放課後等デイサービス(放デイ)と児童発達支援(児発)では、身体拘束等は原則禁止です。緊急やむを得ない場合に例外が認められますが、その際も切迫性・非代替性・一時性の3要件を全て満たしていることを組織で確認し、記録に残すことが義務です(基準第44条・解釈通知)。
また、①身体拘束適正化検討委員会の設置と年1回以上の開催、②身体拘束適正化のための指針の整備、③職員研修の年1回以上の実施、の3点が義務であり、未整備の場合は所定単位数の1%を減算されます(身体拘束廃止未実施減算)。
身体拘束等の禁止(基準第44条第1・2項)
基準第44条第1項は、障害児または他の障害児の生命・身体を保護するため「緊急やむを得ない場合」を除き、いかなる身体拘束等も行ってはならないことを定めています。
「身体拘束等」とは、身体を紐や衣類で縛る、ミトン型手袋をつける、ベッドに柵をして動けなくする、といった行為に限りません。車いすや椅子にベルトで固定する、部屋や建物から出られないようにする(施錠)、行動を物理的に制限する行為全般を指します。特定の障害のある子どもに対して日常的に行われている行為が該当するケースもあるため、「拘束している意識がなかった」という事態を防ぐには、判断基準を職員全員が理解しておく必要があります。
緊急やむを得ない場合の3要件(切迫性・非代替性・一時性)
身体拘束等が例外的に認められるのは、次の3つの要件を全て満たす場合に限られます(解釈通知:基準第44条)。
1. 切迫性
利用する障害児本人または他の障害児の生命・身体が危険にさらされている可能性が著しく高い状態です。「将来的に危ないかもしれない」という予測だけでは切迫性を満たしません。今まさに、あるいは直ちに、生命・身体への危険が生じる状況であることが必要です。
2. 非代替性
身体拘束等以外に、危険を回避する方法がないことです。環境の変更、声かけや誘導、道具の除去、別の職員の支援、などの代替手段を先に全て検討・試行し、それでも対応できない場合に初めて身体拘束等が検討の対象になります。「人手が足りない」「急いでいる」という理由で代替手段を省略することは、非代替性を満たしていません。
3. 一時性
身体拘束等を行う期間が一時的なものであることです。危険な状態が落ち着けば直ちに解除することが前提です。「大人しくなるまで」「帰宅の時間まで」という形で継続することは、一時性を満たしません。
解釈通知は、これら3要件の全てを満たすことを確認した上で、さらに組織としての確認手続を経ることを求めています。個別の職員の判断だけで実施するのではなく、管理者や他の職員に確認する手順を事業所として定めておく必要があります。
記録が必要な場面と記録の内容
緊急やむを得ない場合に身体拘束等を行ったときは、以下の内容を記録することが基準第44条第2項で義務づけられています。
- 身体拘束等の態様及び時間(どのような拘束を、何時から何時まで行ったか)
- その際の障害児の心身の状況(行動、表情、体への影響など)
- 緊急やむを得ない理由(切迫性・非代替性・一時性の各要件をどのように判断したか)
- 組織としての確認手続の記録(誰がどのように確認したか)
記録は事後の証明にとどまらず、次回以降の再発防止や、身体拘束適正化検討委員会での分析材料にもなります。「書けばいいだけ」ではなく、3要件の判断過程が誰が読んでも理解できる形で記録することが重要です。
| 項目 | 具体的な記録内容の例 |
|---|---|
| 態様・時間 | 「○月○日 15:20〜15:35。腕を職員が両手で押さえた(抱きかかえる形)」 |
| 心身の状況 | 「他児に手が届く位置におり、興奮が収まらない状態。表情は強張り、発声多数」 |
| 切迫性 | 「近くにいた別の利用児に繰り返し手が届いており、打撲等のリスクが高い状況」 |
| 非代替性 | 「声かけ3回、場所の移動の試み2回。いずれも応じなかった。別室への誘導も試みたが困難」 |
| 一時性 | 「興奮が落ち着いた時点(15:35)で直ちに解除。その後別室でクールダウン対応に移行」 |
| 確認手続 | 「管理者(○○)に状況を報告。対応を確認の上、継続の可否を判断」 |
身体拘束適正化検討委員会(年1回以上・虐待防止委員会と一体可)
基準第44条第3項第1号は、身体拘束適正化検討委員会の設置と定期的な開催を義務づけています。解釈通知は「少なくとも1年に1回は開催することが必要」(改正後の令和6年3月31日付解釈通知の表現)としています。
委員会の構成については、事業所に従事する幅広い職種が参加することが求められます。また、医師(精神科専門医等)や看護職員など外部の専門家・第三者の活用も望ましいとされています。事業所単位ではなく法人単位で設置することも認められます。
委員会の主な役割は以下の通りです。
- 身体拘束等の発生状況を報告・集計・分析する
- 各事例の適正性と廃止に向けた方策を検討する
- 廃止に向けた方策を実施し、効果を検証する
- 分析結果・改善策を職員全体に周知する
