飲食店の開業資金はいくら必要か。公庫の記入例1,260万円を、設備資金と運転資金に分けて読む。

飲食店の開業資金はいくら必要か。公庫の記入例1,260万円を、設備資金と運転資金に分けて読む。 飲食店の開業

飲食店の開業資金は、日本政策金融公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋・25席)で1,260万円です。内訳は、店舗の内外装工事・厨房機器・什器備品・保証金の「設備資金」が970万円、仕入・広告費などの諸経費・家賃の「運転資金」が290万円です。全業種の開業者の開業費用は、平均値が975万円、中央値が600万円で、500万円未満で始めた人が41.8%います(公庫「2025年度新規開業実態調査」)。飲食店だけの開業費用の統計はこの調査にはありませんが、内装・厨房機器・保証金で設備資金が大きくなりやすい業種なので、全業種の中央値より上に出やすいと考えられます。

開業資金は「設備資金」と「運転資金」に分けると見通しがよくなります。公庫の記入例の1,260万円がどう組み立てられているかを読んだうえで、運転資金に入れ忘れやすい「開業1か月目の入金の穴」と「開業後の赤字の累計」を、当方の試算で確かめます。

全業種の開業費用は、平均975万円・中央値600万円。4割が500万円未満

日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(公庫の融資先で開業後1年以内の企業・全業種・回答2,165社)では、開業費用の分布と平均は次のとおりです。

開業費用の分布(2025年度新規開業実態調査・全業種)
開業費用 割合
250万円未満 20.1%
250万〜500万円未満 21.7%
500万〜1,000万円未満 29.7%
1,000万〜2,000万円未満 18.5%
2,000万円以上 10.0%
平均値 975万円
中央値 600万円

平均値975万円と中央値600万円の差は、一部の開業者の費用が大きいことを示しています。半分の開業者は600万円以下で開業しています。この調査では開業費用は長期的に少額化の傾向にあり、平均値は1991年度の1,440万円から、年による上下はあるものの、2025年度の975万円まで下がってきています。

資金の調達額は平均1,219万円で、内訳は金融機関等からの借入が827万円(67.9%)、自己資金が279万円(22.9%)、配偶者・親・兄弟・親戚からが53万円、友人・知人等が41万円、その他19万円です。開業資金の約7割を借入でまかなっているのが、全業種の平均の姿です。

出典:日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」9〜10ページ 図-13・図-14(調査時点2025年8月)。飲食店だけの開業費用の数字は、この調査には載っていません。

公庫の記入例の必要な資金は1,260万円。設備970万円と運転290万円

創業計画書の記入例(洋風居酒屋・2025年4月版)の「8 必要な資金と調達方法」欄は、次のように埋められています。左右の合計が一致する形です。

公庫の記入例「必要な資金と調達方法」(洋風居酒屋・25席)
必要な資金 金額 調達の方法 金額
設備資金:店舗内外装工事 500万円 自己資金 360万円
設備資金:厨房機器 200万円 親、兄弟、知人、友人等からの借入(父・元金2万円×100回・無利息) 200万円
設備資金:什器・備品類 150万円 日本政策金融公庫からの借入(元金10万円×70回) 700万円
設備資金:保証金 120万円
設備資金の小計 970万円
運転資金:仕入 90万円
運転資金:広告費等諸経費支払 140万円
運転資金:家賃等 60万円
運転資金の小計 290万円
合計 1,260万円 合計 1,260万円

設備資金の970万円のうち、内外装工事が500万円と半分を占めます。公庫の手引は、内外装工事について「2社以上から見積書を取って、工事価格の妥当性や相場観をつかんでいるか」を確認項目に挙げ、様式にも「見積書などを添付してください」と書かれています。設備資金は、見積書の金額で決まる部分です。

運転資金の290万円は、売上の月商248万円(創業当初)と比べると約1.2か月分です。内訳の「家賃等60万円」は、家賃20万円の3か月分にあたります。開業までの準備期間に家賃が先に発生することを見込んだ数字と読めます。

出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」(2025年4月版)「8 必要な資金と調達方法」欄。

設備資金は見積書で決まり、運転資金は赤字の月数で決まる

設備資金と運転資金は、見積もり方が違います。公庫の手引(飲食業編)の「必要な資金」の確認項目を整理すると、次のようになります。

公庫の手引「5 必要な資金」の確認項目(要約)
区分 確認すること
物件 出店予定地の家賃・保証金は、周辺相場と比べて高くないか
内外装 飲食店の内外装工事の実績がある工事業者を知っているか。2社以上から見積書を取っているか
規模 出店場所や内外装のグレードは、調達できる金額(自己資金や借入金等)を算段した上で決めているか
運転資金 創業時の広告宣伝費や人材募集費等の運転資金、事業開始後の運転資金(半年程度の赤字補てん資金等)の準備は大丈夫か
居抜き 譲渡してもらう造作・設備の価格の内訳と妥当性を確認しているか。前オーナーがどんな理由で店を閉めたか確認しているか(立地的な問題なら注意)

