場合、据置期間(6か月)が終わると月次の資金負担が利息のみの約1.46万円から元利合計の約6.6万円に増えます。差額は約5.1万円。同時に、開業ブームが落ち着いた2年目は売上の踊り場になりやすく、設備の故障や修繕費の発生リスクも1年目より高くなります。この3つの変化を数字で確認します。
据置期間が終わると月次の返済負担は5.1万円増える
公庫の創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)では、借入700万円・年利2.5%・10年返済・据置期間6か月という条件です。据置期間中は元金を返済せず、利息のみを支払います。
据置期間中の月次支払い:700万円×2.5%÷12≈14,583円(≈1.46万円)
返済開始後の月次支払い(元利均等):700万円・年利2.5%・10年の元利均等返済額は月約66,000円(≈6.6万円)
この差額の約5.1万円が、返済開始後に毎月の資金から追加で出ていく分です。月商が計画通り322万円を維持できていれば問題ありませんが、売上が77%水準や60%水準にとどまっている場合は損益に直接影響します。
| 月商の水準 | 粗利(原価率35%) | 固定費(万円) | 据置期間中の損益(万円) | 返済開始後の損益(万円) | 変化(万円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 322万円(軌道後100%) | 209.3万円 | 156.1万円 | +51.8 | +46.6 | −5.1 |
| 247.7万円(立ち上がり77%) | 161.0万円 | 156.1万円 | +3.4 | −1.7 | −5.1 |
| 200万円(60%水準) | 130.0万円 | 156.1万円 | −27.6 | −32.7 | −5.1 |
※粗利=月商×(1−原価率35%)。据置期間中の支払い1.46万円、返済開始後の支払い6.6万円(元利均等)を適用。固定費156.1万円は人件費88.6万+家賃20万+その他47.5万の合計。
月商が77%水準(247.7万円)の場合、据置期間中は月3.4万円の黒字でしたが、返済が始まると月1.7万円の赤字に転じます。開業から1年が経過しても売上が計画の77%を下回っている状態が続いていると、返済開始後は毎月赤字になります。
1年目末と2年目の月次損益は返済条件で変わる
元利均等返済では、返済期間が進むにつれて利息の割合が減り、元金の返済割合が増えます。月次の支払額は変わりませんが、残高が減るにつれて利息負担は徐々に軽くなります。
700万円・年利2.5%・10年の元利均等返済の場合、残高の推移は次のとおりです。
返済開始時(7か月目)の残高:700万円、利息:1.46万円/月
1年目末(返済6回後・開業12か月目)の残高:約669万円、利息:約1.39万円/月
2年目末(返済18回後・開業24か月目)の残高:約605万円、利息:約1.26万円/月
利息の軽減分は月で0.1〜0.2万円程度と小幅ですが、10年間累積すると無視できない差になります。
| 時期 | 月商(万円) | 粗利(万円) | 固定費(万円) | 月次返済(万円) | 単月損益(万円) | 累積損益(万円) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1年目末(12か月目) | 322.0 | 209.3 | 156.1 | 6.6 | 46.6 | 約300 |
| 2年目・月商横ばい(13〜24か月平均) | 322.0 | 209.3 | 156.1 | 6.6 | 46.6 | 約859(24か月目) |
| 2年目・月商10%増(354万円) | 354.2 | 230.2 | 156.1 | 6.6 | 67.5 | 約1,110(24か月目) |
| 2年目・月商10%減(290万円) | 289.8 | 188.4 | 156.1 | 6.6 | 25.7 | 約608(24か月目) |
※累積損益は1年目(313万円)からの継続試算。月商横ばいの場合は1年目の313万+2年目の12か月×46.6万=約872万円(利息減少を簡略化して概算)。月商10%減の場合は313+25.7×12≈621万円。初期費用1,260万円の回収には、2年目末でもまだ至らない水準です。
