就労定着支援の個人情報の取り扱い。同意書の整備・第三者提供・漏えい対応。

就労定着支援の個人情報の取り扱い。同意書の整備・第三者提供・漏えい対応。 福祉事業の開業と運営

就労定着支援では、利用者の障害・医療・就労に関する機微な個人情報を日常的に取り扱います。個人情報保護法・省令(厚生労働省令第171号)が定める義務を正しく理解し、同意書の整備・保管体制・漏えい時の対応手順を整えておくことが、事業所の信頼維持と法令遵守の両方につながります。

就労定着支援で取り扱う個人情報の種類

就労定着支援事業所が収集・利用する個人情報は、他の障害福祉サービスと比較しても特に機微なものが多い点が特徴です。

就労定着支援で取り扱う主な個人情報
種類 具体的な内容 要配慮個人情報
基本情報 氏名・生年月日・住所・連絡先・緊急連絡先 —
障害・手帳情報 障害種別・障害者手帳の種類と等級・受給者証の内容 該当
医療情報 診断名・受診先・服薬内容・主治医の意見・通院頻度 該当
就労情報 就労先の企業名・雇用形態・給与・勤務時間・職場での状況 —
支援記録 面談内容・支援計画・企業・医療機関との連絡調整の記録 一部該当
生活情報 睡眠・食欲・家族状況・経済状況など生活面の情報 一部該当

障害・病歴・医療に関する情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。要配慮個人情報の取得には、原則として本人の書面による同意が必要です(個人情報保護法第20条)。

個人情報保護法と省令が定める義務

就労定着支援事業所は、個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)と省令(厚生労働省令第171号)の両方に基づく義務を負っています。

個人情報保護法上の主な義務

  • 取得目的の通知・公表:個人情報を取得する際に、利用目的を本人に通知または公表することは法令上の義務です。支援開始時に利用目的を説明し、同意を得ることが求められます
  • 利用目的の範囲内での利用:取得した個人情報は、通知した利用目的の範囲内でのみ利用できます。目的外利用は原則として禁止です
  • 第三者提供の制限:本人の同意なしに、第三者(就労先企業・医療機関・家族等)に個人情報を提供することは原則として禁止です。同意を得ることは法令上の義務です
  • 要配慮個人情報の取得:障害・病歴等の要配慮個人情報を取得する際は、本人の書面による同意が必要です(口頭同意は不十分)
  • 安全管理措置:個人情報の漏えい・滅失・毀損を防ぐための安全管理措置を講じることは法令上の義務です

省令(第171号)上の主な義務

  • 個人情報保護の規定を運営規程に盛り込む:個人情報の保護に関する事項を運営規程に明記することが省令で義務付けられています
  • 職員への研修:個人情報保護に関する職員研修を定期的に実施する義務があります
  • 記録の適切な管理・保管:支援記録・契約書類等を安全に保管し、保管期間(原則5年)終了後は適切に廃棄します

同意書の整備:3種類のパターン

就労定着支援事業所が整備すべき個人情報関連の同意書は、主に以下の3パターンです。

① 利用開始時の包括的な個人情報取扱い同意書

支援を開始する前に、個人情報の取り扱い全般について包括的な同意を得るための書類です。記載すべき主な内容は以下のとおりです。

  • 収集する個人情報の種類(基本情報・障害情報・医療情報・就労情報等)
  • 利用目的(就労定着支援の提供・報酬請求・指定権者への報告等)
  • 第三者提供の条件(企業・医療機関・関係機関への情報提供の可能性)
  • 個人情報の開示・訂正・削除の請求先と手順
  • 保管期間と廃棄方法

② 医療機関への情報提供同意書

主治医・かかりつけ医に就労状況や支援内容を伝える際の同意書です。包括的な同意書とは別に、医療機関への情報提供については独立した同意書を整備することが実務上推奨されます。記載すべき内容は以下のとおりです。

  • 情報提供先の医療機関名・担当医師名(またはその時点で受診している医療機関全般)
  • 提供する情報の種類(就労状況・勤務時間・職場での様子等)
  • 情報提供の目的(医療的支援の充実・主治医との連携)
  • 同意の有効期間と撤回の方法

③ 就労先企業への情報提供同意書

就労先の企業担当者に利用者の状況を伝える際の同意書です。企業に伝えてよい情報の範囲を利用者と事前に確認・合意しておくことで、情報の過剰提供・不足の両方を防げます。記載すべき内容は以下のとおりです。

  • 企業に提供してよい情報の種類(勤務状況・就労上の課題・合理的配慮の内容等)
  • 企業に提供しない情報の種類(診断名・服薬内容など利用者が希望する場合)
  • 情報提供の方法(電話・メール・訪問時の対話等)

