美容院の原価率15.6%は、材料費と店販商品で構成される。経営指標調査の内訳と管理の考え方。

美容院の原価率15.6%は、材料費と店販商品で構成される。経営指標調査の内訳と管理の考え方。 美容院の開業

美容院の原価率は、全国平均で15.6%です(日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」2025年度・美容業・n=555)。売上の8割以上が利益に近い形で残るこの比率は、飲食店の原価率35.0%(飲食料理業・同調査)と比べて大幅に低く、美容業の収益構造の特徴を表しています。原価率を構成するのは主に施術で使うカラー剤・パーマ液・シャンプー・トリートメントなどの材料費と、店頭で販売するヘアケア商品の仕入原価です。この記事では、公庫の創業計画書 記入例(美容業・2025年4月版)の数字を軸に、原価率の内訳と、原価が損益分岐点に与える影響を整理します。

美容院の原価率は全国平均15.6%で、飲食店の半分以下

日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」(2025年度)によると、美容業の総利益率は84.4%で、裏を返すと原価率は15.6%です。同じ調査で飲食料理業の原価率は35.0%ですから、美容院の原価率は飲食店の半分以下に収まります。

この差が生まれる理由は、美容院の売上の大部分がカット・カラー・パーマなどの「技術料」だからです。技術料には人件費や家賃はかかりますが、原材料費は少額で済みます。カラー1回に使う薬剤の原価は数百円から数千円程度かかることが多く、カット単体より原価率が上がる傾向があります。

業種別 原価率の比較(公庫「小企業の経営指標調査」2025年度)
業種 原価率 総利益率
美容業 15.6% 84.4%
飲食料理業 35.0% 65.0%

記入例の原価は「施術材料費+店販商品の仕入」

公庫の創業計画書 記入例(美容業・2025年4月版)では、原価の内訳は明記されていませんが、売上と原価の数字から構成を読むことができます。

記入例の月次数字は次の通りです。

  • 創業当初:売上95万円(施術93万円+店販2万円)・原価14万円(原価率14.7%)
  • 軌道後:売上142万円(施術140万円+店販2万円)・原価22万円(原価率15.5%)

店販の売上が月2万円程度で固定されているのに対し、施術売上が93万円から140万円に増えると、原価も14万円から22万円に増えています。これは施術件数の増加にともない、カラー剤・パーマ液などの消耗品の使用量が増えるためです。店販商品は売上2万円に対して仕入原価は1万円前後(粗利50%程度)と想定されます。

施術材料費の主な種類と単価のイメージ

美容院の原価を構成する材料費の主な項目は以下の通りです。実際の単価は仕入れ先・品番によって異なります。

施術材料費の主な項目
項目 使用場面 1回あたりの目安
カラー剤 ヘアカラー・ハイライト 300〜800円
パーマ液 パーマ・縮毛矯正 400〜1,000円
シャンプー・トリートメント 施術時の洗髪 50〜200円
消耗品(手袋・コットン等) 全施術 30〜100円

客単価6,000円の施術に対して、1回あたりの材料費が500〜1,500円程度であれば、施術分の原価率は8〜25%の幅に収まります。これに店販商品の仕入原価を加えた合計が、記入例の原価率15%前後と整合しています。

原価率が上がると損益分岐点も上がる

原価率は損益分岐点に直接影響します。損益分岐点の計算式は次の通りです。

損益分岐点 = 固定費 ÷ 限界利益率(1 − 原価率)

記入例の軌道後の固定費は67万円(人件費25万円+家賃10万円+利息2万円+その他30万円)です。原価率が変わると損益分岐点は次のように動きます。

原価率と損益分岐点の関係(固定費67万円の場合)
原価率 限界利益率 損益分岐点(月商)
10% 90% 74.4万円
15%(記入例) 85% 78.8万円
20% 80% 83.8万円
25% 75% 89.3万円

原価率が15%から20%に上がると、損益分岐点は78.8万円から83.8万円に約5万円増えます。月商142万円に対する比率で言えば、55.6%から59.0%に上昇します。原価率は小さな数字に見えますが、固定費が大きな業種では損益分岐点への影響が意外に大きくなります。

原価率を上げる主な要因

開業後に原価率が想定より高くなる要因は主に次の3つです。

1. ロス(廃棄・使いすぎ):カラー剤を調合しすぎて廃棄することや、施術途中で薬剤が不足して追加使用することで原価が増えます。特に開業直後は施術数が読みにくく、在庫管理が難しい時期です。

2. 客単価の低下:仕入れコストが変わらないまま割引・クーポン対応で客単価が下がると、売上に対する原価の比率が上がります。原価率は「原価÷売上」なので、分子が変わらず分母が小さくなれば原価率は上昇します。

3. 店販商品の値引き・在庫廃棄:店頭で販売するヘアケア商品が売れ残って廃棄になると、仕入れコストだけが残り原価率を押し上げます。店販は月2万円程度(記入例)の小さな収益源ですが、廃棄ロスが出ると逆にコスト要因になります。

原価率を下げる工夫

美容院の原価率をコントロールするための実務上の方法を整理します。

仕入れ先の見直し:同じ品質のカラー剤・パーマ液でも、美容ディーラーによって価格が異なります。複数のディーラーから見積もりを取り、定期的に比較することで仕入れコストを抑えられます。