手引は「創業後は、思ったように売上が上がらないこともあります。赤字の期間も資金が不足しないように運転資金に余裕を持たせておきましょう」とも書いています。運転資金は「半年程度の赤字補てん資金」という目安で見られています。

もう1つ、手引が注意しているのは物件契約の順番です。「これ以上の物件はもう出ない」と思い込んで、資金調達の準備(特に金融機関からの借入が決定していること)が整う前に賃貸借契約を結んでしまうケースがよくあるとして、本契約は資金調達の準備が整ってからとしています。契約を先にすると、融資が決まる前から家賃が発生し、運転資金を食います。

出典:日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに飲食業を始めるみなさまへ」4ページ(物件契約の順番)、8ページ(必要な資金の確認項目)。

運転資金には、開業1か月目の「入金の穴」も入れる

運転資金で見落としやすいのが、キャッシュレス決済の入金の遅れです。現金の売上はその日のうちに手元に入りますが、クレジットカードや電子マネーの売上は、決済手数料を引かれて翌月以降に入金されます。公庫の記入例でも、販売先は「一般個人(現金)70%・即金」と「一般個人(クレジット・電子マネー)30%・翌月20日回収」に分けて書かれています。

開業1か月目は、キャッシュレス分の売上が月内に入らないので、売上の金額と手元に入る金額に差が出ます。たとえば1か月目の売上が約248万円で、キャッシュレスの割合が40%なら、約99万円が翌月に回ります。その月の仕入・人件費・家賃は当月に払うので、この約99万円は運転資金で埋めるしかありません。キャッシュレスの割合が高い店ほど、この穴は大きくなります。

この差は開業1か月目だけでなく、売上が増えている間は毎月少しずつ発生します(今月の売上のキャッシュレス分が入るのは来月なので、今月の入金は先月の売上をもとにした額になるためです)。売上が安定すれば、入金も売上と同じ水準で安定します。

試算の例:初期費用1,033万円の店で、必要な資金の目安は約1,370万円

当方の「飲食店の開業 収支シミュレーター」の初期値は、公庫の記入例の「軌道に乗った後」の水準(25席・26日営業・昼900円×1.0回転・夜4,500円×0.9回転で月商約322万円、原価率35%、人件費約94万円、家賃20万円、その他約47万円)に合わせた例です。開業1か月目の売上は計画の77%から始まり、12か月目に100%になる前提で、キャッシュレス40%・翌月入金、個人事業で事業主の生活費25万円を毎月引く、準備期間3か月、借入1,000万円(年2.5%・10年・据置6か月)としています。

この例の初期費用と、開業後36か月の資金繰りから計算した「必要な資金の目安」は次のとおりです。

試算の例:必要な資金の目安(初期値・当方の計算)
区分 内容 金額
設備資金 保証金120万・礼金20万・仲介手数料20万・内外装500万・厨房機器200万・什器備品80万・看板等30万 970万円
運転資金(開業前) 営業許可・講習 約3万・採用10万・初期仕入30万・その他20万 約63万円
運転資金(準備期間3か月) 家賃と光熱費等の一部 約25万円×3か月、事業主の生活費25万円×3か月 約150万円
運転資金(開業後) 入金が支出と生活費を下回る分の累計(開業7か月目まで) 約188万円
必要な資金の目安 上の合計。開業7か月目(2027年10月)に資金の谷が来る 約1,370万円
調達の例 自己資金450万円+借入1,000万円 1,450万円

記入例の設備資金970万円と同じ水準の店で、運転資金は開業前・準備期間・開業後を合わせて約400万円になりました。記入例の運転資金290万円より多いのは、この試算が「事業主の生活費25万円を毎月引く」「キャッシュレス40%が翌月入金」「開業1か月目の売上は77%から」という前提で、開業後の赤字の累計まで数えているためです。前提を変えれば数字は変わります。大事なのは、運転資金を「開業前の経費」だけで終わらせず、開業後に入金が支出を下回る期間の分まで数えることです。

この例では、自己資金450万円と借入1,000万円の合計1,450万円で、必要な資金の目安1,370万円を上回り、資金残高が最も少ない月でも約40万円のプラスで36か月を通ります。ただし、客数が計画の90%にとどまると開業5か月目に資金がマイナスになります。この点は「飲食店の開業後、資金が減り続ける月は何か月あるか」で、月ごとの数字を載せています。