第三者提供における注意点

企業・医療機関・家族・関係機関に個人情報を提供する際には、以下の点に注意が必要です。

  • 同意を得てから提供する:利用開始時の包括的同意書で「医療機関・企業への情報提供がある」と同意を得ていても、個別の情報提供の前に「今日◯◯を主治医に伝えてもよいか」と確認することが実務上推奨されます
  • 同意内容が変わる可能性への対応:一度同意を得ていても、利用者の意向が変わることがあります。特に転職・主治医の変更等の節目では、同意内容を更新することが重要です
  • 同意しない情報は提供しない:利用者が「診断名は企業に伝えないでほしい」と意思表示した情報は、企業に伝えてはいけません。本人の同意のない情報提供は個人情報保護法違反になります
  • 「法令に基づく提供」の扱い:指定権者(都道府県・市区町村)への報告・実地指導での提出は、法令に基づく提供として本人同意なしに行えます。ただし、この範囲を超えた情報提供は同意が必要です

個人情報の管理・保管体制

個人情報の安全管理は法令上の義務です。紙の記録と電子データそれぞれで管理体制を整える必要があります。

紙の記録の管理

  • 支援記録・契約書・同意書は、施錠可能なキャビネット・書庫に保管します
  • 事務所の外に持ち出す場合は、持ち出し記録を残し、紛失・置き忘れのリスクを最小化します
  • 廃棄する場合は、シュレッダー処理または機密文書廃棄業者への委託が基本です

電子データの管理

  • パソコン・スマートフォン・タブレットに保存する個人情報は、パスワード保護・画面ロックを設定します
  • クラウドサービス(Googleドライブ・Dropbox等)を利用する場合は、アクセス権限の管理・暗号化を確認します
  • メールでの個人情報送信は最小限にとどめ、添付ファイルにはパスワードを設定することが実務上推奨されます

保管期間と廃棄

  • 支援記録・利用契約書・同意書等の保管期間は、省令で原則5年間とされています(自治体によって異なる場合があります。指定権者に確認してください)
  • 保管期間終了後は適切に廃棄します。廃棄日・廃棄した書類の種類を記録しておくことが実務上推奨されます

職員の退職時の対応

  • 退職職員が個人情報を持ち出さないよう、退職時に業務用端末・アカウント・書類を回収します
  • 退職後も守秘義務が継続することを雇用契約書・就業規則に明記しておくことが実務上推奨されます

個人情報漏えい発生時の対応手順

個人情報が漏えいした(または漏えいの可能性がある)場合、事業所は以下の対応が必要です。

  • 速やかな被害拡大防止:漏えいが発生したとわかった時点で、直ちに原因を特定し被害拡大を防ぐ措置を取ります(例:紛失した書類の捜索・PCの隔離・アカウントのパスワード変更等)
  • 個人情報保護委員会への報告:一定規模以上の漏えい(要配慮個人情報が含まれる場合等)は、個人情報保護委員会への報告が法令上の義務です(個人情報保護法第26条・3〜5日以内の速報と30日以内の確報)。詳細は個人情報保護委員会のウェブサイトで確認してください
  • 本人への通知:漏えいによって本人の権利・利益が害されるおそれがある場合は、本人への通知も法令上の義務です
  • 指定権者への報告:個人情報の漏えいが生じた場合は、指定権者(都道府県・政令市等)への報告も必要です。報告のタイミング・方法は自治体によって異なるため、事前に確認しておきます
  • 再発防止策の策定:原因を分析し、再発防止策を文書化・職員へ周知します

本人からの開示・訂正・削除請求への対応

利用者(本人)は、自分の個人情報の開示・訂正・利用停止・削除を請求する権利があります(個人情報保護法第33〜37条)。

  • 開示請求:本人から「自分の情報を見たい」と請求があった場合は、原則として開示する義務があります。開示の手続き・手数料(実費を超えない範囲で設定可)を運営規程に定めておきます
  • 訂正・削除請求:情報が不正確な場合は訂正、利用目的の達成や法令違反がある場合は削除を求めることができます。正当な請求には応じる義務があります
  • 対応窓口の明示:開示請求等の受付窓口の氏名・連絡先を重要事項説明書に記載し、利用者が請求できる状態にしておくことが省令上の義務です

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参考・出典

  • 個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法・令和2年改正版)
  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号・平成18年)
  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について(解釈通知)
  • 個人情報保護委員会ウェブサイト(漏えい報告義務の詳細)

この記事は2026年11月時点の告示・通知に基づいています。法令は改正されることがありますので、最新の情報をご確認ください。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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