- 授受表現(あげる・もらう・くれる系)の体系——登録日本語教員 基礎試験で頻出の文法項目
- 授受動詞の基本——あげる・もらう・くれる
- 尊敬語・謙譲語の授受動詞
- 補助動詞としての授受表現——〜てあげる・〜てもらう・〜てくれる
- 授受表現の指導上の難点
- 指導方法——図示と対話練習
- 「〜ていただく」「〜てくださる」——ビジネス日本語での授受表現
- 授受表現と依頼表現の組み合わせ
- 授受表現の習得順序——縦断研究から
- 試験対策ポイント
- 授受表現の誤りが与える印象——社会言語的能力と授受表現
- 授受表現と文化的背景——「贈り物の文化」と日本語
- 「〜てもらう」を使った日本語の間接的コミュニケーション
- よくある質問
- 授受表現の対比練習——教室活動例
- 授受表現の習得と評価——JLPT・JF Can-do との関係
- まとめ
授受表現(あげる・もらう・くれる系)の体系——登録日本語教員 基礎試験で頻出の文法項目
登録日本語教員の基礎試験で必ず出題される文法項目のひとつが「授受表現」です。「あげる・もらう・くれる」の使い分けと、それが動詞に付く補助動詞形「〜てあげる・〜てもらう・〜てくれる」まで、体系的に整理しましょう。
授受動詞の基本——あげる・もらう・くれる
日本語の授受動詞は「誰が誰に物を渡すか・受け取るか」と話者の視点によって使い分けが決まります。
| 動詞 | 主語 | 方向 | 例 |
|---|---|---|---|
| あげる | 話者・第三者 | 内→外(ウチからソトへ) | 私が友達にプレゼントをあげた |
| もらう | 話者・第三者 | 外→内(ソトからウチへ受け取る) | 私は友達にプレゼントをもらった |
| くれる | 第三者 | 外→内(ソトからウチの人へ) | 友達が私にプレゼントをくれた |
「あげる」と「くれる」の違い——内と外の視点
「あげる」と「くれる」は同じ「物を渡す」行為を指しますが、話者の視点が違います。
- 「私が友達にあげた」→ 話者が行為者(渡す側)
- 「友達が私にくれた」→ 友達が行為者で、物が「私(内)」に来る
- 「*友達が私に(プレゼントを)あげた」→ 受け取り手が「私」のとき「あげる」は不自然——「くれた」が正しい
「くれる」は必ず「物の移動先が話者(または話者側の人)」という条件があります。これは日本語学習者、特に中国語・英語話者が最も間違えやすいポイントです。
尊敬語・謙譲語の授受動詞
授受動詞には敬語形があり、ビジネス日本語・敬語指導で重要な項目です。
| 普通語 | 尊敬語(相手の行為) | 謙譲語(自分の行為) |
|---|---|---|
| あげる | ——(使わない) | 差し上げる(さしあげる) |
| もらう | ——(使わない) | いただく |
| くれる | くださる | ——(使わない) |
「くださる」と「いただく」の対比は敬語指導の中核です。「先生がくださった(尊敬語・くれる)」「先生にいただいた(謙譲語・もらう)」は同じ内容を異なる視点から述べた表現です。
補助動詞としての授受表現——〜てあげる・〜てもらう・〜てくれる
授受動詞は「〜て」に続けて補助動詞として使うことで、行為の授受(恩恵の授受)を表します。
- 「先生が作文を直してくれた」→ 先生の行為が私に恩恵をもたらした
- 「先生に作文を直してもらった」→ 私が先生に行為を受けた(恩恵)
- 「私が友達の作文を直してあげた」→ 私の行為が友達に恩恵をもたらした
「〜てくれる」vs「〜てもらう」——視点の違い
「〜てくれる」と「〜てもらう」は恩恵の授受という点で似ていますが、強調する視点が異なります。
- 「先生が教えてくれた」→ 先生の行為・ありがたさを強調
- 「先生に教えてもらった」→ 自分が受けた恩恵を強調(「もらう」の受益者は話者)
- 依頼文:「教えてくれますか」(相手の意志)vs「教えてもらえますか」(自分がもらえるか)——どちらも依頼だが「〜てもらえますか」の方がやや丁寧
授受表現の指導上の難点
授受表現は日本語学習者に特に難しい文法項目として知られています。主な困難点は以下の通りです。
- 「くれる」の使用制限:受け取り手が「私(話者)側」でないと使えないというルールが直感的に理解しにくい
- 「あげる」の使用制限:目上の人に「あげる」は失礼——「差し上げる」が必要という敬語との連動が複雑
- 「〜てあげる」の押しつけ感:「教えてあげる」は日本語母語話者でも上から目線に聞こえる場合があり、学習者が使うと不自然に聞こえることがある
