グループホームのBCP、何が義務で何を書けばよいか。

障害者グループホームのBCP(業務継続計画)自然災害・感染症の2種類が義務 介護

グループホームのBCP(業務継続計画)は2024年4月1日から完全義務化されました。2021年4月の指定基準改正で「努力義務」として導入され、3年間の経過措置を経て完全義務化されたものです。

BCPを整備するだけでなく、研修・訓練も義務化されています。「BCP文書を作ったが研修・訓練をしていない」という状態では義務を満たしていません。

この記事では、グループホームのBCP義務の根拠・2種類のBCPの内容・研修と訓練の義務・GH特有の視点を整理します。

BCPは2種類。自然災害と感染症。

グループホームに義務づけられているBCPは「自然災害用BCP」と「感染症用BCP」の2種類です。

根拠は「指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号・以下「基準省令」)第33条の2で、同省令第213条(共同生活援助・包括型)・第213条の11(日中サービス支援型)・第213条の22(外部型)によってグループホームに準用されます。

第33条の2には次のことが定められています。

  • 感染症や非常災害の発生時における業務継続計画(BCP)の策定
  • 職員への研修(年1回以上)
  • 訓練(年1回以上)
  • 定期的な計画の見直し

完全義務化の経緯

BCPの義務化は段階的に行われました。

時期 内容
2021年4月 努力義務として義務化(指定基準改正)
2024年4月1日 完全義務化(経過措置終了)

2024年4月以降、BCPの未整備は基準違反となり、運営指導で改善指導の対象になります。

研修・訓練の義務

BCP関連の研修・訓練は次のとおりです。

義務 回数 内容
研修 年1回以上 BCPの内容と自分の役割の確認
訓練 年1回以上 BCP発動場面のシミュレーション

BCPの研修・訓練は感染症対策(年2回以上)より回数が少ないものの、BCPの特性として「実際に発動する場面の訓練が重要」という点に特徴があります。

研修では「なぜBCPが必要か」「自事業所はどんなリスクがあるか」「自分の担当する役割は何か」を職員が理解することが目的です。訓練では「実際に自然災害や感染症が発生した場合に、職員がBCPの手順通りに動けるか」を確認します。

自然災害用BCPの内容

自然災害用BCPは、地震・水害・台風・大雪などの自然災害が発生したときに、利用者の安全を確保しながら事業を継続するための計画です。

厚生労働省は「障害福祉サービス等事業者向け業務継続ガイドライン(自然災害編)」を公表しており、この内容を参考にBCPを作成します。

BCPに含める主な内容

  • 基本方針(何を守るか・誰の安全を最優先にするか)
  • 想定するリスクと被害シナリオ(ハザードマップの確認を含む)
  • 緊急時の連絡体制(職員間・関係機関・家族)
  • 避難場所・避難経路・避難方法
  • 業務の優先順位(継続必須業務・縮小できる業務・休止できる業務)
  • 必要な資源の確保(食料・水・医薬品・燃料の備蓄量と調達方法)
  • 応援・受援の体制(他事業所・法人・地域との連携)
  • 復旧のステップ

GHの自然災害対応の特徴

グループホームは「居住の場」であるため、自然災害のBCPには通所系サービスとは異なる視点が必要です。

最も重要な判断の1つが「在宅避難か指定避難所への避難か」です。GHの建物が安全な場合は在宅避難(施設内で過ごす)の方が利用者の混乱が少ない場合があります。一方で浸水リスクや建物の損傷がある場合は避難が必要です。ハザードマップで事業所の位置を確認し、どの状況でどの判断をするかをBCPに明記しておく必要があります。

夜間帯に世話人1人という体制のGHでは、大規模災害が夜間に発生した場合の対応も重要な検討事項です。「夜間に1人の職員で複数の利用者を避難させる」ことが実際に可能かを訓練で確認し、近隣への応援要請の体制を事前に作っておくことが求められます。

個別避難計画との関連

障害のある方の避難は、個別避難計画(個別計画)と連携して考えることが重要です。個別避難計画は市区町村が主体となって作成するもので、GHの支援者がその作成に協力することが求められています。

BCPの中で「利用者ごとの避難支援の方法」を整理し、個別避難計画と整合性を保つことが望ましい姿です。

感染症用BCPの内容

感染症用BCPは、新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のような感染症パンデミックが発生したときに、利用者への支援を継続するための計画です。

感染症用BCPは、感染症対策の指針(マニュアル)とは別の文書です。感染症対策の指針は「感染症の予防・発生時の対応」を定めたものであるのに対し、感染症用BCPは「感染症が拡大して職員が不足したり通常の業務が困難になった場合でも事業を継続する方法」を定めたものです。

BCPに含める主な内容

  • 平時からの備え(情報収集・物資の備蓄・連携体制の構築)
  • 感染症発生から拡大までのフェーズごとの対応方針
  • 業務継続体制(職員が感染・濃厚接触者になった場合の勤務体制)
  • 業務の優先順位(継続必須業務・縮小できる業務)
  • 応援・受援の体制(代替要員の確保・他事業所との連携)
  • 情報発信(利用者家族・関係機関・行政への連絡)
  • 復旧のステップ(感染者の回復後の職場復帰・通常業務への移行)

