認知症の親が証券口座・株式を保有していた。家族が知らないまま時間が経ち、口座が凍結された・相続で困ったという相談が増えている。証券口座は銀行口座と異なり、扱いが複雑だ。認知症高齢者が証券口座を持っている場合の早期対応と、後見人・家族による管理・相続の手順を整理した。
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認知症と証券口座の問題が起きやすい理由
証券口座・株式は銀行預金と比べて「家族が存在を把握しにくい」「口座の凍結・管理が複雑」という特徴がある。
- 通帳がない・明細がオンラインのみ:ネット証券(SBI証券・楽天証券・松井証券等)では通帳がなく、明細はオンライン確認・メール通知のみの場合がある。認知症が進んでいる本人がログインできなくなると、家族が口座の存在・残高を把握できなくなる
- 株価の変動リスク:認知症が進んで本人が株式の売買・管理ができなくなった状態でも、株式は保有し続ければ価値が変動する。急落した場合に「本人が自分で売れない」「後見人も証券会社の手続きが完了するまで動けない」という問題が起きる
- 特定口座・NISA口座の扱い:特定口座(源泉徴収あり・なし)・NISA口座は相続・後見手続きの際に特別な処理が必要な場合がある
証券口座が「凍結」されるタイミング
証券口座が利用できなくなる主なタイミングを整理した。
- 本人が認知症であることが証券会社に判明した場合:証券会社では「顧客が判断能力を失った状態での取引の防止」のために、認知症の疑いが生じた顧客の取引を制限・停止することがある(金融庁の「認知症の顧客への対応に関するガイドライン」に基づく対応)
- 本人が窓口での取引時に正常な判断ができないと証券会社が判断した場合:対面証券会社では、担当者が「本人の判断能力に疑問がある」と判断した場合に取引を保留・確認する対応を取ることがある
- 本人が死亡した場合:本人が亡くなると口座が自動的に凍結される(相続手続きが完了するまで取引不可)
後見人が行う証券口座の管理手順
後見人が設定された場合の証券口座の取り扱い手順を整理した。
- 後見登記事項証明書の取得:家庭裁判所が後見開始の審判をすると、法務局に後見登記がされる。後見登記事項証明書(後見登記に関する証明書)は法務局(全国の法務局または郵送)で取得できる
- 証券会社への後見人届の提出:証券会社に「後見人届(成年後見人就任届)」と後見登記事項証明書・後見人自身の本人確認書類を提出する。各証券会社によって書類の様式・提出方法が異なるため、事前に証券会社に確認する
- 株式の扱いの検討:後見人は「本人の財産を保護する」という立場のため、リスクの高い取引(株式の信用取引等)は原則できない。現物株式の保有は認められるが、積極的な株式売買(投機的な取引)は家庭裁判所の許可が必要な場合がある
- 証券口座の解約・移管の検討:後見人が選任された後は、株式を売却して現金化し、管理しやすい形にすることが選択肢の一つだ。株式の売却には課税(譲渡所得税)が発生する可能性があるため、税務上の確認も必要だ
「NISA口座」が認知症後に問題になるケース
NISA口座(少額投資非課税制度)は、認知症後に特有の問題が起きることがある。
- NISA口座は本人名義・本人のみの口座:NISA口座は他の口座への移管ができず、本人が死亡した場合は非課税扱いが終了し課税口座への移行が必要になる
- 後見人はNISA口座での新規購入が制限されることがある:後見人が就任した後、NISA口座での新規の投資信託・株式の購入が証券会社のポリシーによって制限される場合がある(後見人は本人の財産の保護が目的であり、投資リスクを取る行為は慎重な扱いが必要)
- NISA口座の保有株式・投資信託の売却は可能:後見人が就任した場合でも、既存のNISA口座の保有銘柄の売却は通常できる
株式・証券の相続手続き
認知症高齢者が亡くなった後の株式・証券口座の相続手続きを整理した。
- 証券会社への連絡:被相続人(亡くなった人)の証券口座がある証券会社に連絡して「相続手続き依頼書(証券会社所定の書類)」を取り寄せる
- 提出書類(一般的に必要なもの):被相続人の除籍謄本または死亡届のコピー・相続人全員の戸籍謄本・遺産分割協議書(相続人全員の署名捺印入り)・相続人の口座への移管依頼書
- 株式は「換金」と「移管(そのまま相続)」が選べる:相続人が株式を売却して現金で分ける場合と、特定の相続人の口座に株式をそのまま移管する場合の両方が選べる
- 相続税の申告が必要な場合:株式等の金融資産を含む相続財産の総額が「基礎控除(3,000万円+法定相続人の数×600万円)」を超える場合は、相続税の申告が必要になる(相続税法第27条)
証券口座の存在を事前に確認する方法
親が証券口座を持っているかどうかを確認する方法を整理した。
- 郵便物・メール:証券会社からの「取引残高報告書」「分配金支払い通知」「株主総会招集通知」が届いていれば口座の存在がわかる
