就労定着支援を始めるにあたり、「どんな設備が必要か」は開業費用に直結する問いです。指定基準(厚生労働省令第171号)では、就労定着支援の設備要件は比較的シンプルに定められています。支援の中心が訪問や電話・メールでの相談であるため、他のサービスのような大規模な設備は求められていません。この記事では省令の原文を元に、必要な設備と最低限のポイントを整理します。
就労定着支援の設備基準は「事業運営に必要な区画」と「相談の設備」
厚生労働省令第171号(指定障害福祉サービス基準省令)の就労定着支援に関する条文では、設備について以下のとおり定めています。
- 事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の区画を設けること
- 就労定着支援の提供に必要な設備及び備品等を備えること
「専用の区画」とは、就労定着支援事業所として他の用途と明確に区分されたスペースです。ただし、同一法人が運営する他のサービス(就労移行支援事業所など)と同一建物内・同一フロアに設置している場合は、スペースの共用が認められるケースがあります(指定権者の確認が必要)。
「相談に必要な設備」は個室でなくてもよい場合がある
就労定着支援の相談支援は、利用者の職場や自宅への訪問、電話・メール等によるものが中心です。事業所内での相談が必要な場合に対応できる設備(相談スペース)があれば足りるとされており、必ずしも完全な個室であることは求められていません。
ただし、相談の内容には個人情報・健康情報・職場の人間関係など、プライバシーへの配慮が必要な情報が多く含まれます。実際の運営上は、会話が外に聞こえない程度の遮音性を確保したスペースを用意することが望ましいとされています。
訪問型支援が中心のため、施設の広さの下限規定は設けられていない
就労継続支援B型(定員規定あり)や放課後等デイサービス(訓練室の面積規定あり)とは異なり、就労定着支援には利用定員や施設面積の最低ラインに関する規定がありません。これは就労定着支援が「通所して訓練を受ける」サービスではなく、「支援者が職場や地域に出向いて相談に乗る」訪問型のサービスであることによります。
事務机・パソコン・鍵のかかる書庫(個人情報管理のため)が置けるスペースと、相談に対応できる区画があれば、設備面の最低要件を満たせます。
他のサービスと併設する場合の設備の共用
就労定着支援は、就労移行支援・就労継続支援・生活介護等と多機能型として運営したり、同一法人の他事業所と同一建物に設置したりするケースが多くあります。この場合、設備の一部共用が認められる場合があります。
共用が認められる例としては、以下のようなものがあります。
- 玄関・廊下・トイレ等の共用部分
- 相談スペースを他サービスと時間帯で分けて共用する
- 事務スペースの一部を共用する(ただし、就労定着支援の専用区画は別に設ける)
ただし、共用の範囲と方法は都道府県・市区町村の指定担当窓口によって取り扱いが異なります。指定申請前に確認することをお勧めします。
必要な備品のチェックリスト
開業時に最低限必要な備品の目安は以下のとおりです。
| 品目 | 用途 | 備考 |
|---|---|---|
| 事務机・椅子 | 事務作業・記録 | スタッフ分 |
| パソコン | 記録・連絡・報告書作成 | 台数はスタッフ数に応じて |
| 鍵付き書庫・キャビネット | 個人情報(支援記録等)の保管 | 施錠可能なもの必須 |
| 相談用テーブル・椅子 | 利用者・家族との相談 | 個室または間仕切りで対応 |
| 電話・FAX(またはメール環境) | 利用者・職場・関係機関との連絡 | 携帯電話でも可 |
| プリンター | 支援計画・報告書の印刷 | コピー機能付きが便利 |
施設の「場所」に関する制約
就労定着支援の事業所は、都道府県・市区町村が定める条例の基準を満たす建物に設置する必要があります。一般的には以下のような条件が付く場合があります。
- 建築基準法・消防法上の用途区分に適合していること
- 事業所として必要な広さが確保されていること(条例による)
- 利用者が安全に出入りできること
テナントビルの一室やSOHO(自宅兼事務所)での設置については、都道府県・市区町村の判断が分かれます。指定申請の準備段階で、物件を確定する前に担当窓口に相談することを強くお勧めします。
消防法・建築基準法の確認も必要
障害福祉サービスの事業所は、建物の用途によっては消防法上の「特定防火対象物」に分類されます。就労定着支援は利用者が通所して過ごすサービスではないため、他の障害福祉サービスに比べると制約は少ない傾向にありますが、物件の選定時には消防署への事前相談が欠かせません。
具体的には、スプリンクラーの設置義務・誘導灯・非常口の基準等が建物の規模・用途によって異なります。物件を確定する前に、消防署・市区町村の建築担当に確認してください。
設備費用の目安
就労定着支援は訪問型のサービスであるため、他の障害福祉サービスと比べて開業時の設備投資は少額で済む傾向があります。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 事務机・椅子・書庫 | 15〜30万円 |
| パソコン・周辺機器 | 10〜20万円 |
| 内装工事(間仕切り・看板等) | 0〜50万円(物件の状態による) |
| その他(電話回線・ソフトウェア等) | 5〜10万円 |
| 合計目安 | 30〜110万円程度 |
既存事業所(就労移行支援等)に併設する形で開設する場合は、内装工事・設備の追加が最小限で済み、設備費が数十万円以下になることもあります。
開業費用の全体像については、就労定着支援の開業費用はいくら必要かの記事も参照してください。
参考・出典
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号・平成18年)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について(解釈通知)
この記事は2026年11月時点の省令・通知に基づいています。条例基準は都道府県・市区町村によって異なりますので、指定申請前に必ず担当窓口に確認してください。
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