親が認知症と診断されたとき、「そのうち考えよう」は通じない。診断後に何も動かないと、口座が凍結され、介護保険の申請も遅れ、家族間のトラブルが起きやすい。今週中に動くべきことは3つある。銀行への届出と代理人カードの申請、介護保険の申請、そして本人の意思があるうちに後見・信託の専門家に相談することだ。この3つを今週中に動かすだけで、口座凍結・介護保険の空白期間・家族間トラブルの多くを防げる。
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診断後に何もしないと起きる3つの問題
認知症の診断後に家族が動かないまま時間が経つと、次の3つの問題が起きやすい。
1つ目は口座凍結だ。銀行は本人の判断能力の低下を把握した時点で、本人保護を理由に口座を凍結するケースがある。入金は続くが、出金も振込もできなくなる。診断書が出た直後は「まだ大丈夫」と思っていても、次に窓口へ行ったとき職員に気づかれる例は少なくない。窓口で言動から判断されることもあれば、家族が「親が認知症と診断された」と話したことがきっかけになることもある。
2つ目は介護保険の申請遅れだ。要介護認定には通常1〜2か月の審査期間がかかる。申請が遅れるほど、ケアプランの作成やサービスの利用開始も遅れる。サービスを利用し始めるまでにかかる自費での介護費用が膨らむ。診断書をもらったその日に申請窓口へ行くのが最善だ。
3つ目は本人の意思を確認する機会の消失だ。任意後見契約や家族信託は、本人に判断能力がある間だけ結べる。軽度の段階を過ぎると、家庭裁判所への申立てによる法定後見しか選択肢がなくなり、家族が財産管理に関わる自由度は大幅に下がる。「後で話し合えばいい」と先延ばしにしているうちに、判断能力が失われるケースは現実に起きている。
銀行への届出と代理人カードは今週中に動く
銀行口座の問題に先手を打つには、2つの手段がある。
1つ目は、代理人カードの申請だ。多くの銀行で、本人の同意があれば家族が代理人として入出金できるカードを発行している。申請には本人の来店が必要な銀行も多いが、軽度認知症の段階であれば本人が窓口に同行できることがほとんどだ。まず口座を持つ銀行のサービスを確認し、今週中に手続きを進める。複数の口座がある場合は、利用頻度の高い生活費の口座から優先する。
2つ目は、銀行への事前相談だ。「親が認知症と診断された」と伝えると、取引停止になるのでは、と思う家族がいる。しかし相談するだけで凍結されることはない。むしろ早期に相談することで、後々の手続きをスムーズに進められるケースもある。銀行によっては「認知症等サポートデスク」のような専用窓口が設けられており、今後の対応方法を案内してもらえる。
代理人カードで対応できない規模の財産がある場合や、不動産・株式・複数の金融機関にまたがる資産がある場合は、任意後見や家族信託の準備が必要になる。これは専門家対応が必要な手続きになるため、後述の「専門家への相談」と合わせて動く。
介護保険の申請は診断書をもらった日に動く
介護保険の申請日は「申請した日」が起算日になる。審査が終わった日ではない。だから申請は早いほど良い。
申請窓口は市区町村の介護保険課(または地域包括支援センター)だ。持ち物の基本は介護保険被保険者証、マイナンバーカード(または通知カード)、印鑑の3点だが、市区町村によって異なるため事前に電話確認するのが確実だ。
申請後、市区町村から認定調査員が自宅を訪問し、本人の生活状況を確認する。その後、主治医の意見書をもとに審査を行い、要支援1〜2・要介護1〜5のいずれかに認定される。法律上、認定まで30日以内と定められているが(介護保険法第27条)、複雑なケースでは60日以内まで延長される場合もある。
要介護認定が出ると、ケアマネジャー(介護支援専門員)の選定に移る。ケアマネは地域包括支援センターや市区町村に紹介を依頼することができる。ケアマネが決まれば、ケアプランを作成し、デイサービス・訪問介護などのサービスを利用開始できる。