適量発注・在庫管理:月の施術件数をもとに発注量を決め、過剰在庫を持たない運用にします。カラー剤は開封後の品質劣化があるため、使い切れる量だけ発注することが大切です。

施術メニューごとの原価把握:カット・カラー・パーマ・縮毛矯正など、メニューによって使用材料と原価が異なります。原価の高いメニューを多く受けると全体の原価率が上がるため、メニュー構成を意識した受付が経営上の判断につながります。

1回当たりの費用の実態:6,000〜7,999円が最多

美容院利用者が1回の施術で支払う金額の分布は、厚生労働省「美容業の振興指針」(新旧対照表)が引用する(公財)全国生活衛生営業指導センターの調査(令和5年1〜3月)に記録されています。

美容院の1回あたりの費用分布
金額帯 割合
6,000〜7,999円 35.2%
4,000〜5,999円 25.9%
8,000〜9,999円 19.5%
10,000円以上 8.7%

最多の6,000〜7,999円帯は、公庫の記入例で使われている客単価6,000円と一致しています。記入例の設定は実態調査の分布の中心に近く、開業時の客単価の目安として参照しやすい数字です。

原価率15%台を維持できる業種の特徴

飲食業では食材費だけで原価率30〜40%になることが多い中、美容業が15%台を維持できる理由は、収益の中心が技術提供だからです。カット1回・カラー1回の技術料に占める材料費は小さく、「技術×時間×席数」が収益を決める構造です。

この特性は、原価管理よりも「席の稼働率」と「客単価」が経営の主なドライバーになることを意味します。原価率が低い分、固定費(人件費・家賃)の比率が高くなりやすく、売上が落ちたときの影響が大きくなります。公庫の経営指標調査では美容業の営業利益率は−1.9%(黒字企業のみでは5.1%)で、固定費をカバーするための安定した客数の確保が課題です。

原価率だけでなく、人件費率・諸経費率との連動で見る

原価率は低くても、美容業の人件費率は41.9%(経営指標調査2025年度)と高い水準にあります。諸経費率(家賃・光熱費・広告費等)は36.2%です。これらを合計すると93.7%になり、残る営業利益率は−1.9%(中央値ベース)です。

原価率の低さが利益に直結するわけではなく、人件費と固定費のコントロールが並行して必要な業種です。記入例の軌道後では人件費率17.6%(25万÷142万)・家賃比率7.0%・その他21.1%・合計47.2%(経費67万÷売上142万)で、利益率37.3%という高収益モデルになっていますが、これはスタッフ2名(専従者1名・アシスタント1名)という小規模構成と、月商142万円という軌道後の数字が前提です。

シミュレーターで原価率を変えて損益分岐点を確認する

美容院の原価率・固定費・客単価を入力して、損益分岐点や36か月の収支をシミュレーションできます。
美容院の開業 収支シミュレーター → https://fufumumu-design.com/biyouin-keikaku/

原価率を15%・20%・25%と変えたとき、損益分岐点がどのように変化するかを実際の数字で確認できます。固定費の水準(家賃・スタッフ構成)によって損益分岐点の絶対額が変わるため、自分の店舗の数字を入力することが計算の精度を上げます。

店販商品の粗利率と在庫回転を意識する

美容院の原価は施術材料費が大部分ですが、店販商品の在庫管理も原価率に影響します。ヘアケア商品(シャンプー・トリートメント・スタイリング剤など)を仕入れて店頭で販売する場合、売れ残りが発生すると仕入れコストだけが残り、原価率を押し上げます。

店販商品の管理で意識すべき指標は「在庫回転率」です。在庫回転率は「月の売上原価÷平均在庫額」で計算します。回転率が高いほど在庫が素早く売れており、廃棄ロスのリスクが低い状態です。開業当初は在庫を絞り、売れ行きを確認しながら品ぞろえを増やす方が、原価率のコントロールがしやすくなります。

記入例では店販売上が月2万円程度と小さく、施術売上の1〜2%程度です。店販を大きく伸ばそうとすると仕入れ・在庫管理・接客の負荷も増えるため、まず施術の稼働率と原価率を安定させてから店販を広げる順番が合理的です。

原価率の管理は月次で行う

開業後は毎月、売上に対する原価の比率を記録します。計算式は「原価÷売上×100(%)」です。仕入れ台帳や会計ソフトの原価勘定から月次の原価額を出し、POS・レジのデータから売上を確認します。

月次で原価率を追うと、仕入れが増えた月・廃棄ロスが出た月・低単価の施術が多かった月などの変化が見えてきます。1〜2か月の変動では断言できませんが、3か月以上連続して原価率が上がっている場合は、仕入れ価格・廃棄量・メニュー構成のいずれかに原因がある可能性が高いです。

美容院の原価率の全国平均は15.6%(経営指標調査2025年度)です。自店の原価率がこれより大幅に高い場合は、仕入れ単価・ロス管理・メニュー構成の3点から見直しを始めるのが合理的な順番です。原価率は損益計算書に自動的に現れる数字ではないため、毎月意識して算出する習慣をつけることが、長期的な収益管理の基盤になります。開業前の事業計画で原価率の想定値を設定しておき、開業後の実績と毎月照合することで、計画との乖離を早期に発見できます。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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