就労継続支援A型の開業を考えるとき、「本当に収益が出るのか」という疑問は避けられません。
結論から言うと、全国平均では黒字ですが、その幅は小さいです。厚生労働省の調査データを見ると、収支差率(収支差÷収入)の全国平均は約2.3%です(令和7年障害福祉サービス等経営概況調査・令和6年度決算・334事業所)。
収支差率2.3%は、事業所の年間収入が約4,325万円としたとき、年間の収支差が約994万円(月額約83万円)という計算になります。ただし、これは全国平均です。黒字の事業所と赤字の事業所が混在しており、平均だけで「就労継続支援A型は儲かる」と判断するのは早計です。
この記事では、就労継続支援A型の収益構造を整理し、黒字を実現するために必要な条件を具体的に示します。
就労継続支援A型の全国平均データ
厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果(案)」(令和6年度決算・就労継続支援A型・334事業所)から主な指標を整理します。
| 指標 | 全国平均 | 参考:就労継続支援B型 |
|---|---|---|
| 収支差率 | 約2.3% | 約5.9% |
| 収入(年額) | 約4,325万円 | 約3,248万円 |
| 人件費率 | 約74.5% | 約72.3% |
| 給与費(利用者賃金含む)率 | 収入の大部分を占める | -(B型は工賃のため別扱い) |
出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果(案)」(2025年)
A型はB型より収支差率が低い(2.3%対5.9%)という点が特徴的です。これはA型の「利用者への賃金を毎月支払う」という構造が費用を押し上げるためです。
就労継続支援A型の収益構造の特徴
①利用者への賃金が固定費として毎月発生する
A型は雇用型のサービスで、利用者との雇用契約が必須です。最低賃金以上の賃金を支払う義務があり、この賃金は毎月の固定費として積み上がります。全国平均の給与費率(給与費÷収入)は約74.5%で、収入の大部分が人件費に充てられます。
他の障害福祉サービス(訪問介護・放課後等デイサービスなど)も人件費率は高いですが、A型は利用者自身への賃金が含まれる分、費用の性格が異なります。B型のように「工賃は生産活動の収益から支払う」という形ではなく、報酬から賃金を支払うA型は、収益の余地が構造的に小さくなります。
②評価点が翌年の報酬に直結する
基本報酬は「評価点の区分(7段階)」によって変わります。評価点が高ければ報酬単価が上がり、低ければ下がります。開業1年目はみなし規定(評価点区分5・80〜105点未満相当)が適用され、さらに1000分の965の引き下げがあるため、1年目の収入は2年目以降より少なくなります。
③生産活動(作業収入)が評価点と賃金の両方に影響する
評価点を上げるためには、賃金水準と生産活動の収益性が鍵です。生産活動の収益が上がれば利用者への賃金を増やせ、賃金水準が上がれば評価点も上がり、翌年の報酬区分も改善されます。この好循環を作れる事業所が安定した経営を実現します。
評価点区分別の月間収入と収支の試算
定員20人・稼働率90%・月22日・1単位10円・最低賃金1,055円(1日6時間・18人分の賃金)で、評価点区分別の月間収益を試算します。
| 評価点区分 | 月間収入目安 (基本報酬のみ) |
月間支出目安 (賃金+職員人件費+固定費) |
月間収支差 | 収支差率 |
|---|---|---|---|---|
| 区分1(170点以上) | 約313万円 | 約490万〜560万円 | 約-177万〜-247万円 | 赤字 |
| 区分2(150〜170点未満) | 約290万円 | 約490万〜560万円 | 約-200万〜-270万円 | 赤字 |
| 区分4(105〜130点未満) | 約264万円 | 約490万〜560万円 | 約-226万〜-296万円 | 赤字 |
この試算は基本報酬だけで処遇改善加算を含んでいないため、実際には加算を加えて支出をカバーします。処遇改善加算(Ⅰ)(24.0%)を算定できれば、区分5の場合、月間収入が211万円から約262万円に増加します。
試算を正確に行うには、加算を含めた収入と、実際の稼働率・賃金水準を組み合わせて計算する必要があります。
赤字になりやすいケースを確認する