- 英語との非対応:英語の “give / receive” と日本語の「あげる・もらう・くれる」は1対1対応しない——特に「くれる」に相当する英語の動詞がない
指導方法——図示と対話練習
授受表現の指導では「矢印図」(→←)を使って視覚的に移動方向を示す方法が有効です。
- 「私→友達」(あげる)vs「友達→私」(くれる)vs「私←友達(依頼)」(もらう)という矢印で整理する
- ロールプレイ:「誕生日プレゼントをもらった・あげた・くれた」場面を設定し、話者・相手・第三者の組み合わせを変えながら練習する
- 絵カードを使った「誰が誰に何をした?」問答は初〜中級で有効
「〜ていただく」「〜てくださる」——ビジネス日本語での授受表現
ビジネス日本語・敬語指導において、授受補助動詞の敬語形は最重要事項の一つです。敬語形の選択は「誰が行為するか」と「行為の受け取り手が誰か」によって決まります。
| 場面 | 普通体 | 敬語体 |
|---|---|---|
| 上司が自分に行為をしてくれた | 〜てくれた | 〜てくださった(尊敬語) |
| 自分が上司に行為をしてもらった | 〜てもらった | 〜ていただいた(謙譲語) |
| 自分が上司に行為をしてあげた | 〜てあげた | 〜て差し上げた(謙譲語) |
「〜ていただく」は日本語のビジネスメール・敬語表現で非常に高頻度に使われます。「ご確認いただきますようお願いします」「ご参加いただきありがとうございます」のように、相手への依頼・感謝の場面で必須の表現です。
授受表現と依頼表現の組み合わせ
授受補助動詞は依頼表現と組み合わせることで、依頼の丁寧さのグラデーションを作ります。
- 「教えて(命令・ストレートな要求)」
- 「教えてください(依頼——標準的な丁寧さ)」
- 「教えてくれますか(依頼——相手の意志を確認)」
- 「教えてもらえますか(依頼——自分が受け取れるかを確認)」
- 「教えていただけますか(丁寧な依頼——「いただく」謙譲語)」
- 「教えていただけますでしょうか(最も丁寧——「でしょうか」でさらに遠回しに)」
この丁寧さのグラデーションを「〜てください→〜てくれますか→〜てもらえますか→〜ていただけますか→〜ていただけますでしょうか」の段階で整理して教えると、学習者が場面に応じた表現を選べるようになります。
授受表現の習得順序——縦断研究から
第二言語習得研究の縦断調査によると、日本語学習者の授受表現の習得には典型的な順序があります。
- 初期:「くれる」が最初に習得される——「ありがとう(くれる場面)」が最初に触れる場面が多いため
- 中期:「あげる」「もらう」が習得される——しかし「くれる」と「あげる」の混用が残る
- 後期:敬語形(くださる・いただく・差し上げる)と補助動詞形(〜てあげる・〜てもらう)が定着
「くれる」と「あげる」の混用(「友達が私に本をあげた」*→「くれた」が正しい)は中上級段階でも残りやすい誤りパターンです。診断的評価でこの混用を把握し、ターゲット的に練習させることが効果的です。
試験対策ポイント
- 「くれる」は受け取り手が「私(話者側)」のときのみ使える——この制約は必ず覚える
- 尊敬語の「くださる」・謙譲語の「差し上げる」「いただく」の対応を整理する
- 「〜てくれる(相手の行為を強調)」と「〜てもらう(受益を強調)」の視点の違い
- 「〜てあげる」は目上に使えない——「差し上げる」への敬語変換
授受表現の誤りが与える印象——社会言語的能力と授受表現
授受表現を誤って使うと、言語的に間違っているだけでなく「失礼・上から目線・誤解を招く」という社会的な問題が生じます。これは社会言語的能力(Sociolinguistic Competence)の問題として日本語教育で重要視されています。
- 「先生に教えてあげた」→ 教師に対して「あげる」を使うと上から目線に聞こえ、ネイティブには非常に不自然・失礼に映る
- 「友達が私に本をあげた(*)」→「くれた」が正しいが、この誤りは「話者が友達の行為を外部の目線で見ている」という奇妙な視点になる
- 「〜ていただけますか」ではなく「〜てくれますか」をビジネスメールで使う→ 相手を対等・目下として扱っているように読まれる可能性がある
授受表現の正確な使用は「文法の正確さ」だけでなく「適切な対人関係の維持」に直結します。ビジネス日本語・敬語指導では特にこの社会言語的側面を強調することが重要です。
授受表現と文化的背景——「贈り物の文化」と日本語
授受表現が日本語で複雑に発達している背景には、日本の贈り物文化・相互扶助の文化が関係しています。お中元・お歳暮・お見舞い・お土産など、物の授受が人間関係の維持・構築に深く関わる文化的慣習が言語に反映されています。
