訪問看護ステーションの開業を準備している方から、「法定研修はいつから始めればいいですか」という質問をよく受けます。
結論を先に言うと、指定申請の書類を作る段階(開業日より前)から研修の計画を立て、指定を受けた日から義務が始まります。採用したばかりの職員がいれば、開業初日からすでに「新規採用時の研修」を行う義務があります。
この記事では、訪問看護ステーションの開業と法定研修の関係を、根拠条文と実務の流れで整理します。
法定研修の義務は、指定を受けた日から始まる
訪問看護の法定研修・訓練の根拠は、指定居宅サービス等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)です。第67条の準用規定によって、虐待防止・身体拘束・感染症・BCPなどの研修・訓練の義務が訪問看護ステーションに適用されます。
条文は「事業者は、…研修を定期的に実施しなければならない」という形で義務を定めており、その前提となる「事業者」は指定を受けた日から生じます。したがって、法定研修の義務は指定日から発生します。
開業前・準備期間中の未指定の段階には、条文上の義務はありません。ただし、指定を受けてすぐに義務が始まるため、開業日に向けて実施できる体制を整えておく必要があります。
指定申請の前に、研修計画書の作成が求められる
開業に向けた準備で最初に研修が関係してくるのは、都道府県への指定申請書類を整える段階です。
多くの都道府県・政令市では、訪問看護ステーションの指定申請書類のひとつとして「研修計画書」(または「研修年間計画」「職員研修に関する書類」)の提出を求めています。書式・名称は自治体によって異なりますが、「年間を通じて誰に何の研修をどのくらいの頻度で実施するか」を計画として示す書類です。
申請書類のチェックリストに研修計画の記載がある場合、書類が揃っていないと受理されません。申請日の2〜3か月前から書類を集め始める自治体が多いため、その段階で研修計画を立てる必要があります。
研修計画書に書く内容の例として、次のような項目が含まれることが多いです。
- 対象となる研修テーマ(虐待防止・感染症・BCP等)
- 実施予定の時期(○月・年○回など)
- 対象者(全職員・新規採用者など)
- 実施方法(内部研修・外部研修・eラーニング等)
- 記録の保存方法
申請前から計画書を整えておくことで、開業後すぐに実施の体制に移れます。
開業日から義務が発生する研修のテーマと回数
指定を受けた日から義務が始まる研修・訓練のテーマと、最低限の回数は次のとおりです。
| テーマ | 研修の回数 | 訓練の回数 | 委員会 |
|---|---|---|---|
| 虐待防止 | 年1回以上(新規採用時も必須) | — | おおむね3か月に1回以上 |
| 身体拘束の適正化 | 年1回以上(新規採用時も必須) | — | — |
| 感染症・食中毒の予防 | 年2回以上(新規採用時も必須) | 年2回以上 | おおむね3か月に1回以上 |
| 業務継続計画(BCP) | 年1回以上(新規採用時も) | 年1回以上 | — |
| 非常災害への対応 | — | 年2回以上 | — |
出典:指定居宅サービス等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第67条準用・第28条の2・第29条の2・第26条の2・第34条の2
「年1回以上」のテーマについて、開業年は「指定を受けた日からその年度の終わりまでに1回」が最低ラインです。指定が11月なら、3月末までに実施することになります。年度の途中で開業したからといって、その年は免除されるわけではありません。
新規採用時の研修は、採用の都度その職員に実施する
虐待防止・身体拘束・感染症については、定期の年次研修とは別に、新しく採用した職員を対象に個別の研修を実施する義務があります。
根拠条文は、たとえば虐待防止であれば「定期的及び新規採用時に研修を実施すること」(第28条の2の準用)という形です。つまり「年1回の定期研修に来年参加してもらえばいい」ではなく、採用したその都度、対象テーマについて別に研修を実施する必要があります。
開業初日に職員が揃った状態で業務を開始する場合、その全員が「新規採用」です。指定を受けた日から起算して、できるだけ早い段階で虐待防止・身体拘束・感染症の研修を実施することが求められます。
実務では、開業前の職員研修(まだ指定を受けていない段階での内部勉強会)を行い、指定後に記録として整備するという方法をとる事業所もあります。ただし、記録の日付は実際に実施した日付を正確に記載することが重要です。
委員会は、開業後3か月以内に第1回を開く
法定研修のうち、「委員会」が義務づけられているテーマがあります。
- 虐待防止委員会:おおむね3か月に1回以上
- 感染症・食中毒の予防に関する委員会:おおむね3か月に1回以上
「おおむね3か月に1回以上」は、指定を受けた日を起点として数えます。開業から3か月以内に第1回を開催しておかないと、基準を下回ることになります。
委員会はテレビ電話等による参加が認められています。専任の担当者を置く義務がありますが(虐待防止担当者・感染症等の予防策を検討する会議の主催者)、規模の小さいステーションでは管理者が担当者を兼ねる形が多いです。
委員会を開催したら、その都度、議題・出席者・決定事項を記録として残します。運営指導(実地指導)では記録の有無と内容が確認されます。
記録の保存は、研修を実施した当日から義務が生じる