- 確定申告書の内容:過去の確定申告書に「株式等の譲渡所得」「配当所得」の記載があれば証券口座がある可能性が高い
- 証券保管振替機構(ほふり)への照会:証券会社名がわからない場合でも「証券保管振替機構(ほふり)」に照会することで、どの証券会社に口座があるかの確認ができる場合がある(ほふりの「登録済加入者情報の開示請求制度」)
「投資信託」「債券」の扱いの違い
株式以外の金融商品も認知症後の手続きで注意が必要だ。
- 投資信託(投信):投資信託は証券口座を通じて保有することが多い。認知症後に後見人が就任した場合、投資信託の解約(換金)は後見人の権限で行うことができる。ただし積立設定(毎月自動積立)は後見人の判断で停止・変更することが望ましい
- 国債・社債(債券):償還日(満期日)まで保有することで元本+利子が受け取れる。後見人が就任した場合、満期前の解約(中途換金)も後見人の権限で行うことができる。元本割れする可能性があるため、解約時期は慎重に判断する必要がある
- 個人向け国債:個人向け国債は「本人以外に移管・相続はできず、払い戻しは原則本人または後見人のみ」という扱いが多い。後見人就任後に手続きを進める
「対面証券会社」と「ネット証券」の手続きの違い
後見人が就任した後の証券手続きは、証券会社の種類によって対応が異なる。
- 対面証券会社(野村証券・大和証券・SMBC日興証券等):担当者がいるため、後見人が直接担当者に連絡して手続きを進めることができる。書類の確認・記載方法のサポートを受けやすい。窓口に出向いた上で後見登記事項証明書・後見人の本人確認書類を持参することが一般的だ
- ネット証券(SBI証券・楽天証券等):窓口がなく、カスタマーサポートへの電話または書類郵送での手続きになる。後見人が電話で手順を確認した上で必要書類を郵送する流れが多い。各ネット証券のWebサイトに「後見人・成年後見の手続き」のページがある場合は事前に確認する
株式の「名義変更」と相続後の手続き
本人が亡くなった後の株式の相続手続きで特に注意すべき点を整理した。
- 株式の「相続税評価額」の計算:上場株式の相続税評価額は「①亡くなった日の終値」「②亡くなった月の毎日の終値の平均額」「③前月の毎日の終値の平均額」「④前々月の毎日の終値の平均額」の4つのうち最も低い額で計算する(相続税法施行令第15条)。申告時点の株価ではなく亡くなった時点での評価額であることに注意が必要だ
- 準確定申告が必要な場合がある:被相続人(亡くなった人)が株式の売却益・配当金を受け取っていた場合は、相続開始から4か月以内に「準確定申告」が必要な場合がある(所得税法第125条)
- 遺産分割協議が終わらないと手続きが進まない:株式の相続手続きは相続人全員の同意(遺産分割協議書)が必要な場合が多い。相続人間で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停を経ることになる
この記事のまとめ
- 認知症が進むと証券口座の管理ができなくなり、家族も口座の存在を把握しにくい。早期に親の証券口座の有無を確認することが重要だ
- 証券会社は顧客の認知症を察知した場合、取引を制限・停止することがある(金融庁ガイドライン)
- 後見人が設定されると、証券会社への後見人届の提出によって後見人が口座を管理できるようになる
- NISA口座は本人名義のみで移管不可。後見人就任後は新規購入が制限されることがある。証券会社によって方針が異なるため事前確認が必要だ
- 相続後の株式手続き:証券会社への連絡→相続手続き依頼書の取り寄せ→遺産分割協議書の作成→移管または売却。上場株式の相続税評価額は亡くなった日の終値・亡くなった月・前月・前々月の終値平均の4つのうち最も低い額を使う(相続税法施行令第15条)
- 相続後の準確定申告:被相続人が株式売却益・配当金を受け取っていた場合は相続開始から4か月以内に準確定申告が必要(所得税法第125条)。準確定申告は相続人全員(または代表相続人)が連署して管轄税務署に提出する
- 口座の存在確認:郵便物・確定申告書・証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求制度」を活用する。株主総会の招集通知・分配金支払い通知も確認のきっかけになる
- 相談先:証券会社のカスタマーサポート・後見人・司法書士・弁護士(後見申立ての専門家)。証券会社の法人窓口に後見人手続きの担当者がいる場合は直接相談することで手続きがスムーズになる
出典:金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」、民法第9条(被後見人の行為能力の制限)、相続税法第27条(相続税の申告)、特定口座制度(租税特別措置法第37条の11の3)
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