短期入所では利用者が施設に宿泊するため、夜間帯に急変(心肺停止・意識消失)が発生した場合、少人数の職員が初動対応を行います。AEDの設置場所・使用手順を全職員が把握し、心肺蘇生の基本動作を定期的に訓練しておくことが、命を守る判断につながります。この記事では、短期入所施設のAED・救急対応研修で確認すべき内容をまとめました。
AED設置と救急対応研修の根拠は安全管理義務と消防法に基づく
短期入所の基準(平成18年厚生労働省令第171号)は、基準第33条第1項(第145条で準用)において「事業者は、常に利用者の身体及び精神の状況、その置かれている環境等の的確な把握に努め、利用者及びその家族に対し、その相談に適切に応じるとともに、必要な情報の提供及び援助を行わなければならない」として、安全管理に関する包括的な義務を定めています。(出典:解釈通知(障発第1206001号・最終改正令和7年3月31日))
AEDの設置については、文部科学省・消防庁が一定規模以上の施設に設置を求めていますが、障害福祉サービス基準に直接の設置義務はありません。ただし、厚生労働省は「AED(自動体外式除細動器)の適正な管理・使用に関する通知」(平成26年)で社会福祉施設を含む施設にAEDの適切な管理・使用を促しており、設置と職員訓練は安全管理の観点から強く推奨されています。
消防法に基づく定期点検(消防用設備等点検)の際に、施設の安全管理の一環としてAEDの設置・管理状態を確認する指導を受けることがあります。
夜間帯は少人数体制で急変対応することを前提に手順を整備する
短期入所の夜間配置は宿直または夜勤による少人数体制が一般的です。急変が発生した場合、119番への通報・AEDの準備・心肺蘇生の実施を同時に進める必要があります。1人夜勤と2人以上の場合では対応手順が異なるため、それぞれのシナリオで確認してください。
1人夜勤(宿直)の場合の手順例:
- ① 意識・呼吸を確認する(10秒以内)
- ② 大声で呼びかけながら119番通報を行う(通話しながら心肺蘇生を開始できるよう、スピーカー機能を使う)
- ③ 通報後すぐにAEDを取りに行き、胸骨圧迫を開始する
- ④ 管理者(緊急連絡先)に電話し、指示を受ける
- ⑤ 救急隊員到着後に引き継ぐ
2人以上の場合の役割分担例:
- 1人目:胸骨圧迫・AED操作担当
- 2人目:119番通報・管理者連絡・救急車の誘導担当
どちらの体制であっても、緊急連絡先(管理者・医療機関・家族)の一覧と夜間の対応フローを事前に整備し、研修で全員が把握しておくことが重要です。
心肺蘇生(BLS)の手順は「確認→呼ぶ→圧迫→AED」の流れで確認する
一次救命処置(BLS:Basic Life Support)の基本手順は、日本蘇生協議会「JRC蘇生ガイドライン2020」に基づいています。成人への対応は次のとおりです。(出典:日本蘇生協議会「JRC蘇生ガイドライン2020」)
- ① 意識確認:肩をたたきながら「大丈夫ですか」と大声で呼びかける
- ② 119番・AED手配を依頼:周囲に人がいる場合「あなたは119番に電話してください」「あなたはAEDを持ってきてください」と具体的に指示する。1人の場合はスピーカー通話で119番しながら次の手順へ
- ③ 呼吸確認:胸の動きを見て10秒以内に確認する(死戦期呼吸=しゃくりあげるような呼吸は心停止の可能性あり)
- ④ 胸骨圧迫:胸の中央(胸骨の下半分)を両手で重ねて、深さ5〜6cm・1分間に100〜120回のペースで圧迫する。圧迫解除はしっかり行う
- ⑤ 人工呼吸:訓練を受けた場合は30回の胸骨圧迫に2回の人工呼吸を実施。未訓練の場合は胸骨圧迫のみ継続(2015年以降のガイドライン)
- ⑥ AED装着・使用:AED到着後すぐに電源を入れ、音声ガイダンスに従って操作する
