認知症と診断された後の財産管理には、主に「法定後見」「任意後見」「家族信託」の3つの制度がある。3つはどれも「財産を守る」ための制度だが、使える時期・費用・家族の自由度が大きく異なる。選択を誤ると、使いたいときに使えない制度を選んでいた、というケースになりかねない。3つの違いを費用・手続き・自由度の観点から整理した。
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3制度の比較表
| 比較項目 | 法定後見 | 任意後見 | 家族信託 |
|---|---|---|---|
| 使える時期 | 判断能力が低下した後 | 判断能力があるうちに契約、低下後に開始 | 判断能力があるうちに契約、即時または将来から開始 |
| 手続きの主体 | 家庭裁判所への申立て | 公証役場で契約→将来、家裁で監督人選任 | 公証役場で信託契約を作成 |
| 初期費用の目安 | 申立費用1〜10万円程度(鑑定が必要な場合は別途3〜10万円) | 公証人手数料2〜3万円+司法書士費用15〜30万円程度 | 司法書士・弁護士費用30万円〜100万円程度(財産規模による) |
| 継続コスト | 後見人報酬:月2〜6万円程度(財産規模による) | 任意後見監督人報酬:月1〜2万円程度 | 家族が受託者の場合は原則なし(家族への報酬は任意) |
| 家族の自由度 | 低い(家裁の許可が必要な行為が多い) | 中程度(契約の範囲内で動ける) | 高い(信託契約の範囲内で自由に動ける) |
| 不動産の売却 | 可(家裁の許可が必要) | 可(後見開始後、任意後見人が対応) | 可(受託者が信託契約の範囲内で対応) |
| 主なデメリット | 家族が後見人になれないケースがある。費用が継続的に発生する | 開始まで時間がかかる。監督人費用が発生する | 初期費用が高い。設計が複雑で専門家が必須 |
法定後見は「後から動ける」制度で費用が継続する
法定後見は本人の判断能力が低下した後でも申立てができる唯一の制度だ。「準備が間に合わなかった」場合の最終手段として機能する。
ただし、後見人が選任されると原則として本人の死亡まで後見が続く。最高裁判所「成年後見関係事件の概況」(令和5年)によると、申立て1件あたりの後見人選任後の期間の中央値は約5年だ。財産200万円未満でも月2万円の後見人報酬が継続すると、5年間で120万円を超える。
また、専門職後見人(司法書士・弁護士)が選任される割合は全体の約74%(令和5年)に上る。家族が後見人になれないケースが多い。
任意後見は「本人が選べる」制度で開始に時間がかかる
任意後見の最大のメリットは、本人が元気なうちに「誰に何を任せるか」を決めておける点だ。家族を受任者にすることもできる。
ただし、実際に任意後見が開始するには、判断能力が低下した後に家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てる必要がある。任意後見監督人は第三者(弁護士・司法書士等)が選任されることが多く、その報酬(月1〜2万円程度)が継続してかかる。
家族信託は「柔軟に動ける」制度で初期費用が高い
家族信託は、家族が財産管理を行うための最も柔軟な手段だ。家庭裁判所の関与がなく、信託契約の範囲内で受託者(家族)が判断して動ける。不動産の売却・リフォーム・賃貸借契約なども受託者が対応できる。
初期費用は30万円〜100万円程度かかり、設計が複雑なため司法書士や信託専門の弁護士に依頼する必要がある。対応できる金融機関(信託口口座を開設できる銀行)が限られる点も注意が必要だ。
この記事のまとめ
- 判断能力が低下した後に使えるのは法定後見のみ(後見人報酬が継続)
- 任意後見・家族信託は判断能力があるうちにしか設定できない
- 家族信託は初期費用が高いが継続コストが低く、家族の自由度が高い
- どれが最適かは財産の規模・兄弟の数・介護計画によって変わる。専門家への相談が必須
出典:法務省「成年後見制度について」、最高裁判所「成年後見関係事件の概況」(令和5年1〜12月)、家事事件手続法第117条以下
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