美容院の家賃の適正額は、軌道後の売上の7%が記入例の水準。創業当初は10%を超える。

美容院の家賃の適正額は、軌道後の売上の7%が記入例の水準。創業当初は10%を超える。 美容院の開業

公庫の「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)では、家賃は月10万円で固定です。軌道に乗った後の月商142万円に対する家賃比率は7.0%、創業当初(月商93万円)では10.8%になります。美容院の家賃適正比率を数値で定めた公的な基準はありませんが、記入例の数字から「売上の7〜11%の幅」という目安が読み取れます。

以下では、記入例の家賃比率を出発点に、家賃の変化が利益に与える影響と、全国の美容業の費用構造(諸経費率36.2%)における家賃の位置づけを整理します。

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記入例の家賃比率は、軌道後7.0%・創業当初10.8%

公庫の「創業計画書 記入例(美容業)2025年4月版」では、月の家賃は10万円(消費税・共益費の記載なし)です。創業当初から軌道後まで家賃は変わらず、売上の増加に伴って家賃比率が変わります。

記入例の売上の前提は、客単価6,000円・セット面(椅子)3台・月26日営業です。創業当初は1台あたり1日2回転(月商93万円)、軌道後は3回転(施術分に店販2万円を加えた142万円)です。家賃10万円をそれぞれの月商で割ると、家賃比率は次のようになります。

公庫の記入例(美容業)における家賃比率
時期 月商 家賃 家賃比率
創業当初 93万円 10万円 10.8%
軌道に乗った後 142万円 10万円 7.0%

出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)。家賃比率は当方が計算しました。

家賃は固定費なので、売上が増えれば比率は下がります。同じ家賃10万円でも、売上が93万円の段階では「売上の10.8%」、142万円では「7.0%」という形で、負担感が変わります。開業計画を立てる際は、創業当初と軌道後の両方の時点で家賃比率を確認することが重要です。

家賃が変動したとき、利益への影響を計算する

記入例の「軌道に乗った後」の費用構造をベースに、家賃の金額だけを変えて利益への影響を確認します。材料費22万円(原価率15%)・人件費25万円(専従者10万円+アシスタント15万円)・支払利息2万円・その他30万円は変えず、家賃だけを変えます。

家賃の変化と月の利益への影響(軌道後・売上142万円で計算)
月の家賃 経費合計 月の利益 家賃比率
8万円 65万円 55万円 5.6%
9万円 66万円 54万円 6.3%
10万円(記入例) 67万円 53万円 7.0%
12万円 69万円 51万円 8.5%
15万円 72万円 48万円 10.6%

家賃が記入例の10万円から15万円に増えると、月の利益は53万円から48万円に下がります。年間の差は60万円です。記入例の調達では公庫500万円(月7万円)と信用金庫200万円(月3万円)の元金返済が毎月合計10万円あるため、利益から元金返済分を引いた残りは次のようになります。

家賃別の利益から元金返済10万円を引いた残り(軌道後・当方の計算)
月の家賃 月の利益 元金返済 残り(税金・生活費に充てる分)
10万円(記入例) 53万円 10万円 43万円
12万円 51万円 10万円 41万円
15万円 48万円 10万円 38万円

個人経営の場合、この「残り」から所得税・住民税・個人事業税と事業主の生活費を払います。記入例では事業主の勤務時の月給が25万円と記されており、軌道後の43万円から生活費25万円を取ると18万円が税金などの支払いに回せる計算になります。家賃が高くなるほど、この余裕は小さくなります。

月商の水準によって、家賃比率は変わる

家賃は固定額なので、月商が上がれば家賃比率は下がり、月商が下がれば比率は上がります。開業後の立ち上がり期や、売上が計画を下回る期間は、家賃比率が高くなります。記入例の前提で月商の水準を変えたときの家賃比率(家賃10万円固定)は次のとおりです。

月商の変化と家賃比率の関係(家賃10万円固定・当方の計算)
月商の水準 家賃比率
80万円 12.5%
93万円(記入例・創業当初) 10.8%
110万円 9.1%
120万円 8.3%
142万円(記入例・軌道後) 7.0%

月商が80万円まで下がると家賃比率は12.5%になります。記入例の創業当初の売上は「67%の立ち上がり」(月商約95万円相当)を前提にしており、家賃比率は10%台に収まります。それより売上が少ない期間が続けば家賃の重さが増します。記入例は創業当初から黒字が出る設計(利益38万円)になっているため、立ち上がりの売上目標を記入例に近い水準で設定することが、資金繰りの安定につながります。

