就労移行支援の事業所数は、令和3年10〜12月のピーク3,063か所から、令和7年1〜3月には2,834か所まで減っています。1年前(2,919か所)と比べても減少が続いており、他の障害福祉サービスが増加傾向にある中で異なる動きを見せています。
国の資料は、減少の理由そのものは示していません。この記事では、減少の背景として考えられる就労移行支援の制度上の特徴を、法令と報酬告示の原文から整理します。
出典:厚生労働省「障害福祉サービス等の最近の動向について」(社会保障審議会障害者部会 第149回 参考資料8)国保連データ。値は各3か月分の平均値。
就労移行支援の利用期間は、原則として2年で終わる
就労移行支援には「標準利用期間」の定めがあります。障害者総合支援法施行規則第6条の8は、就労移行支援の標準利用期間を2年間と定めています(あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の資格取得を目的とする場合は3年又は5年)。
就労移行支援は、就職を目指して訓練を行うサービスです。グループホームや生活介護では同じ利用者が長く利用を続けることが多い一方、就労移行支援の利用者は、就職するか、原則2年の期間が来ると利用を終えます。
この構造が、事業所の経営に直接影響します。
出典:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則(平成18年厚生労働省令第19号)第6条の8
利用者が2年で入れ替わると、事業所は常に新しい利用者を集め続けなければならない
グループホームであれば、長期にわたって同じ利用者が在籍することが多く、ある程度の稼働率が安定しやすいといえます。就労移行支援は違います。利用者は就職するか原則2年の期間が来ると利用を終えるため、空いた枠を次の利用者で埋めることを繰り返す必要があります。
定員20人の事業所で、毎年10人ずつ入れ替わるとすれば、常に「次の10人をどこから集めるか」という課題が続きます。相談支援事業所からの紹介・ハローワークとの連携・特別支援学校の卒業生の受け入れ、こうした関係づくりを継続してはじめて利用者数を維持できます。
事業所が多い地域では、同じ利用者を複数の事業所が受け入れようとする形になります。利用者の確保が難しくなることは、減少の背景の一つとして考えられます。
就労定着者の割合によって、事業所の基本報酬が7段階に分かれる
就労移行支援の基本報酬は、「前年度と前々年度に、就職して6か月続いた人の数」を「前年度と前々年度の利用定員の合計」で割った「就労定着者の割合」によって7段階に分かれます。分母は利用者数ではなく利用定員です。この割合が低いと報酬は下がり、高いと上がります。
| 就労定着者の割合 | 基本報酬(定員20人以下・1日) |
|---|---|
| 50%以上 | 1,210単位 |
| 40%以上50%未満 | 1,020単位 |
| 30%以上40%未満(新規事業所2年間のみなし) | 879単位 |
| 20%以上30%未満 | 719単位 |
| 10%以上20%未満 | 569単位 |
| 10%未満(零の場合を除く) | 519単位 |
| 零(就職して6か月続いた人がいない) | 479単位 |
出典:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第523号)別表 第12 就労移行支援(令和8年6月施行のサービスコード表とも一致を確認)
新規に指定を受けた日から2年間は、「30%以上40%未満」の区分(定員20人以下で879単位)とみなして算定します(同告示 注4の2)。2年目は、初年度の実績による区分を選べる場合もあります。この期間に実際の就職者を増やし、3年目以降の区分を上げていくことが求められます。
3年目以降、就労定着者の割合が下がると報酬が大幅に下がる
開設初期の2年間は879単位の「みなし」が適用されるため、まだ就職の実績がなくても、一定の単位で算定できます。問題は3年目以降です。
3年目の報酬区分は、「前年度と前々年度の就労定着実績」と「利用定員の合計」から実際に計算されます。1〜2年目に就職した利用者が6か月就労を継続できなかった場合、定着者の割合は下がり、報酬区分も下がります。
例えば両年度とも定員20人の事業所では、分母は2年分の定員の合計40人です。2年間で就職して6か月続いた人が16人なら割合は40%で、3年目の報酬は1,020単位です。4人だけなら割合は10%で、569単位まで下がります(通常の計算式の場合)。報酬の差は1日あたり451単位です。定員20人・月22日・稼働率70%とすると、年間の収入差は1単位10円で計算しておよそ1,667万円になります。
なお3年目については、「初年度の定員×30%」と「2年目の定着者数」の合計を2年分の定員で割る特例の計算式も選べることが、国の留意事項通知に示されています。
3年目のこの「落差」を見越した資金計画と定着支援の体制づくりが、開設前から求められます。
収支差率6.0%は、利用者が少し減るだけで赤字に転じるリスクがある
令和7年経営概況調査によれば、就労移行支援の全国平均の収支差率は6.0%です。月の収入は1事業所あたり約240万円(年2,878万円)、そのうち6%が収益として残ります。月の収支差は約14万円という水準です。
| 指標 | 全国平均(目安) |
|---|---|
| 年の収入(1事業所) | 約2,878万円 |
| 収支差率 | 6.0% |
| 人件費率 | 約64.2% |
出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査」(令和6年度決算)
収支差率が6.0%ということは、費用が変わらないまま収入が6%ほど減ると、収支差はほぼゼロになるということです。仮に月の収入約240万円の事業所で利用者が減り、収入が7分の6(稼働率70%が60%に下がるのと同じ割合)になると、収入は約206万円です。人件費や家賃はすぐには減らないため、減った約34万円が月約14万円の収支差を上回り、赤字になります。
利用者が原則2年までに入れ替わる構造と、薄い収支差率の組み合わせは、経営の安定を難しくする要因の一つと考えられます。
事業所数は減っているが、就労移行支援の需要自体は続いている
同じ国保連データで利用者数を見ると、事業所数がピークだった令和3年10〜12月は35,522人、令和7年1〜3月は36,994人で、利用者数は減っていません。事業所数が約7.5%減った一方で利用者数は横ばいから微増のため、1事業所あたりの利用者は増えています。
出典:厚生労働省「障害福祉サービス等の最近の動向について」(社会保障審議会障害者部会 第149回 参考資料8)国保連データ。値は各3か月分の平均値。
今後新規で開設する場合は、地域に既存の事業所がいくつあるか、どのような利用者に需要があるかを確認した上で参入することが、持続的な運営への起点になります。
就労移行支援を開設するときに確認しておくべきこと
就労移行支援の開設では、開設直後の2年間だけでなく、3年目以降の報酬区分がどう変わるかを最初に計算しておくことが重要です。1〜2年目の定着実績の見通しが、3年目の収支を決めます。
また、常に新規利用者を確保し続けることが前提の事業であるため、利用者の紹介ルート(相談支援事業所・ハローワーク・特別支援学校)の構築を開設前から進めることも、長期的な経営に直結します。
「みなし期間の2年間で軌道に乗せ、3年目以降の報酬区分を上に持っていく」という逆算の計画が、就労移行支援の経営の基本的な設計になります。
就労移行支援の開業に向けて、定員・稼働率・就労定着者の割合・3年目以降の報酬区分を反映した収支の試算が必要な方は、以下のシミュレーターをご利用ください。3年目に報酬区分が下がった場合の収支の変化も確認できます。
障害福祉サービスの開業・運営ツールをまとめたページはこちらです。


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