通所介護のBCP(業務継続計画)は、令和3年度の省令改正により策定が義務付けられ、令和6年4月に完全義務化されました(令和5年度末までの経過措置終了)。感染症BCP・自然災害BCPの2種類を策定し、年1回以上の研修・訓練の実施が求められます。義務化の内容と策定の要点を整理します。
BCP義務化の経緯と法令根拠
通所介護のBCP義務化は、令和3年度(2021年度)の介護報酬改定と同時に行われた「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号、以下「基準省令」)の改正によるものです。
改正の背景は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大や大規模自然災害の多発です。これらの事態が発生した際に介護サービスを継続できるよう、あらかじめ計画を策定しておくことが全介護事業者に対して義務付けられました。
経過措置として令和3年4月から令和6年3月末まで3年間の猶予が設けられましたが、令和6年4月以降は完全義務化です。令和6年4月以降に運営指導(旧:実地指導)が行われた事業所では、BCPの有無・内容・研修・訓練の実施状況が確認されています。
介護サービス事業所のBCP策定にあたっては、厚生労働省が「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」を実施しており、ひな形と作成の手引きが公開されています(厚生労働省ウェブサイト参照)。
策定が必要なBCPは2種類
通所介護事業者が策定しなければならないBCPは、次の2種類です。
- 感染症に係るBCP(感染症BCP)
- 自然災害に係るBCP(自然災害BCP)
感染症BCPと自然災害BCPは想定する事態が異なるため、別々に策定することが求められています。一つの文書にまとめる形式でも、章を分けて別々に記載する形式でも構いませんが、それぞれの内容が明確に区別できる構成にすることが重要です。
感染症BCPに含めるべき内容
感染症BCPは、新型インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症など、事業所内での感染拡大が懸念される状況を想定した計画です。
感染症BCPに記載すべき主な内容は次の通りです。
平時からの備え
- 衛生用品(マスク・消毒液・手袋等)の備蓄量と管理方法
- 感染者・濃厚接触者が発生した場合の連絡体制
- 行政(保健所・市区町村)への報告・相談ルート
- 利用者・家族への情報提供の方法
感染者・濃厚接触者発生時の対応
- 発生時の初動対応手順(施設内の動線分離・エリア区分等)
- 感染が疑われる職員・利用者への対応(就業制限・サービス利用の一時停止等)
- 代替職員の確保方法(応援要請先の事前確認等)
- サービスの縮小・一時休止の判断基準と利用者への対応
サービス継続の方針
- 感染拡大状況下でサービスを継続する際の判断基準
- 縮小(定員制限・送迎範囲の縮小等)の段階と判断フロー
- 利用者の優先順位(独居・医療的ケアが必要な者等)
- 他の通所介護事業所・居宅介護支援事業所との連携
感染症BCPの内容は、「新型インフルエンザ等特別措置法」に基づく都道府県等の行動計画との整合性も確認しておくことが推奨されます。行政から施設に対して業務継続・縮小を求める要請がなされる場合があるため、行政の動きに応じた対応フローを定めておくことが実務上重要です。
自然災害BCPに含めるべき内容
自然災害BCPは、地震・台風・集中豪雨による浸水・土砂災害など、地域特有の自然災害リスクを想定した計画です。
自然災害BCPに記載すべき主な内容は次の通りです。
リスクの把握
- 事業所所在地のハザードマップ確認(洪水・土砂・地震等)
- 市区町村の地域防災計画との整合確認
- 過去の被災歴・近隣の浸水記録等の把握
平時からの準備
- 非常用物品・備蓄(飲料水・食料・医薬品・通信機器等)の確保
- 非常用電源(自家発電機等)の有無と稼働確認
- 気象情報の収集方法と意思決定の基準(避難判断・臨時休業判断)
- 利用者の緊急連絡先・支援区分・特記事項の管理
発生時の対応
- 施設内に利用者がいる場合の避難誘導手順
- 送迎中に被災した場合の対応
- 職員の安否確認方法・参集基準
- 居宅介護支援事業所・ケアマネジャーへの情報共有
- 利用者の家族への連絡体制
事業継続・復旧