全国の美容業の諸経費率は36.2%で、家賃はその一部

日本政策金融公庫総合研究所の「小企業の経営指標調査」(2025年度・美容業・n=555)では、売上に対する諸経費率は36.2%です。諸経費には、家賃・光熱費・広告費・消耗品費・減価償却費・租税公課など複数の費用が含まれており、36.2%のすべてが家賃というわけではありません。

全国の美容業の費用構造(「小企業の経営指標調査」2025年度・美容業)
費目 売上に対する比率
原価率(材料費) 15.6%
人件費率 41.9%
諸経費率(家賃・光熱費・広告費等を含む) 36.2%
営業利益率(全体平均) −1.9%
営業利益率(黒字の事業者のみ) 5.1%

出典:日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」サービス業(他に分類されないもの)業種別(2025年度調査)。

全体平均の営業利益率が−1.9%という数字は、美容業全体の費用構造が厳しいことを示しています。人件費率41.9%と諸経費率36.2%の合計は78.1%で、原価率15.6%を合わせると93.7%が費用に相当します。諸経費率36.2%の中に家賃が占める割合は調査では明示されていないため、記入例の家賃比率(7〜11%)を参照値として使うことになります。

なお、全国平均の人件費率41.9%には法人の役員報酬が含まれる場合があり、個人事業で事業主の生活費を人件費に含めない場合は人件費率が低く出ます。記入例の個人経営では専従者10万円・アシスタント15万円で人件費25万円(売上142万円に対して17.6%)であり、全国平均の41.9%より大きく低くなっています。

保証金は設備資金の中に含まれる(記入例は100万円)

家賃を払い始める前に、物件契約時に保証金(敷金)が必要です。公庫の記入例(美容業)では、保証金100万円が設備資金870万円の中に含まれています。記入例では月家賃10万円の10か月分相当の保証金が計上されています。

記入例の設備資金870万円の内訳は次のとおりです。

公庫の記入例(美容業)の設備資金内訳
項目 金額
保証金(敷金) 100万円
内外装工事費 600万円
セット椅子(3台) 30万円
シャンプー台(2台) 40万円
什器備品 100万円
設備資金合計 870万円

保証金は開業時に一度支払い、退去時に原状回復費を差し引いた額が返還されるのが一般的です。返還額は契約内容によります。保証金100万円は開業資金の中に組み込んでおく必要があり、自己資金で賄うか借入で準備するかを計画の段階で決める必要があります。

居抜き物件は内装費を抑えられる可能性があるが、確認が必要な点もある

公庫の記入例は内外装工事費600万円という新規内装の想定です。美容院の物件には、前テナントの内装・設備が残った居抜き物件と、内装のないスケルトン物件があります。居抜き物件でシャンプー台・配管・内装の一部が使えれば、600万円の費用が圧縮できる場合があります。

ただし、前テナントの設備が保健所の現行の構造設備基準(美容師法第13条。採光・照明・換気・消毒設備などの基準)を満たしているかどうかは、事前に保健所に確認する必要があります。設備の改修が必要な場合は、想定より費用がかかることがあります。物件を決める前に保健所の担当窓口に相談し、図面と現地の状況を確認してもらうことで、改修が必要かどうかを把握できます。

家賃10万円が合う店の規模は、記入例(3台・26日・月商93〜142万円)が参考になる

記入例の家賃10万円は、セット面3台・シャンプー台2台・月26日営業・客単価6,000円という店の規模に対応しています。この規模で創業当初から黒字が出る(利益38万円)のは、材料費・人件費・その他経費のバランスが取れているためです。

セット面が1〜2台の小規模サロンでは月商が同規模に達しない場合があります。たとえば1台・2回転の月商は6,000円×1台×2回転×26日=31.2万円です。この月商では家賃10万円の比率は32%になり、他の費用を合わせると成立が難しくなります。家賃の水準は、自分の計画する店の規模・客単価・回転数で月商を試算し、その月商に対する比率を確認した上で設定することが重要です。

人件費と家賃を合わせた比率で、利益の見通しを確認する

美容業は人件費率が高い業種です。記入例では、人件費と家賃を合わせた比率は、創業当初(人件費10万+家賃10万)÷93万円=21.5%、軌道後(25万+10万)÷142万円=24.6%になります。