虐待防止委員会と一体的に開催することも可能です。身体拘束等の問題は虐待防止と深く関わるため、一体開催することで、それぞれの事項を有機的に連携して検討できます。委員会の対応状況は適切に記録し、5年間保存することが義務です。
なお、委員会に「拘束ゼロの事例がない年」でも開催は必要です。解釈通知は「報告された事例がない場合にも、身体拘束等の未然防止の観点から、障害児に対する支援の状況等を確認することが必要」としています。発生ゼロを理由に委員会を省略することはできません。
身体拘束適正化のための指針の整備(7項目)
基準第44条第3項第2号は、事業所として身体拘束等の適正化のための指針を整備することを義務づけています。解釈通知は指針に盛り込む項目として、次の7点を示しています。
- 事業所における身体拘束等の適正化に関する基本的な考え方
- 身体拘束適正化検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
- 身体拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針
- 事業所内で発生した身体拘束等の報告方法等の方策に関する基本方針
- 身体拘束等発生時の対応に関する基本方針
- 障害児またはその家族等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
- その他身体拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針
指針は「作成して棚にしまう」だけでは不十分です。職員への周知、新規採用者への説明、家族への閲覧対応を含む運用が求められます。特に「④報告方法」は、職員が実際に使える様式(報告シート等)と連動して機能するよう設計することが重要です。
職員研修(年1回以上・新規採用時には必ず)
基準第44条第3項第3号は、職員に対する身体拘束等の適正化のための研修を年1回以上実施することを義務づけています(解釈通知)。
研修内容については、身体拘束等の適正化の基礎的な内容の普及・啓発と、事業所の指針に基づいた適正化の徹底が求められます。研修プログラムを事業所として整備し、実施記録を残すことが必要です。
新規採用時には必ず実施することが解釈通知に明記されています。雇用形態(パートタイム・非常勤含む)を問わず、採用時に実施する必要があります。
研修は事業所内で行う職員研修で差し支えないとされており、外部研修への参加は義務ではありません。また、虐待防止に関する研修において身体拘束等の適正化を取り扱う場合は、身体拘束等の適正化のための研修を実施したとみなして差し支えない(解釈通知)とされています。二重に別々の研修を実施する必要はなく、一体的な実施が認められます。
| 義務の内容 | 頻度の根拠 |
|---|---|
| 身体拘束適正化検討委員会の開催 | 少なくとも年1回以上(解釈通知:基準第44条) |
| 身体拘束適正化のための指針の整備 | 常時(策定・更新) |
| 職員研修の実施 | 年1回以上・新規採用時には必ず実施(解釈通知:基準第44条) |
参考:感染症研修は年2回以上(解釈通知:基準第41条第2項)。BCPの研修・訓練は年1回以上(解釈通知:基準第38条の2)。身体拘束の研修は年1回以上で、感染症より頻度の要件は低いですが、省略はできません。
1%減算(身体拘束廃止未実施減算)の条件
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定で、身体拘束等の適正化に関して「必要な基準を満たしていない場合」の減算が導入・見直しされました(こども家庭庁資料)。通所系サービス(放デイ・児発を含む)では、所定単位数の1%が減算されます。
減算の対象となる「必要な基準を満たしていない場合」とは、基準第44条第3項で義務づけられている以下の3点のいずれかが未整備の状態を指します。
- 身体拘束適正化検討委員会の設置・定期開催が行われていない
- 身体拘束等の適正化のための指針が整備されていない
- 職員に対する身体拘束等の適正化のための研修が実施されていない
1%という数字は小さく見えますが、たとえば月ごとの請求単位合計が100万円相当なら年間12万円の減収です。複数年にわたる未整備状態が運営指導で発覚した場合、遡及して減算が適用されるリスクもあります。
虐待防止に関する義務(基準第45条第2項)も、委員会・指針・研修の3点構成です。これらは身体拘束の義務と共通する部分が多く、一体的に整備・運用することが効率的です。
放デイ・児発の現場で起こりやすい「グレーゾーン」
放デイ・児発の現場では、身体拘束に当たるかどうか判断が難しいケースがあります。「本人の安全のため」「家族から頼まれた」という理由であっても、基準第44条の3要件を満たさない限り身体拘束等に該当します。
自傷行為への対応