- 被災後のサービス再開の判断基準と再開に向けた手順
- 施設が利用できない場合の代替拠点の確保(協定先等)
- 他の通所介護事業所・行政(市区町村等)との相互支援協定の締結
事業所の所在地が洪水浸水想定区域・土砂災害警戒区域・津波浸水想定区域に含まれる場合は、「水防法」・「土砂災害防止法」等に基づき「避難確保計画」の策定も必要になります。BCPと避難確保計画を整合させることが求められます。
研修・訓練の義務(年1回以上)
基準省令の改正により、BCPの策定に加えて、研修と訓練を年1回以上実施することが義務化されました。
研修の内容
研修では、BCPの内容について全従業者が理解できるよう周知・教育を行います。研修の形式は次のいずれかで行うことができます。
- 事業所内での集合研修(管理者・責任者がBCPの内容を説明)
- 外部の研修機関・自治体等が実施する研修への参加
- eラーニング等を活用した自主研修
研修の実施後は、参加者・実施日・内容の記録を作成し、2年以上保存することが求められます。
訓練の内容
訓練は、BCPに定めた対応手順を実際に動かしてみることで、計画の課題を発見・改善するために行います。訓練は大きく分けて2種類の方法があります。
- 机上訓練(シミュレーション訓練):想定した被害状況に基づき、担当者がどのような判断・行動をするかを話し合う形式。大人数での実地訓練が難しい場合でも実施しやすい。
- 実地訓練:実際に避難経路を歩く・職員の安否確認連絡網を使う・代替手順を試すなど、体を動かす形式。
訓練後には振り返りを行い、BCPの見直しに活かすことが重要です。「訓練を実施したが課題が見つかっても計画を更新していない」という状態は、運営指導での指摘につながることがあります。
BCPの見直しと更新
BCPは策定して終わりではなく、定期的な見直しと更新が必要です。
見直しのタイミングとして推奨されるのは次の通りです。
- 年1回の研修・訓練の後(課題を反映して更新)
- 法令改正・報酬改定があった時
- 職員・連絡先等の変更があった時
- 実際に災害・感染拡大が発生した後(対応の振り返りを反映)
BCPの更新日は文書の表紙または末尾に記録しておくことが推奨されます。運営指導では「いつ作成・更新されたBCPか」が確認されます。作成日だけが記載されており、何年も更新されていないBCPは、実効性の観点から指摘を受けることがあります。
他の事業者・地域との連携
通所介護のBCPを実効性のある計画にするには、他の事業者や地域との連携体制をあらかじめ整備しておくことが不可欠です。
連携先として確保しておくべき関係先の例は次の通りです。
- 同一法人内の他事業所(職員の相互応援)
- 近隣の同種事業所(職員応援・施設の相互利用)
- 居宅介護支援事業所・担当ケアマネジャー(利用者情報の共有・代替サービスの調整)
- 市区町村の介護保険担当課(臨時休業の届出先・支援要請先)
- 保健所(感染症発生時の相談窓口)
- 食材納入業者・医薬品供給業者(代替調達先の確認)
連携先との協定は書面で締結しておくと、万が一の際の根拠として活用できます。口頭のみの合意は担当者の異動等で機能しなくなるリスクがあります。
運営指導での確認ポイント
都道府県等または市区町村(令和6年度から権限委譲が拡大)が実施する運営指導では、BCP関連で次の事項が確認されます。
- 感染症BCP・自然災害BCPの両方が策定されているか
- BCPの内容が事業所の実態(所在地・職員体制・利用者層等)に合っているか
- 年1回以上の研修が実施され、記録が保存されているか
- 年1回以上の訓練が実施され、記録が保存されているか
- 訓練後の振り返りをBCPの更新に反映しているか
厚生労働省のひな形をそのままコピーしただけで、事業所の実態が一切反映されていないBCPは「策定されていない」と判断されることがあります。少なくとも、職員の連絡先一覧・連携先の情報・事業所所在地周辺のリスク(ハザードマップ確認結果)等は、実際の情報に書き換えることが必要です。
通所介護の収支シミュレーター
BCP策定は運営管理上の義務事項のひとつですが、通所介護の開業・運営においては収支の把握も重要です。稼働率・加算の取得状況・人員配置が収入・支出にどう影響するかを試算するには、以下のシミュレーターをご活用ください。

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