インボイスに登録して消費税を納めるようになった軽貨物ドライバーは、その消費税分を単価に反映してほしいと、委託元に相談してかまいません。相談するときは、年の税額のままではなく、「1日あたり」「1個あたり」の金額に直して伝えると、委託元も判断しやすくなります。日当1万8,000円で年240日働く人なら、2027・2028年分の3割特例で納める消費税は1日あたり約491円、1個150円の個建てなら1個あたり約4円です。この記事では、単価への直し方、国のQ&Aとフリーランス法の原文、切り出し方をまとめます。
年の税額は、そのままでは委託元に伝わりにくい数字です
「今年から消費税を年12万円納めることになりました」と言われても、委託元の配車担当や営業所長は、それが自分たちの払っている単価にとってどれくらいの話なのか、すぐには分かりません。軽貨物の報酬は、日当(日建て)や1個いくら(個建て)で決まっていることが多いからです。
委託元が考えているのは、単価です。だから、こちらも単価の言葉で話します。年の税額を働く日数や個数で割るだけで、相談の中身がぐっと具体的になります。
日建ての人は、年の税額を働く日数で割ります
日当1万8,000円(消費税込みとして受け取ってきた金額)で、1か月20日、年240日働く人の例です。1年の売上は432万円、そのうち消費税にあたる額は432万円×10/110で約39.3万円です。
| 年分 | 1年で納める消費税(試算) | 1日あたり(年240日) |
|---|---|---|
| 2026年分(2割特例) | 78,545円 | 約327円 |
| 2027・2028年分(3割特例) | 117,818円 | 約491円 |
| 2029年分から(簡易課税・第5種) | 196,364円 | 約818円 |
「日当を1万8,000円のままにすると、2027年からは1日あたり約491円、2029年からは約818円、手取りが減ります」。こう言えば、委託元も自分の単価表と照らし合わせて考えられます。軽貨物の運送は、簡易課税では第5種(みなし仕入率50%)なので、2029年分から納める額がもう一段上がります。この仕組みは軽貨物ドライバーのインボイス3割特例の記事で詳しく書きました。
個建ての人は、年の税額を運んだ個数で割ります
1個150円で、1日120個、年240日(年2万8,800個)運ぶ人も、1年の売上は432万円で、同じ額の消費税を納めます。1個あたりに直すと、次のとおりです。
| 年分 | 1年で納める消費税(試算) | 1個あたり(年2万8,800個) |
|---|---|---|
| 2026年分(2割特例) | 78,545円 | 約2.7円 |
| 2027・2028年分(3割特例) | 117,818円 | 約4.1円 |
| 2029年分から(簡易課税・第5種) | 196,364円 | 約6.8円 |
1個あたり4円と聞くと小さく感じるかもしれません。でも、年2万8,800個を積み上げると、年約11.8万円です。小さな単価の話だからこそ、年の合計も一緒に見せると、どちらの立場からも数字の重さが伝わります。
頼み方の幅は、「消費税を全部乗せる」から「納める分だけ」まであります
国のQ&Aには、免税事業者だった取引先が課税事業者になったときの考え方が、次のように書かれています。
「これまで消費税相当分を上乗せしていなかった免税事業者が課税事業者に転換した場合は、消費税の仕組み上、発注側が支払う取引価格には新たに消費税相当額を上乗せすることが相当であると考えられます。」
(出典:財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)Q6の注)
これをそのまま当てはめると、日当1万8,000円を本体の金額として、その10%の1,800円を乗せた1万9,800円にしてもらう形になります。個建てなら、150円が165円です。一方で、実際に納める消費税の分だけ(2027・2028年分なら1日あたり約491円、1個あたり約4.1円)を反映してもらう形もあります。
| 頼み方 | 日建て(日当1万8,000円) | 個建て(1個150円) |
|---|---|---|
| 消費税10%を全部乗せる | 1万9,800円(+1,800円) | 165円(+15円) |
| 2027・2028年分に納める分を反映する | 約1万8,491円(+約491円) | 約154.1円(+約4.1円) |
どちらで話すかは、これまでの単価の決め方や、委託元との関係で変わります。大事なのは、「少し上げてほしい」ではなく、「1日あたり約491円」と、単価の言葉で言えるようにしておくことです。
上乗せした消費税は、委託元の側で差し引けます
相談の前に、委託元の側の事情も知っておくと、話がかみ合いやすくなります。先ほどのQ&Aの注には、続きがあります。
「なお、この場合、発注側は、上乗せして支払った消費税相当分を仕入税額控除することとなります。」