2年目に売上が踊り場になりやすい構造がある
開業直後の売上には、新規開店の話題性・近隣からの好奇心による来店・SNSや口コミサイトへの投稿が後押しします。この効果は開業から3〜6か月で一巡することが多く、1年を過ぎると新規顧客の流入が落ち着きます。
2年目の収益は、リピート客とクチコミによる紹介客が主軸になります。この切り替わりがうまくいかないと、月商が1年目末の水準を維持できなくなります。
日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」(2,165社)では、現在「黒字基調」と回答した割合は67.0%でした。裏を返すと33%は黒字基調にない状態です。開業から数年経過した時点での調査であるため、2年目以降に黒字基調が維持できていない事業者が相当数含まれていると考えられます。
同調査で開業後の苦労として最多の回答は「資金繰り・資金調達(56.9%)」でした。2年目に元金返済が本格化する時期と、売上の踊り場が重なると、資金繰りの苦労が最大になります。
| 月商の変化 | 1年目末の単月損益(万円) | 2年目の単月損益(万円) | 2年目の年間損益(万円) |
|---|---|---|---|
| 10%増(354万円) | 46.6 | 67.5 | 810 |
| 横ばい(322万円) | 46.6 | 46.6 | 559 |
| 5%減(306万円) | 46.6 | 36.1 | 433 |
| 10%減(290万円) | 46.6 | 25.7 | 308 |
| 15%減(274万円) | 46.6 | 15.2 | 182 |
| 20%減(258万円) | 46.6 | 4.7 | 56(ほぼ収支均衡) |
※2年目の月商は1年目末から同一水準を継続したものとして計算。粗利率65%・固定費156.1万・月次返済6.6万を適用。月商274万円(15%減)まで落ちると年間損益は179万円に留まり、2年間の累積損益回収が大幅に遅れます。
設備の故障・修繕費は開業1〜3年目に発生しやすい
飲食店の厨房設備には税法上の法定耐用年数があります(冷蔵庫・冷凍庫:6年、ガスレンジ・調理機器:8〜10年)。しかし法定耐用年数は会計上の基準であり、実際の故障時期は使用頻度・清掃状況・設備の品質によって変わります。
開業後1〜2年の時期に不具合が出やすいのは、毎日高負荷で稼働する冷蔵庫のコンプレッサー、グリストラップのポンプ、換気扇のモーターなどです。これらは定期清掃で延命できますが、部品交換や修繕が必要になると数万〜数十万円の費用が発生します。
修繕費の積み立て目安として、設備取得費の5〜10%/年を毎月積み立てる方法があります。
| 設備取得費 | 年間修繕予備費(5%) | 月次積み立て額(5%) | 年間修繕予備費(10%) | 月次積み立て額(10%) |
|---|---|---|---|---|
| 150万円(厨房のみ・最低限) | 7.5万円 | 0.6万円 | 15万円 | 1.3万円 |
| 300万円(厨房+什器) | 15万円 | 1.3万円 | 30万円 | 2.5万円 |
| 500万円(内装込み) | 25万円 | 2.1万円 | 50万円 | 4.2万円 |
| 970万円(公庫記入例・設備資金合計) | 48.5万円 | 4.0万円 | 97万円 | 8.1万円 |
公庫の記入例では設備資金970万円を借入で調達しています。修繕予備費を5%で積み立てる場合は月4万円、10%なら月8.1万円を別途確保することになります。2年目に修繕費の積み立てと元金返済が重なると、毎月の資金需要は計画時より10〜14万円以上多くなるケースがあります。
2年目以降の資金計画は1年目の余剰利益から逆算する
公庫の記入例(月商322万・原価率35%・固定費156.1万・返済6.6万)で計算すると、1年目の累積損益は約300万円(黒字化の記事の試算では313万円)です。このうち修繕予備費・税金・生活費などに充てられる金額を確認しておく必要があります。
2年目以降の資金計画を組む際のポイントは3つです。