- 「お土産を持ってきてくれた」→「くれる(相手の行為への感謝・恩恵の認識)」という形式が自然に使われる
- 「お土産をいただいた(もらった)」→「もらう(受益を強調)」という形式も自然
- どちらを使うかは話者が「相手の行為を強調したいか(くれる)」「自分が受けた恩恵を強調したいか(もらう)」という感情・視点によって決まる
授受表現の「視点」は日本語の「ウチとソト」の感覚と密接に結びついています。「くれる」は「ソト(他者)→ウチ(自分側)」、「あげる」は「ウチ→ソト」という方向性がベースです。この「ウチとソト」の感覚を授受表現の指導と組み合わせることで、学習者の理解が深まります。
「〜てもらう」を使った日本語の間接的コミュニケーション
日本語では直接的な命令・依頼を避け、「〜てもらう」「〜ていただく」を使って間接的にコミュニケーションをする場面が多くあります。
- 「お名前を教えてもらえますか」→ 直接命令「教えてください」より丁寧で間接的
- 「こちらの書類にサインしていただきますか」→「サインしてください」より柔らかい
- 「ご確認いただけますでしょうか」→ 最も丁寧な間接的依頼形式——ビジネスメールの定番
この「〜てもらえますか/〜ていただけますか」は依頼の標準形として上級学習者・ビジネス日本語学習者に必須の文型です。日本語の間接的コミュニケーションスタイルをポライトネス理論(Brown & Levinson)と合わせて説明すると理解が深まります。
よくある質問
Q. 「〜てあげる」は目上の人に絶対使えませんか?
基本的に目上の人に「〜てあげる」は失礼です。「先生に説明してあげた」は「自分が上から恩恵を施した」という上から目線のニュアンスになります。目上への行為には「〜て差し上げる」(謙譲語)を使います。ただし、「子どもに読んであげる」「お年寄りを手伝ってあげる」のように対象が目下・弱者の場合は自然です。
Q. 外国人学習者は「くれる」と「あげる」をよく間違えますか?
はい、特に英語話者は “give” に相当する動詞を探すため「あげる」を過剰使用する傾向があります。「友達が私にプレゼントをあげた」(*)→「くれた」という誤りは中上級段階でも残りやすいです。矢印図(内→外=あげる、外→内=くれる)を使って視覚的に区別を示すことで改善します。
授受表現の対比練習——教室活動例
授受表現を実際に使いこなすためには、意味の説明だけでなく「場面を設定して使い分けさせる」活動が有効です。
- 誕生日パーティーロールプレイ:「AさんがBさんにプレゼントをあげた」「BさんがAさんにプレゼントをもらった」「AさんがBさんにプレゼントをくれた」の3文を同じ場面から作る——誰の視点かを意識させる
- 先生への感謝手紙タスク:「先生がていねいに教えてくださった」「先生にていねいに教えていただいた」の2文を書かせて視点・敬語の違いを確認する
- 「お願いします」文型練習:「教えてください→教えてくれますか→教えてもらえますか→教えていただけますか」の丁寧さグラデーションを場面(友達・上司・先生)と対応させる
授受表現の習得と評価——JLPT・JF Can-do との関係
授受表現のJLPTレベル目安は次の通りです。
- N5〜N4:「あげる・もらう・くれる」の基本的な使い分け
- N3:「〜てあげる・〜てもらう・〜てくれる」の補助動詞形
- N2:「〜ていただく・〜てくださる・〜て差し上げる」の敬語形、「〜ていただけますか」の依頼
- N1:「いただく・くださる」の複雑な文脈での使用、ニュアンスの細部の区別
JFスタンダード(Can-do記述文)では、授受表現は「日常的な丁寧なやりとりができる」レベル(A2〜B1相当)から「フォーマルな場面での敬語表現が使える」レベル(B2相当)まで段階的に設定されています。指導計画を立てるときはJLPTレベルとCan-doの対応を意識することが重要です。
まとめ
- 授受動詞は「誰が誰に」と「物の移動方向」が使い分けの核心——「くれる」は受け取り手が話者側のみ
- 尊敬語の「くださる」と謙譲語の「差し上げる・いただく」は敬語体系の中核
- 「〜てくれる」vs「〜てもらう」は同じ恩恵でも強調する視点が違う
- 「〜てあげる」は目上には使えない——指導時に明示的に教える必要がある
- 英語との非対応性が習得を難しくしている——矢印図・ロールプレイで視覚化して指導する
登録日本語教員の基礎試験対策には、AI問題集で繰り返し問題を解いて授受表現を定着させましょう。

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