頭を壁にぶつける、自分の手を噛む、などの自傷行為に対して、手を掴んで止める、腕を押さえるといった対応は、身体拘束等に該当する可能性があります。「転ばせないようにしている」という認識でも、身体を物理的に制限している行為であれば、3要件と記録の義務が生じます。
自傷行為への対応には、まず環境調整(ぶつかりやすい場所にクッション材を置く、危険な物を除去する)、声かけや誘導、クールダウン環境の整備など、身体を直接押さえない代替手段を先に検討することが重要です。
移動中の制止
屋外活動中に飛び出そうとする児童の手を掴む、体を抱えて止める、といった行為も、その状況や時間によっては身体拘束等に当たります。一瞬の危険回避として行うものと、継続的に体を拘束するものでは扱いが異なります。事業所として、移動中の安全確保の手順(職員の配置、移動ルート、持参する道具など)を定めておくことで、こうした場面を減らすことができます。
保護者からの要望
保護者から「座らせておいてほしい」「抱えて止めてほしい」と言われた場合でも、それが基準上の身体拘束等に該当するなら、3要件と記録の義務は消えません。保護者の同意があっても身体拘束が許可されるわけではなく、むしろ「保護者に頼まれた」という事実自体が記録として残ることになります。
こうした場面では、保護者の不安や要望の背景を聞き取り、身体拘束以外の方法で対応できないかを一緒に検討することが大切です。
「慣例」になっている行為
以前からそうしていた、職員の間で当然のこととして引き継がれてきた行為が、実は身体拘束等に当たっていたと気づくケースもあります。全職員が「これは身体拘束等に当たるか」を考える機会(研修・委員会)を定期的に持つことで、こうした慣例を見直すきっかけになります。
身体拘束をしない支援のための環境整備
身体拘束等の廃止に向けた取り組みとして、以下のような環境整備が考えられます。
- 物理的な環境の見直し:ぶつかり・落下・飛び出しが起きやすい場所を特定し、家具の配置やクッション材の設置で危険を減らす
- スケジュールの見直し:活動の切り替え時間・終了タイミングを工夫し、パニックが起きやすい場面を減らす
- 個別の支援計画との連動:特定の行動が出やすい状況・先行要因をアセスメントし、個別支援計画に反映させる
- 職員間の情報共有:どの場面でどのような行動が起きたか、どの対応が有効だったかを記録して共有する
身体拘束等の廃止は、「禁止されているからしない」ではなく「本人にとって身体拘束に頼らない支援ができる環境を作る」という視点で取り組むものです。委員会・研修・指針の整備が、そのための組織的な足場になります。
運営指導で確認されるポイント
運営指導では、書類の有無だけでなく、実際の運用状況も確認されます。身体拘束等に関連してよく確認される項目は以下の通りです。
- 身体拘束適正化のための指針が作成されており、職員に周知されているか
- 身体拘束適正化検討委員会の開催記録(議事録・出席者名簿)があるか
- 研修の実施記録(日時・出席者・内容)があるか
- 緊急やむを得ない身体拘束等を実施した場合、3要件と記録が残っているか
- 記録した内容が委員会で集計・分析されているか
よくある指摘としては、「指針はあるが職員が内容を知らない」「委員会を開催しているが記録が不十分」「研修を実施したが記録がない(または誰が参加したか不明)」といったケースです。実施の有無と記録の質の両方が問われます。
実務の手順まとめ
身体拘束等の適正化に取り組む際の、基本的な手順の目安を示します。
- 指針を整備する:解釈通知の7項目を網羅した指針を作成し、全職員に配布・説明する。改訂があれば都度更新する。
- 委員会の開催スケジュールを年間で組む:年1回以上・虐待防止委員会と合同開催可。開催日・議題・記録様式を事前に決めておく。
- 研修プログラムを作成する:年1回以上・新規採用時必須。虐待防止研修との一体実施を検討する。実施記録を毎回保管する。
- 緊急やむを得ない場合の手順を決める:3要件の確認と組織での確認手続の流れ、記録様式を準備する。
- 定期的に状況を確認する:委員会で発生状況を集計・分析し、廃止に向けた方策と改善効果を記録に残す。
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この記事の出典
- 厚生労働省「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第44条(昭和23年厚生省令第63号・改正令和6年3月)
- こども家庭庁「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準の一部改正に伴う児童発達支援事業等の運営等について」(令和6年3月31日 こ支障第11号):解釈通知第44条の説明(3要件・記録義務・委員会・指針・研修の義務の根拠)
- こども家庭庁「令和6年度障害児通所支援の報酬改定等について」(令和6年3月):身体拘束廃止未実施減算(所定単位数の1%減算)の新設根拠


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