第1に、修繕積み立ての明示化です。設備費970万円の5%である年間48.5万円(月4万円)を、1年目の余剰利益から分離して修繕用の口座に移す運用が有効です。急な故障に備える金額を「使える資金」とは別に管理します。
第2に、返済残高の確認です。700万円・年利2.5%・10年の場合、2年目末(返済18回後)の残高は約605万円です。万が一業況が悪化して借り換えや繰り上げ返済を検討する際は、残高と手元資金の水準を年1回確認しておきます。
第3に、消費税の納付タイミングです。開業後2年目から課税事業者になるケースがあります(前年1〜6月の特定期間の課税売上高または給与等が1,000万円を超えた場合)。基準期間(前々年)の売上が1,000万円を超えた場合は3年目以降に課税事業者になります。消費税の納付は決算後の一括払いのため、年間の売上規模によっては数十万〜百万円単位の資金が必要になります。事前に税理士に確認して資金を確保しておきます。
2年目に最低限必要な運転資金は固定費の3か月分
公庫の新規開業実態調査で苦労の1位「資金繰り・資金調達(56.9%)」が多い理由の一つは、開業時に必要な運転資金の見積もりが甘かったことです。
公庫の記入例では、運転資金290万円(初期仕入90万+その他140万+準備期間の家賃等60万)を計上しています。月次固定費156.1万円で割ると、290万円は約1.9か月分に相当します。開業後の赤字や売上の立ち上がりのバッファとして、固定費の1.9か月分しかない状態です。
| 運転資金の水準 | 月次固定費(万円) | 相当する金額 | カバーできる赤字月 |
|---|---|---|---|
| 1か月分(最低限) | 156.1 | 約156万円 | 赤字が月15万円なら約10か月 |
| 1.9か月分(公庫記入例水準) | 156.1 | 約290万円 | 赤字が月15万円なら約19か月 |
| 3か月分(推奨最低水準) | 156.1 | 約468万円 | 赤字が月15万円なら約31か月 |
| 6か月分(余裕ある水準) | 156.1 | 約937万円 | 赤字が月15万円なら約62か月 |
※カバーできる赤字月の計算例:運転資金÷月次赤字額。赤字額は月商が損益分岐点(約249万円)を下回った分から計算。
1年目に黒字を積み上げて手元資金を増やしておくことが、2年目以降の資金ショートを防ぐ最大の対策です。公庫記入例の水準(月商322万円・単月損益46.6万円)が12か月続くと1年間で約559万円の損益が出ます。この中から修繕積み立て(月4万円×12=48万円)・消費税の納付分・生活費を除いた金額が、2年目のバッファになります。
2年目以降の資金繰りが苦しくなるのは、元金返済の増加・売上の横ばい・修繕費の発生が同時に重なるときです。この3つが重なるリスクを1年目のうちに把握して、黒字を手元に残す意識を持つことが重要です。
まとめ:2年目の3つの変化を1年目のうちに織り込む
飲食店の2年目に起きる変化は、①元金返済の本格化(月次資金負担が約5.1万円増)、②売上の踊り場リスク(開業ブームの一巡)、③設備の修繕費発生、の3点です。
公庫の記入例水準(月商322万円・固定費156.1万円)では、2年目も月次損益は約46.6万円の黒字を維持できます。ただし月商が10%減(290万円)になると単月損益は約25.7万円に落ち、修繕積み立てを加えると実質的な余力はさらに小さくなります。
2年目に向けた準備は、1年目の段階で数字を確認しながら進めることが大切です。開業から36か月の月次収支と資金残高の推移は、飲食店の開業 収支シミュレーターのPro版で確認できます。月商・原価率・返済条件を入力すると、何か月目に資金残高が最も少なくなるかが36か月分のグラフで表示されます。
本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」および「2025年度新規開業実態調査(2,165社)」をもとにした試算です。実際の数字は業態・物件・経営状況により異なります。借入・返済の条件については金融機関にご確認ください。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。


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