(出典:同Q&A Q6の注)
委託元が本則課税で申告している場合、あなたが課税事業者になって発行するインボイスがあれば、あなたに払った消費税は、委託元が自分の納める消費税から差し引けます。つまり、上乗せした消費税の分は、委託元にとっては、国に納める消費税が減る形で戻ってくる、ということです。委託元の担当者が「単価を上げたら、うちの負担がそのまま増える」と心配しているときは、この仕組みを伝えると話が進むことがあります。
ただし、委託元が簡易課税で申告している場合は、実際に払った消費税ではなく、決まった割合で差し引くので、この説明はそのまま当てはまりません。委託元がどちらで申告しているかは、こちらからは分からないことが多いので、「御社の側では、上乗せした消費税分は控除の対象になると国のQ&Aにありました」と、資料として添えるくらいにしておきます。
話し合いをせずに単価を据え置くことは、問題になるおそれがあります
同じQ&Aには、次の注意があります。
「免税事業者であった仕入先が課税事業者に転換した場合、新たに納税が必要となる消費税分について、①仕入先と明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は取適法上の買いたたきとして、②仕入先から協議の要請があった場合に、当該協議に応じず一方的に取引価格を据え置くことは、取適法上の協議に応じない一方的な代金決定として、それぞれ問題となるおそれがあることに留意が必要です。」
(出典:同Q&A Q5)
さらにQ5は、受注する側からは値上げを言い出しにくいことを分かったうえで、発注する側から価格交渉を申し出るよう、積極的に検討してほしいと書いています。委託元から話が来ないなら、こちらから切り出してよい話です。
ここに出てくる取適法は、以前の下請法を改めた法律で、委託元の資本金や従業員の数、委託の中身によって当てはまるかどうかが変わります。軽貨物の個人事業主にとって、もっと身近なのは次のフリーランス法です。
フリーランス法で、委託元に守ってもらう決まりがあります
フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、従業員を使わない個人などに仕事を委託するときの決まりです。従業員を使わずに1人で走っている軽貨物ドライバーは、この「特定受託事業者」にあたります。値上げの相談に関係する決まりを、条文から3つ挙げます。
- 報酬の額などを示す(第3条):委託元は、仕事を頼んだら直ちに、報酬の額や支払期日などを、書面かメールなどで示さなければなりません。
- 支払いは60日以内(第4条):従業員を使う委託元(法人なら役員が2人以上の場合も含みます)は、役務の提供を受けた日から60日以内の、できる限り短い期間で支払期日を決めなければなりません(委託元がさらに別の会社から受けた仕事を再委託する場合などには、別の決まりがあります)。
- 買いたたきの禁止(第5条):従業員を使う委託元が、1か月以上続く委託をしている場合は、次のことをしてはいけません。
「特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。」
(出典:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 第5条第1項第4号。「1か月以上」は同法施行令 第1条)
この法律は、値上げを委託元に義務づけるものではありません。ただ、報酬の額をはっきり示してもらうこと、不当に安い報酬を決めさせないことは、法律で決まっています。消費税分の相談を「わがまま」と感じる必要はありません。
切り出すときは、相手の時間と場所を選びます
私は営業を20年続けてきて、今は上場企業で営業の管理職をしています。取引先に条件の変更をお願いしたこともあります。そのとき受け入れてもらえたのは、相手がこちらの商品を必要だと思って取引してくれていたからでした。委託元があなたに毎日荷物を任せているのも、あなたの走りが必要だからです。消費税分の相談をしたくらいで、その必要がなくなるわけではありません。
営業で私が大事にしてきたことの1つは、相手と過ごす時間と空間です。たとえば、相手の目の前ではスマホを触らないようにしてきました。軽貨物に当てはめるなら、朝の積み込みで営業所がばたばたしている時間に、立ち話で済ませるのは避けたほうがいいと思います。「消費税のことで10分ご相談したいのですが、いつがいいですか」と、先に時間をもらいます。
相談を始める時期は、3割特例に変わる2027年1月の前、つまり2026年のうちが目安です。単価の見直しは、委託元の社内で決めるのに時間がかかることがあります。2027年分の消費税を払うのは2028年の春ですが、減るのは2027年1月からの手取りです。早めに話を始めておくほうが、お互いに準備ができます。