就労継続支援A型で収支が厳しくなるパターンは、主に以下の3つです。
①稼働率が低いまま固定費を払い続ける
利用者への賃金は、実際の稼働状況に関わらず雇用契約に基づいて発生します。稼働率が低い(利用者が少ない・休みがちな)状態でも、賃金と社会保険料は確実に出ていきます。一方で、サービス報酬は実際に利用者が通った日数に応じてしか入ってきません。
開業直後は利用者が揃わず、稼働率が50〜60%程度になることがあります。この時期が長引くと、資金繰りが厳しくなります。
②評価点区分が低くなる
開業1年目以降、評価点の算定結果が低区分(区分5〜7)のままになると、収入が伸びません。評価点は賃金水準・生産活動の収益性・多様な働き方・支援力・地域連携の5分野で決まります。特に賃金水準は評価点に対する影響が大きく、生産活動の収益なしに賃金だけを上げても持続しません。
③生産活動の収益が出ない業種を選ぶ
業種選びが経営に直結します。農業・清掃・軽作業など、安定した作業収入を確保しやすい業種と、IT・クリエイティブ系など受注次第で収入が不安定になりやすい業種では、経営の安定性が異なります。報酬だけに収入を頼る構造ではなく、生産活動の収益も積み上げていくことが重要です。
開業から安定経営までのタイムライン
就労継続支援A型は、開業直後から収益が安定するまでに時間がかかります。一般的なタイムラインは以下のとおりです。
| 期間 | 状況 | ポイント |
|---|---|---|
| 開業〜3か月目 | 利用者が集まらない時期。稼働率が低い | 運転資金の消費が多い。余裕資金が重要 |
| 4か月〜1年目 | 稼働率が上がってくる。1年目はみなし区分5 | 生産活動の立ち上げ・賃金水準の設定が重要 |
| 1年目の年度末 | 評価点が初めて算定される | 翌年の報酬区分が決まる。区分4以上を目指す |
| 2年目以降 | 評価点に基づく報酬区分が適用される | 区分が上がれば収入増・下がれば見直しが必要 |
| 3年目以降 | 稼働率・生産活動が安定してくる | 黒字化の目安。安定するまで3年程度を想定する |
開業直後の赤字・低収益期間を乗り越えるための資金計画が、就労継続支援A型の経営を安定させる最初の関門です。
黒字を維持するために必要な3つの条件
条件1:稼働率を85%以上で安定させる
稼働率が下がると収入が比例して減りますが、賃金・人件費・家賃は減りません。定員20人の事業所で稼働率が100%から70%に下がると、基本報酬収入は約30%減少します。一方で固定費はほぼ変わりません。稼働率85%以上を安定的に維持することが、収支の安定に直結します。
条件2:評価点区分を4以上に保つ
評価点区分5(みなし・533単位)と区分3(701単位)では、定員20人・稼働率90%の場合に月間収入で約68万円の差が生じます。評価点を上げるためには、賃金水準の引き上げと生産活動の収益化が重要です。
条件3:処遇改善加算を確実に算定する
処遇改善加算(Ⅰ)(24.0%)を算定できるかどうかで月間収入が大きく変わります。要件は職員の賃金改善計画・研修体制・評価制度の整備などです。開業前から体制を整えておくことで、開業と同時に算定できます。
他のサービスと比較して検討する
就労継続支援A型の収支差率(全国平均2.3%)は、放課後等デイサービス(平均約9.1%)や訪問介護(平均約4.3%)と比べると低い水準です。これはA型固有の「利用者への賃金」という構造的な費用によるものです。
高い社会的意義を持つサービスですが、収益性という観点では他の障害福祉サービスより挑戦的です。開業に際しては、収益計画を慎重に立て、十分な運転資金を確保することが重要です。
収支シミュレーターで自分の数字を確認する
定員・稼働率・評価点区分・賃金水準を入力して収支の目安を確認するには、就労継続支援A型の収支シミュレーターをご利用ください。
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出典
- 厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果(案)」(2025年)
- 平成18年厚生労働省告示第523号 別表第13(就労継続支援A型・基本報酬の単位数)
- 障害福祉サービス等報酬告示(令和6年3月改定)(処遇改善加算率)


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