委託契約に消費税が含まれているかどうかを確認してから、インボイス登録の判断を始めてください。
インボイス登録の手続きを先に進めようとするフリーランスエンジニア・デザイナー・ライターの方から、「登録したのに単価が変わらなかった」「消費税分は上乗せされないと言われた」という声を聞くことがあります。
その背景には、委託契約の金額に消費税が含まれているのかどうかが、最初から曖昧なままになっていることがあります。
この確認を先にしておくと、登録が必要かどうかの判断と、交渉の出し方が変わります。
委託料の消費税は3パターンある
フリーランスに支払われる委託料は、消費税の扱いによって3つに分かれます。
| パターン | 契約書の書き方の例 | 消費税の扱い |
|---|---|---|
| 外税(税別) | 月額50万円(別途消費税) | 50万円+消費税5万円=55万円が支払われる |
| 内税(税込) | 月額55万円(税込) | 55万円の中に消費税が含まれている |
| 記載なし(不明) | 月額50万円 | 消費税の扱いが明示されていない |
外税であれば、インボイス登録後は委託元が消費税分を別途上乗せして支払うことが明確です。
内税の場合は、現在受け取っている金額の中に消費税がすでに含まれています。税込55万円なら、そのうち約4.5万円が消費税相当です。
記載なし(不明)の場合は、委託元・自分の双方で認識が異なっていることがあります。これが最も問題になりやすいパターンです。
フリーランスに多い「記載なし」の理由
フリーランスエンジニアの委託契約には、「記載なし」が多い構造的な理由があります。
SES(システムエンジニアリングサービス)契約や準委任契約では、「月額○○円」という書き方が慣習的に使われてきました。特に2023年10月のインボイス制度開始前は、消費税の扱いを明示しなくても取引が成立していた時代が長く続いていました。
また、クラウドソーシング(クラウドワークス・ランサーズ等)経由の案件では、プラットフォームが表示する報酬額に消費税の扱いが含まれているかどうかが分かりにくいことがあります。
デザイナー・ライターの場合も、制作料を「1本3万円」のように決める慣習があり、消費税について明示されないまま続いてきた契約が多くあります。
発注する側の立場から言うと、「この費用に消費税が含まれているか」を先方に確認しないまま進めて、後から聞きにくくなることは実際にあります。確認するなら、相手が登録の判断をする前のタイミングが最も聞きやすいです。
消費税が「記載なし」のまま登録すると手取りが変わる
記載なしの契約でインボイス登録をすると、状況によって手取りが変わります。
| 委託元の対応 | 月額50万円の例 | 手取りの変化 |
|---|---|---|
| 消費税5万円を上乗せしてくれる | 55万円を受け取り、消費税5万円を納税 | 手取り50万円(変わらない) |
| 金額を変えない(据え置き) | 50万円を受け取り、消費税4.5万円を納税 | 手取り約45.5万円(約4.5万円減) |
| 免税のまま(未登録)を選ぶ | 50万円を受け取り、消費税の納税なし | 手取り50万円(変わらない) |
「記載なし」のまま登録した場合、委託元が「金額は変わりません」と答えた場合は、手取りが消費税分だけ減ることになります。
2026年12月31日まで(2割特例の期間・個人の場合)であれば、売上税額の8割が控除されるため納税額は少ないですが、2027年・2028年は3割特例、2029年以降は簡易課税または本則課税に移行します。
確認すべきことは「消費税の扱いが書いてあるか」
まず手元の契約書・業務委託契約書・注文書・発注書を確認します。
確認する場所:
・金額の記載欄に「税込」「税別」「消費税別途」「+消費税」のどれかが書いてあるか
・「総額表示」「税抜価格」という言葉があるか
・消費税や適格請求書(インボイス)について言及している条項があるか
何も書いていない、または「50万円」とだけ書いてある場合は、確認が必要です。
委託元への確認の仕方
消費税の扱いが不明な場合、確認のメール文例です。
件名:現在の契約における消費税の扱いについての確認
いつもお世話になっております。[自分の名前]です。
インボイス制度について確認させてください。
現在の業務委託契約において、月額の委託料に消費税は含まれておりますでしょうか。
・税込(消費税込みの金額)
・税別(消費税は別途)
・未定(今後ご相談)
のいずれになるかをお知らせいただけますと幸いです。
インボイス登録の判断に関わりますため、ご確認いただければ助かります。
よろしくお願いいたします。
「登録するかどうかを決める前に確認したい」という理由を添えると、先方も答えやすくなります。
消費税分を上乗せしてほしいとき、根拠になる考え方
5省庁(財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省)が作成したQ&Aには、次の考え方が示されています。
「免税事業者であった仕入先が課税事業者に転換した場合、新たに納税が必要となる消費税分について、①仕入先と明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は取適法上の買いたたきとして…それぞれ問題となるおそれがある」
出典:5省庁「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和8年1月30日改正)Q5
「協議することなく据え置く」ことが問題になるとされています。逆に言えば、協議の場を設けることを相手に求めることは、あなたの正当な行動です。
また、同Q&Aには次の記述もあります。
「仕入先は、新たに納税が必要となる消費税分の値上げが本来必要な場合であっても、取引関係上、価格交渉を申し出ることが難しいことも考えられますので、こうした場合も念頭に、インボイス制度を踏まえて課税転換した事業者に対しては、発注側から価格交渉を申し出ることを積極的にご検討ください。」
出典:同Q&A Q5
発注側から申し出ることを「積極的に検討してください」と、国の機関が発注側に求めている内容です。
複数の委託元がいる場合は個別に確認する
フリーランスエンジニア・デザイナー・ライターの方は、複数の委託元から仕事を受けていることがあります。委託元ごとに消費税の扱いが異なる場合があるため、個別に確認が必要です。
合わせて確認しておくとよい4点:
①委託元の課税・免税の状況
委託元自身が免税事業者の場合、あなたのインボイス登録を求めてくることはありません(委託元が仕入税額控除を行わないため)。
②委託元が簡易課税を使っているかどうか
委託元が簡易課税制度を選択している場合も、インボイスの保存が不要なため、登録を求めてくることはありません(5省庁Q&A Q2)。
③届出の期限
2割特例から簡易課税に移行するには、2028年12月31日までに届出が必要です(国税庁タックスアンサーNo.6505)。この日を過ぎると翌年分から簡易課税を使えなくなります。
④クラウドソーシング経由の案件
クラウドワークスやランサーズは、プラットフォームが中間に入っているため、消費税の扱いがプラットフォームの規約によって変わることがあります。各サービスの規約と実際の支払い通知を確認してください。
まず確認し、それから登録を判断する
インボイス登録は、した後でも取り消せます(取り消しの届出期限あり)。登録を急ぐ前に、手元の契約書の消費税の記載と、主な委託元の状況(課税か免税か・簡易課税か)を確認してからでも遅くありません。
「不明なまま先に進む」よりも、「確認してから判断する」方が、結果として手取りを守ることにつながります。
→ フリーランスエンジニア・デザイナー・ライターのインボイス試算ツール(2割特例・3割特例・簡易課税の年ごとの比較ができます。無料)


コメント