研修や訓練を実施したときは、その記録を保存する義務があります。基準は「記録を整備すること」を求めており、保存期間は完結の日から2年間です(基準第73条の準用)。
記録に含めるべき内容は明確に定められているわけではありませんが、運営指導での確認事項として次の項目が挙がります。
- 実施日・実施時間
- 研修テーマ
- 出席者(署名または出席確認)
- 実施内容の概要(テキスト・資料のコピーを添付すると明確)
- 担当講師または実施責任者の氏名
記録を残す習慣は、開業初日から始めます。「あとでまとめて作る」は記憶違いや抜け漏れが生じやすく、運営指導の場で指摘を受けるリスクが高まります。
開業初年度の研修計画を立てるときの考え方
年度の途中で開業した場合も、その年度の残り期間の中で計画を立てます。たとえば10月に開業した場合、翌3月末まで(6か月間)の研修スケジュールを作ります。
計画を立てるときの考え方として、次の順番が実務では整理しやすいです。
まず「回数の多いテーマ」を先に押さえる
年2回以上が義務のテーマ(感染症・非常災害訓練)は、半年の間に2回実施しなければなりません。残り期間が6か月なら月1回ペースで消化する必要があります。先に日程を決めておかないと、年度末に詰め込む形になります。
新規採用時の研修は「採用したその週中」を目安に
新しいスタッフが入職したとき、「落ち着いてから研修しよう」と後回しにすると、忙しさの中で抜け落ちる可能性があります。入職した週中、あるいは最初の出勤日にオリエンテーションと合わせて実施するルールを最初から作っておくと、抜け漏れを防げます。
委員会の開催日は年間で先に決める
3か月に1回以上の委員会は、毎四半期の頭の月(4月・7月・10月・1月)などに固定日を設けておく方法が管理しやすいです。開業年は開業月を起点に3か月ごとに入れていきます。
申請書類の「研修計画書」に書く内容のポイント
実際に申請書類を整えるとき、研修計画書のポイントをまとめます。
テーマと頻度は基準に合わせる。義務の5テーマ(虐待防止・身体拘束・感染症・BCP・非常災害訓練)と、それぞれの最低回数を満たす内容にします。基準の回数を下回る計画は、申請時に指摘を受けることがあります。
実施方法を具体的に書く。「内部研修(OJT形式)」「管理者による勉強会」「外部講師招致」「eラーニング等の活用」など、実際に行う方法を書きます。「実施方法:未定」の状態で出すと、準備が整っていない印象を与えます。
記録の保存方法も記載する。「研修実施記録として紙で保存、2年間保管」などの一文を入れておくと、基準との整合が伝わります。
開業後に追加で覚えておくべきこと
義務のテーマとは別に、訪問看護ステーションとして職員の理解を整えておく必要があるテーマがあります。
特に開業初期に重要なのは次の3点です。
医師の指示書の管理ルール
訪問看護は主治医の指示のもとに行われます。訪問看護指示書の有効期間(通常6か月以内)・特別訪問看護指示書の発行条件と有効期間(14日以内・月1回原則)・保存義務(完結の日から5年間)を、全職員が理解している必要があります。指示書なしの訪問看護は保険算定できません。
ターミナルケアの対応方針
在宅での看取りに関わる場面が生じたとき、職員が何をすべきか・主治医やケアマネジャーにいつ連絡するかを事前に整理しておきます。ターミナルケア療養費の算定に必要な記録(訪問内容・利用者・家族への説明と同意確認)についても、開業前に方針を決めておくと現場が動きやすいです。
ハラスメント防止の方針
利用者・家族からの暴言・暴力・ハラスメントへの対応は、個別に判断するのではなく、事業所としての方針を職員に示しておくことが重要です。国は2021年度から介護事業者に対してハラスメント対策の体制整備を求めており(介護労働安定センター等のガイドライン)、訪問看護でも同様の視点が必要です。
研修の記録・計画書の作成と管理を一元化する方法
開業初期は、研修の記録フォーマットを作ることから始まります。紙の場合はテーマ別のファイルに分けて保存する方法が多いですが、職員数が増えてくると出席管理や確認テストの実施・記録が煩雑になってきます。
訪問看護ステーション向けの法定研修・訓練キット( https://fufumumu-design.com/kenshu-kit-kango/ )では、義務の5テーマを含む12テーマの研修資料・確認テスト・受講記録・委員会の議題案をブラウザ上で管理できます。開業初日から記録を残せる状態にしておけるのは、準備の手間を減らすうえで一つの選択肢です。虐待防止テーマは無料で利用できます。
また、開業前の収支の試算には、訪問看護ステーション開業向け収支シミュレーター( https://fufumumu-design.com/houmon-kango-keikaku/ )が参考になります。介護保険・医療保険の両方に対応し、地域区分・加算・職員配置を入力して初期費用と3年分の収支を確認できます。
この記事で確認した根拠
- 指定居宅サービス等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第67条・第28条の2・第29条の2・第26条の2・第34条の2・第73条
- 同基準の解釈通知(老振発第1016001号・2000年10月16日)
研修の義務内容・回数は、令和6年度(2024年度)改定後の基準に基づいています。令和9年度(2027年度)の改定が予定されているため、改定の際には内容の見直しが必要です。
あわせて読みたい:訪問看護の医師の指示書、研修でどう扱うか。
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