資金の谷が開業直後ではなく7か月目に来るのは、立ち上がりと元金返済が重なるから

上の試算で「必要な資金の目安」が最大になるのは、開業7か月目(2027年10月)です。開業直後ではありません。理由は2つあります。1つは、売上が計画の77%から毎月少しずつ増える間、人件費と家賃は満額かかるので、小さな赤字が数か月積み上がること。もう1つは、借入の据置期間(この例では6か月)が終わって元金の返済が始まるのが開業7か月目で、そこで月の支出が約8.8万円増えることです。

準備期間の長さも、運転資金を大きく動かします。この例の準備期間の1か月あたりの支出は、家賃20万円と光熱費・通信費の一部約5万円、個人事業の生活費25万円で約50万円です。準備期間が3か月なら約150万円、工事の遅れなどで6か月に延びれば約300万円になります。物件を契約してから開業までの期間は、家賃と生活費が出ていくだけの期間なので、短くする工夫(契約前に工事業者と保健所の相談を済ませておく、など)が運転資金の節約に直結します。

公庫の手引は、出店場所や内外装のグレードを「調達できる金額(自己資金や借入金等)を算段した上で決めているか」と問いかけています。必要な資金の合計が調達できる額を上回ったら、売上の計画を大きくして帳尻を合わせるのではなく、設備資金のグレードを見直す(居抜き物件を検討する、厨房機器を中古やリースにする)か、借入額や据置期間を金融機関に相談するのが、手引の考え方に沿った順番です。

許認可の費用は小さいが、忘れると開業できない

飲食店の開業に必要な手続きの費用は、設備資金に比べると小さい金額です。東京都の例では、飲食店営業の新規の許可申請手数料が18,300円(練馬区の手数料一覧)、食品衛生責任者の養成講習会の受講料が12,000円(東京都食品衛生協会・教材費込み・約6時間)です。合わせて約3万円で、手数料は自治体によって異なります。

費用は小さくても、営業許可がなければ開業できません。保健所への許可申請は、内装工事が終わってから施設の検査を受ける流れになるため、工事の前に図面で保健所に相談しておくと、手洗い設備や区画の要件を満たさずに工事をやり直す事態を避けられます。収容人員30人以上の店舗では防火管理者の選任(消防法施行令第1条の2)、深夜0時以降に酒類を提供する店では警察署への深夜酒類提供飲食店営業の届出(風営法第33条)も必要です。必要な手続きは店舗の条件で変わるため、所轄の窓口での確認が必要です。

出典:練馬区「食品衛生法許可手数料一覧」、一般社団法人東京都食品衛生協会「食品衛生責任者養成講習会」。

自己資金は、金額だけでなく「貯めた過程」が見られる

公庫の手引は、自己資金について「自己資金の蓄積過程は通帳などで確認できるか」「自己資金が少なく借入依存の計画になっていないか」を確認項目に挙げ、「創業に向けてコツコツ貯めていることが、創業準備の表れ」としています。「一攫千金で得た資金や第三者から融通してもらった資金だけでは計画性が高いとは思われません」とも書かれています。

全業種の平均では、自己資金は資金調達額の22.9%です。記入例では、1,260万円のうち自己資金360万円(約29%)です。融資の条件や自己資金の要件は制度によって変わるため、最新の案内で確認が必要ですが、「開業を思い立った日から貯め始め、通帳に記録を残す」ことが、手引の一貫した助言です。

開業資金を見積もる手順

  • 物件の候補ごとに、保証金・礼金・仲介手数料と家賃を確認し、周辺相場と比べる
  • 内外装工事は2社以上から見積書を取る。居抜きなら造作の内訳と、前の店の閉店理由を確認する
  • 厨房機器・什器備品・看板・ホームページの見積もりを集め、設備資金の合計を出す
  • 開業前の経費(許可の手数料・講習・採用・初期仕入・開業時の広告)を積み上げる
  • 物件契約から開業までの準備期間に発生する家賃と、個人事業なら生活費を数える
  • 開業後の売上を低めに置き、キャッシュレスの入金の遅れを含めて、入金が支出を下回る月の不足額を足し合わせる
  • 合計を、自己資金と借入でまかなえるかを確かめる。足りなければ、設備のグレードか借入額を見直す

「飲食店の開業 収支シミュレーター」では、初期費用を設備資金と運転資金に分けて入力し、売上の立ち上がりとキャッシュレスの入金の遅れ、借入の返済、個人事業なら生活費を含めて、開業準備期間から36か月の資金繰りと「必要な資金の目安」を計算します。公庫の様式の「必要な資金と調達の方法」の形で表示するので、左右の差額がいくらかも分かります。基本の機能は無料です。

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出典

作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月7日。試算の例の数字は、当方のシミュレーターの初期値(例示・推奨値ではありません)で計算したもので、実際の必要額は店舗の条件で変わります。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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