全国平均の人件費率は41.9%で、諸経費率36.2%の一部に家賃が含まれています。仮に諸経費率36.2%のうち家賃が10%分を占めるとすれば、人件費+家賃の合計は51.9%になります。記入例の個人経営ではこの水準に達していませんが、全国平均の数字は法人も含む幅広い事業者を対象にしているため、単純に比較はできません。自分の計画では、人件費・家賃・その他経費の合計が売上に対して何%になるかを、創業当初と軌道後の両方で試算することで、どの時点で黒字になるかの目安が分かります。

月商の目標は、家賃比率を逆算して確認する

物件を選ぶ段階では、先に家賃の金額が決まっていることが多いです。家賃から月商の目標を逆算することで、「この家賃を払いながら利益を出すには、月商いくら必要か」という基準が持てます。

家賃比率7%・10%・11%を維持するための月商(家賃10万円の場合・当方の計算)
目標の家賃比率 必要な月商 記入例との対応
7% 143万円 軌道後(142万円)に相当
10% 100万円 創業当初(93万円)より高い水準
10.8% 93万円 記入例の創業当初の月商

記入例では家賃10万円で創業当初から黒字(利益38万円)が出ていますが、月商93万円は6,000円×3台×2回転×26日という前提です。自分の計画が記入例より客単価・セット面数・回転数が少ない場合、同じ家賃10万円でも比率が高くなります。物件の家賃と自分の売上計画を突き合わせて、家賃比率が10%前後に収まるかを確認することが出発点になります。

家賃と損益分岐点の関係を確認する

損益分岐点(営業利益がゼロになる売上高)は、固定費を限界利益率で割って求めます。家賃は固定費の一部なので、家賃が高くなれば損益分岐点も上がります。

記入例(美容業・軌道後)の固定費は、人件費25万円+家賃10万円+支払利息2万円+その他30万円=67万円です。変動費率(材料費率)は15%なので、限界利益率は85%です。家賃の金額を変えたときの損益分岐点は次のとおりです。

家賃の変化と損益分岐点の関係(材料費率15%・人件費25万・利息2万・その他30万の条件で当方が計算)
月の家賃 固定費合計 損益分岐点(固定費÷85%)
8万円 65万円 76.5万円
10万円(記入例) 67万円 78.8万円
12万円 69万円 81.2万円
15万円 72万円 84.7万円

家賃が5万円増えると損益分岐点は約5.9万円上がります(5万÷0.85)。記入例の月商93万円(創業当初)に対して損益分岐点が78.8万円であれば余裕は14.2万円ですが、家賃が15万円になると損益分岐点は84.7万円まで上がり、余裕は8.3万円に縮まります。損益分岐点の計算を家賃の検討に使うことで、物件選びの判断材料になります。

礼金・仲介手数料も物件取得の費用に含まれる

物件を借りる際には、家賃の他に礼金・仲介手数料がかかります。公庫の記入例(美容業)では設備資金870万円の内訳として保証金100万円が記載されていますが、礼金・仲介手数料・看板の費用は「設備資金に含まれる可能性のある費用」として記入例の構成に示されています。これらは物件によって異なり、礼金が0か月分のケースもあれば、礼金1〜2か月分が必要なケースもあります。

月家賃10万円の物件で礼金1か月・仲介手数料1か月とすると、保証金100万円に礼金10万円・仲介10万円を加えた合計120万円が物件取得の初期費用になります。これを開業資金の計画に含めて資金繰りを確認することが必要です。家賃の毎月の支出と合わせて、物件取得の初期費用も含めた総コストを開業前に把握しておくことが重要です。

まとめ

公庫の記入例(美容業・2025年4月版)から読み取れる家賃の水準は、軌道後の月商142万円に対して7.0%、創業当初の93万円に対して10.8%です。家賃が固定費である以上、売上の成長とともに比率は下がりますが、立ち上がり期には高くなります。

家賃の適正水準を公的な基準として定めた数値はありません。記入例の家賃比率(7〜11%)を参考値として、自分の計画する月商・客単価・セット面数に合わせて試算することで、家賃比率と利益の関係を確認できます。当方の収支シミュレーターでは、家賃の金額を変えたときの利益の変化を試算できます。

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出典

作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月24日。計算は当方が行いました。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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