GHの感染症BCPの特徴

感染症用BCPでは「入所系」としての特性を踏まえた計画が必要です。

感染者を「居室で療養させる(在宅療養)」か「入院・転所させる」かの判断基準をBCPに定めておく必要があります。新型コロナウイルス感染症の経験から、「軽症者は居室療養・重症者は医療機関」という判断基準が一般的になりましたが、世話人が少ない体制で複数の感染者を居室療養させるには限界があります。「何人以上の発症者が出たら外部支援を要請する」という数字の基準を設けておくことが有効です。

厚生労働省の作成支援ツール

厚生労働省は「障害福祉サービス等事業者向け業務継続ガイドライン(自然災害編)」「業務継続計画(BCP)作成支援ツール」を公表しています。

作成支援ツールはExcelベースで、質問に答えながらBCPの各項目を埋めていく形式になっています。厚生労働省が想定する「BCPに含めるべき内容」を網羅しているため、これをベースに事業所の実態に合わせて修正する形が最も効率的な作成方法です。

ただし、ツールをそのまま使っても「自事業所のリスク・利用者の特性・実際の体制」に合わせた内容になっていなければ、実際の発動時に役立てることができません。ハザードマップの確認・利用者の個別の状況の反映・地域との連携体制の記載は必ず行います。

BCPの訓練の内容

BCPの訓練は「実際に計画通りに動けるか」を確認することが目的です。机上訓練(図上演習)と実地訓練の2つの形があります。

机上訓練(図上演習)

「○○の場面が発生した」という状況設定から始め、「次にどう動くか」を口頭または紙面で確認します。

例:「2025年1月、夜中の2時に震度6弱の地震が発生した。建物に被害はないが、利用者3名が不安で騒いでいる。世話人は1人。あなたはどう動くか」という場面設定で話し合います。

机上訓練は事前準備が少なく、通常の職員会議の時間に実施できます。BCP訓練の年1回の義務を満たすためだけであれば机上訓練でも認められますが、実際の発動時に役立てるには実地訓練も組み合わせることが望ましいです。

実地訓練

実際の避難・連絡・備蓄確認などを実施する訓練です。非常災害の避難訓練(年2回義務)と合わせてBCP訓練の位置づけにすることも可能です。

記録には訓練の日時・参加者・内容・確認できたこと・課題を残します。

運営指導での確認事項

BCP関連で運営指導において確認される事項は次のとおりです。

  • 自然災害用BCP・感染症用BCPの両方が文書として整備されているか
  • 研修の記録(日時・参加者・内容)
  • 訓練の記録(日時・参加者・内容・課題)
  • BCPの定期的な見直しの記録(少なくとも年1回程度)

2024年4月の完全義務化を踏まえ、「BCP文書の有無」そのものが重点的に確認されます。文書が未作成の場合は義務違反として改善計画書の提出を求められます。

文書を作成したが研修・訓練の記録がない場合も指摘対象となります。「BCPを作ったが職員に周知していない」状態では、実際の発動時に役立てることができないためです。

他テーマとの関係

BCPは他の法定研修テーマと関連しています。

感染症用BCPは感染症対策の研修・指針(マニュアル)と密接な関係があります。感染症対策のマニュアルが「平時の感染症予防」を中心に扱うのに対し、感染症用BCPは「大規模感染時の事業継続」を扱います。両方の文書が一貫した内容になっているかを確認します。

非常災害用の訓練(年2回義務)はBCPの実地訓練と重なる部分があります。「避難訓練をBCP訓練の一部として位置づけ、記録を兼用する」という運用を取る事業所もあります。

BCPの見直し

BCPは「一度作れば終わり」ではなく、定期的な見直しが義務づけられています。

見直しのタイミングとして次が一般的です。

  • 訓練後:訓練で見つかった課題を反映
  • 実際の災害・感染症発生後:実際の対応を振り返り、計画と実態のズレを修正
  • 職員体制の変更後:連絡体制・役割分担の更新
  • 利用者の状況変化後:個別支援内容の更新
  • 年1回の定期見直し:内容全体の確認

見直しをした際は「いつ・何を・なぜ変えたか」を記録に残します。

まとめ

グループホームのBCP義務についてまとめます。

  • 根拠:基準省令第33条の2(包括型は第213条・日中型は第213条の11・外部型は第213条の22でGHに準用)
  • 2024年4月1日から完全義務化
  • 2種類:自然災害用BCP・感染症用BCP(別文書として作成)
  • 研修:年1回以上・訓練:年1回以上
  • 定期的な見直しが義務
  • 入所系の特性(夜間体制・在宅療養の判断・個別避難計画)を反映した内容が必要

BCPは作成することより「実際に使える計画にすること」が目的です。ハザードマップを確認し、利用者の個別の状況を反映し、職員が訓練で動けることを確認してはじめて機能するものになります。


根拠一覧:
・指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第33条の2・第213条・第213条の11・第213条の22
・指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について(障発第1206001号)
・厚生労働省「障害福祉サービス等事業者向け業務継続ガイドライン(自然災害編)」

BCPを含む研修・訓練の記録をまとめて管理できます

法定研修キット(GH版)では、BCP研修・訓練の記録テンプレートを含む12テーマの記録管理ツールをご用意しています。

→ 障害者グループホーム向け法定研修キット

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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