障害のある利用者への注意点として、脊髄損傷や骨粗鬆症のある方は胸骨圧迫で肋骨が骨折するリスクがあります。骨折が生じても心肺蘇生は継続します(骨折より心停止の方が命に関わるため)。気道の形状が通常と異なる方(ダウン症など)は、人工呼吸時に気道確保の角度に注意が必要です。
AEDは電源を入れたら音声ガイダンスに従って操作し、ショック後も胸骨圧迫を続ける
AEDの操作は機器が音声で案内するため、手順を覚えていなくても使用できます。ただし、設置場所・鍵の有無・操作の大まかな流れを事前に確認しておくことで、パニック時でも迷わず動けます。
AED操作の大まかな流れ:
- 電源を入れる(ふたを開けると自動で起動するタイプが多い)
- 電極パッドを取り出し、患者の胸(右鎖骨下と左わき腹)に貼り付ける
- 機器が心電図を解析する(この間は誰も患者に触れない)
- 「ショックが必要です」と案内された場合、周囲が患者から離れたことを確認してショックボタンを押す
- ショック後すぐに胸骨圧迫を再開し、救急隊員到着まで継続する
小児(8歳未満・25kg未満が目安)には小児用パッドを使用します。小児用パッドがない場合は成人用パッドで代用できます。乳幼児の利用者がいる施設では、小児用パッドの有無も確認してください。
AEDの電池・パッドには使用期限があります。定期点検で使用期限を確認し、期限切れのまま放置しないようにします。点検記録も保管しておくと管理の証拠になります。
急変後の記録と行政報告は当日中に着手する
急変が事故として確定した場合、基準第40条(第145条で準用)は都道府県・市町村・家族への速やかな報告を義務にしています。報告の内容・期限は指定権者によって異なりますが、一般的には当日中に口頭で第一報を入れ、後日書面で報告します。
記録には次の事項を残します。
- 発生日時・場所
- 利用者の状態(発見時の状況・バイタル等)
- 実施した救急対応(胸骨圧迫の開始時刻・AED使用の有無・119番通報時刻)
- 救急搬送先の医療機関
- 関係者への連絡記録(家族・管理者・都道府県等)
- 再発防止策の検討(後日)
記録は5年間保管します(基準第41条・第145条準用)。関連する書類(119番受理番号・搬送先の診断書等)もあわせてまとめておくと、指導監査の際にスムーズに対応できます。
AED研修は年1回以上・消防署の講習を活用すると記録の証拠になる
AEDと心肺蘇生の研修には法定の義務回数の明示はありませんが、安全管理上、年1回以上の実施が適切です。実技を含む研修を毎年繰り返すことで、緊急時に体が動くレベルの習熟を維持できます。
消防署が主催する「普通救命講習」(約3時間)は、AEDの使い方と心肺蘇生の実技を無料または低額で受講できます。修了証が発行されるため、研修記録の証拠として活用できます。地域によって日程・申込方法が異なるため、最寄りの消防署に問い合わせてください。
施設独自で研修を行う場合も、実技演習(人形を使った胸骨圧迫・AED操作の模擬訓練)を必ず含めてください。映像視聴だけでは手技の定着が難しく、緊急時に適切な力加減で胸骨圧迫ができないことがあります。
夜間の急変対応手順の整備については短期入所の夜間・緊急時対応研修、事故発生後の報告手順については短期入所の事故報告・苦情対応研修もあわせて確認してください。
研修資料・記録様式のまとめには法定研修・訓練キット(短期入所版)をご利用ください。
この記事は、障害者総合支援法に基づく基準(平成18年厚生労働省令第171号)、解釈通知(障発第1206001号・最終改正令和7年3月31日)、日本蘇生協議会「JRC蘇生ガイドライン2020」、厚生労働省「AED(自動体外式除細動器)の適正な管理・使用に関する通知」(平成26年)の内容を確認して書いています(確認日:2026年11月1日)。所在地の指定権者(都道府県・市)の案内もあわせて確認してください。作成:fufumumu_design


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