軽度のうちに本人の意思を確認する。任意後見か家族信託の選択
本人に判断能力がある今だけできる手続きがある。任意後見契約と家族信託だ。
任意後見契約は、本人が「将来、判断能力が低下したときに、誰に何を任せるか」を公正証書で残しておくものだ。受任者は家族でも司法書士でも構わない。費用は公証人手数料2〜3万円程度と、司法書士への報酬15〜30万円程度が目安だ。任意後見は「今すぐ効力が生じる」ものではなく、将来、家庭裁判所への任意後見監督人選任の申立てがあった後に開始する。
家族信託は、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・運用を任せる契約だ。信託契約は公正証書で作成し、金融機関に信託口口座を開設して管理する。設計・契約書作成の費用は、財産規模にもよるが司法書士への報酬で30万円〜100万円程度が目安だ。法定後見・任意後見とは異なり、家庭裁判所の関与がないため、家族の判断で動きやすい面がある一方、設計を間違えると機能しないリスクがある。
どちらを選ぶかは財産の規模・兄弟の数・将来の介護計画によって変わる。まず地域包括支援センターや市区町村の法律相談窓口に行き、司法書士または弁護士への紹介を依頼する流れが最も現実的だ。
兄弟がいる場合は情報共有と役割分担を今決める
兄弟間のトラブルの多くは、情報の非対称性から始まる。誰かが一人で動いていて、他の家族に報告が行き届いていない状態が続くと、「財産を使い込んでいるのでは」という疑念が生まれやすい。最高裁判所の統計によると、後見等申立て全体のうち申立ての動機として「財産管理(不動産・預貯金等)」が最多となっており、家族内での財産管理の不透明さが紛争の種になることがうかがえる。
初期段階でやっておくべきことは2つだ。
1つ目は、全員が同席する「情報共有の場」を一度設けること。診断後の家族全員集合は、誰がどの役割を担うかを決める重要な機会だ。介護の実務担当、お金の管理担当、緊急時の連絡担当を明確に決めておくだけで、後々の行き違いを減らせる。
2つ目は、お金の管理の記録を残す仕組みを作ること。毎月の収支を簡単な表でまとめ、全員に共有するルールを作るだけで、後々のトラブルを大幅に減らせる。「何も隠していない」ことを見せ続けることが、疑念を生まない唯一の方法だ。
専門家への相談は「司法書士か弁護士」に絞る
認知症の手続きに関わる専門家は複数いる。その中で、財産管理・後見・家族信託を直接担えるのは司法書士または弁護士だ。ファイナンシャルプランナーや行政書士では対応できない手続きがあるため、相談先の選定は最初に確認しておく。
相談の入口として最も利用しやすいのは、市区町村の法律相談(無料・要予約)だ。多くの市区町村で月に数回、弁護士や司法書士による無料相談が設けられている。初回は「何を依頼すべきかの確認」と割り切って活用する。費用が気になる場合は、法テラス(日本司法支援センター)の審査を通じて弁護士・司法書士費用の立替制度を利用できる場合もある。
また、地域包括支援センターから司法書士・弁護士への紹介ルートもある。地域包括支援センターは財産管理そのものは担えないが、専門家への橋渡しは行っている。介護保険の申請と同時に専門家紹介の依頼を出すと、動き出しがもっとも速い。
この記事のまとめ
- 診断後に何もしないと「口座凍結・介護保険の空白・家族トラブル」の3つが起きやすい
- 銀行への届出と代理人カードの申請は今週中に動く
- 介護保険の申請は診断書をもらった日に動く(申請日が起算日)
- 任意後見・家族信託は判断能力があるうちにしか動けない
- 兄弟がいる場合は情報共有と役割分担を今決める
- 専門家は司法書士か弁護士に絞って相談する
出典:厚生労働省「認知症施策の概要」、法務省「成年後見制度について」、介護保険法第27条、最高裁判所「成年後見関係事件の概況」(令和5年1〜12月)
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