話すときは、遠回しにしません。「インボイスに登録して、消費税を納めることになりました。今の単価のままだと、1日あたり約491円、手取りが減ります。一度、単価のご相談をさせてください」。起きた事実と、数字と、お願いだけを伝えます。相手を責める言い方はしません。頼み方の順番は、建設業の一人親方向けに書いた値上げ交渉の記事にもまとめています。
対面で話す時間が取りにくい委託元には、先にメッセージで時間をもらうのも1つの方法です。たとえば、次のような文面です。
〇〇様 いつもお仕事をいただき、ありがとうございます。インボイスに登録し、2027年分から消費税を納める額が増えることになりました。今の日当のままだと、1日あたり約491円、手取りが減る計算です。消費税分の単価について、一度10分ほどご相談の時間をいただけないでしょうか。ご都合のよい日時を教えていただければ、合わせます。
メッセージには、金額の数字と、お願いしたいこと(相談の時間)だけを書きます。資料や細かい説明は、会って話すときに紙で渡します。
アプリで単価が決まっている仕事は、相談できる相手と仕組みを分けて考えます
軽貨物の仕事には、アプリや仕組みで単価が一律に決まっていて、個別の相談がしにくいものもあります。そういう取引では、無理に交渉しようとするより、次のように分けて考えるほうが現実的です。
- 単価を相談できる委託元(配車担当や営業所長と直接話せる相手)には、単価の言葉で相談する
- 単価を相談できない仕事は、手取りを年ごとに計算し、2029年分から納める額も含めて、続けるかどうかを判断する材料にする
- どちらの場合も、毎月の入金から消費税の分を取り分けておく
委託元が複数ある人は、委託元ごとに数字を分けて出してください。A社との取引が年330万円なら、A社には「御社の分で、2027・2028年分は年9万円、2029年分からは年15万円」と、その会社に関係のある数字だけを見せます。
よくある質問
公正取引委員会などに知らせたことを理由に、取引を減らすことは禁じられています
取適法が当てはまる取引では、委託元に法律に違反する事実があるとき、それを公正取引委員会などに知らせたことを理由に、委託元が取引の数量を減らしたり、取引を止めたりすることが禁じられています(第5条第1項第7号)。当てはまるかどうかは取引によって違うので、困ったときは公正取引委員会などの相談窓口に確かめてください。
決まった単価は、メールかメッセージで残してもらいます
「来月からこの単価で」と口で決まっても、後で食い違うことがあります。いつの分から、いくらになるのかを、メールやメッセージで残してもらいましょう。自分から「確認のため、お送りします」と送るのでもかまいません。
免税のままの人は、値下げを求められたときの話し合いになります
免税事業者のままでいる人は、委託元から「控除できない分を下げてほしい」と言われる側です。Q&A(Q7)は、話し合いが形だけで、委託元の都合だけで、免税事業者が仕入れのときに払った消費税も払えないような価格を決めることは、優越的地位の濫用として問題になる、としています。ガソリンや車両の費用でも消費税を払っているので、その分を数字にして伝えてください。
単価に直した数字を、1枚の紙にして持っていきます
数字は、口で言うより紙で見せたほうが、相手の社内に持ち帰ってもらいやすくなります。売上と委託元との取引額を入れるだけで、年ごとに納める消費税と毎月の取り分けの目安が出て、委託元に渡す相談シート(A4・あなたの名前で出すもの)を作れるページを用意しました。試算は無料で、相談シートの作成と印刷は買い切り980円の有料機能です。入力した数字や名前は、その端末の中だけで計算し、どこにも送りません。
▶ 軽貨物ドライバーのインボイス、2027年から消費税はいくら増える?(試算と委託元への値上げ相談シート)
相談シートは、あなたが自分の名前で使うためのひな形です。私が委託元と交渉したり、連絡を代わりにしたりすることはありません。値上げなどの結果を約束するものでもありません。
この記事の数字は、国と地方を合わせた消費税10%で計算した概算です(端数処理なし)。日当や個数は説明のための例です。税額や方式の判断は税務署や税理士に、取引が法律に照らして問題かどうかは公正取引委員会などの相談窓口に確かめてください。出典:財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和4年1月19日、改正:令和8年1月30日)Q5・Q6・Q7、e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」第3条〜第5条・「同法施行令」第1条、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」第5条、国税庁「タックスアンサーNo.6509」(いずれも2026年9月27日確認)。


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